自分がどんな事をされるのか、本気で解っているとは到底思えない。  
バカ婦警共のアホな基準を鵜呑にしている時点で、解り切っていた事だ。  
少し年長者からの戒めの意味で脅かしてやろう、そんな考えだった。  
いくらこのお嬢様が度を越した世間知らずだとしても、直接行動に出れば解る、  
そう思っていた。  
しかし、このお嬢様は俺の予想を遥かに越えた、超弩級天然記念の箱入り娘だった…。  
 
 
「あのぅ…布引さん…ちょっと、よろしいでしょうか?」  
署を出ようとした所で、そう神戸に呼び止められた。  
「あ?」  
「ちょっと…お話がありまして…お時間頂けませんでしょうか?」  
「あぁ…構わねぇけど」  
思い詰めたような、いつになく緊張した面持ちな神戸に、二つ返事をしてやる。  
何か、やっかい事があるのだろうか?  
「よかったぁ!…では、参りましょう」  
「あぁ? 参るって…?」  
承諾の返事に途端に笑顔になった神戸はそう言うと、有無を言わさず車に押し込むと  
行き先も告げずに人を連行しやがった。  
 
「ったく…こんな所まできて、一体何の話しなんだ?」  
連れて来られた先は、高級ホテルのスイートルーム。  
目の前に立つ神戸は、酷く緊張している。  
「はい、実は…布引さんにお願いがあるんです」  
「お願い?」  
とりあえず、今抱えている事件は無い。神戸の頼みなど心当たりもなく、首を捻る。  
しかし神戸は、こちらの疑問などお構い無しに、いつものマイペースさで爆弾を投下した。  
「私を…だ、抱いて下さい!!」  
核級の爆弾が投げ込まれた瞬間、頭は真っ白になり二の句が告げない。  
そしてそれが脳内で炸裂すると、あまりの事に上手く言葉が見つからない、  
という何とも間抜けな状態に陥った。  
「………はぁぁぁっ!? お前何言って…」  
「私、殿方と、…その、…け、経験がないんですぅ!!」  
必死に言い募る神戸の更なる言葉に、倒れそうになるのをぐっと堪える。  
「はっ!?…そ、それと何の関係が…」  
そう、そんな事は聞いちゃいない。  
何でそんな話しを、よりによって俺にするんだ!?  
脳内の混乱は、未だ回復する兆しを見せない。  
「純子さんと裕美さんがお話しているのを、たまたま立ち聞きしてしまって…  
 殿方は経験のない女性がお嫌いだとか…  
 ですから、経験したいんです!」  
「…お、お前……」  
「こんな事頼めるのは、布引さんしかいないんです!」  
「お願いします!!」  
一気に言い切って深深と頭を下げた神戸を見下ろしていると、今までの混乱が嘘のように  
納まり、何とも言えない複雑な気持ちになった。  
年頃の娘が、こんなんでいいのか?と思う。  
確かに性に乱れて節操がない方が困り者だが、これだけの箱入りでは  
いつ悪い男に騙され酷い目にあわされるかもしれない。  
「……はーっ…」  
大袈裟に吐いた溜息に、びくりと肩を震わせおずおずと見上げてくる神戸。  
これは親心、というヤツなのかも知れない。  
「………後悔…しないな?」  
ギロリと見据えてそう言うと、唇を引き結んで真っ直ぐ見返して神戸は頷いた。  
 
 
「…で、どこまで知ってんだ?」  
まさかとは思い、そう聞いてみる。  
こんな事を言ってくる位だから、知識はそこそこあるんだろう。  
どんな知識があるんだか、興味があった。それだけの軽い質問だった筈が。  
「ええと…どこまでとは?」  
きょとんとして首を傾げる神戸。  
その反応に長年の刑事としての勘が鋭く働き、嫌な予感が背筋を駆け上がる。  
「お前…何されんだか、解ってんのか?」  
「え?…はい…そのぅ…キ、キス…するんですよね  
 えっと…それで…その後、だ、抱き締められるんですよね」  
神戸は手を胸の辺りで組んで顔を赤らめ、きゃっ言ってしまいました〜などと言っている。  
 
嫌な予感的中だ。『抱く・抱かれる』の意味がまるで解っちゃいねぇ。  
今時小学生でも知っている知識が、コイツには無い。  
俺に性教育でもしろって言うんだろうか?  
 
「はぁぁぁ……」  
思いっきり脱力した俺に気付いた神戸は、心配そうに覗き込んでくる。  
「ぬ、布引さん!? どうしたんですか!?」  
どうしたもこうしたもあるか。  
「どこかお悪いんですか!?」  
お前が悪い。お前の所為だ。  
「……お前…」  
「はい?」  
「お前、本当に抱かれたいのか?経験したいのか?」  
「はい!」  
いい返事だが、根本的に解ってないんだよ。  
「後悔…するぞ」  
「…しません!」  
するに決まってる。  
「あのな、お前は間違ってんだよ  
 キスして抱き締められりゃあ、それで終りって思ってんだろ?」  
又もや、きょとんと首を傾げる神戸。  
こっちも自棄だ。はっきり言やぁこのお嬢様も解るだろう。  
「セックスっつーのは寧ろそっからが本番で…  
 まぁ何だ、その後色々してだなぁ、要は、女のアソコに男のナニ挿れるんだよ」  
「あそこ?? なに???」  
折角ぼやかしてやったのに、解れ。  
「マンコとチンポのことだよ」  
「え? え?………えええぇぇぇぇええ!?」  
絶叫した神戸の顔は、可哀相な位真っ赤だ。  
まぁこれで、このお嬢様も解っただろう。あー、疲れた。  
「解っただろ?解ったんなら帰るぞ」  
俯いて返事をしない神戸。刺激が強過ぎたのだろうか?  
「おい?…その、悪かったな…これに懲りたら…」  
そこまで言った時、神戸は伏せていた顔を勢いよく上げると、再び核級の爆弾を  
投げ込んだ。  
「解りました! 布引さん! 私とセックスして下さい!!」  
 
「お前……」  
神戸の勢いに危うく飲まれてしまいそうになるが、既で耐える。  
「よく考えろよ…セックスっつたら裸になんだぞ?  
 俺に胸やアソコを見られるんだぞ?  
 そんなことが、お前出来んのか?」  
頼むからちゃんと考えてくれ。思いつきや勢いで、やっていいもんじゃねぇだろ?  
「はっ…恥かしいです…」  
「そうだろ? だったら…」  
「でもっ! 布引さんだったら、…出来ます!」  
 
「……………」  
今、何か、コイツ、変な言い回ししなかったか?  
 
「お前…見られるだけじゃなく、触ったりすんだぞ!?」  
「は、はい! 大丈夫です!」  
「お前……」  
何が大丈夫なんだろうか?  
訳が解らなくなってきやがった。少なくとも、俺は大丈夫じゃない。  
 
黙り込んでしまった俺に、ぐっと神戸が迫ってくる。  
「お願いします!  
 こんな事をお願い出来るのは、布引さんしかいないんです!」  
キラキラキラキラ…  
そんな効果音が聞こえてくる…ような気までしてきやがった。  
 
「…脱げ」  
「え?」  
もういい。コイツのペースに巻き込まれるぐらいなら、俺のペースでやってやる。  
「やるんだろ、セックス  
 …お前のその服、高そうだしよ、脱がせんの面倒くさそうだから  
 自分で脱いで、ちゃんと皺になんねぇように置いとけ」  
言っても解らないんなら、実行あるのみだ。  
適当な所までやれば、コイツだって嫌だって解るだろう。  
それまで、付き合ってやる。  
そう自棄な気分で、上着を脱いでシャツの袖を捲った。  
「あのぅ…全部、脱ぐんでしょうか?」  
「あぁ? あー…脱いどけ」  
「は、はい…」  
怖気付くかと思った神戸は、言われた通りに黙々と脱ぎ始めている。  
 
明かりを付けっぱなしの部屋は、顔を真っ赤にさせて着々と脱いでいく神戸の姿を  
はっきりと見せている。  
下着姿になった神戸の肌は驚く程白く、ほんのりと桜色に染まっていた。  
「あ…あのぅ…」  
「あ?」  
まじまじと見ていた俺に、神戸は少し怨めしそうな視線を送ってきた。  
「布引さんは…脱がないんですか?」  
「あぁ?…俺はいいんだよ」  
「ズルイです…」  
睨みつけているんだろうが、赤らめた目許じゃあ流し目を送っているようにしか見えない。  
「わかったよ、脱ぎゃあいいんだろ」  
取敢えずシャツを脱いで、上半身だけ裸になる。  
「…………何だよ」  
「え!?…あ…いえっ…」  
何で俺の上半身の裸見て、真っ赤になって目を反らすんだよ!?  
つくづく訳が解らんお嬢様だ。  
「もういいから、こっち来い」  
まだ顔を真っ赤にさせ俯いている神戸をベッドに呼ぶと、押し倒した。  
「ひゃ!…あぁっ!!」  
そのまま首筋に舌を這わせ舐め上げると、神戸は大袈裟なほど身体を跳ね上げる。  
 
「あっ! あのぅ! ちょっ…ちょっと、よろしでしょうか!!」  
ほらきた。  
「あぁん? 何だよ?」  
よくここまで我慢したもんだ。大した根性だよ。  
これに懲りたら簡単に、抱いて下さい、なんて言うんじゃねぇぞ。  
まぁ何だ、ここまでは授業料って事で、とっとと忘れ…  
「キ、キスは、しないんでしょうか?」  
「あ?」  
ここで嫌がって、やめてくれって言うんじゃ…  
「キスです…キスしてから、そのぅ、色々と…するんじゃないんですか?」  
ちょっと待て。コイツまだ続ける気なのか!?  
「いや…お前、その、何だ…」  
「キスして下さい」  
 
…この茶番に、まだ付き合わなきゃなんねぇのか。  
「布引さん?」  
「いいんだよ、そういうのは本気のセックスん時にしか、しねぇんだよ」  
「私は本気です!」  
またキラキラキラキラ…と効果音が聞こえてくる、ような気がする。  
「あーはいはい、お前の真剣さは認めるけどな、そういう本気つー意味じゃなくてだな、  
 要は惚れた相手とする時に、取っとけっつってんだよ」  
「ですから、私は真剣にっ…」  
解った解った。こんな事、巫山戯てやってたらブッ殺すつーの。  
「もういいから…続けるぞ」  
もう少し事を進めりゃあ、いい加減コイツも解んだろ。  
 
「え?…ひゃあ!」  
ブラジャーの上から、意外に大きい乳房を揉んだ。  
邪魔なブラジャーを外そうと、背中に手を潜らせ探すが、目当てのものが無い。  
「…あぁ、フロントホックってヤツか」  
手を引き抜き何気に目線を上げると、神戸が俺を睨んでいた。  
ほれみろ、やっぱり嫌なんじゃねぇか。  
「…… 止めるか?」  
「違いますぅ…」  
「じゃ、何だ?」  
睨まれる理由が解らねぇ。  
「布引さん…女性の下着に、お詳しいんですね」  
「はぁ? 別に詳しかねぇよ」  
「…………」  
「だから何なんだよ、お前は…  
 はっきり言え、嫌なら止めるっつてんだろ?」  
何なんだ、一体?  
「嫌だなんて、言ってません!」  
 
…まさか………  
「お前なぁ…俺にムードなんて求めても無駄だっつーの」  
俺に求める方が間違ってるっつーの。  
「ち、違いま…ひあっ!」  
「グダグダ言ってねぇで、集中しろっつんだ」  
まだ何か言いたげな神戸の、ブラジャーのホックを無視して外すと、  
案外大きかった乳房が零れた。  
―続く―  
次あたりからエロに入れたらいいな…orz  
 

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