白髪の男が口の端を上げ、笑った。
彼は今日も勝つのだ。
対戦相手はもう、白髪の男に払う金、負け代が底をついていた。
「アカギ、もう終いだ。これ以上は出せねぇ」
白髪の13歳、その男はアカギと言った。13歳よりは随分年かさに見えるものの、少年アカギはこう答えた。
「俺は金以外の賭けでも、別に構いませんよ」
「………女は?」
「構いません。その人見せてくれませんか」
アカギが座る雀卓、その対面から美しい黒髪の女が現れた。
(……あらら)
これはまた狂気の沙汰。爽やかな程の醜女である。
アカギは哄笑した。対戦相手の挑むような顔。アカギがこの手の冗談が解ると賭けている様が男らしい。
「どう言う事だ」
と、アカギはまだ快闊に笑っている。
「乗ってやるか。いいよその人で」
醜女はこの事態が良く飲み込めない様子で、アカギとその対面の男をキョロキョロと交互に見やっている。
「おいで…」
アカギがその女を呼び、自分の傍らに控えさせた。
「一緒に帰ろう」
その甘い蜜のような声に、女は気が遠くなる。
アカギは最後の賭けにも勝ち、金と一人の女を連れ、賭場から夜道へ出た。
一方賭場の対戦相手は…
「あれだけの醜女だ…何かの役に立つと思って、取って置きたかったのに…」
金の事は勿論、女の事も悔やんでいた。
確かに醜女として利用したかった女だ。だが、アカギの傍に立つと良い女に見えたのだ。後ろ姿など、吸い付きたくなる程に。
あのアカギの魔力は底が知れないと思って…今更ながらに、勝負があれだけで済んで良かったと、胸を撫で下ろしていた。
夜道を、13歳の男と20歳程の女が連れ立って静かに歩く。
「大丈夫かい」
「はい。…あ、私坂崎と言います…」
男の問いにも、女はまだ少し呆然としている。
「名前は美心」
「下の名前は覚え易い。どうして、あんなところに居たの」
「そうだ…そうだ! ありがとう!…今思うと美心、変なとこに売られるところだったのね!
ちょっとお給料の良いバイトしてて…その関係からあそこに居たの。騙されるところだったわ!」
「気を付けなきゃ駄目じゃない…」
「はい…」
こんな得体の知れない包容力のある少年に会ったのは初めてで…さすがの美心も大人しくなってしまう。
「アカギさんね! 何かお礼したいよ、美心」
「礼ね…。泊めてよ美心さん。行くところないんだ」
「え……それは…」
今彼女は父と共に暮らしている。彼女自ら連れて来た男を泊めるなど今まで一度もないが…。
(美心を助けてくれた人だもん…いいじゃない!)
そう思っても…このアカギの色気では言い訳も通用しないように感じる。あの父には。
「ね、ね、それ以外なら何でもするから。そうだ」
と、美心はその顔をアカギの鋭利な顔に近付け、そのたわわで瑞々しい唇を、アカギの薄い唇に押し当てた。
美心は恥じらいもなく街なかで少年にキスをしたものだから、その様子を後ろから見ていた人間からアカギは羨ましがられ、美心の顔が見える位置からの傍観者には驚かれた。
アカギはその間、ずっと目を見開いたまま、少し狼狽していた。
唇が離れると、アカギは言う。
「俺初めてだ…」
「ええ!? キスしたの美心が初めてなの?」
「うん」
「じゃあ、女の子とロクに手も握った事ないとか?」
「いや、抱き合ったりとかはしたよ。それはもう何人か覚えてない」
「え、ア、アカギ君」
「来な」
と、美心の手首がアカギの利き手に掴まれた。
「ど、どうしたの?」
「するんだよ」
「え…え…」
アカギの腕力の強い事。そしてしなやかで、美心は彼の手から逃れる事が出来なかった。
アカギの興奮した背を見ているうちに、美心の体がゆっくり熱くなる。
彼と共に、人気のない所を探している自分に気付く。
「アカギ君駄目よ…」
「何言ってんの。さっきまでからかってたくせに」
「あれは、かわいいって思ったからよ。もうかわいくないもんっ」
美心は男の力で狭い林に押し込められた。公園だろうか、美心は太い木に体を預ける事が出来る。
アカギは片手で美心を木に押し付けたまま、片手で自分のベルトを器用に外している。
「アカギ君…そんな、美心は……!」
美心が初めて見る男性のそれ≠ヘ、なんと反り返って彼自身の腹に張り付いていた。
「構わないだろ」
「アカギ君……何だか怖い、美心…」
「怖いかね…触っても良いけど」
「それ≠ェ怖いんじゃなくってっ……美心はアカギ君の、全部がっ……」
胸を高鳴らせる美心の手と指が、アカギに向ってピクリと動こうとしたが、彼女はその手で自分の唇に触れ、押し止めた。
「じゃあ、俺が触るから」
と、アカギが美心の上着を、彼女の首まで押し上げた。
美心は男の手の動きと同時に鋭く息を吸い、顔を赤らめた。見事な乳房があらわになる。
柔らかい乳房の、一点だけが硬く、興奮して浮き立っている事が彼女自身も解る。
その乳首に、甘い息がかかるような距離でアカギは言った。
「やっぱりね…」
「?」
「美心さんみたいな顔の人って体の格好良いよ。俺の少ない経験からだと、そうだ」
そう言ってアカギの指が、美心の唇に触れる。
「気持ち良いじゃない。美心さん…」
さっきの口付けの事を、男は言っていた。
「他の場所はどうなんだろうね…」
体を見られ、アカギに言葉を掛けられている美心が、彼に心を乱しているうちに
男の手が女の体を自由に滑り、下着も剥ぎ取られてしまった。
男女の濡れた粘膜が触れ合う。
「あっ…!」
と、美心の顎が小さく跳ねた。アカギも初めて、目蓋を深く落とす。
(大きい……)
そう思っても、彼と自分の結合部を見ていると、言葉は出て来ない。
(あ…少しだけ…擦れてる…)
(どうしてこんな事に…)と困惑しつつ、美心は異常な快感に体を委ね始めた。
「アカギく、ん…痛い…」
それを聞くアカギは、美心に引っ掛けながら上方向に抜くものだから
腹まで反り返っているアカギのそれ≠ェ、美心のクリトリスを弾くように掠めて行き、美心は快感で叫んだ。
「声が大きい…。誰か来たら…」
アカギのその囁きを、美心はハァハァと黙って聞いていた。
「俺は、誰が来ても続けるけどね」
アカギの高い鼻と、美心の低い鼻が上手く交差して、男女は興奮のままに口付けあった。
アカギの頭が美心にぐっと近付く。彼の白と、彼女の漆黒の髪が触れて、深く交じり合う。
嬌声を上げながら美心はうっすら涙を浮かべ、アカギの腰付きはもう何度も美心を求め続けて男女の時間は続いていた。
美心は初めてだったが…男が奥当たる快感も覚えて、絶頂は何度も味わった。
「あ、イク、またイッちゃう…」
美心の絶頂で締め上げられる度、アカギも動きを止めて表情を少し歪める。
「アカ、ギ君…駄目…」
と、美心は少し痙攣して振るえた。
「千切れるかと思った…」
うっすら汗をかいたアカギが、乱れた白髪の下でそう笑みを見せた。
美心は泣いて恥かしがる。
「もう駄目、アカギ君。美心、頭おかしくなっちゃう…」
「そうかい、少し待ってな…」
アカギが強く動くと、美心はまたすぐにも快感に落ちた。
「あれ…」
女の体を頬張るように、貪るアカギだったが怪訝そうである。
「ハァ」
と、イケないアカギは美心の乳房に倒れた。
「駄目だ」
「…美心のせい?」
「いいや……俺自分でやらないと、イケない時があって」
「…ねぇ、アカギ君いくつなの?」
「13」
「ちょっと、中学生?」
「うん」
と、アカギは美心の乳房を鷲掴みにして、そのまま半身を起こすから、美心は「あん」と鳴いた。
「美心さん、あんたのせいじゃないよ」
「いいの…。それに…」
「なに」
「中に、出さないで…ね」
「?」
「赤ちゃん出来ちゃう…」
「おいおい、中に出さないで、何の為に入れたんだよ」
「アカギ君ってなんだか、強いのね…」
「…ん、あれ、出てた」
「あ、じゃあ、さっき」
美心が乳房でアカギを感じた時、体内で感じた熱いざわめきはやはり。
「美心さんずっと気持ち良かったから、わからなかったよ」
「アカギ君…」
この人の精を受けたんだと思うと、美心は振るえ出しそうだった。
「どうしたの」
「だって美心…こんなの初めてなの…」
アカギが美心から離れても、白濁した流れが美心の外部に流れる事はなかった。
彼はしっかりと彼女の奥へ注ぎ込んだのである。
「もっと、ちゃんとするかい?」
アカギの意外な提案だった。
「一度も二度も同じでしょ」
そう言って、アカギは美心に何度も注ぎ込もうとしている。
「駄目なの! 全然違うんだから!」
「なぜ」
「今のは、アカギ君に無理矢理、美心が奪われたって言っても良いけど」
(あらら)
「今度からは違うもの。アカギ君が何をしても、もう無理矢理じゃなくなったのっ。
だって美心、アカギ君の事…。そして美心はアカギ君の……アカギ君は美心の…」
「……」
「ごめんね、アカギ君にこんな話…」
「どんな話さ?」
「女の子が喋る、女の子らしい話よ。好きじゃないでしょ?」
「アハハ、結構鋭いじゃない美心さん。長々喋んないでくれればそれで良いよ」
「産む。アカギ君の子供出来たら、美心絶対に産む」
「なんだ、そう言う事か」
「なんだ、って…重大な事なんだ、ぞっ!」
「ふぅん。やっぱり美心さんの家、教えてよ」
「え?」
「俺の子供は産む相手の、家くらい知っても良いだろ」
眠たげな妖しい少年を連れた美心が、自宅へ帰って来た。
この少年を今、眠たくさせたのは自分のお○ただと思い返す度、美心は体の芯が熱くなって深く濡れる思いがした。
その、美心の自宅の前に、黒い眉毛が凛々しい、長髪の青年が居る。
その青年を見た美心は、咄嗟にアカギを自分の背で隠そうとした。
そんな美心に気付かず、黒髪の青年は坂崎邸の門を開けようとしている。
「お兄さんじゃあ、ないね」
アカギは青年の事をそう言った。坂崎の人間ではないだろうと。
「うん、ウチに居候してる人…」
「だから、俺を泊めさせられないわけだ」
そう言うと、アカギは美心の家に背を向けて歩き出した。
美心はその背に声も掛けられず、黙ってただ見詰めるしか出来ない。
「あれ?」
と、アカギと少し声の似た青年が、美心に気付いた。声は似ていても、喋り方はやはり別人である。
「おかえり」
「カイジ君…ただいま。あの…」
「ん?」
「あのね」
「なんだ。もう門限だけど大丈夫か?」
自分に初めて男の精を与えた13歳の男を偲び、美心は駆け出した。
走る美心のしなやかな足は止まり、出会った時と同じようにアカギ少年の傍らに立った。アカギは美心に言う。
「なるほど。そう言う事か」
「……」
「気にしてたのは、親父さんじゃなくて、あの男の方なんだろ」
「………」
「あんたの産む子だ。父親をどっちにしたいかはあんたが決めれば良い」
「アカギ、さん…」
「あいつを選ぶなら、眉の細い奴が産まれても上手く凌げよ」
ヒールを履いた美心より背が低い、13歳の少年は、美心とカイジを振り向かずに歩き出した。
少年は、土の方がずっと歩き易いと思いながら、アスファルトの上を一人で進む。
(一人で行くのは、好きな方だよ)
と、白髪の男が口の端で、少しだけ笑った。