「なんだ、もうおしまいかよ…」  
最後の一滴まで飲み干そうと未練がましく黒沢はさらにビールの缶を首ごと傾けてすする。  
しかし、ずずっとすする音だけだった。  
「はあ…せっかくの晩酌だぜ…まだから騒ぎ終わったばかりなのに…もっと買えばな…」  
嘆きながら、ビール缶を机に転がす。これで4本飲み干したことになる。しかし飲み足りないのだった。  
ため息をつきながら身を投げ出すように寝転がる。酔いが回ってきたのだ。つけっぱなしのテレビのしゃべりも  
黒沢にはぼんやりと聞こえるだけで、天井をぼんやりと見上げるだけだった。  
「しっかしあちいよな…」  
電気ストーブだけなのだが、春の夜は生暖かい。黒沢は蒸し暑さをこらえながら、まどろんだ。  
暑い―初夏―夏―とりとめもなく黒沢は連想をめぐらす。  
夏―海辺―プール―水着  
黒沢の連想がぴたりと止まった。そのまま意識を集中させる。  
水着の女―ロングヘアで目はくりっと大きいがほっそりとした顔立ち、そしてビキニからこぼれるほどの豊かな乳房、  
ヒップを申し訳程度に覆うTバック―  
「ううん、いいねえ」  
にやけた笑みとともにそのビキニの女を妄想のなかで操る。  
そのビキニの女はプールサイドのデッキチェアに座り、アイスキャンデーをなめている。  
アイスキャンデーにちろちろと舌を這わせては一気になめ上げ、こぼれるジュースをすすり上げる。すすり上げては  
また舌を這わせ、そして先端を軽く口にくわえ込む。  
「う…う…いいじゃねえか!」  
黒沢は飛び起き、戸棚の上のティッシュを足元の床に放り出すと、ズボンを一気にずらし下半身をむき出しにした。  
「よし…これでいくか!うひ…うひ…」  
そのままあぐらで座り込み、ティッシュをぐいと引き寄せると肉棒を握り締めた。  
―よろしい。ならば妄想だ…口内ジューシーだ…―  
妄想―黒沢はそれが嘘でしかないことはわかっていた。しかしアダルトDVDにも風俗にもないものが妄想にはあるのだ。  
それは、妄想の中では女は黒沢の思うままということなのだ。アダルトDVDの男優は黒沢ではない。あくまでも他人だ。  
そして風俗では女たちは黒沢をみると引きつった愛想笑いを浮かべる。所詮金だけだということはむなしいのだ。  
―そうだよな…妄想の中では俺は愛あるせっくしゅができる!―  
そのまま妄想の世界を広げる。どこから妄想の女を攻めるかしばらく思いあぐねたが、やがて背後から忍び寄り、黒沢に  
気づかずにアイスキャンデーをなめている女の胸をビキニ越しにわしづかみにした。手に余るほど豊かな胸の重みだけでも  
黒沢は快感を感じる。  
 
「ひゃん…」  
胸をわしづかみにされ女がもがく。しかし黒沢の腕力には勝てず、もがくだけで逃れられない。  
「おい…俺だよ、俺…忘れたのか…俺だよ、俺」  
背後から女の耳たぶを甘噛みすると、女の力が抜けていく。  
「ああ…んやだ、黒沢さん?」  
右手にアイスキャンデーの棒を握ったまま女が振り向く。軽く眉をひそめているが、媚びた笑みが浮かんでいる。黒沢は  
すかさずその唇を吸った。  
「あっ…んん…んん…」  
女がゆるやかに首を振り、黒沢の唇を吸い返す。  
そのまま黒沢はビキニの中に手を滑らせ、乳首を摘むとこりこりと軽く絞り上げた。  
「やっ…そんなこと…ふうっ…」  
乳首が硬くしこっていく。女の感度のよさに黒沢はほくそ笑んだ。軽くねじっては優しく指の腹で撫ぜ上げ、時には乳房ごと  
ぐいと揉みあげる。  
「んんあっ…」  
女は背後からの黒沢の腕に捕らわれたまま、思いのままに快感をむさぼる。  
そのまま、黒沢は左手を乳房からわき腹を滑らせ、Tバックの中に滑り込ませる。  
「んんんーっ」  
アイスキャンデーはとっくに女の手から転がり落ちている。しかし女はこのことなどもう忘れて、身をよじって黒沢の手の動きに  
身をまかす。  
さりさりとしたヘアの感触を楽しむと、一気に指をスリットへと滑らせる。すでに襞は濡れそぼり、ゆっくりと指を受け入れる。  
「あっいやっ…そんなにしないで…んんん…」  
 
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――  
「おい…さっぱりいかねえな…」  
黒沢は肉棒をしごく右手を止め、ぼそりとつぶやいた。  
黒沢の出来る限りで妄想を膨らませるだけ膨らまして楽しんでいるはずなのに、いっこうに絶頂を迎えられないのだ。  
しごいている快感はあっても、射精ができない。妄想と絶頂を同時に楽しみたいのに、黒沢の肉棒は先走りをてらてら垂らしながら上向いた  
ままだ。  
「おい…これって俺の早漏が治ったということ?なら、俺もゴルゴなみになってもいいじゃねえか…」  
ぼそぼそとつぶやいたが、らちのあくものではない。女にやらせたいことを黒沢は妄想し始め、また肉棒をしごき始めた。  
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――  
女は黒沢の足元にひざまづき、黒沢の肉棒に舌を這わせている。  
「ん……うっ…」  
先走りをなめ上げ、そのままごくりとのどを鳴らして飲んだ。ふっと欲情に潤んだまなざしで見上げる。  
「黒沢さんのって…おっきい…」  
そのまま亀頭に軽く摘むようなキスをする。ちゅっちゅっとついばむように何度も繰り返す。そのまま舌で亀頭をつつき始めた。  
「もう、こんなにおっきくなってる…食べてもいい?」  
 
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――  
「で…口でやるのってどうだっけ?」  
黒沢の妄想はそこでぴたりと止まった。黒沢はフェラチオの経験がない。元風俗の女と関係したが、フェラチオをしてもらったことはない。  
風俗でゴムをつけてフェラチオというのは聞いたことがあっても、頼む勇気がなかったのだ。明らかに笑みが愛想笑いとわかる女に無理強い  
することはできなかったのだ。  
「口でやるって…歯が当たんねえのか?」  
AVでも女がフェラチオする場面を見るたびに、純粋にそればかり気になってしまうのだ。  
「どうやればいいんだよ?」  
肉棒を握り締めたまま思いあぐねる。しばらくするうちに数ヶ月前古本屋で買った時代劇漫画の一場面が蘇った。  
それは侍が自分の股ぐらに頭をうずめて自分を慰めている場面だった。その侍は惨殺された美少年の弟弟子を恋い慕っていたのだ。  
「そうか!自分でやればいいんだな…!あいつは侍だ!俺だって…男なら…出来る!出来るのだ!」  
黒沢は立ち上がると体育すわりして、頭の分だけ足を広げた。肉棒めざし腰をかがめ頭を沈める。  
「ぐっ…」  
鈍い痛みが響いた。一瞬悪寒が走ったが、黒沢はフェラチオへの欲望しかなかった。  
「ぐっ…ぐっ…出来る!出来るのだ!侍なら!」  
そのまま勢いをつけて頭を沈めた。  
鈍い音だった。黒沢のまぶたに激痛の火花が散り、うめき声とともにそのままひっくりかえった。  
勢いをつけたばかりに黒沢は自分の亀頭に歯型がつくほど前歯を食い込ませてしまったのだ。  
むき出しの股ぐらに頭を沈めたまま、ヒューヒューとつぶれるような息だけもらし、ピクリとも黒沢は動かなかった。いや動けないのだ。  
ぎっくり腰を起し、無様な体勢のまま微動だにできない。  
転がったままうめく黒沢の脳裏で、黒沢を見下ろしたまま笑みを浮かべ女がまたアイスキャンデーをなめ始める。笑みを浮かべ、ちろちろと  
舌を這わせる。  
「おい…」  
かすれた声でつぶやくが、やがて女はアイスキャンデーをなめたまま立ち上がり、身を翻すとすっと闇の中に消えてしまった。  
後は死んだ蛙のようにひっくり返った黒沢が取り残されたままだった。  
(完)  
 

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