カイジVSバニー(後編)  
 
 
風呂から上がったバニーはバスローブを羽織り、髪の毛をタオルで拭きながら出てきた。  
「ふぅ、すっきりしたぁ…!」  
湯気のたつ肌は薄い桃色に染まり、見る者の心をざわつかせる。  
だが今のカイジはそれどころではない…。  
部屋の隅っこでウジ…ウジ…とへこんでいた。  
 
(明日からどうしよ……いや、今晩からどうしよ…  
有り金全部すっちまって、ホテルに泊まるどころか牛丼も食えやしねえっ…!)  
 
「ね、あなた、ちょっとこっち来て。」  
「え…?」  
バニーに手招きされる。  
「こっち来てみて、こっち」  
「………?」  
のろのろと立ち上がり、バニーに言われるまま数歩歩み寄る。  
。  
「ここに立ってみて」  
「………」  
誘導されるままにバニーの正面に立つカイジ。  
 
 
「はい、どーん!!」  
「っ……!?」  
いきなり真正面から突き飛ばされる。為すすべもなく後ろにのけぞるカイジ。  
後ろにはベッド。  
 
ボフッ…!と布団の感触を背中で受けたと思ったらバニーまでこっちに倒れこんできたっ…!  
あっと言う間もなく腰に巻いたタオルをはぎとられる。あまりの早業…!  
自分のバスローブも脱いでしまったバニーが、こっちの太腿に馬乗りに跨ってくる。  
 
「うわあっ、ちょ、ちょっと、アンタなにす…!」  
「ウフフ、これが本当の玉乗り、なんてねっ…!」  
「だれうま… じゃねえ、何のつもりだよっ…!コレっ…!!」  
バニーは小悪魔的な笑みを浮かべる。  
 
「わたし、結構負けず嫌いなんだよね…」  
カイジの傷跡の残る耳元に口を近づけて、囁く。  
 
「は……?」  
カイジは聞き返した。耳の奥に暖かい息がかかり、くすぐったい。落ち着かない。肌が粟立つ。  
ポタ…、とバニーの長い髪から水滴が落ちる。その冷たさに、体が僅かに跳ねる。  
 
「あのままだと悔しくってさ…」  
そう。今まであんなに追い詰められたことってない。  
観客は、そして挑戦者はいつもわたしの掌の上…わたしの意のまま…そう思ってたのに。  
 
コイツはわたしの容姿なんか全然見てなくって、  
なんか勝手に熱くなって、勝負挑んできて、いつの間にかコイツの思惑…!ペースに載せられてたっ…!  
それがすごく悔しいっ…!  
だから、気のあるフリをして誘い込んで、その気にさせて、あとでこっぴどくからかってやろうと思ったのに。  
自分に酔っているヤツほど、プライド高いヤツほど、そういう攻撃には弱いって知ってるから。  
だのに…。何故かコイツ、さっきと全然雰囲気違うし…。  
わたしも、演技しようと思ってるのに、素が出ちゃうしっ…ホント調子狂うっ…!  
自分の内のモヤモヤを振り払うように、バニーは小さく首を振った。  
 
「……悔しいって、何が…?」  
「……………」  
ふと顔を上げると、本当に不思議そうにこちらを見ている目とぶつかった。  
 
「勝負…アンタが勝ったのに…」  
「…勝った気がしないのよっ…!」  
「なんで…?」  
バニーはそれには答えず、ムクれてみせる。  
ふと、カイジの左手が視界に入る。  
 
「……?」  
カイジの左手は、風呂に入ったあとにもかかわらず手袋が嵌まったままだった。  
布が濡れて手の平に張りつき、手袋の内側に仕込んであるモノが形を浮き上がらせていた。  
 
「あ、ああーっ…!」  
バニーは叫び、カイジの手袋を捲りあげる。  
「ずるっ…! 磁石なんか仕込んじゃって!」  
「う、ず、ずるいのはお互い様だろうがっ…!アンタの乗ってた玉にも重りかなんか仕込んであっただろっ…」  
「な、な、なないわよそんなものっ…!」  
「嘘付けっ…重りで安定でもしなきゃ、ハイヒールで玉乗りなんてできっかっ…!」  
「……そうよ、悪い?ハンデよ、ハンデ…!」  
「ハンデじゃねえっ…!そのイカサマで連勝とか反則だろうがっ…!  
それに、舞台の下からオレのほうだけ、ゴンゴンって突かれたのだって、ずるいっ…!ずるいだろっ…!」  
「へ〜、何それ、知らな〜い…!」  
「アンタが知らないわけねえっ…!」  
 
カイジに睨みつけられ、バニーは怯んだ。  
「何よ…だからどうだってのよ…!だからオレの勝ちにしろ、なんて言い出さないでよっ…!」  
「んなことは言わねえ…」  
 
カイジは声を落とした。  
「オレはアンタのサマをわかってて、自分でもサマを仕込んで勝負してたんだ。今更そんなことは言わねえっ…!  
負けは負け…。オレが集中しきれなかった…ただそれだけが敗因…!」  
 
顔を歪め、歯噛みするカイジ。  
バニーはその顔を見ながら、やはり悔しいと思うのだった。  
負けたのは自分のせい、だって。格好つけちゃってさ…!  
わたしが強かったからとか、そういうことは全然思いもしないのよね…!  
 
バニーの中に熱いものが渦巻く。  
だいたい何よ、裸で迫ってんのに何で普通に会話してんのよっ…!  
 
「…あのう」  
「何よ…!」  
「そろそろどいてくれないかな…重いんだけど…」  
 
バニーの額に青筋走る…!  
カイジの一言が、バニーのプライドを逆撫でしたっ…!(特に“重い”という単語)  
このままじゃ引き下がれない…!体と愛想で生きてきたバニーの意地にかけて…!  
 
なりふり構わず、顔を近づけてカイジの唇を奪う。  
先ほどまでの言い争いをしていた時の怒りをぶつけるように、やや強く唇を吸う。  
しばらくして顔を離すと、呆然とこちらを見ているカイジと目があった。  
構わずまた口づけする。少し開いた唇に舌を差し入れる。  
カイジはされるがままになっていた。  
 
「…はあっ」  
長い口付けのあとようやく顔を離すバニー。  
「……………」  
カイジはさっきまでとは違う表情をしていた。ただまっすぐにバニーの目を見つめる。  
「…………こういうことがしたかったのか?」  
「…え?」  
「男が欲しかったから、親切にしてくれたのか?服洗ってくれたり…」  
「だ……!」  
誰でもいいわけじゃない、と言いかけてバニーは口を噤んだ。  
藪蛇っ…!これ以上いい気にさせたらWで墓穴…!  
 
「…罰ゲームよ」  
「罰ゲーム…?」  
「アンタ負けたんだから…あんだけ引っ張って、舞台をひっかきまわしといてさ…!  
だから今は、わたしの言いなりになってもらうわよ…!負けたら相応の報いは当然じゃない…?」  
 
………自分でも何言ってるのかわからなかった。  
ただ、コイツの言うことがいちいちカンにさわって、でも言い返すと藪から蛇が飛び出そうで、ついおかしな言い訳が口から出たのだった。  
 
「………そうか、そうだな……。負けたら失うっ…!」(貞操とか)  
しかし何故か、カイジはこのおかしな言い訳で納得したようだ。  
天然なのかも知れない。  
 
「でも…これ、罰ゲームになってるのか…?」  
素で聞き返される。天然って怖い。  
 
しかしここで、バニーは切り返す。  
「どういう意味よっ…?」  
「だって…むしろいい目見てるような………」  
 
(やったっ!やったっ!やったっ! よーやくわたしを認めたわっ…!)  
バニーは勝ち誇った笑みを浮かべた。  
「つまり、わたしがアンタとやるのはアンタにとってラッキーだって、そういうことよねっ…!」  
「……はあ」  
「それならそうと、素直になればいいのよっ…!バカねっ…!」  
「……はあ?」  
「フフ…どうして欲しい…?今ならリクエストに答えちゃうわよっ…?」  
「………………」  
バニーの笑顔に、カイジはある違和感を覚えていた。  
 
(………もしかして)  
妙に冷静に、バニーの心理を探る。  
(もしかして、“したい”んじゃなくて“して欲しい”んじゃないのか…?  
素直になればいいのに、って言われたけど、それって自分のことなんじゃないのか…?)  
 
そのときカイジにある閃きっ…!  
今まで全く考えもしなかった。可能性を見ていなかった。  
まさか……こんな素寒貧の駄目人間に……!?  
物好き…! 物好きなのか…?  
デブ専、って言葉があるけど、ダメ専…?そういう趣味なのかっ…?  
 
「…どうしたの?」  
「え、あ、いや」  
うろたえると、バニーはクスクスと笑いながらまた顔を近づけてくる。  
「あ、」  
さっきまでのキスとは違い、バニーはゆっくりと啄ばむ様に唇を動かした。  
同じように動かすと、バニーの肩が僅かに揺れた。  
バニーの背中に腕を回す。キスに応じながら出方を窺う。  
 
「…はあっ…」  
悩ましげなため息を漏らしながら、バニーの顔が離れた。目が潤んで、少しの時間放心する。  
その一瞬の隙を突くっ…!  
 
「きゃっ…!」  
バニーの背中に腕を回したまま、横に転がる…!その反動で自分が上になる…!  
「う…」  
四つんばいになったが、左手の指先に鈍い痛みを感じ、低く呻いて体が左に傾ぐ。  
左手の指はくっついてはいるものの、十分に動かせない。まだ体重が支えられないのだ。  
肘までついた体制で体を支える。必然、バニーの体と密着する。  
気がつけばバニーの豊かな胸の谷間に顔をうずめていた。  
 
(や…やわい…っ……)  
Dカップ…、いや、Eカップはあろうかというバニーの胸に頬を押し付け、その感触を確かめる。  
 
顔をあげて、至近距離で改めて眺める。  
バニーの胸は大きいながらもギリギリのラインで美しい曲線を描き、曲線の頂点にはピンク色の突起がつんと立っていた。  
圧倒的美乳…!  
見事な胸に文字通り圧倒されながら、右手で乳を包み込み、ぎこちない手つきで撫でる。  
「あ…ふぅ……っ」  
乳首をつまむようにすると、バニーは体を僅かによじった。  
さっきまでの威勢はどこへ行ったのか、ただカイジの愛撫に、その刺激に身を任せている。  
ずっとカイジのターン!  
 
 
 
…とはいっても、当のカイジは困っていた。  
久しぶりすぎてどうしていいやら…なかなかカンが戻らない。そもそも、こういう経験が数えるほどしかない。  
とりあえず、胸が感じやすいことはわかったので、攻めてみることにした。  
右手の指で片方の乳首を弄りながら、もう片方の胸に舌を這わせる。  
「あっ…あ…や……」  
バニーの体が熱くなり、汗ばんでくるのがわかる。鼻腔をくすぐる女の甘い匂い。  
恍惚とした表情を浮かべるのを見て、カイジもまた、体の内に熱を感じ始めていた。  
 
バニーの体をゆっくりと撫でる。  
大きい胸の下から腰のくびれに手を這わせ、太腿から下腹部へ…  
太腿に指を食い込ませながら、右手で脚を持ち上げ、開かせる。  
 
「…はあっ…」  
思わず息が漏れる。花弁がヒクヒクと動き、トロトロと蜜が溢れてくる。  
指でなぞると体がビクンと跳ねた。  
「あっ…!」  
「…もうこんなに…」  
「や……見ないで…」  
 
バニーは戸惑っていた。  
大して上手くもないカイジの愛撫に、体の高ぶりが抑えられない。  
時折仕事で、取引先のお偉いさんを体で接待することがあった。  
そんなときは笑顔で、相手の喜ぶような演技をし、相手をいい気分にさせることで、  
自分の思うように操縦している、と満足していたのである。  
 
ここ数年、そんなセックスばかりだったなあ…  
なんか…久しぶり、こういうの…  
そう思ったら、なんだか体の奥から熱くほてってくるような、落ち着かない気分になったのだ。  
演技ができない。  
体だけじゃなく、心まで裸になったようで、恥ずかしい。  
なんだか怖い。見透かされてるようで。  
 
花弁の周りを何度もなぞっていた指が上に動き、蕾の先をつまんだ。  
「ああっ………!」  
体が跳ねる。脚を閉じようとしたが、肩にかけられたままの脚は閉じることができない。  
なおも蕾の部分に触れてくる指の感触に、頭が真っ白になりかける。  
「やっ…駄目っ……!」  
 
手を伸ばし、カイジの指をつかむ。  
「ま…待って…」  
「え…駄目…?」  
「…指…駄目……」  
 
指…指が駄目って。指じゃなかったらいいのか?  
そんな風に思い、今度は顔を近づけ、舌先でペロッとなめる。  
「ひあっ…!」  
バニーの悲鳴が一際高くなり、舐めた先からプシャッと液体が飛散する。  
 
(し…潮っ…初めて見た…)  
脚を痙攣させ、ぐったりと横たわるバニーを見つめながら、熱が体内で暴れ回るような感覚に陥る。  
発散したいっ…!崩れ落ちたい、欲望の海に…!  
 
体を起こし、ほとんど無意識に、自分の怒張したモノをバニーの入り口にあてがう。  
「や…!」  
バニーはとっさに腰を引いた。  
 
「ゴ…ゴム、つけて……!」  
「! あ、ああ、ごめん……」  
素直にバニーが差し出したゴムの袋を受け取り、破ろうとする…が、左手はうまく動かせないので、  
袋の端を噛んで右手で引っ張るようにして袋を破った。片手で装着しようとしてもたもたする。  
 
体の火照りが落ち着いてきたバニーは、ゆっくりと身を起こし、カイジを手伝う。  
バニーの指が自分のモノに触れ、甘い刺激が電流となって走る。  
「っあ…」  
モノはいよいよ堅く反り返り、痛みすら伴う。  
ゴムは根元まで装着できているのに、バニーはその手を離さず、ゆるく握って刺激を与える。  
「…はぁ、はぁ…」  
息が荒くなる。刺激そのものより、バニーに擦られているってことに興奮する。  
向き合って座っているので、互いの顔が近い。  
バニーの首の後ろに腕を回し、顔を近づけて自分からキスをする。ぴちゃぴちゃと音がして舌先が擦れ合う。  
 
「っはあ……」  
しばらくして、バニーはゆるゆるとこっちに倒れこんできた。もうこちらのモノを擦る力も抜けてしまったようだ。  
 
背中に手を回し、バニーを再び横にさせ、改めてバニーの秘所に自分のを挿入する。  
「あ……」  
「っ……」  
先ほどの刺激で、互いに敏感になっている。内側を少し擦っただけでイキそうになる。  
「……はあっ…」  
根元まで達したところで、動きを止める。何度も襲って来ようとする快感の波に耐える。  
やがて、ゆっくりと腰を動かし始めた。  
 
「い………ああ……!」  
バニーの声がいっそう大きくなる。  
それに合わせ、より大きく腰を打ちつけた。  
 
「やぁ…だ、駄目…!」  
バニーが叫ぶ。それがどういう種類の『駄目』なのか、カイジはもう察している。  
よりいっそう早く腰を動かす。  
「あ…っ……駄目っ……! 駄目駄目ダメえっ……!!!」  
バニーの中がきつく閉まり、けだるい腰の感覚とともに自分の中の熱が一気に放出するのを感じた。  
 
◇◇◇  
 
 
「ほら、もう乾いてるよ服。乾燥までやってくれる洗濯機だから」  
バニーはカイジに服を手渡す。  
「ありがとう」  
手早く服を着てしまうと、カイジはお礼を言った。  
 
黙ったまま、玄関まで歩く。  
何を言っていいやら、わからない。先程まではあんなに通じ合っていた気がするのに。  
外に通じるドアを開け、カイジは振り返る。  
バニーと目が合ったまま、気まずい沈黙が流れる。  
言葉が出ない。  
言いたいことがないわけじゃない。  
………しかし、それを言う資格が自分にはないのだ。  
 
「……………もう、来ないでよね」  
「うっ………」  
バニーにそんな言葉を浴びせかけられ、傷つく。  
 
 
「……………アンタが大金持ちになって、この会場とか、カジノを即金で買い取れるくらいになるまで」  
そう言って、バニーは微笑む。  
 
「そんくらいの度量はあるんだから、アンタには」  
「……いや、どうだろ……」  
 
そんな風に言ってくれるのは嬉しいが、自分の身の程は知ってるつもりだ。  
現に今日だって、数百万の金もつかめなかった。  
……けど、次またチャンスがあれば…。次こそは……!  
 
まだ見ぬ次の勝負に思いを馳せ、カイジは決意を新たにする。  
その横顔を見ながら、バニーはカイジにわからないようにひっそりと寂しい笑みを浮かべるのだった。  
(……ほら、もう私のことは頭から抜け落ちてる…。)  
 
 
……そこから数ヵ月後、煮詰まったカイジは逃亡生活をやめ、遠藤の下へと姿を現すことになるのだが、それはまた別のお話。  
 
 END  
 

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