「ハイライト・・・」
「はいはい」
タバコ屋の番をして数十年、その青年が現れたのは何の変哲もない平日の昼下がりだったか。
そばかすの友人を脇に、ふらりとやってきた男。
白髪に欧米人を思わせるくっきりした鼻やあご・・・・・・・・見た目だけでも十分に人目を引くが、
それ以上に彼独自の不可視な雰囲気が印象に残って、その晩床についても彼のことを
思い返したものだ。
ーふふふ、伊達に70年も生きてないよ。彼はきっと生死の修羅場を潜り抜けてきたんだろう・・・
ーでなければ、あのような雰囲気はまとえない
ー一昔前ならそういう輩もいなかったことないが、戦後、食うにも困らなくなったこの御時世に
ああいう男がいるとはねぇ・・・・・
くつくつと愉悦に浸って後はた、と思う。
そういえば、一人の男性を夜中に思ったのは夫が死んで以来だ。
別に特にやましい想いはない。相手は下手すれば半世紀も歳の離れた男。
婆から見れば鼻たれ小僧もいいとこなんだ・・・・・・・・
・・・・・・・そう、いま布団からでて隣の部屋にある遺影・・・・夫の顔をふいにのぞきたくなったのも
特に深い意味はない。・・・確か朝方、遺影の額縁に小さな傷があった。
あれが気になるのだ。白髪の男の幻惑を降りがたいがためとか、そんな理由ではない。
その夜、さゆりは亡き夫の顔をぼんやりと見続けた。
柔和な瞳に丸い輪郭、内面が外見を作るのか。心優しい、十数年寄り添って一度も拳を振り上げた
記憶もない出来た夫を。亡くなってからは心の一部である夫を。
ーおかしい。なんで哲さん、今日はくすんでみえるんだろう