目の前には服の肌蹴た西尾。隣には息と制服の襟を乱した佐原。
カイジの抱える日常の緊張が、溶けて行きそうな弛緩した時間。男女の匂い。
コンビニの控え室でイチャついていた佐原と西尾が、カイジも混ぜて今ここで3Pしたいのだそうだ。
(俺は意外と、この二人に親しみを持たれていたのか)と、カイジはその驚きも持った。
誘われるまま控え室に入り、自分の手で扉を閉めたカイジだったが…
「落ち着けよ。客来たらどうすんだ」
「その時は、俺が出ますよ。西尾ちゃんはそのまま。カイジさん来るこの時間で西尾ちゃん上りですしね。
でも。その客帰って、また客が来たら今度はカイジさんが店に出て下さいよ」
「……あのな…盛り上がりってあるだろ。俺だろうが、お前だろうが、途中で抜けられない事もあるだろうが」
さり気なくこの場に広がるカイジの貪欲さに、西尾の体が熱くなった。
「スケベだな…カイジさん」
佐原に笑顔でからかわれ、この場で一番3Pに飢えているのが自分だった事をカイジは思い知らされる。
「そこはスリルと引き換えの枷って事で」
「……」
佐原の明るい声に、カイジはもう何も言い返せなくなってしまった。
その頑固な唇が、西尾の唇で溶かされた。
余りの柔らかさと、痺れるような刺激にカイジの瞳が濡れそうになる。
西尾がカイジの胸に触れる。カイジは(今風呂入って来て良かった…)と思いつつ
「…駄目だ、やっぱり駄目だ」
抗うカイジの艶かしさに、西尾も佐原もドギマギした。このカイジと言う人は、ほんのちょっとの事でも悩み深い様子で、真摯な時があるから見ていて妙な興奮を覚える。
「カイジさん…キスしてあげてて…」
と、佐原が西尾のスカートと下着を剥がし、彼女の潤んだ粘膜に 自分の濡れた舌を這わせた。
「あぁっ…」
西尾の吐息混じりの声が、カイジの唇に当たった。
そして西尾の手も、カイジの熱い下半身に触れた。
「やめろ、ここからはもう…」
「カイジ君の…見せて…ね」
と、西尾が佐原の舌に身を任せたまま、店長の長い机の上に体を倒す。そしてカイジのベルトを外し、ジーンズと下着を少し下ろした。
「カイジさん…でけぇ…」
佐原が口元を西尾から離し、カイジに賛辞を聞かせる。そしてその指で西尾のグチャグチャと濡れた音もカイジに聞かせた。
西尾は先程からずっと、時折「あっ」と目を閉じて喜んでいる。
「西尾ちゃんも凄げぇや…凄くなってる」
佐原の指が激しく動き、
「あぁぁっ!」
と西尾は奔放な声を上げた。西尾は佐原に揺らされたまま、すでにそそり立っていたカイジを咥える。
(やめろって! くそ!)
カイジは声が漏れてしまいそうで、顔を歪めてしまいそうで嫌だった。そしてその両方をしてしまった。
その反応を、西尾は喜ぶ。
カイジは頭を垂れ、長い黒髪を少し靡かせて、辛そう、悩ましそうだった。
西尾は佐原に攻められ、店長の机に寝転がろうとも、そのカイジを口から離さずにいる。
「西尾ちゃん、カイジさん…オレから行って良い?」
「うん……」
西尾は頷いているが、カイジには佐原の言葉の意味がすぐにはピンと来なかった。佐原が西尾に挿入する。
カイジはこんな目の前で、女に挿れている男を初めて見た。カイジは腰の辺りに艶かしい熱を覚える。
西尾の嬌声と、佐原の吐息や漏れ出る声が、控え室の音を支配した。
西尾は時にカイジを手で舐めるように擦りもしたが、彼女は唸り、篭った声を上げながらも、カイジを咥えて愛撫し続けている。
カイジは西尾に止まってもらい、自分で動きたい衝動に駆られたが、西尾の途切れ途切れの震える動きを見ていたくて動かずにいた。
カイジは西尾がかわいいと感じた。頬が染まっていて綺麗だとも思った。
佐原と西尾が濡れて擦れ合い、その西尾がカイジを音を立てて咥えている。
三人が繋がって、熱い吐息のまま蠢く時間が続く。しかしそれも束の間。来客があった。
佐原は粘つく水音を立てて西尾から抜き去る。西尾が名残惜しそうな声で「うんっ…」と唸った。
「顔になんか付いてません!?」
佐原は店に出る前に必死にカイジに聞いて来たが、カイジの瞳を見て興奮。失敗したと思った。
カイジの快楽の表情は、佐原を煽って圧倒した。
(くそ、気持ち良さそうじゃねぇか…)
店になんか出たくなかったが、佐原は一人で鏡を見て、行った。
「もう、無理だよ、客来てんだから…」
カイジは肩で息をして、吐息を混ぜながらそう西尾に言った。
「お願い…カイジ君…」
西尾は泣きそうな顔でカイジに嘆願して来る。
そして大胆な程 大きな音を立ててカイジに吸い付いて来た。
そして佐原が抜けた熱い女の入り口を、少し上の突起を、自分自身で塞ぎ、愛撫し出した。
彼女はカイジに快感を与えながら、自分の手で自身の快感を得る。
自分の動きに、彼女自身が耐えられなくなって声を上げている。
カイジの頭は今 火のように熱く、女を見る事に没頭していた。
西尾は快感に耐えられず、カイジを口から外し、彼を指で愛撫し始めた。
自分の性器と男の性器を、ただ一人で愛撫し、快感を何度も引き出す。
西尾の肌を、体を、刺すようなカイジの迸りがあった。
彼女を貫くような鋭い放射と、その量で西尾の顔、首、胸元を白く染める。カイジの雄々しい若さが溢れて飛んでいた。
カイジは黙って、西尾の肌を拭い出した。
器用と言えないカイジの思いやりに、西尾は体を任せている。
「駄目駄目、カイジさん」
佐原が慌てて控え室に戻って来た。
「そのまま、かかってる西尾ちゃん」
と、佐原が衣服を下げ、西尾に挿入した。
西尾は頭を振り、悩ましい大きな嬌声を上げた。
「いい…佐原くん…」
涙目で佐原を喜ぶ西尾を、カイジはぼんやり見ていたが、新しい客があって店へ出た。
長い黒髪が流れる頭を両手で押さえ、男らしい手櫛で整えるとレジの前に立った。
客は一人。しかし先程の西尾の後に見るのは過酷な、男の中の男と言った風貌の客で、明らかに不審者だった。
「○○ちゃん…」
「……○○くん」
なんて、下の名前で呼び合う男女が、一人、客と言う名の世間と戦っている男を置いて、控え室にいる。
挙動不審な男を少し鋭い目で追うカイジをよそに、佐原がイッていた。
不審な男は帰り、カイジは軽く息を吐き、西尾が帰った。
「お疲れ様です」
すっきりと発散し、明るい佐原がカイジに笑顔を見せた。射精したばかりの男二人がコンビニのレジの前に立つ。
「西尾さんの事、どう思います?」
「はぁ?………エロいんじゃねえ…」
「そうですよね」
カイジの低い答えに、佐原は嬉しそうに微笑む。
「俺はお前を褒めてんじゃねぇ。どうせ付き合ってもいないんだろ。
お前のもんじゃないだろうが」
「そりゃそうですけど、何すか、ひでーな」
そして空気が止まる前に、カイジは表情もなく「わりぃ」と言って、他の仕事をしだす。
カイジは主のようだと、佐原は思う時がある。人間関係、社会生活の暗部の主である。
愛想だけの為には喋らない、笑わない、なのに存在感だけが異様に凄い。
稀に喋ってみると、実に頭の良い人だなと思う事もある。
コンビニバイトの、くだらねぇ雑務の中で、ハッとするような発想力を見せてくれる。
この人は凄ぇ。
でも俺の方が、勝負事でも社会でも凌いで行けるぜ。あんた偏ってんだよ、凄さが。
佐原は主のようだと、カイジは思う時がある。明るいし勘が鋭い男で、女の西尾よりも華やかな人間だ。
店長よりずっと優秀な店員だとも思う。
カイジは佐原の勘の良さが気になる。他人を見抜き、カイジを見抜こうとするところが嫌だった。
しかし佐原はどこか、舌先三寸で上手く生きているようにもカイジには感じられて、
その軽さじゃな……ギャンブルでも麻雀でも、俺が勝つさ。
そんな事を思いながら棚の整理をするカイジに、レジの佐原が誘いかけて来た。
「カイジさーん、この仕事明けたら麻雀でもしません?」
その勘の良さ、霊感の強さと言うべきか、カイジは佐原にギョッとする時がある。
「金賭けるか?」
とカイジはいきなり物騒だった。遊ぼうと言う気がない。
それでも佐原は乗って、面子も揃い麻雀は始まった。
洗牌の時、カイジは
(あんな事させられた後に、その男と俺は何やってんだ)
と、対面の佐原と自分自身に呆れていた。
(あ。あのまま俺 西尾とやってたら、こいつと兄弟になったわけだ)
世に言う穴兄弟。(冗談じゃねぇ。あのままで良かった)と思いながら、その佐原から
「それロン」
と、カイジが上がった。
夏の始まりのある日、コンビニ勤務中のカイジは何とも調子が悪かった。
前に一度、店長と軽く言い争いしかけた時から、カイジの勤務は過酷になる一方である。
帝愛に押し付けられた借金は、当たり前のようにある。
(途中、途中…)
確かにこの若者、人生の途中だが…少し心が病み出していた。
「店長、お茶入りました。大福もあるし」
「食べませ〜〜ん?」
佐原と西尾が店長を誘っている。カイジは否応なしに、あの夜の事を思い出した。
西尾も思い出したらしく、少し恥かしそうにカイジに笑みを見せる。
そしてカイジもその席に呼ばれて大福を食べたわけだが…
「あれ? カイジ君」
控え室で二人の時に、西尾がカイジに近付いて来て言った。
「ほら、手に大福の粉付いてるよ」
「あ、別に。こんなもん…」
そう無骨に言うカイジの指に、西尾は唇を当てた。
あの脈打ち律動し、濡れたものを咥えられた時と同じように、カイジの肩がじわりと熱く蠢いた。
(感じてる…)
西尾はカイジの指を見詰めていたので定かではないが、彼の射精直前の静けさに似た緊張を感じた。自然に、カイジの指の股にまで唇を滑らせて行く。
「仕事終わったんだろ。俺ならすぐ帰る」
西尾から上手く指を離し、少しだけ息を荒くしながらカイジは静かに言った。
「あたしは居たくて」
あの時だってそうだったのだから。居たくて居た。
「カイジ君ももうすぐ上がりなんでしょ? 一緒に帰ろう」
(や、やれる…)
即物的に、そして感動的にカイジはそう思ったが
(あんたには悪いが…それだと俺が佐原と兄弟か……上手く行かねぇ、俺は運がねぇ…)
そんな考えを発端に、カイジは軒並み暗い事を考え出した。
考えながら私服に着替え…帰ろうとした時、店長とカイジの最後の諍いが始まった。
店の外でカイジを待っていた西尾は、佐原に押されながら外に出て来るカイジを見た。
カイジは激昂しており、佐原はそれを宥めている様子。
佐原は店に戻り、カイジはそのまま店の外に立っていた。そして何事か吼える。
あまりの事で、西尾はカイジに近付けなかった。
長く時間を置いてから、カイジに歩み寄りたずねる。
「……どうしたの?」
振り向いたカイジの顔の、余りの鋭さに西尾はアタフタして
「良い、大丈夫、店で聞いて来るから」
と、カイジの元から去ってしまった。そんな酷い顔してたのか俺……と、カイジは顎を撫でたが、
(あーあ……)
別に、どうでも良いやと、帰宅の途に就いた。
西尾とはもう、会う事はないだろうとカイジは思う。
乳房に触っておけば良かったとか、彼女一人の動きに終始するだけじゃなく、
好い加減のところで、俺が指でも舌でも何でも使って…やってやれば良かったかな…と千々に思いは巡った。
カイジと店長の言い合いから数ヶ月経ったある日、カイジと西尾は夜の道、暗い高架下でばったりと出会った。
こんなところで会うなんて……西尾は引越しをしていたようだ。
カイジは何があったのか、住所不定無職だった。
「来るな」
カイジは帽子を深く被り、西尾から距離を置いた。
「あんた今、俺の女だと勘違いされたら、大変な事になるから」
「なによぉ、ヤクザみたいな事言って。
それに勘違いじゃないでしょ。覚えてる? あたしカイジ君の女じゃん」
西尾は酩酊していた。
「カイジ君も佐原君も居なくなっちゃって、あたしもそれからすぐバイト辞めちゃった。
前から店長にも言ってた、引越しと、就職も決まって」
たったこれだけの事なのに、カイジから物凄く遠い人になってしまった西尾。
西尾がカイジに近付く。カイジはまた(さっき風呂入っといて良かった)と思った。
あろう事か、西尾はカイジの左手を取り、その指に口付ける。
暗がりだったから、西尾はカイジの指の傷に気付かない。
せっかくの西尾の唇だが、触覚を通じての快感はなかった。
ただカイジは片目から一筋、涙を零しただけ。
(懐かしい…10年前くらいに感じる…)
そう。西尾の唇が もう取り返しの付かない程の、遠い昔に感じられた。
「どうしたのカイジ君」
「何でもない」
カイジの涙が、西尾に悟られた。
「…佐原君と連絡取れなくなっちゃったの。カイジ君知らない?」
「佐原は…帝愛でさ…」
「帝愛? あの有名な会社?」
「ああ、あんたも覚えておいた方が良い。危ないぜあそこ」
そう言うとカイジが去ろうとするから、西尾は呼び止めるように言う。
「泣いてどうしたの?」
「は?」
「さっき泣いてたでしょ」
「そんな事…」
表情も変えないのに、カイジは両目からボロボロボロボロと涙を零した。本人がその涙に気付くのに時間が掛かっている。
一度は男女関係にあったと言える人が…こんな状態になって、このままでは返せないと西尾は思った。
「じゃあな」
「カイジ君、あたしの家に泊まりなよ」
「…いいんだ。俺本当にヤバくて、言っちまうと…追われてる」
「待って、ねぇカイジ君、あたしカイジ君の事好きだったの」
「………嘘付け」
カイジはこの日、初めて真剣に凄んだ。
「あの頃の俺に、冗談でも惚れる女なんて居るか!」
「本当だって」
「嘘だ。言うな」
「ねぇ変だよカイジ君」
「嘘と言え」
西尾は首を振った。
「言ってくれ」
ボソリとそう言うカイジの中で、何かがフッと切れた。
カイジは西尾を強く抱き締めて、その肩の上で泣いた。
「もう帰れない」
グスグスと息をする中、西尾にも聞こえない声でカイジはそう言った。
「戻れない、戻ってたまるか」
今度は西尾の耳に届く大きな声で少し、叫ぶように言った。
「よし、泊まる。どっち」
と、カイジは西尾の肩をグイと掴んだ。
「こっち…」
と、西尾が驚きながら自分の家をカイジに紹介する。
「俺を部屋に呼んだらあんた、佐原の事も思い出すと思う。でも遠慮するな。
佐原の良いところは何でも喋ってくれ。俺を貶める事になっても」
「カ、カイジ君…」
「解ったか」
「は、はい」
電灯の下に二人が差し掛かった時、西尾はカイジの顔を見て息を呑んだ。
大きな傷が、カイジの頬、横一文字に走っていた。
その西尾の反応に気付いたカイジは、自分の左指、四本の付け根を彼女に見せる。
一度指を落として、くっ付けた様な治療の痕。傷。
「な、もう戻っちゃ来ないんだ」
カイジの声に今度は西尾がボロボロと泣き出した。カイジに攫われるような感覚を覚えた。
男女が暗い部屋に入り込んだあとは、カイジに奪われるだけの西尾。
「やっぱり、自分でやってるあんたが良かった。見たいんだ俺」
男女の始まりは、あの日のコンビニの再現から進められた。
西尾が立ち姿のカイジを咥え、自分はしゃがんで自身を愛撫しだした。
西尾はまた奔放に声を張った。あの時のような、耐え切れない様子の、切ない声。
見慣れた自分の部屋に、濡れた音が響き続けている。
それはどれくらいだったか…それほど間も経たずに、カイジが西尾を床に倒し、上に覆い被さって来る。彼女のスカートと下着を剥ぎ取った。
「舌でイッた事ある?」
「……ない…」
「イかせてやろうか?」
カイジの舌が、西尾の勃起に触れた瞬間、西尾は少しイッた。
「……あっ……あぁ……洗わなきゃ、カイジ君…」
カイジに会う少し前に、トイレで洗えていたけれど、西尾は少し心配した…
しかし西尾は自らの愛液で既に濡れすぎていた。それも西尾を安心させ癒したが、
予想以上の獣と化していたカイジにこそ、西尾の心は奪われた。
「気持ち良い……カイジ君、いい…」
カイジの口のまわりに、彼女の潮のようなものが、少しだけ溢れた。
「こんな事、ないよ…めずらしい…」
西尾は甘い吐息と共に言う。
「自分じゃ、わからないんだけど……たぶん…すごく、気持ち良い時…」
西尾は自分の潮の事もロクに喋れず、カイジの舌、唇、歯に泣かされている。
西尾の瑞々しい肢体が弓のように反った。
しばらくして、耐え切れないような短い、女の唸りが響く。
「ホントに、いっちゃったぁ……」
西尾は泣き笑いで、カイジの肩に手を添える。
「あんた良いな」
「……いや…」
カイジのはっきりとした声と好意を受け、西尾はかわいらしい声で、その後黙ってしまった。
下半身は全てさらけ出しているのに、上半身はまだ上着すら着込んでいる西尾。
カイジはその上着を肌蹴させ、西尾のシャツのボタンを素早く外す。
暗い部屋の中で、カイジは西尾の乳房を見た。美しかった。
カイジは持っていた重い煙草の箱を、電気のスイッチに向けて投げ飛ばし、灯りを点けた。
今夜カイジの神技が連発している。
西尾の美しさと共に、カイジの大きさも灯の下で露になった。
「カイジ君の…入るかなぁ…」
「これだけ濡れてて、佐原のも入ったんだし」
「佐原君…大きかったけど、柔らかかったから…」
「フフ…フ…じゃあ佐原の方が良かったか。柔らかいほうが気持ち良いんじゃないか」
「人によるよ。わからないそんな事。試してみて……」
カイジと西尾は口付けあった。そのまま進入する男。男女が同時に短い声を上げた。
西尾が乳房を上下させ、何度も深い息を吐きながら言う。
「カイジ君で…いっぱいになってるよ…あたし…」
「カイジ君、の、熱い。……熱いよぉ」
「俺の何が、あんたのどこが熱い」
「……いやぁ…」
と西尾は小さな声を上げて首を振った。
「言ってみな」
と、カイジは動きを止めた。乳房からも手を離している。
「お○○○○熱くて……○○の○○○こが…」
「聞こえねぇよ。何が?」
西尾の途切れ途切れの、はっきりした声が聞こえるとカイジが動き出す。快感に落ち、西尾は絶叫した。
「やらしいね、西尾さん…」
西尾を広い胸で包み込みながら、カイジは言う。
「激しいの好き?」
「…う…っ…」
「ん?」
「好、き…」
女のその声を聞くと、若い男女にしか許されない(不可能な)強さと長さでカイジは西尾に迫る。
「あぁぁぁっ」
女は途中から声も無くなり、息も出来なくなる。
西尾は全身をしならせ、反らせて、快感の中 何度も絶頂へ行った。
動く男にキスした後、西尾も動きながら言った。
「…中に出さないで、カイジ君」
「なぜ」
短く強く、カイジは言う。カイジは濡れた、真剣な瞳で西尾を凛々しく見ていた。
(そんな目をされたら)
カイジは駄目な男。いけない男。でも強い男だった。他者を圧倒するところがある。
「ダメだってばっ…」
西尾も泣いていた。この人の精を拒まなければならない事自体と、拒んでしまう自分のまとも振りが歯痒くて、涙を流した。
しかし受け入れてしまえば、カイジと共に社会の地下、奥深くに落とされてしまいそうで、怖くて。
「わるいな……最初からっ、知ってた事なのにっ……」
そう言うと、カイジはさらに激しく動いた。そして西尾がまたいきそうになった時に、音を鳴らして抜いた。西尾の奥から離れた。
西尾の腹に出そうとしたのだが、少し方向がずれただけで、彼女の顎、顔にまで吹っ飛んでかかってしまった。
(あっ!…)
とカイジは勿論、抱かれる西尾の方も恥かしくなるようなカイジの勢い。
カイジはすぐに西尾の肌を拭った
「カイジ君、優しいね…ありがとう…」
「顔とか腹に出された状態なんて、女の方は良いもんでもないだろ」
「私は、そうでもないけど」
「ったく、あんたね」
「男の人……って言うより、カイジ君はそのままの方が良いんだ。じゃあしばらくこうしてようかな」
「やめろよ、そんな事」
カイジは恥かしそうに西尾を嗜めた。カイジの鋭い熱が引いている。
コンビニで会っていた頃の、西尾の方が犯してしまった頃の、普通のカイジに戻っていた。
「このかかってるの、佐原君も好きだったじゃない?」
「あ、そ、そうか……」
その西尾の言葉一つで、カイジは子供のような顔を見せた。
(もう…佐原君と何があったのかな)
あんまりカイジが従順でかわいいので、西尾は佐原に嫉妬すら覚えた。
西尾はこんなに良いように男に扱われたのは初めてだ。こんな良いようにいかされた事も初めて。
気持ち良いカイジの事が、西尾は以前よりもっと…。
「好きだったけど、触ってみてそうでもない人はちょっとガッカリ来るよね。
カイジ君と佐原君は良かった。最高だったけど、店長は…」
「て、店長と?」
「ほらカイジ君と佐原君が辞めた日…店長がお金盗まれたとか騒いだ日ね。
佐原君とあたしの二人で店長襲っちゃった」
(俺、あの店長とも兄弟に)
今度はカイジ、大笑いしたせいで涙が零れた。
「西尾さん凄ぇよ」
カイジの事も、佐原の事も、店長の事も好きだった西尾。過激な癒しをくれる女だとカイジは思った。
「またおいで。カイジ君が来ても良いって自分で思えたらね」
「…うん」
(や、やれる…)
とカイジはまた即物的…云々。とにかく追われている今のカイジは、西尾からすぐにも離れる事に。
「佐原君と何があったのカイジ君」
「…俺、ある所に佐原と行ってよ。それっ切りだ。佐原は、凄い奴だったな」
西尾は、佐原の身に相当の惨事が起こったのだと悟った。
それくらいでなければ、カイジが佐原の事を凄いなんて言わない気がしたからだ。
「好きになっちゃった?」
「うん、嫌いではなくなった」
西尾は驚いて、カイジに「まさか」と聞いて来る。
「そう言う意味じゃない。エロイ事ばっかりやってるわけじゃねぇよ、俺ら」
カイジはまた、笑顔らしいものを見せる。
「佐原の知り合いが、佐原の?末を知ったら戦争になる。あんたには詳しく言えねぇよ。
あんたは戦えないと思うし、戦う事もない。夫婦でも恋人同士でもないんだからな。
仮にあんたが強くて、帝愛を追い詰める事が出来たとしても、今の生活は失う筈だ。危ない事はするな。
でも俺は、俺なりに戦える。普通の人間と、戦い方は違うかも知れないけど」
「…カイジ君に取っても…ちょっと理解し始めた 普通の友達でしょ、佐原君」
「いいや戦友かな。色々あった。それに兄弟にもなれたしな。西尾さんのおかげで」
西尾に明るい顔を見せたカイジは、傷付いた左手を振って別れの挨拶をした。
それは、カイジと佐原がコンビニを辞めた次の週の出来事だった。
カイジは鉄骨を渡った。地上から遥か上空を渡っている、頼りない一本の鉄骨。
帝愛グループが主催したギャンブルだった。橋を渡ると金が貰えたのだ。
とても高く、落ちると死ぬから 人が何人も死んだ。カイジの目の前で。
佐原もその橋のせいで消えた。
しかしそんなカイジは変装して帝愛の借金から逃げ…その帝愛に噛み付くために新しいギャンブルの期を狙うだけ。
俺は間違っているのか、
(すまん)
俺はギャンブルでしか、戦えない
そう心の中でカイジは唸る。ギャンブルの中で命を失っていった男達へ向けた言霊。
カイジの自由、苦しみ、幸福はもう、ギャンブルの中にこそある。
指の快感を失くしてもそう。
西尾をかわいがった口周りの筋肉が疲れている…
(高校の時以来だからな…あんなの…)
高校時代、女と喧嘩に関しては常時覚醒していたようなカイジであった。
中学の時はたまに喧嘩で負けたが、高校ではどちらの道も全勝だった。
西尾はカイジの経験の中でもかわいい方で、美人だと思う。
(処女だったらもっとこう…)
自分でも悪癖だとわかっているが、カイジは処女がどうやら気に入っている。
処女の体で自分の相手をしてくれた女性の事は、いまだにちゃんと覚えている。全てが良い思い出だ。
これから後、カイジは「鉄の処女」に出会うわけだが…まだ先の話である。
死者の声が聞こえる感覚の鋭さを、カイジは持ち合わせて居ないが……
(兄弟になっちまったよしみでよ、佐原の声くらい聞こえるかな…)
耳を澄ますときっと聞こえる。お互いの存在だけが生きる拠り所だった時の、橋の上での佐原の声。そこに在(い)るかと。
カイジー! 在るかー!
「在る、在るぞ佐原」
西尾と別れてからしばらくの後、変装し隠れ続けていたカイジは、帝愛の遠藤を見つけ出していた。
新しい戦いに挑もうとするカイジ。飛び出す前にぼそりと言う。
遠藤に対して、橋で死んで行った者達に対して、帝愛に対して、そしてギャンブルそのものに対してカイジは言った。
「俺がここに在るぞ」