天貴史は ひろゆきが麻雀で稼いだ140万を、勝手に使って花火を上げた。  
その後…自分の嫁二人と共に、ひろゆきとの4Pにわきあいあいと挑んでいる。  
「あの少年どうしてるの?」  
天の嫁、茶色の髪で目の大きな一子が、ひろゆきの事をたずねた。  
「ほら一年くらい前、俺のケガ見舞いに来てたろ…  
その日の勝負が終わって別れて、それ切りだな」  
天は答える。  
見舞いの後…その当日。天と井川ひろゆきは室田と言う関西の雀士を相手に、共闘して勝っている。  
ひろゆきが途中で天と交代、天の力で室田に勝った。  
その戦いの前、さらに天がケガをする以前に…花火があり、4Pがあった。  
つまりひろゆきと天の家族が交わったのはもう一年前になる。  
「俺より良い男に会ったらお前らどうする」  
明るい天である。本気と冗談の間(はざま)で軽やかに言った。  
「天さよなら」  
「さようなら〜」  
一子と共に、黒髪で目の細い次子もそう明るく言った。  
「僕どうしよう…」  
天は悲しがって部屋に転がった。  
(一子め…ひろゆきの事を思い出したな…)  
確かにひろゆきは天より美男だ。天と違って優男だ、インテリだ。そして18歳の青年だった。  
(くそ、子供とも言えるけど…良いところあるんだよなあいつ)  
弱気になった天の脳裏に、ある男が浮かんだ。闇が染み入るように、その男の面影に天の思考は支配される。  
(まずいって、あいつはまずいって! オッサンだけど)  
あのオッサンに、嫁の一人、いや二人共攫われたらどうしようと、天は悲しくなって来た。  
その染み入る暗闇の男は…室田の次に天の相手をした雀士だった。  
天はその男に勝った。天が勝ったのだ。しかし勝者が強者ではない事を痛感させられた相手でもあった。  
(あの赤木しげる)  
また敵として会ったら…。その男との相克が、天に耐えられるだろうかと思う。  
思い出すだけで凍りそうな闘牌の記憶。  
しかし柔らかく快闊な表情で、天の想い出に居る男だった。  
 
(なんだか懐かしいところに住んでやがるな…)  
終戦の数ヶ月後に生まれた赤木は、天和通りが醸し出す空気に少年時代を思い出しながら、人を探していた。  
「天って男を知ってるかい?」  
「天って男を」  
狭い町とは思えないのに、二度ほど人に尋ねただけで…天貴史の居所、塩田荘は見付かった。  
 
「よお」  
自分の家の…扉の前に立つ男に、天はまた凍った。  
「ちょっと野暮用さ。まだはっきりとはしてなくて…まぁ半年後くらいの話だが…」  
「おいおい、いきなり来てそんな先の話すんのかよ。  
わからねぇよ、俺死んでるかも知れねぇだろ」  
「ハハ…全くだ。お互いな」  
赤木しげるである。雀ゴロを連れて旅行でも行こうと言う事らしい。  
自分を負かした男を連れるなど、旅行中の話のネタとしては面白いと赤木は思っているらしかった。  
そんな事を話そうと思っている赤木に対し、天は言う。  
「あのさ、あんたにして貰いたい事があるんだけど…赤木さん…女なんて居るか」  
「いいや。作る気がねぇ」  
「よし、男に二言はないな」  
「おお。…なんだよ…俺は」  
「いらっしゃい」  
と、扉を全開にまで開け放つ天に歓迎された赤木の体は、女の婀娜な腕力で敷居の中へ引き入れられた。  
「おっと…」  
嫁達の嫋やかな力で部屋へ引き込まれ、座らされる。  
女二人の柔らかい腕に捕らえられて、赤木のスーツが剥ぎ取られてしまった。  
(あらら)  
「おい、天よ…」  
「あんたは…俺が嫉妬してしまう男かも知れない。でも、あんた俺達に合う気がするんだ」  
「そりゃ全部気のせいって奴だ。なぁ?」  
と赤木は女の一人、一子に聞いて来る。  
「え…うん…そうよねぇ」  
と、今まで天が連れて来たどんな男よりも自分に馴染んで感じる赤木に…一子は同意しか出来なかった。  
「一子! 赤木さんと仲良く出来ねぇのか!」  
「え、だってぇ…」  
 
一子の隣に居た次子が、赤木に近付いて言った。  
「急に…ごめんなさいね赤木さん」  
「へぇ…二人とも良い女じゃねぇか…あんまり迷わせるなよ…」  
立ち上がろうとする赤木の色付いた生温かい言葉に、二人の嫁は胸を鳴らした。  
「さっき偶然、天から赤木さんの話聞いたんだ。  
だけど…天がこんな格好良い人を、ここまで部屋に入れたの初めて」  
「私もそう思う」  
二人の女が、赤木を覗き込んでしみじみと言う。  
「俺の嫁、二人ともあんたが良いってよ、赤木さん」  
「やれやれ…」  
と、赤木が一子と次子の手の甲に触る。一子はそれが別れの挨拶に感じられたから…  
彼女は動く赤木の進行方向とは逆に、彼を押し倒す。  
「ハハ」  
若い女があんまり元気なので、赤木は明るく笑う。  
 
次子に口付けて、彼女を腕に抱いていた天がちらっと、もう一人の妻 一子を見る。  
一子は仰向けの赤木に唇を当てている。彼女だけが動いているその時間が続くと、  
赤木の手が一子の動きを助けているようにも見えた。  
「あっ…」  
と、天と次子はいつも通りに始まった。しかし刺激を求めたのか、お互いが服を脱がずに抱き合う事は珍しかった。  
 
一子が赤木の前で服を脱ぎ出し、ゆっくりと一糸纏わぬ姿となった。  
彼女は悪戯に蠱惑的な女性だった。子供っぽい顔をしているのに豊満な肉体で、胸が大きい。  
「あぁ……」  
声を漏らす彼女のその乳房が、男の上でフルフルと揺れる。  
うす桃色の先端と、白いたわわな乳房が、何度も跳ねて赤木のために揺れている。  
仰向けの赤木の上で腰を動かしていた一子。しかし挿入したまま赤木が上体を起こして来たので、お互い座って向かい合う形となった。  
床に両手を付き、一子を見る赤木。  
「は、はずかしい…」  
自分の中に入っている男に対し、一子は乳房を隠した。  
「えぇ?」  
と赤木が色っぽい顔で、少し笑みを見せながら一子を攻めて来る。  
「赤木さんに見られてると…わたし…」  
それに反抗するように、赤木が一子の奥に打ち付ける。  
「やぁっ…奥だめぇっ…」  
一子は赤木を貪るように腰を艶かしく振り、動かし、少し狂い始めた。  
赤木は一子の腰を掴んで自分に、奥まで強く引き付ける。  
 
仰向けの赤木は、絶頂に陶酔して倒れた一子を胸に上に置きながら、自分に声を掛ける天を見た。  
一子は目を潤め熱い息を乱しながら、赤木の頬にキスする。  
「ありがとう、赤木さん…」  
そして赤木からジュルッと離れた。  
(おいおい)  
赤木も気にするほど足元の覚束ない一子が、フラフラと歩いて天のあぐらの中に倒れるように座った。  
そして夫婦で口付けあっている。  
服を着た次子が、服を着ている赤木のそばに来て、膝を揃えて座った。  
「なぁ…こんなのいつも?」  
「たまにです」  
話す赤木と次子の前で、天と一子が音を立てて混じり合っていた。  
「あ…いつもより硬いよ……」  
一子が言う天のそれは、赤木(いつもと異質の人間)が居る所為だが、その赤木の前で天は一子を貪る。  
硬いそれを、女の柔らかさに何度も入れ込んでいる。  
「なんの為?」  
赤木は次子に聞いている。  
「赤木さんと仲良くしたいのよ、天も、私達も」  
「他の方法じゃ、駄目なんだな」  
「…わかってくれますか?」  
次子が言う。一子が天の体に鳴かされている。  
「私……」  
そう言うと次子は赤木の着るシャツに触れる。  
赤木は、その少し動く次子の指先を見ている。女の指はシャツのボタンを外せない程欲情して、動きがまともでは無い。  
白髪と黒髪の男女はお互いの唇を吸い、重ね合った。  
服を脱いだり、互いが相手の服を脱がせたり、無言の男女はとにかく素肌を求めた。  
音を立てて熱い唇同士が絡まり、うごめき合う。  
 
次子はスタイルが非常に良く、乳房は赤木の手にぴったりの大きさで 形がすこぶる良い。  
腰から臀部、足にかけてのラインもしっとりと艶かしい。  
ヌルヌルと良く濡れたその中へ、抵抗も無く入る。彼女の締まり、絡まりが熱い。  
「んん…」  
と、仰向けの彼女は目を閉じている。そして密着したがり、赤木を抱きしめた。  
赤木が動く度に男女の肌が擦れ、女の乳房と男の胸が擦れ合う。  
次子は赤木の耳や首に口付けながら揺れている。  
自分自身でも腰を揺らしている。  
「○○良いか…」  
「はい…」  
と、赤木と次子は何やら相談しながら、自分達の時間を高めている。  
どちらからと言わず、自然に口付け合っても居る。  
 
「次子と赤木さんって……やらしい…」  
天に絡まっている一子が、赤い顔で溺れるように、悶えるように天に言う。  
次子は細い目を閉じ、赤木の下で揺れている。  
そして長い長い絶頂を迎えた。その間、時に悲鳴のように、笛のように次子のノドが高く鳴る。  
必死で赤木の肩を握る次子の手、そして悶える声と表情が天を煽る。  
 
天は一子を抱きながら服を脱いで行って全裸となった。これで服を着ている者はこの場に一人も居ない。  
強いて言うなら、天だけは着ている。ある箇所にゴム製のものを。  
射精を遅らせる為に着けたのだが、天は既に一度取り替えている。次子でいっていた。  
そして一子を抱く今、また。  
 
「赤木さん交代」  
赤木は、その天の声が聞こえていないようにさえ見える。  
「ただ離れろって言ってんじゃねぇ。一子と次子がそれぞれ交代」  
赤木は次子の体を抱き、美しい黒髪の頭部を片手で包んでいる。次子が、  
「赤木さん…」  
と、押し寄せる赤木の肌を惜しんでいる。別れ難かった。  
「赤木さんよぉ」  
天の声があっても赤木は少し動き、次子は「んっ…」と呻いた。  
赤木はいきそうだったが…自身の遅漏の弊害、その流れに身を任せ戻って来る。  
「はぁ…なんだって?」  
「だから…」  
話しかけていたのが男で、しかもその腕が自分の近くにあると解った時、赤木は天のその腕をグッと押した。  
この男の妻である女達にはわからないように拒んだ。興がそがれるからだ。  
(今、邪険にしたな赤木、要らねぇって!)  
そして赤木の腕力の強い事…。最も野性的で、簡単に味わえる男としての敗北に、天は熱い溜め息を吐いた。  
 
「天…」  
「赤木さん…」  
女は二人して、自分から離れる目の前の男を惜しんでいる。  
(こりゃ凄いな…)  
赤木はこのカオスを気に入り始めている。  
 
一対一の二組。仰向けの女二人が隣り合って床に並び、上体を上げた男達が女達の上で好きなように体を動かしている。  
「綺麗なもんだ…」  
女二人が二枚の花びらのように見えた赤木が、ボソッと言った。  
「天はこんな事言わないね…」  
「新鮮…」  
と、思い思いに嬌声を上げたり、息や髪を乱しながら快感の中に居る女達が言う。  
「女に関しちゃ軟派なんだな、赤木さんはよ」  
「軟派ねぇ…本音を言ってるだけなんだが…」  
「きゃっ…」  
と、赤木に抱かれている一子が、軽く両手で顔を覆った。  
「はずかしいよぅ…赤木さん」  
「綺麗だって…」  
「やめてぇ…」  
と乳房の大きな一子が、それを赤木に揺らされながら恥ずかしがって言う。  
赤木は少し…女をからかうように言った。  
「綺麗だね…一子」  
「きゃあっ、いやぁっ、! アハハ」  
低い囁きで名を呼ばれた女は、恥かしさで身の置き場もない様子。びっくりして笑いすらある。  
赤木も一緒に「ハハ」と笑う。  
「あっ…あっ…」  
と一子の声が低く濁り、  
「アカギさん…いく…」  
「バカ、赤木でいくな」  
天はからかい半分で言う。  
「あん……あん…いくよぉ…」  
と、体を丸めて小さくしている一子を見ながら…次子への攻めを強める天は言う。  
「お前もいってたよなぁ…赤木さんで…何回なんだか」  
次子が…一回はいったと知っている天だったが  
「三回くらい…」  
「てめぇっ」  
「あっ………」  
と天の動きに次子が目を閉じて震えた。  
 
「交代! 交代! 赤木さん!」  
「お前の独壇場かよ……」  
赤木は大騒ぎする天に呆れている。  
「じゃあな…」  
と赤木が、再度彼によって絶頂を迎えたばかりの一子の額にキスする。  
すると一子は「赤木さん…」と呟き、涙を一すじ零した。  
 
「赤木さんっ」  
と、次子が彼に抱き付き、その黒い髪を赤木は撫でる。  
「いいかい…」  
「はい…」  
その男女の囁きの後、赤木が一気に次子の体、その奥まで貫く。  
「あぁぁ」  
地獄に近付くような快感の中で、次子は身悶えた。天国のような快感もくれた赤木だったけれど。  
「もっと……もっと下さい……っ」  
次子が発した言葉らしい言葉はこれだけだった。  
赤木が強く奥まで打ち付け止まった時、次子は彼から離れる温度を感じた。彼から放たれた粘りつく波。  
(赤木さんの…嬉しい…)  
 
天との交わりの熱が冷めた一子が、赤木の一呼吸を知り「ヤダ、ヤダ…」と小さく赤木と次子に迫った。  
「一晩に二度はちょっとな…」  
そう赤木が言うと、一子の声色はがっかりと、大きくなった。  
「えぇ!? 次子にだけぇ!?」  
次子は小さく、女らしくガッツポーズをしている。  
「もう! なによぉ!」  
と、一子は赤木と次子に布団のシーツを引っ被せた。  
天は嫁二人に二回ずつ、計四回いったのだが、どうも赤木には引けを取ったと頭を掻く。  
 
天が塩田荘を気に入っている事の一つに「風呂あり」と言う条件があった。  
4人でいっぺんに入る。  
「狭いって」  
赤木の少し吼えるような声。その白髪が這々の体で憔悴したように浴室を後にする。  
一子が赤木の濡れた白い髪と上半身を拭く。  
次子は赤木にゆるゆると服を着せる。それは天の服だった。優男とも言われた赤木だが、別段過不足なく着こなす。  
赤木は着痩せする男だ。腕力、体力も天より優れているようだし。  
「赤木さん…ねぇ…」  
と、一子が赤木の肩に近付く。  
「…しよう…出来る?」  
とたずねる。  
「行ける時は行けるんだが…今日はなぁ」  
「もう、どうして意地悪言うの?」  
「意地悪じゃねぇって、本当に無理っぽいんだ」  
赤木の肌蹴た胸に、裸の一子がタックルする。  
「だめだめ、そんな事しても…寝る」  
「ひどーい!」  
布団越しに一子にポカポカ叩かれても、赤木はクークー寝だした。  
「静か…」  
そう次子が呆れる程、赤木は静かに美しく眠った。  
 
赤木は変な時間に寝たせいで、夜中に目を覚ました。部屋の中は真っ暗だが、天が起きているようである。  
煙草を咥える赤木。  
「暗くないか」  
「いいや」  
火が着いて、暗い部屋の中で赤木の頭髪が白く閃いた。  
赤木の光に照らされている天は、今更ながらある考えに辿り着く。  
(そうだ…俺、この人に麻雀で勝ってたんだ)  
赤木が今夜の事を強者から女を分け与えられた≠ニ感じていたらどうしようと心配しだした。  
(あらかじめ気付けってのは無理な相談だ。勘弁してくれ)  
そう、天は扉を開けた時に立っていた赤木を見て…自分に負けた男だとは、どうしても思えなかった。  
そんな、天に取って不確かな過去は吹き飛んでいた。  
その時の現実は一つ。自分より強い男が目の前に居る  
(俺は挑むような気持ちだったぜ。強者の胸を借りるつもりで、嫁さん達と裸になったんだ)  
「お前は、他人の事を考えすぎるぜ…」  
今の自分の心でも読んでいたかのような、赤木の言葉に天は戦慄した。  
赤木の今の言葉には深意があるのか。  
暗い部屋だからと気遣う、天の心配りを言ったのか、  
先程の異常な親しみからこれ以降、馴れ合う人間関係に否やを持ったのか、  
天から憐憫の混じった愛情を掛けられようと、赤木自身はそこから無関係で居たいとの意思か。  
「赤木さん、すまなかった。  
他人の事考えすぎたって…それが結局無礼になったりな。  
俺、あんたに失礼しちまったよ。  
だから……身投げみたいなナシの付け方じゃなくて  
赤木さんも納得してくれそうな…。  
…あんたの為を思うなら、あんたの為だけは、もっと地味な責任の取り方をしなきゃ」  
「…」  
「いつか必ず、真っ当な道で、真っ当な理由で、あんたをこの家に呼びてぇ」  
「俺とお前は違うさ。芯のところこそ合わないだろうぜ。  
俺に無礼と思って、俺におもねても、俺達はきっと最後に食い違う……だから止そうや。  
だけどお前良い目してるよ。こう言う生活をしてるからかな…」  
「どうだ、そう思うならこの辺に住むか?」  
「…お前……お前は…」  
赤木は天に呆れて少し微笑んだ。  
 
男同士の暗闇の会話から、もう一度寝入った赤木が、今度は朝に目を覚ます。  
赤木のシャツがなくなっていて、天が釈明している。  
「さっき裏のじいさんにあげた。代わりこれやるよ。じゃあ俺出かけるわ」  
元々は誰の物なのか…赤木は天から貰った派手なシャツを黙って受け取り、スルスルと袖を通した。  
 
「ん? 赤木さん帰ったのか?」  
次子しか居ない部屋に帰った天は、彼女にたずねる。  
「うん、一子もちゃんと抱いて」  
「え!?」  
一眠りして食事も取った赤木は、一子の中にも濡れ与えて帰ったと言う。  
「お、俺の居ない間には酷い! ただのせっくすじゃねぇか! おのれ赤木ぃぃ!」  
「今度は私が見てるだけだったの…切なかった…」  
本当は見ているだけの次子ではなかった。一子を抱いた後の赤木と二人で浴槽に入った。  
彼の体を洗い、背中を流しながら、男女の色々があった。  
赤木は手や唇を使って、次子の熱い体も慰めたであろう。  
「ごめんなさいね…天も一子も、赤木さんの事好きなのよ。許して」  
「謝らなくてもいいさ…最終的には俺が決めたんだ。で、あんたはどうさ」  
「え?」  
「俺が好きじゃねぇの」  
「私が自分で言ったら、天に怒られちゃう」  
「…怒られるほど好きかい」  
「…意地悪だわ、赤木さん」  
そう言って、明るい表情だが少し泣きそうな次子に、赤木は時間を掛けて長く口付けた。  
赤木43歳の4Pは、この口付けで幕を閉じる。  
 
朝から赤木と濡れ乱れた一子は、彼を見送る。町の中を少し二人で歩いて行った。  
「ふぅん…赤木さんしげるって名前なの」  
「うん」  
「あだ名でね、イケイケ麻雀≠チて、呼んでいい?」  
「駄目」  
「私の事、バシバシ荒立てる≠チて呼んで良いから」  
「いやだ」  
珍妙な会話をする男女は、話の終わりに我慢が出来なくなり二人で吹き出した。  
天和通りを抜ける別れの時、  
「かわいいよ…一子」  
赤木はわざとらしく、異常な程 男前の声を出して一子に囁いた。  
あんまり良い声で自分の名を呼ぶので、一子はまた笑ってしまった。恥ずかしくて嬉しくて、彼女は涙目で笑った。  
 
ここまで来て…別に用と言う事はなかった。ただ…ここ数ヶ月堪らない思いで学生生活を送っていたのは確かだ。  
本物の麻雀がしたい。天や赤木のような実力者と当たりたい…そう、ひろゆきは思っていた。  
だから、天貴史の住む塩田荘の近くまで来ると、彼の足は止まっていた。  
(強い打ち手と当たりたかったら、雀荘に行けと天は言ったけど…)  
「少年か!? 井川ひろゆき?」  
「あ、おじさん」  
ひろゆきはこの塩田荘に住んでいた時期がある。この辺りに知り合いは多い。  
もちろん彼は、天やその嫁達の人間性を気に入って暮らし始めたわけだが…。  
天の様々な面で発揮される共有財産的な考え方が、ひろゆきの理解を大きく超えたものだったから…早々に引っ越していた。  
「今、天のところに一人男来ててよ…俺、出掛けるわ。  
俺の部屋で留守番してみな。声聞こえるぞ」  
「え?」  
最初、何の事だかわからなかったひろゆきだが…懐かしい声を不意に思い出す。天の妻達の声。  
今、しているのか。天の言うところのせっくしゅを…!  
19歳のひろゆきは、ここ数ヶ月の堪らない思い…もう一つの方を今思い出した。  
一年前の4P。至福の、圧倒的4P。  
(うぐぐぐっ……)  
ひろゆき、片手で頭を抱えた。  
ゴム越しに次子に咥えられ、愛撫された事を思い出した。裸の一子に跨がれた事も。  
避妊のゴムは着けていたが…女二人の熱い中の記憶。童貞から別れたあの瞬間。  
その時、天はひろゆきの未熟さと、センスの良さ、鋭い素質に騒いでいたものだ。  
童貞とは思えないテクニックがあったひろゆき。  
「でも技ばっかり目立つぜ、少年」  
と天はひろゆきに言った。昔も今も、天に喧嘩を売りたい体温のひろゆき。  
 
「ちょっと待ってよおじさん、俺は!」  
「それから、ひろゆきの時は最後まで世話になったんだ俺。ごちそーさん」  
男は、赤面で立ち尽くすひろゆきに 無人の自室を託して夜の街へ消えた。  
(思い出させるなよ……くそっ…)  
ひろゆき、おじさんの部屋に一人で入り込んだ。座布団に頭を突っ込んで、天の部屋の音声をわざわざ遮断する。  
部屋に4Pの蠢きが伝わる。ひろゆきは自分の思い出を揺り起こして、自身の熱い体温、粘膜に触れた。  
若い白さを悪戯に何度も散布する。  
当事者の天の回数を凌ぎ、何度も起こる後処理に追われる。  
そんな消耗をしたものだから、座布団だらけのひろゆきはすぐ、夜のうちに寝入ってしまい、おじさんの帰宅の気配で目覚めた時はもう次の日の昼だった。  
おじさんがひろゆきに留守番の礼を言っている。  
そしてちょうどその頃、赤木が天の部屋の扉を開け、一子と塩田荘の階段を降りていた。  
(あ…男が帰る…)  
だから自分も帰ろうと思った。男が路上を行く後ろ姿を、ひろゆきは開け放った玄関の扉から見た。  
(赤木!? 赤木しげる!?)  
まさか昨日の男は……  
帰り掛けていたひろゆきは振り向き、部屋に居るおじさんに聞いた。  
「昨日の天のところに居た男って、40歳くらいで、白髪で、鼻高くて、目が…」  
「うーん、見たわけじゃねぇからわからん」  
誰に聞いても分らなかった。赤木が昨夜 行為した男≠セったかどうかは誰も見ていなかったのだ。  
ひろゆき、今は慌てて赤木と一子を追った。  
昨夜、天の部屋へ行っていれば…彼には未知の領域、5Pがひろゆきを待っていたのに…。  
(くそ! 何を恐れていたんだ俺は!)  
ひろゆきは走る。今度赤木の足取りを掴んだら、意地でも付いて行こうと。  
 
「赤木さん!!」  
ひろゆきは、一子と別れたばかりの赤木に追いついて呼び止める。  
「1年以上前に一度、俺、赤木さんと会っています。室田さんと打ち合った井川です」  
「おぉ、天の仲間だった兄さんか」  
「赤木さんどうしてこの町に…?」  
「天をハワイに誘おうと思って…ま、暖かい国にな」  
ひろゆきはこの時…他に代え難い貴重な情報を得た事に、今はまだ気付いていない。  
「もう良い…あいつを連れると…嫁さん二人も連れてく事になりそうだから…」  
共に旅行に行く予定の金光や鷲尾に、天の嫁をやりたくない気持ちが…赤木はした。  
赤木のサディスティックがいきなり顔を出す。金光や鷲尾に対してのものだった。  
ひろゆきは、そんな加虐の人について行く。  
「赤木さん…一子さんや、次子さんに会いましたか?…天と暮らしてる女の人達…」  
「おぉ」  
今の赤木の声が、少し重く生温かいようにひろゆきには感じられた。  
彼女達を悪く思っていないからこそ、ハワイに連れて行けないらしい事も。  
(やっぱり赤木さんは次子さん、一子さんと……)  
ゴムで遅れを取っているひろゆきだが、同じ女を抱いたと言えるだろう。  
ひろゆきの欲情したような顔、そして親しみと驚きを宿した瞳から赤木は見抜いた。  
「ん? お前、俺の兄貴か」  
「…え?、あぁ、あの兄弟って事ですか…その…」  
「兄さん…熱いじゃねぇか。上等だ」  
ひろゆきの背をバンッと叩く赤木。その力の強い事…。  
痛みが酷いわけではない。潜在能力を感じさせる、叩かれた方の男を跪かせるタイプの、赤木の腕の運びと手の平だった。  
「兄さん、年は」  
「19です」  
「二回り下の兄貴か。話のネタにされそうだな」  
赤木は被虐にも加虐にも、華やぐ人である。  
ハワイにも女性は居るわけで…今度は赤木がひろゆきの兄になったり、  
赤いサングラスを着けた赤木が「俺のニセモノ」と謎の言葉を吐いて、古く微かなその記憶さえ引き出せる能力を示したり、  
目くるめく南国の時が実現するのだが、まだ先の話である。  
 
「赤木さん!」  
と、彼を探していたらしいヤクザが天和通りで車を止めた。  
だからひろゆきはこの日、赤木と麻雀が出来ない。  
「車には乗らねぇ。この近くだろ。俺も望む所の勝負だ…行くからよ」  
そう赤木に言われてヤクザが控える。  
そして赤木と面識のあるヤクザが彼のシャツに目を止めた。  
(こんな服着てる赤木さんは初めて見る。こう言う趣味なんだろうか)  
赤木がヤクザや雀ゴロから貰う服、その特徴が、一貫性を持ち始めたのはこの頃である。  
「じゃあな」  
その赤木の声の前で、ひろゆきの頭の中は忙しかった。世話になったヤクザの沢田や、天から言われた言葉を想う。  
「オレ達と手を切った方が良い。お前は裏の世界から、まだ戻れるんだ」  
二人が勧めてくれたその道を、俺は行きたいのかと。  
大学を出て真っ当にやって行ける、いわゆるまとも≠ネ人生を。  
それとは別の悩ましさもある。  
今日の赤木の勝負に付いて行っても、また見るだけだ。自分と赤木の勝負ではない。  
どうしたら赤木と戦えるのか。滞りなく赤木と勝負するには。そんな事を…考えている間に、全てが終わっていた。  
自分の迷いの他には、路上になにも存在していないのである。  
ひろゆきはこうして赤木を見失う。  
立ち止まった事への後悔、鬱屈を深めたひろゆきは麻雀を求め、しばらくして後 大阪へ旅立つ事になる。  
ひろゆきが西へ行っている頃、誰もが赤木を見失っていた。  
大阪で偶然、ひろゆきと2年振りに顔を合わせた天も、赤木を探しあぐねて右往左往。  
これから麻雀界の機構そのものを賭けた大勝負、東西戦がある。東の力として赤木が欲しいのに。  
赤木を東西戦へ呼び込んでみせるのは俺だと、ひろゆきは思った。  
どこまでも赤木を探すつもりで、一人 ハワイへ飛ぶ。  
ひろゆきは動いた。命の最も根源的特長。活動…動くと言う事を、若い力で瑞々しく示す。  
灼熱の国で初めて実現する赤木との燃えるような闘牌。  
赤木は追いかけて来た彼を「熱いぜ、ひろ」と、本当に熱い国で明るく迎えた。  
 
「そう言えば、赤木さんの用事なんだったか聞いたか?」  
赤木が部屋を去って間もない頃、天は一子と次子に言った。  
「あら、そうだ、何だったんだろう」  
「…部屋に入ってしばらくしたら赤木さん、用事を言う素振りもなくなったよね。それから二日間ずっと言わないで」  
塩田荘の部屋の中、それ以降は三人で赤木の事ばかり話していた。  
 
「赤木さん今頃何してるんだろう…ちゃんと食べてるかな…」  
と、赤木を思い出して一子は涙を零した事がある。  
次子は赤木の話題が出た日、それだけで、いつも女振りを上げた。  
しかし…赤木の事も、嫁二人の事も憎めない天は、身を斬られるように悶えるだけだった。  
赤木を混ぜた4人での交わりを、後悔していないからこそ、更に天は苦しくなった。  
嫉妬と焦躁の…思いのやり場が今の所は無い。  
無いけれど  
「お前達も妊娠してないよな。あの人、子供出来る体なんだろうか。  
避妊嫌いだったろ。でもあの人の家族の話…他人からも聞いた事ない。たぶん居ねぇ…」  
ひろゆきの時は、ひろゆきに避妊を教える一つのテーマもあった4Pだったが、  
赤木との交わりで避妊に頓着しなかったのは…そう言うところもあったからだ。  
赤木は一人でこの世に現れ、一人でこの世から去ってしまう人に思えた。  
「あの人死ぬ時は、一人じゃないと思うし…一人にさせたくないと思うけど…」  
嫁が惚れちゃったから嫉妬とか、そう言う思いも天にはある。  
しかしこの夫婦は三人で赤木に惚れているだけ。一人が男惚れと言うだけの。  
 
 
町を抜けた車が、徒歩の赤木を勝負の地で待っていたその日。  
赤木は歩き続けて、天和通りはもうその目に望めなくなりそうだった。  
(俺は一人さ。もし一人で歩いて行けなくなったら俺は)  
そう赤木は  
 
「だから、俺の勝手なんだけどさ、赤木さんの事をそこまで思ってくれたら…俺……  
次子、一子…」  
 
天和通りを望める穏やかな坂を、  
身のこなしの軽やかな、服装はいかにもヤクザと言った白髪の男が、ゆっくりと下って行った。  
 
 

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