「ねぇ、ソフィー。今夜の月は綺麗だね。」  
そう言ったのは動く城の主・ハウル。お茶を飲みながら、すぐ隣で夕食の洗い物をしているソフィーに相手をしてもらおうと先程から話し掛けているのだ。  
ソフィーはにっこり笑いながら、  
「ええ、そうね。でも、今夜は星は綺麗ではないみたいよ。」  
それを聞くと、ハウルは急にうなだれて、嘆き始めた。  
「どうせ、ソフィーは僕のことなんかどうでもよくなっちゃったんだ。」  
ソフィーは洗い物の手を止めて、  
「そんなことないわ、ハウル。でも、今日は…」  
「いいさ、分かってるよ。でも、いつもの約束は守ってくれるよね」  
「っええ?! それはおやすみ前の約束でしょ!それにまだ皆、そこのテーブルにいるのよ?」  
その言葉を聞いて、テーブルについてミルクを飲んでいたマルクルはきょとんとソフィーの方を見た。  
「どうしたの?ソフィー。」  
ソフィーは慌てて言った。  
「な、何でもないのよ、マルクル。」  
マルクルは不思議そうな顔をしたが、そう、と突っ込んでは聞かなかった。  
 
ハウルはその様子を面白そうに見ながら、先程の話を切り出す。  
「ソフィー、約束は?」  
じっと見つめてくるハウルと目を合わせられないでいると、  
「いいじゃない。僕はこれからちょっと出掛けるから、帰る頃には皆寝ちゃってるし…ソフィーが相手をしてくれるなら、出掛けないんだけどね。」  
と告げられた。  
驚いて目を合わすと、ハウルが茶目っ気たっぷりにウインクをし、ソフィーはぼんっと顔を真っ赤にさせた。  
「分かったわ。えっと、じゃあ…」  
「うん」  
ソフィーは目をさまよわせながら  
「あ…愛してるわ、ハウル。」  
と、ハウルの頬に口付けた。  
当然テーブルについていた元・荒地の魔女はにやにや笑うと「お熱いねぇ。若いっていいわね〜」と冷やかした。  
ハウルも一瞬にやりと笑ったが、すぐに真摯な表情を浮かべる。「マダムもまだまだお若いですよ。では、ちょっと行ってきます。」  
そしていってらっしゃいも聞かずにそのまま、玄関のドアから出ていってしまった。  
「ちぇっ。いちゃいちゃするのはベッドの中でだけにしろよな〜。」  
今まで静かに見ていたカルシファーがハウルの後ろ姿に悪態を吐いた。  
 
カルシファーの突拍子もない発言にソフィーの顔がまた赤色に染まる。  
マルクルは素知らぬ振りでミルクを飲み終わらせ、ソフィーにカップを洗ってもらおうと席を立った。  
「ソフィー、これも洗ってもらってもいい?」  
ソフィーは頷きながら、そのカップを受け取る。それを見ながら、マルクルは自分の疑問をぶつけてみることにした。  
「ところで、今日は月も星も綺麗に出ているのに、さっきはなんで『今夜の星は綺麗じゃない』て言ったの?」  
ソフィーは驚いて、貰ったカップを取り落としそうになった。  
「あら、本当だわ。星も綺麗に出ているみたいね。私、ぼーっとしてたのかしら。」  
慌てて取り繕うと、案の定マルクルは怪訝な顔をした。元・魔女はまたにやにやしながら、  
「マルクル、ソフィーは疲れているんだよ。お茶でも入れておやり。」  
と助け船を出す。  
マルクルは一応、納得したようですぐにお茶を入れ、テーブルに置いた。  
「ソフィー、後は僕が洗うから、休んでて」  
マルクルは、腕まくりをしながらソフィーを椅子に座らせると台の上に乗って洗い物をし始めた。  
 
「悪いわね、マルクル。」そう言いながら、ソフィーはほっと安心したようなため息をついた。  
(言えるわけないのよ。皆に分からないようにするためにああ言うようにしたんだもの)  
そう、冒頭の二人のやり取りはある特別な意味合いを含んでいたのだ。  
すなわち、ハウルの『今夜の月は綺麗だね。』は【今夜、一緒に寝ない?】を意味しており、ソフィーがOKなら『月も綺麗だけど、星も綺麗よ』と言い、駄目なら先程のように、『今夜は星は綺麗ではないみたいよ。』と言うようになっていたのだ。  
前回(一週間ほど前だろうか)、一緒に眠った明け方にそうソフィーが決めたのだ。  
ハウルに積極的に迫られるとどうしても厭と言えないソフィーがどうにかして断わる術を持とうと考えた結果だった。  
どうやら、今の所その目論みは当たっているらしい。  
「ああ、お茶が美味しいわ。」  
ハウルには悪いけど、今夜もぐっすり眠れそうだわとうっすら微笑んだ。  
そうしていると、元・魔女がどこから出したのか、桃色の飴玉のようなものを渡そうとしてきた。  
「おばあちゃん、どうしたの、これ?」  
「今日、街にちょっと行ったときに、よく働くソフィーにと思って買ってきたのよ。疲れやストレスを晴らす作用があるらしいから、おあがり。」  
元・魔女からの思いがけないプレゼントに頬を緩ませながら、ありがとうと礼を言った。  
 
だが早速、ソフィーが食べようとすると、元・魔女は慌てたようにそれを止めた。  
「その飴は、夜寝る前に舐める方がいいんだよ。」  
「そうなの?でも寝る前に甘いものは…。」  
ソフィーが困った顔をすると、元・魔女は丸まった背を伸ばすように胸を張り、大丈夫と言い放った。  
「それは飴というより、薬みたいなものだからね。言う通りにした方がいいよ。」  
ソフィーが苦笑しながら分かったわと頷くと元・魔女は満足そうに笑った。  
洗い物が終わったマルクルに黄色い飴を渡している元・魔女を見ながら、ソフィーは改めて、今の生活の幸せさを噛み締めた。  
 
 
──これから、起こる恐ろしいことに全く気が付きもしないで……  
 
そう、伏兵とは思わぬ所にいるものなのだ……  
 
 
その日の夜中。  
 
皆を寝かしつけた後、ソフィーはやっと自分の部屋で落ち着くことができた。ふわぁ、とあくびを洩らす。  
「さあ、寝ようかしら…。」  
そうして、ベッドに横になりかけた所、頭に貰った飴のことが横切った。  
いけない、おばあちゃんに怒られちゃうわと飴を口に放り込む。  
甘酸っぱい味が口の中に広がった。飴は大きい割には溶けるのが早く、すぐに眠りにつけそうだと、今度こそベッドに横になった。  
 
が、眠気はどこかに消えてしまったらしく、寝付けない。  
寝る前に甘いものを食べたのがいけなかったのだろうと無理矢理に目を閉じていたら、胸が急にドキドキしだし、身体が熱くなり始めた。  
新手の病気かしら、と考えているとこれは前にも味わった感覚だということに気が付いた。  
 
(これは、ハウルと身体を重ねた時の──)  
その時の映像が広がり、途端に恥ずかしくなる。  
今度は息まで荒くなってきて…  
 
(私、こんなにHな…)  
自分の身体の変化に動揺していると、玄関のドアが開かれる音が聞こえた。  
出掛けていって帰ってきていないのは一人しかいない。  
 
「ハウルが帰って…きたん…だわ……」  
 
このままではとても寝られないと思ったソフィーは、ふらふらした足取りで、ハウルの部屋の前まで行った。ドアの前でしゃがみこむようにして待つ。  
 
もちろん、自分の部屋に向かってくるハウルがソフィーに気が付かないわけがなかった。  
足音もたてずに部屋の前までやってきて、  
「ソフィー?」  
うつむき加減のソフィーの顔を覗き込む。  
ソフィーの息は荒く乱れ、顔は月の光だけでもいつもより赤いように見えた。  
 
ハウルは目を見開く。  
(魔法が掛けられている。それも強力な…)  
「ソフィー、大丈夫?」  
そうして、微動だにしない肩にそっと触れる。  
 
ビクッ。  
軽く触れただけなのに反応は異常に大きかった。  
(やっぱりね。)  
困ったように嘆息をつく。  
「ハウ…ル…、く…るしいの……」  
震えながらそう言って、潤んだ瞳でハウルを見つめるソフィー。  
そんな瞳にハウルが耐えられるはずもなく…、両手を使い無言でソフィーを抱きかかえる。  
魔法で音をたてぬようドアを開き、自分のベッドにソフィーを横たえ、覆い被さった。  
もちろん、ドアの鍵も抜かりがない。  
 
「ソフィー…」  
愛しそうに言って、ソフィーのあごを掴み、口付けをする、何度も何度も、浅く、深く。  
「んっんんん…んんっ」  
ソフィーは顔を真っ赤にしながら、それを受け入れていた。ただ、思考が上手く回らなかったのだけかもしれないが。  
ハウルの舌がソフィーの歯をなぞり、舌を絡めとって吸う。  
いつもなら、苦しいと言って細やかな抵抗を見せるのだが、今日はされるがままだった。  
その間も、目はずっと潤んだままハウルを見つめている。  
名残惜しげにハウルが唇を離すと透明な糸が二人を繋いだ。  
「ソフィー。今日の君の唇はいつもと違って、甘酸っぱく感じるんだけど、何か食べたかい?」  
ソフィーの口元に落ちた二人の糸を親指で拭いながら聞く。  
「…え?……さっき…飴…食べた…けど」  
どうしてそんなことを聞くの、と目で問うソフィーにそれだ、とハウルは軽く舌打ちをした。  
途端、ハウルの身体の奥も熱を訴え始めた。  
「…どうやら、僕にも毒が回ってきたらしい……」  
くくっと笑うとソフィーがそれを聞き咎めた。  
「……ど・く?……毒ですって……それって…どういうっ……ひぁっ」  
ハウルに首筋を舐められて、皆まで言えずに小さな悲鳴をあげる。  
「知りたい?…教えてあげる。………手加減はできないけど。」  
小さく呟かれた終わりの方の言葉はソフィーには聞こえなかった。  
 
「っはっあぁ…」  
ハウルの右手がソフィーの胸を捕らえると声を洩らした。  
いつもなら最初は声を出すのを我慢して、恥ずかしそうに頬を染めているだけなのに、今回は違った。  
ただ、ハウルにもいつもと違う面があった。いつもなら、ソフィーの反応を見ながら優しく先へと誘っていくのに今回は一刻も早く先へと急いているようだった。  
「ひあぁっっ。だ…めぇ…」  
 
(…まさか僕がこんな魔法にやられるなんて……でも)  
 
いきなりソフィーの右胸を口に含み、ちゅっと吸い上げる。右手は休む事無く左胸を愛撫し、左手はわき腹をすーっと撫ですさっていた。  
もう既に自身を主張している乳首の先をちろちろと舐めると、一瞬ソフィーの身体が反り返る。  
「んっやぁっ…」  
涙ぐみながら喘ぐソフィーを見ながらも、ハウルは何も言わずに舌と手を動かす。  
これも、いつもならソフィーの言葉尻を掴んで「何が嫌なの?嫌ならやめようか?」などと意地悪く焦らすのだが…。  
 
(…もう、待てない)  
 
ソフィーはハウルがいつもと違うことに気付いたが、次々に襲ってくる快感に思考を溶かされてしまった。  
ビクンッ。  
ふいに、ハウルに乳首を噛まれて、大きく身体を震わせるソフィー。  
ソフィーの意識が胸に集中しているあいだに、ハウルは左手をわき腹から下腹部へと滑らせる。  
そのまま星色の茂みに進み、しとどに濡れている秘部の中に躊躇もせずに指を一本突き入れた。  
「っああぁっっ!!」  
いきなり中に入れられたのも手伝って、ソフィーは軽く絶頂まで押し上げられてしまった。  
けいれんするようにひくつく秘部を指で感じ、肩で息をするソフィーを伺いながら、ハウルは中に入れた指を二本に増やす。  
ぬちゅっといういやらしい音を立てながら、軽々と指は飲み込まれていった。  
そして、そこはもう離さないとばかりに指をきゅっと締め付ける。  
(ソフィー…、なんていやらしい…。僕も…だけど)  
 
「ん………っ」  
下の唇に指を抜き差ししながら、ハウルの唇が胸から離れ、またソフィーの唇を犯す。  
ソフィーがあげる悲鳴も喘ぎも何もかもをハウルの唇が飲み込んでしまった。その代わりか、肌がどんどん桃色に染まっていく。  
 
「もう……限界だ…」  
 
唇が離れ、ハウルが苦しそうに目を細め呟くが、酸素も舌も思考も吸い取られたソフィーにはそれが意味することを考えようとする余裕もない。  
だから、秘部に入れられていた指が抜かれ、ハウルのモノが宛てがわれても、ただ、目がとろんとしているだけだった。  
 
そして―――  
 
ズッ、ズリュッ。  
 
ハウルがもう耐えられないと、一気に腰を進めると、その衝撃で再び目に光が宿った。  
 
「あっっ!ふ…うっ、ハウ…ル」  
 
ハウルがソフィーの脚を両手で持ち上げ、自分の肩に引っ掛ける。すると、密着度が増した分、ハウルのモノが奥まで入ることになる。  
ハウルは腰を掴み一度奥まで埋め込んでから、ソフィーに一息つかせる暇すら与えずに動き始めた。  
 
ぐっちゅ、ぐちゅ  
ハウルが入り口まで引き抜いてから、再び埋め込むたびに淫猥な音が部屋中に響いた。  
「っああっっ!!はぁっ、はぁぁっ、はげ…し……い」  
 
『目の裏がチカチカして何も考えられないわ』、とソフィーが言うと、ハウルは『僕も同じだよ、たまにはそれでもいいじゃない。』と返す。  
 
ソフィーは自分の感覚がいつもより鋭敏なのにも気が付いていた。いつもならハウルのなすがままにしているのに、今夜はこんなにも深く繋がりを求めている。  
さらに、もっともっと刺激が欲しくて、自然と腰を動かした。  
高まる快感にソフィーは思わず、自分の腰にあるハウルの腕を掴んで爪をたてた。  
ハウルはその痛みに一瞬顔をしかめるが、ソフィーのそれが痛みからしたものではなく快楽の末の衝動だということに気付き、腰の動きを早める。  
ソフィーはさらに強く爪をたて息を詰まらせながら、  
「ハウルっ、ハウ…ルッ、熱い……の、私、もう、だ…めぇ…」  
と真剣に訴えた。  
ハウルのどうしようもなく熱い固まりに貫かれて、またある一点へ昇りつめようとしていたのだ。  
 
「ソフィー…、僕も、もう…保たない、みたいだ…」  
ハウルが本当に苦しげに言ってからすぐ後にその瞬間は訪れた。  
 
「あああぁぁっっ!!」  
ハウルが最後の一突きとばかりに奥の奥まで埋め込むと、ソフィーが耐えきれずに担がれている足の爪先をぴんと伸ばして達した。  
と同時に強く締め付けられたハウルのモノもドクッと脈を打ち、白濁とした液が大量に注ぎ込まれた。  
 
そのまま、十数秒が過ぎ―――。  
 
「は…あぁ…」  
脱力したソフィーとは対照的にに疲れを見せないハウルは繋がったまま担ぎ上げた脚を下ろし、耳元で囁いた。  
 
「夜はまだ終わっていないよ。」と。  
 

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