「今度、三人で飲みませんか?」  
佐原が指した三人とは、以下のメンバーのことだった。  
ドーソン昼勤の西尾と、夜勤のカイジ、そして同じく夜勤の佐原。  
三人のうちカイジが進んで関わってくる事はなかったが、彼等はシフトが被っていて、年齢も近かったためか、よく話をする仲だった。  
職場以外の二人の顔を見てみたい。  
三人の仲をもっと円滑にしたい。  
そんな気持ちから、佐原はカイジと西尾を誘ってみたのだった。  
 
―しかし当日、佐原と西尾の仲は「飲みニケーション」以上の刺激的なものになりつつあった。  
(予想外の収穫だなぁ)  
佐原は、アルコールのためかフワフワした心地で、思いのほかの成り行きを見つめていた。  
西尾が佐原のそれを、丹念に舐め上げていた。  
「佐原くん、痛くない?」西尾が動きを止め、佐原を見上げた。  
「いえ。もっと続けてください」。  
いつもは明るく、通った声で接客をしている佐原が、くぐもった声色で答えた。  
(飲むだけのつもりだったんだけどな……)  
佐原は、腰から下が溶けていくような感覚に身を委ねているうち、今日の本来の主旨は考えないことにした。  
 
居酒屋で三人で飲んだ後、佐原と西尾はカイジの部屋に押しかけた。  
カイジは当初かたくなに拒んでいたが、ろれつの十分に回らなくなった西尾を心配してか、二人の訪問を渋々受け入れた。  
男二人は、部屋に上がってからも酒を飲んだ。  
肴は、西尾のとりとめの無いお喋り。  
そんな中、アルコールのストックが切れてしまった。  
自分が調達してくる、と佐原は申し出たが、カイジは「タバコも切れたし」といって出かけてしまった。  
 
カイジが部屋を出てから、佐原は西尾のおしゃべりに付き合った。  
ドーソンの時給がもう20円上がればいいのにとか、  
結婚してから女友だちと出かける機会が減ったとか、そんな他愛もない愚痴だった。  
聞き役に徹していた佐原は、こんな質問を投げかけてみた。  
「旦那さんはどんな人なんすか?」  
「アイジくん……ううん、旦那とはね、大学生の頃からの付き合いなの」。  
西尾は旧姓を名乗っており、夫は加藤アイジといった。  
二人は大学の同級生だった。  
加藤は学生時代に博打で破産しかけたが、西尾の支えを受けつつ負債をのり越え、サラリーマンとして就職。  
1年前に結婚し、共働きの今に至るという話だった。  
 
「実は結婚指輪も、先月買ってくれたばかりなの」西尾はそう言うと、か細い左手を佐原に見せた。  
「ラブラブじゃないスか、熱いっすね」。  
佐原は感心してみせたが、「そうかな」という西尾の笑顔には、どこか陰りが見えた。  
「具合でも悪いんですか?」と佐原は心配したが、西尾はかぶりを振った。  
辛かったらカイジのベッドで横になればいい、と言いかけた佐原を、西尾が遮った。  
 
「結婚したら、女としての魅力って減ると思う?」  
西尾は、はっきりとした語調で尋ねた。  
 
―「カイジさん帰ってきたら、どうしようかな」。  
西尾に下半身を任せながら、佐原は慣れた手つきで彼女のスカートを下ろした。  
「やだぁー……、スカート脱いでたら、バレバレじゃない」。  
西尾は口を離し、もともとピンク色だった頬をさらに赤く染めた。  
言葉の内容とは裏腹に、今にでもカイジが現れまいか、という期待が見て取れる。  
「というか、匂いで分かっちゃいますから」と、佐原は西尾の秘部をそっとなぜた。  
西尾がため息を漏らし、そこを益々潤わせた。  
 
「西尾さん、こんなに可愛いのに」と、佐原は西尾を抱きすくめる。  
力を入れれば折れてしまいそうな腰も、柔らかい胸も、ちょっとした仕草も、じゅうぶん魅力的なものだった。  
けれども加藤は、西尾を週に一度も抱かなくなったらしい。  
(仕事で疲れているとはいえ、勿体なさすぎるよなあ)  
佐原は、西尾の形のいい耳に口を寄せ、「カイジさんも絶対、同意するだろうな」と囁いた。  
 
西尾の酔いは醒めつつあった。  
また、自分が直面している状況を理解すると同時に、その状況に溺れ始めていた。  
夫以外の男に抱かれている、しかも第三者のアパートで。  
冷静に考えてみれば昼ドラのような話だが、今はなし崩しになってしまいたい気持ちでいっぱいだった。  
女としての自分の存り方を認めてくれる男が、ここにいる。  
放っておかれた身体と淋しかった心が満たされているという実感のあまり、自制など忘れていた。  
 
佐原が西尾の身体を解きほぐした頃、彼女の太腿は汗と愛液で濡れぼそっていた。  
酒では顔色を変えなかった佐原が、額に汗をにじませながら西尾に質問する。  
「西尾さん……いいですか?」  
西尾にブレーキを踏む余地など無かった。  
「佐原くん、来て」。  
 
佐原はシガレットケースからゴムを取り出し、淀みなく自身に着けた。  
そして西尾をかき抱くと、身を深く沈めた。  
「んふぅ……」西尾は一瞬力んだが、その一瞬は吐息とともに溶けた。  
表面はやわらかく、しかし芯のある佐原のそれが、西尾の内側を優しく貫いたのだ。  
「西尾さんの中、熱いです」。  
佐原は西尾の呼吸と自身を引き寄せるタイミングとを合わせながら、目を細めた。  
 
佐原を受け入れる悦びを感じる一方で、まだ戻ってこないカイジのことを西尾は考えていた。  
カイジと夫は似ている、と。  
名前のことではなく、漂わせている雰囲気が似ていると思った。  
真面目に働いていながら店長に目を付けられてしまう要領の悪さとか、世間話に積極的に溶け込まない所とか、  
カイジの不器用な人間性を垣間見るたびに、学生の頃の夫にそっくりだと感じていた。  
 
以前の夫はいわゆるダメ人間だったけれど、嫌いとは言いきれない味わい深さがあった。  
背負い込んでいる荷物を下ろしてあげたくなるような、道を照らしてあげたくなるような、そんな魅力が。  
今は文句の付けようがない真人間になったけれど、却ってそれが不満とも思えることがある。  
夫が無くしてしまった「らしさ」を持ったカイジに、西尾は興味を抱いていたのだった。  
 
(カイジさんも絶対、同意するだろうな)。  
佐原の一言が、西尾の頭から離れない。  
女としての西尾を、カイジにも認めてもらいたいと考えていた。  
(カイジくん、アイジくん、カイジくん、アイジくん……)  
自分と佐原、二人の呼吸に合わせながら、西尾は心の中で呟いてみた。  
 
―アパートの近くの河辺に佇みながら、カイジはタバコをふかしていた。  
あのぬるま湯みたいな場に戻りたくないな、という気持ちが、彼の足をとどまらせていた。  
今日の一次会も、好んで参加したわけではなかった。  
「既婚者と俺の二人きりじゃ風が悪いでしょう?」という佐原と、  
「シフトはどうにかしておくから楽しんできなさいよ」という店長の押しに負けて、厭々出向いたのだった。  
部屋に二人を上がらせたのだって、西尾が電車で帰れなそうだったから仕方なく許したのだった。  
 
パアニ……  
破裂音のした方を見やると、若い男女が花火を楽しんでいた。  
見た目と人数からして学生だろうか、夜更けだというのに屈託なく喋り、笑っている。  
佐原と西尾が談笑する姿とだぶり、カイジは居場所の無さに歯がゆくなった。  
(西尾さんが心配だし、そろそろ戻るか)。  
カイジはアパートに向かって、重い足取りで自転車を漕いだ。  
 
アパートに着き、コンビニ袋を携えて2階へ上がる。  
ドアを開けると、佐原と西尾がカイジを出迎えた。  
しかし、カイジが想像していたような明るい雰囲気では無かった。  
「カイジくん、おかえり」。  
そう迎える西尾の上気した様子、ねっとりとした声がひっかかった。  
何より、部屋の中に甘ったるい汗というか、果物の熟れたような匂いが満ちているのが気になった。  
 

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