時刻は午前10時。  
彼は何の前触れもなく、石川の住む安アパートの戸を叩いた。  
石川は、生活費を稼ぐためのバイトは深夜と早朝に入っているため、息子を送り出して一息ついたところだった。  
(これから寝ようと思ってたのに・・・もう)  
てっきり新聞か何かのセールスマンかと思い、そっと玄関近くの窓から外を覗いて、石川は仰天した。  
 
白髪に近い銀髪のオールバック、サングラス、胸元の開いた派手なピンクのシャツ、縞模様のスーツにジュラルミンケース。  
どこからどう見ても怪しいことこの上ない風体の青年が、玄関の前に立っていた。  
 
「よう、安部さんトコの元・奥さん。」  
「だっ・・・誰!?」  
「自分の子供の家庭教師を忘れてもらっちゃ・・・困る。」  
「・・・えっ・・・」  
そこで石川は、青年の声に聞き覚えがあることに気づいた。  
 
「平山。平山幸雄。ちょっと前まで、あんたの子供に勉強教えてやってたんだぜ?」  
「平山・・・くん・・・!?」  
 
動揺したのも無理からぬこと。  
以前の平山幸雄は、伸びた黒髪を下ろし、よれたTシャツとGパンで家にやってくる貧乏学生だったからだ。  
石川が『安部』という男と離婚し、引っ越してきた近所に住んでいた学生。  
挨拶まわりで知り合い、何度か顔を合わせているうちに  
『子供の家庭教師をやらせてくれ。報酬は食事だけでいい』  
と言ってきたので  
子供を塾に行かせるどころか小学校の学費すら工面するのがやっとだった石川は、平山の条件を飲んだ。  
実際、家庭教師に平山がついてからは、子供の成績、特に理科や算数が上がった。  
 
「開けてくれないか。」  
状況把握こそしていないものの、玄関の向こうにいるのは知り合いだとわかって、少しほっとする石川。  
だが、開けてくれと言われても困る。今の平山は・・・サラ金かヤクザ絡みの人間にしか見えない。  
まさかとは思うが・・・可能性はないわけではない。  
 
「俺はもう、そろばんの先生じゃない。」  
 
胸の内ポケットからわざわざもったいぶって出した札束をちらつかせる。  
「いい仕事を見つけたんだ。」  
「・・・・・・!!」  
石川は、それまで『札束』を見たことがなかった。  
目の前にあるそれは、明らかに銀行から引き落としたばかりの・・・白い帯で包まれたシロモノ・・・。  
札束に注目した石川の中にある『欲しい』という思いを見抜いた平山は、口元に卑猥な笑みを浮かべて言う。  
 
「開けてくれ。・・・信用できないなら・・・」  
 
カタン。  
新聞受けから音がした。  
石川が目を向けると、先ほどの札束が落ちていた。  
「やるよ。・・・コレの中にはもっとある。」  
ジュラルミンケース。  
一体、どれほどの大金が入っているのだろう。  
これがあれば、養育費はもちろん、服も靴も沢山買ってあげられる・・・。  
 
石川はごくりと唾を飲み・・・戸を開けた。  
その代償として何があるのかはうすうすわかってはいたが、  
眉間にシワを寄せながら息子に九九の説明をしたり、自分の出した食事を笑いながら食べていた彼の姿が忘れられなかった。  
 
戸を開けてすぐさま後ずさる石川と、わざわざ靴を脱いでからゆっくり近づく平山・・・  
耳元で囁いた。  
「なんで俺が今まで、タダ同然で勉強を教えてやってたと思ってる?  
 ・・・アンタがいたからだよ、元・奥さん。・・・そそられるんだ・・・。」  
 
狭い廊下の壁に片手をつき、もう片方の手を石川の腰に回す。  
 
「あんたの料理、美味かったよ。・・・今度は、あんたを味見させてくれよ・・・。」  
「や・・・やめなさい・・・!」  
「カネは出す。」  
 
三文芝居だと、お互いわかっているのだけれど。  
やめるキッカケが作れない。  
 
「やめて。警察を呼びますよ。」  
「・・・あんたの元旦那を、か?警部だっけ。・・・管轄外区域外でも来てくれんのか?」  
「バカなこと言わないで!誰があんな人・・・!!」  
「そんなに嫌なヤツと寝てたんだったら・・・俺とも寝れるだろ・・・?」  
 
やりとりを続けるうちに・・・平山が焦りだした。  
石川を壁に寄せるようにして、両手を壁につき逃げられないようにする。  
サングラス越しの目は、以前となんら変わりない青年・・・ただ、息は荒く、何かを隠すように腰を引いていた。  
 
「俺のほうがずっと若いんだ!金もある!なあ、枯れた中年より、俺のほうがいいだろ!?」  
 
ゴツン。  
平山の上半身・・・口付けをしようとする顔を近づけまいと、両手でブロックしていた石川の腹に固いものが当たった。  
(・・・ああ。)  
石川は理解した。  
彼は今、必死に堪えているのだと。  
石川が首を縦に振るまで、耐えるつもりなのだと。  
 
「・・・本当に、出してくれるの・・・?」  
「出す!さっきの金は前払いだから、とっておいてくれ!」  
「・・・私、もう、男の人と暮らすのは・・・疲れたの・・・」  
 
平山の目つきが一瞬鋭く・・・同時に何かを恐れるような色が宿った。  
 
「バ・・・バカ!俺なんかと結婚したら・・・いやその、家庭を背負うのが怖くて言ってるんじゃない、   
 あんたと俺の将来を考えると、金だけ出してヤるほうがお互いのためだと言ってるんだ!」  
「・・・・・・・・・。」  
 
石川は抵抗をやめた。  
 
せめてお風呂に入らせて、という石川に対し、  
銭湯なんか行ったらきっとやりたくなくなる、濡らしたタオルで拭けばいいという平山。  
仕方なく、洗面器と石鹸、そしてタオルを用意し、平山を玄関に待たせたまま、トイレで局部を洗った。  
 
部屋に入れた途端、仮眠を取ろうと敷いていた布団に押し倒された。  
平山は、待っている間にさっさと上着を脱いでシャツのボタンを外し、ズボンのチャックも開けていた。  
さっきの金で新しくいいのを買えよ、と言いながら、石川のシャツを破く。  
「ああ・・・これだよ、シャツ越しにいつも見えてた。あんた一年中、安くて薄いシャツしか着てないからさ・・・。  
 夏は汗で、冬も料理作ってる時の湯気で、ブラジャーが丸見えだったんだ。  
 暑いときにはそれすらつけてなかったろ?あんたの乳をしゃぶりたくてしょうがなかった・・・!」  
爪を立てんばかりの力で揉みしだき、舌で石川の乳首を貪り食らう平山。  
 
「あうっ・・・い、痛い・・・!・・・もっと・・・優しく・・・」  
「ヤラしく?」  
調子に乗った平山の頭を思い切りはたいた。  
「なんだよ・・・あんただって、もうこんなになってるじゃないかよ!」  
 
くちゅ・・・くちゅ・・・  
 
平山の指二本が、石川の濡れた女陰に絡みつく。  
スカートの下には何も履いていなかった。下着は、局部を洗った時に脱いだまま。どうせ、何をされるのかはわかっていたのだから。  
「さっさと挿れるからなっ!!」  
(SEXなんて何年ぶりかしら・・・しかも、こんな年の離れた子と・・・)  
離れたとは言っても、石川はまだ20代後半であった。  
ただ、石川の最初の相手であり、元夫の安部は石川よりかなり年上であったため、年下の男に激しく攻められたことはない。  
それを思うと石川も気分が高揚しはじめて、自然と、挿入された瞬間にきつく締め上げる形になった。  
 
「おうっ・・・!あ、ああ・・・あん・・・」  
(え?)  
 
平山の喉から女のようなあえぎ声が漏れた。  
自分の口から出たそれらの言葉に驚きを隠せない平山・・・。  
「ああ・・・あ〜、あぅ・・・」  
声を止めようと頭ではわかっていても、下半身は更なる快楽を求めて走り続ける。  
息も絶え絶えになりながら、言い訳を捻りだす。  
 
「か・・・勘違いするなよ、俺が女々しいんじゃない、あんまり気持ちいいからだっ・・・!!」  
(何を言ってるんだ、俺は・・・?)  
「そ・・・その、あんたの○○○がきついから、声がいつもと違うだけだ!つまり、俺は・・・あっ・・・・・・!」  
言いかけた言葉を自ら遮り慌ててペニスを抜いた途端、平山の精が爆ぜた。  
 
勢いよく暴発した散弾の欠片が、石川のスカートにかかった。  
石川が突然のことに驚き瞼を開くと、平山は顔を紅潮させて、そっぽを向いていた。  
下に血液が集まっていたにしては、赤すぎる。  
 
「・・・平山くん・・・?」  
「・・・さんだっ!平山さんって、よっ・・・呼べ!」  
ますます顔が赤くなる。  
 
「平山くん・・・ひょっとして、初め・・・んっ!」  
強引に唇を塞がれた。  
しばらく口を吸った後、一方的に唇を離し、石川を睨みつける平山。  
顔は相変わらず赤いまま、そして、先ほど射精したにも関わらず竿の方には一向の衰えも見られない。  
どうやら、石川が言ったことは図星だったらしい。  
 
「いい加減にしろ!そっ・・・それ以上言ったら、もう金はやらないからな!」  
 
ここで石川はピンと来た。  
つまり、平山は童貞卒業の相手として、石川を選んだのだ。  
考えてみれば、顔立ちこそ整っていたものの、平山はあくまで貧乏な学生に過ぎない。  
新聞配達のバイトなどをしながら、公立大学で真面目に勉強に打ち込んでいた、と聞いていた。  
 
『カクリツどうの』とやらの勉強で、暗記能力も優れていて、荷物持ちとして買い物に行った時もそれを発揮していた。  
『この空模様なら4時には何パーセントのカクリツで雨が降る。雨の日の安売りを常にやっているのは○○スーパーだ。』  
『このスイカは3日前にも見た。明らかに賞味期限ラベルを貼りかえている・・・痛み具合を考えるとやめておいたほうがいい。』  
などと言って、安く安全な食材の仕入れを手伝ってくれた。  
 
だから、今まで『それ』に至るまでの恋愛経験も、風俗を訪れるための資金も無かったのだろう。  
 
・・・そんな青年の身に何が起こったのかは知らないが・・・  
服装といい、所持金といい、騙されたか何かで危険な世界に足を踏み入れたとしか思えない。  
家に押しかけて来たときの強引な態度はブラフ・・・・・・自分を『金にも女にも余裕のある男』として見せたかっただけである。  
平山のほうも・・・確かに石川の体目当てであったが・・・経済的に逼迫しているにも関わらず、  
食事をほぼ毎日提供してくれたことを忘れてはいなかった。  
 
自分が、代打ちとして裏社会に足を踏み入れてしまった以上「結婚してくれ」とは、もう言えない。  
だからせめて、体目当てという体裁で金を渡す事で自分なりの恩返しをするつもりだったのだが・・・ことごとく裏目に出る。  
 
(タチの悪い人にでもひっかかったのかしら・・・?)  
(タチの悪い男にひっかかる前に俺が会えてたら・・・!)  
 
それぞれをひっかけた男が似たような人間性の持ち主であったことは、彼も彼女も知らない。  
 
平山はしばらく石川の唇をむさぼり、石川のほうもそれに積極的に応じて、お互いに頭の中を心地よい感覚で満たした。  
「脳内物質」というもので表現するなら、β-エンドルフィン・・・。  
接吻を終えた後、息を荒くしながら念を押すように  
「わかったかっ!」  
今度は石川の目を見つめたまま。  
サングラスはとうの昔に外れている。  
威圧的な口調にもかかわらず、お願いをするような、困っているような・・・見慣れた青年の顔があった。  
 
「・・・ええ、もう・・・言わない・・・。」  
何よりも彼の顔が全てを表現しており、それ以上、聞く必要はなかったから。  
 
「入れるぜ、石川さんっ・・・!」  
此処に来るまで我慢していた思いとともに、猛る平山の硬いペニス。  
一度射精したくらいでは、体の芯に宿った熱が冷めない。  
 
一方、石川も初めての激しいSEXに戸惑いながらも襲われているという感覚は無く、  
抱かれるというよりは、童貞卒業の相手として受け入れる形に自然となった。  
自分が初めて抱かれた時の感覚を今、平山が体験していると思うと、背筋にえもいわれぬ快感が走る・・・。  
(あの人の時は一回だけで、痛くてしょうがなかったけど・・・今なら・・・今の私なら・・・)  
 
「あんっ・・・あ、う・・・奥さん・・・すごい・・・おぅうっ・・・」  
「もう・・・あの人の女じゃないわ、私・・・平山君こそ・・・あはぅ・・・見て、私の感じて・・・あっ・・・かんじ・・・て、る顔、見てぇ・・・」  
 
ピストン。かき回し。若さゆえの激しい腰の動き。同時に唇や耳や首筋を責める。  
平山は本番こそしていなかったが、安岡に連れて行かれたキャバレーの女に教わったことを何度もシュミレーションしてきた。  
その全てを、ここで出し切るつもりだった。  
石川も腰を振る。背中に爪を立てる。思い切り声を出す。  
平山が息切れしたり、顔色が悪くなったら、安部に仕込まれたフェラチオや騎乗位を積極的にやった。  
 
「あ、熱いィ・・・いぐぅっ・・・!!とっ・・・とろけ・・・あ、ま、また・・・いぐっ・・・!!」  
「うぐっ・・・ああ・・・締め・・・締めて・・・もっと・・・もっときつく!」  
 
「----さんっ・・・!!」  
最後の最後に、平山は、石川の名前を呼んだ。  
 
石川が目を開けると、スーツ姿に戻った平山が消臭スプレーのようなものを部屋にまいているのが見えた。  
(あ・・・私・・・失神してたんだ・・・)  
「・・・起きたのか。俺も、そろそろ仕事に向かう準備をしなけりゃいけないんだ。  
 あんたがあんまり起きないようだったら、無理矢理起こして服着てもらおうと思ってた。」  
 
時計を見る。午後4時。  
もうすぐ子供が帰ってきてしまう時間。  
「悪いがさっき破いた服は捨てた。別の服、着てくれないか。」  
「・・・とりあえずパジャマでいいわ。今日は・・・夕ごはんは外で食べるから・・・あのお金で。」  
 
『夕ごはん』という単語に、平山が反応した。  
「・・・そうか。ステーキでもなんでも、いくらでも食わせてやれよ、元・奥さん。」  
 
サングラスの中の瞳は窓から入ってくる光に遮られて見ることはできなかったが、少し濡れているような気がした。  
 
「あと、これ。」  
平山はあっさりとジュラルミンケースを開けた。  
「・・・・・・!!!」  
そこにびっしりと詰まった札束、そのあまりの量に石川は戦慄さえ覚えた。  
札束を取り出し、偽札でないことも説明した後、平山が言った。  
「もし・・・もし、さっきのでガキができたら・・・この金を使ってくれ。堕ろすか育てるかは、あんたに任せる。」  
 
また来る、その時はまたカネを払う・・・そう言って、平山は去っていった。  
 
それきり、平山は二度と石川の前に姿を現すことはなかった。  
 

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