1:深夜・カルシファー  
 
 その夜、月光が静かに照らす美しい湖のほとりで、空飛ぶ城は魔力の羽を休めていた。  
 昼間は住人たちの笑い声で賑わうリビングも今は静まり、竃を兼ねた暖炉の中で黒く炭化した薪のみが微かに  
音を立てている。城の住人たちが「おやすみなさい」の挨拶とともに、それぞれの寝室へひき払ってからしばら  
くの時間が経っていた。  
 ふいに、暖炉の中の黒い薪の塊が、ぼうっと音を立てた。まるで勢いよく空気を送られたかのように、赫々と  
燃えあがる。その暖炉をお気に入りの場所としているものの存在を知らなければ、不可思議な光景であったろう。  
 炭の中から身を起こした火の悪魔・カルシファーは、妙に人間くさい表情で、眠そうにゆらゆら揺らめいた。  
(何か、来る……)  
 ぼんやりとした表情のまま、悪魔はこちらにせまる魔力の気配を探った。  
 魔力の塊。強くはない。媒介もなしに放たれた純粋な呪の塊。余程の魔法使いが関与してるはずなのに、こん  
なに弱くなっているのは、多分、最初に狙った魔法使いに弾き返されたんだな。こちらに向かってきたのは、  
『魔法使い』に引かれてきたから。当たったところで、もはや死ぬようなものではない。  
(ま、ハウルなら大丈夫だろう……おいらが手を出すまでもない)  
 昼間、遠くまで散歩に出掛けたために疲れていた火の悪魔は、そう結論づけて眠りなおすことに決めた。炎の  
腕を長く伸ばして、新しい薪を引き寄せると、それに抱きついて、目を閉じる。そのまま、迫り来る魔力の塊が  
消えるのを待った。  
 ――しかし。  
 
 魔力の塊は消えずに、壁をすりぬけた。  
『ハウル?!』  
 そして、一瞬だけ煌くように強い力を発すると、すうっと消えた。  
 
(どうしよう……)  
 カルシファーは薪に抱きついたり離れたりしながら、おろおろと階段の上を覗った。今に何か騒ぎが起きるの  
ではと思うと、到底、寝直す気にはなれなかった。はらはらしながらしばらく待ってみる。しかし、誰かが起き  
だしてくる様子はなかった。  
(大丈夫…だったのかなあ?)  
 そこには、何事もなかったかのような静かな夜があるばかり。  
 
2:明け方・マルクル  
 
 何か聞こえたような気がして、目が覚めた。首を廻らして見ると、カーテンの隙間が蒼かった。夜は終わりつ  
つあったが、目覚めるべき時間までは充分に余裕があるようだった。  
 だから、マルクルは自分が何か夢を見たのだと思った。夢ではないと気付いたのは、廊下の方から、大きな音  
が聞こえたから。  
 バタン!と乱暴にドアを開ける音と、女の人の泣き叫ぶような声。それから人の足音が、一人分。続いて、も  
う一人分。  
 マルクルは、慌てて身を起こした。この家に若い女は一人だけ。ドアに駆け寄りノブを掴もうと腕を伸ばした。  
「ソフィー!」  
 ドタン!  
 声を上げた途端、ドア板が大きな音を立てた。押し開けようとしたドアはびくともしない。誰かが廊下側から  
押さえつけているようだった。  
「マルクルかい?」  
 廊下の向こうから声が掛かった。その声は師匠のもの。少々上擦った声だった。彼がこんな声を出す時は必ず、  
とある一人の少女の存在が関わっている。  
「ハウルさん!どう……」  
 ガタガタッとドアの向こうで何かが暴れるような音がした。声は聞こえ続けている。言葉にならないその声は、  
泣いているようにも怒っているようにも聞こえる。次いで、ハウルが声の主に落ちつくように言っているのが聞  
こえた。  
 
「ハウルさん!ソフィー?!一体……」  
「いいかい、マルクル!ぼくがいいと言うまで、そこにいるんだ。決してそこから出てきてはいけないよ!」  
 もし出てきたら、今日からきみはカエルだ。  
 師の言葉に、マルクルはパッとドアから飛び退いた。ドアの向こうから、ハウルの声が聞こえる。何を言って  
いるのかは聞き取れなかったが、師の声の低く柔らかい語調だけは聞きとることができた。冷たくなった心臓と、  
ドキドキするその鼓動を意識しながらマルクルはそっとドアに近寄った。耳をドアに押し当てる。火の悪魔にお  
湯を頼み、ソフィーに湯を使うように促すハウルの声が聞こえたが、ソフィーがどうしてあんなに混乱したよう  
な声を出したのかは、わからなかった。  
 キィ、パタンとどこかの部屋のドアを開閉する音が数回した。廊下を往復する人の気配。  
 やがて、ドアの外は静かになり、代わりにシャワーを使う水音が聞こえてきた。  
 何があったかはわからないが、とりあえず師は彼女を落ちつかせることに成功したらしい。そう思って、マル  
クルはほっ…とため息をついて、身体の緊張を解いた。  
 
3:夜更け・サリマン  
 
 マダム・サリマンはふと、その眼を開けた。  
 肘掛椅子に座り、書類を広げたまま目を瞑って考え事をしていた彼女は、今は自室に居た。  
 趣味のよい調度がゆったりと配置されたその部屋の豪奢さと、執務室とは別に寝室つきのその部屋が王宮内に  
設えられているという事実が、国王の彼女への信の厚さを示している。その室内には、サリマンの政治的な価値  
を示すかのように、たくさんの蝋燭が明るく灯されていた。それは、長いわりには実りのない会議を終えて部屋  
に戻ってきた彼女のために、小姓たちが灯したものだ。彼らはもう退出していたが、そのうちの一人が淹れたお  
茶はまだ温かかった。  
 椅子に座るサリマンの片方の手は、肘をついて顔を支えるために使われていたが、もう片方の手ではしっかり  
と杖を掴んでいる。サリマンは、その杖を確かめるように掴み直した。  
 何かが彼女に向かってぐんぐんせまって来る。  
 強い魔力。それは魔法使いの命を絶つために、産み出された呪。おそらく、それなりの力を持つ魔法使いが手  
間と時間を掛けて仕込んだものだろう。  
 が、老獪な魔女は少しも慌てた素振は見せなかった。その地位について以来、こういったことは何度もあった。  
いちいち大騒ぎするのも馬鹿馬鹿しいほどに。  
 彼女は顔色一つ変えぬままに、ゆっくりと杖を振り上げ――そして無造作に振り下ろす。無造作でありながら  
も、優雅な仕草であった。  
 
 魔力は、王宮に到達する直前に弾けた。力の大部分はそのまま霧消した。  
 
「――嫌だわ」  
 サリマンは不機嫌そうに眉を顰めた。自分を狙った魔力の大部分は消えたが、小さな欠片が消えずに、何処か  
に飛び去ったのだ。力に溢れた若い時分なら欠片も残さずに消せたのに。  
 サリマンは、ふっと小さく息を吐くと、眼を閉じて欠片たちの行方を辿った。  
 幾つかに分かれた欠片は、最初の目標どおり『魔法使い』を目指して飛んで行く。しかし、その先には彼女と  
は関係のない別の魔法使いたちがいるだけである。  
 死をもたらすはずの呪は、小さくなったことで弱くなっていた。もう、どこかの誰かのもとに届いても、運の  
悪い受け取り人を殺傷することはないだろう。他者の魔力で強引に弾かれたからには、別の形で何らかの作用を  
及ぼすことはあるけれども。  
 サリマンは、欠片たちをの行方を意識で追いながら、これから『事故』に遭う魔法使いたちに、欠片がどんな  
作用を及ぼすかを予想した。  
(石化…。変身…)  
 彼女なら解呪は簡単にできる。そのことは、自分で解呪できない魔法使いや、その周囲の者を相手に取引の材  
料にできる。  
(失声……。失明……。昏睡……)  
 普通の家系に魔力を持って生まれた突然変異の子どもが見つかるかもしれない。ならば、慈悲深い態度で無条  
件に解いてやろう。それで本人や、家族ぐるみ土地ぐるみの尊敬を買うのもいいだろう。  
(……記憶、喪失……)  
 老魔女は、口元にうっすらと笑みを刷いた。  
 
4:真夜中・ソフィー  
 
 何かが、おきた。喘ぐ呼吸を整えつつ、ぼんやりとした頭で、しかしソフィーはそれに気付いた。  
 はしたなくも大きくあげてしまった声の感触が、喉の奥に残っている。さっきまでの緊張の反動であるかのよ  
うに極端に脱力した身体は、余韻をまだ充分に残していた。裸の肌に触れる他人の肌の感触が途方もなく心地よ  
い。身体の内には、彼女を甘く乱れ狂わせたものがまだ収められたままであった。  
 このまま愛しい肌に寄り添ってまどろみ、夜が明けるまで二人、溶け合ったまま過ごしたい。そうしてはいけ  
ない理由はないはずだった。彼は、彼女の愛しい人なのだから。――しかし。  
 夢見心地に酔いながら、愛しい彼の名を呼ぼうとして、それに気付いた。  
(わからない……)  
 彼が、誰なのかがわからなくなってしまったのだ。  
 彼が何者であるのかは、わかっていた。自分の恋した人。何よりも愛しい人。代え難く大切な人。その腕に抱  
き込まれただけで、幸せに蕩けてしまうであろう自分をソフィーは知っていた。  
(どうしよう、わたし……)  
 自分が何処の誰かはわかる。帽子屋の娘。ソフィー・ハッター。しかし、その自分が、彼といつどこでどんな  
出会いを果たし、どうやって今の二人を築いたのかが、まったくわからなくなっていた。これから一生、大事に  
胸に抱えて生きていくはずだった愛しい記憶が。  
(わたし、この人の名前もわからない…)  
 絶句したソフィーの身体の上で、彼女にのしかかっていた彼がゆっくりと身を起こした。彼のあまりに整った  
顔立ちにソフィーは驚きを覚えながらも、混乱する気持ちをどうにか押さえこんだ。呼吸が触れ合うような距離  
で、二人はしばらく見詰め合った。  
 彼の艶やかな黒髪が、さらりと顔に落ちかかる。見開いた青い瞳は驚きを示していて、ソフィーは、彼も自分  
と同じ状態なのだと思った。  
 
「あの……」  
 とりあえず何か言わなくてはと彼女が声を出した時、ふいに、彼の手が動いた。ソフィーの頬に掌を当てる。  
彼女は思わず身じろいだ。  
「星の色だ……」  
 うっとりと呟き、彼の指がソフィーの髪の中に差込まれる。  
「きみは、……ソフィー?」  
 心地のいい声で、彼は尋ねた。甘く、低い、囁き声。戸惑いながらも彼女が肯いて見せると、彼はパッと微笑  
んだ。  
「出会えたんだ!きみに!――ああ……胸がドキドキする……」  
 子どもみたいな表情で笑う彼に、ソフィーは何だか微笑ましい気持ちになった。ほっと身体の力が抜けた。力  
が抜けたことで、いつのまにか緊張していたことに気付いた。  
 彼があまりにきれいな顔をしていたから、警戒してしまっていたのだろう。もう少しだけこのままでいて、落  
ち着いたら、今の自分の状態について話さなければ。  
 彼は微笑んでソフィーの髪を撫でた。その指先はあくまでも優しく、ソフィーを安心させた。不意に、その優  
美な指が彼女の髪を掬い上る。彼は優雅な仕種でその掬い上げた髪に口づけた。――そして。  
「……え?」  
 自分の髪の色に違和感を覚えたソフィーが、自分で自分の髪を確かめようとしたとき。身体に再び彼の重みを  
感じた。のしかかられている。  
「え?」  
 耳朶に柔らかい何かを感じる。それから、彼の吐息を。  
「えっ……あっ、ちょっ……待っ……!」  
 肌が粟立つ。暖かくて、ちょっと冷たい手が、肌の上を滑る。  
「あっ……。――やぁっ……んんっ」  
 熱い吐息が唇の上に重なる。そのまま熱を注ぎ込むように、貪られた。ソフィーの中に収められたままのもの  
が、いつのまにか硬く存在を主張している。  
 ――さっきまで、あんなに無邪気な顔で笑ってた人が、今は。  
 
 そして彼女はろくに抵抗もできないまま、すべて彼の思うがままに。  
 
5:朝・元荒地の魔女  
 
 暖炉前のソファーにゆったりと腰を降ろし、老婆は紅茶の入ったカップを取り上げた。カップに満ちた液体は  
深く澄んだ美しい色をしている。首を小さく振りながら香りを楽しんでから、ゆっくりと紅茶を口に含んだ。  
(お茶の味はいつもどおりなんだけどねぇ)  
 それを『家族』のために用意したのはソフィーである。  
 彼女はここ数か月分の出来事を思い出せなくなってしまったそうだ(時間の経過の感覚はあるらしい)。しかし、  
『家族』と顔を合わせて数時間後、なんとか気を取り直し、くるくると立ち働いて家事をこなす姿は、すっかり  
『いつものソフィー』であった。時折不安げな様子は見せるものの、元々芯のしっかりした娘である。元魔女は、  
夜中と明け方の騒ぎをベッドの中で伺いながら、今日は暖かい朝食は諦めなければならないかもしれないねぇ、と  
思っていたというのに。ソフィーの順応性の高さは、短所でもあり長所でもある。  
「カルシファー、お砂糖はどこに置いてあるのかしら?」  
「そこの棚の真ん中あたりだよ」  
 朗らかな声で尋ねたソフィーに合わせて、カルシファーが陽気に答える。ソフィーが振り返るよりも先に、棚  
に手を伸ばしたのはハウルだった。  
「はい、ソフィー」  
 小さな瓶を取り上げると、笑顔でソフィーに渡す。  
「――あ、ありがとう……ハウル」  
 いつもならにっこりと笑みを返すはずの彼女は、ハウルの顔から目を逸らしながらぎこちなく瓶を受け取った。  
そのままくるりと身を翻して、ダイニングテーブルの方へ歩き去る。  
 ハウルはそんな彼女を笑顔のまま見つめていた。  
「おい、ハウル。いいのかよ」  
「何がだい?カルシファー」  
 ソフィーを憚るように声を潜めて問い掛けたカルシファーに対し、ハウルはぞんざいに聞き返した。老婆は目  
を細めてにこにこと微笑みながら、魔法使いと火の悪魔の会話に抜け目なく耳を欹てた。この魔法使いもソフィー  
と同じく、数ヶ月分の記憶を無くしてしまったそうだが、元荒地の魔女と知ってなお、老婆が自分の城に住んで  
いることをすんなり受け入れるあたり、懐の広さと順応性に関してはソフィーといい勝負である。  
 
「ソフィーだよ。お前もだけどさ。記憶、戻さなくていいのか?」  
 ハウルはソフィーを見つめたまま、どこか暢気な様子でうーん、と唸った。  
「明け方に目が覚めたとき解こうとしたんだけどね、解けないんだ。呪を受けた時と条件を同じにする必要があ  
るんだと思う」  
 二人で一緒に受けた呪だから、解く時も一緒になってないと。  
「……なんか、楽しそうだよな、お前。真剣みがないっていうかさ……」  
 カルシファーの言葉にハウルは、髪をふわりと舞わせながら振り返った。無駄に派手な動作だった。目を見開  
いて、とんでもない!とでも言いたげな表情をする。  
「そんなことはないさ!記憶は取り戻したいよ。だって勿体無いじゃないか!」  
 どんな風にぼくたちが出逢えたのかとか、どんな風に愛を深めたのかとか全然覚えていないなんて。その間だ  
ってソフィーはずーっと素敵だったはずなのに。ぼくの中のソフィーの記憶が一片でも減るなんて許せないよ!  
「そうさぼくは今、初めての夜のことも思い出せないんだ!」  
 ハウルが大声でそう言った途端、その場がシーンと静まり返った。突然凍りついた空気にマルクルがきょろ、  
と周りを見回す。  
 老婆はちらりと横目でソフィーを伺った。よりによってそんなことを大声で言ってしまったハウルに内心では  
笑っていたが、実際に笑い出さなかったのはソフィーを気遣ってのことである。  
 ソフィーは紅茶のカップをソーサーに乗せて持ったまま、真っ赤になって硬直していた。十数秒後、思い出し  
たように大きく息を吸い込み、慎重な手つきでカップとソーサーをテーブルの上に置いた。それから、  
「ハウルのバカ!だいっ嫌い!!」  
 思いきり大きな声で叫ぶと、足音も荒く、階段駆け上って行った。  
「ソフィー!!」  
 魔法使いは彼女の名を呼んで後を追いかけて行った。パタンとドアの閉まる音が聞こえると、階下にはもう物  
音は聞こえなくなった。彼らを追いかけるように、階段に駆け寄った犬のヒンが、階段を上れず、困ったように  
大きな耳をぱたつかせた。そしてくるりと身を返すと、今度は元魔女の足元に駆け寄る。膝下に短い前足を掛け、  
膝の上に何かを置くと、掠れ声で一声鳴いた。  
 
 遊んでおいでと、マルクルとヒンを中庭に追い出すと、元魔女は膝の上から手鏡を取り上げた。さっきヒンが  
置いていったものである。カルシファーは、昨日の今日だし城の周りを見回ってくる、と言い置いて煙突から外  
へ出て行った。その場に残っているのは、元魔女一人であった。  
「デバガメかい?野暮な真似はお止しよ」  
 元魔女は手鏡に向って、からかうように語りかけた。鏡には元魔女ではなく、身なりのいい上品な老婆が映っている。  
「あれくらいの呪が防げないなんて、なんて情けない」  
 憮然としていてもどこか悠然とした態度は崩さずに、マダム・サリマンは呟いた。  
「仕方ないさ。ハウルは若いし、ソフィーは可愛いからね」  
 鏡の向こうの魔女に向って、鏡を覗き込んだ元魔女はヒッヒッと笑い声を上げながら続けた。  
「それに最初にアレを消し損ねたのはあんたじゃないのかい?」  
 笑いながらも切り込んできた元魔女に、現役の魔女は穏やかな笑みを浮かべて見せた。  
「まあいいでしょう。かかってしまったものは仕方ありません。どうせそのうちハウルが自分で解くんでしょう  
し。ただ、その前に」  
 魔法使いだけにかかる筈の呪が、彼女にもかかってしまった理由が知りたいわ。  
 胸中に抱えた何かを抜け目なく隠すような口調で、マダム・サリマンは言った。笑顔は崩さないが、瞳は笑っ  
ていなかった。――が。  
 
「ああもう本当に、あんたときたら、魔女のくせに野暮だねえ!」  
 そんなことも分からないのかい!と元魔女は大げさな口調でわざとらしく呆れて見せた。  
「あなたには分かっていると?」  
「当たり前さ。アレは確かに魔法使いに引かれてきた。ハウルにね。ただしあの時あの二人はね――」  
 元魔女はそこで一旦言葉を切って、にやりと笑った。  
 
「――溶け合ってたのさ」  
 身も、心もね。  
 
 うらやましいねえ、と婀娜っぽく笑う元魔女の言葉に、鏡の向こうで魔女は絶句した。そんなマダム・サリマ  
ンの珍しい様子を目にした元魔女は、上機嫌で笑い続けた。  
(だからね、サリマン。あんたの構うこっちゃないよ。放って置いておやり)  
 そして元魔女は、笑い続けたまま手鏡をテーブルの上に伏せた。  
 
 
 ハウルが、すっかりつむじを曲げてしまったソフィーをなんとか説得し、口説き落として泣き落として、呪を  
解くことに『協力する』承諾を得るのは、それから数週間後の話。  
 
 
 

テレワークならECナビ Yahoo 楽天 LINEがデータ消費ゼロで月額500円〜!
無料ホームページ 無料のクレジットカード 海外格安航空券 海外旅行保険が無料! 海外ホテル