接客の苦手な俺は、客の少ない深夜をメインにシフトを入れていた。
どのシフトに入れたって、借金取りに怯え、しかも店長に
目を付けられている俺にとっては、神経をすり減らして働くことに変わりは無いのだが。
しかし深夜にシフトを入れたことを、俺は今この瞬間、激しく後悔していた。
「あっ、あっ」
「西尾ちゃん、スゲーよ……最高だよ…」
出勤したばかりの俺は、制服に着替えようとコンビニの控え室のドアノブに
手を掛けたところで聞こえた、あからさまな声と音に固まってしまった。
西尾ちゃん、ってことは女は西尾で、相手の男は……この声、佐原か。
おいおいマジかよ……勘弁しろよ、こんなところで何やってんのコイツら……。
呆れ返るも、まさか今この控え室に入るわけにもいかず、俺はドアノブから手を離して引き返そうとした。
面倒なことに巻き込まれるのは御免だ。
ただでさえ、抱えきれない程の悪夢に悩まされているというのに……。
そんな風に考え事をしていたせいか、ドアノブから手を離す際にガチャッと音を立ててしまう。
あ、マズイッ……!!
猛烈に焦るも時既に遅し。
中の声がぴたりと止んで、「誰?」「確かめてくる」という会話……
それを理解する暇もなく間髪入れずに、こちらに足音が近づいてくる。
逃げる間もなく、ドアが開かれた。
全開ではなく、お互い顔が確認できる程度に開かれた扉の隙間から、
佐原が驚いた顔で俺を見ていた。俺だと確認するなり安堵の溜息をついている。
「やっぱり、カイジさんでしたか」
「おま………」
「いや〜マジ店長だったらどうしようかと思いましたよ!
ま、店長、今日は休むって言ってたからソレは無いんスけどー」
へらへらと笑う佐原。
その佐原の後ろに、服を乱して顔を赤くしている西尾が見える。
清純そうな西尾も、一皮剥けばソコらの女と一緒だったのかと思うと、
やっぱりと思う反面、どこか残念なような……。
「ね、カイジさんもどうっスか?」
「……あ?」
「だから〜、一緒に食べましょ〜よ。西尾ちゃんをっ……!」
何言ってんだよコイツ……。
キレ気味に佐原を睨み、「ざけんなっ……!」とフザケタ提案を一蹴する。
だが、それをまるで意に介さず、佐原は尚も馴れ馴れしい語りで俺の腕を掴み、
「ねっ!?」と引きずり込もうとしてきた。まるで客引き……!
「馬鹿っ……!お前らヤりたいモン同士でヤってりゃいいだろうがっ……!
大体、西尾の気持ちも確かめねぇで何が一緒に…だっ……!さえずるなっ!!」
佐原を振り払い、怒鳴りつける。
だが俺はそれ以上、二の句がつげなかった。
西尾が乱れた着衣を更に肌蹴けさせ……まるで大福のように、
白くたわわに実った乳房を見せ付けていたからだ。
「嫌じゃないよ、カイジ君のこと……。
カイジ君っ…!一緒に食べませ〜〜んっ……?」
接客用のスマイルとは明らかに違う、淫靡さを持つ微笑み……。
俺は引き込まれるように控え室に入り、後ろ手に扉を閉めたのだった。