「あんた、今夜は色男の相手をしてやるのかい?」  
老婆を寝かしつけ、明かりを消そうとしていた少女がきょとんとする。  
「おや、野暮だったかねえ」  
意味ありげに、にやりと笑う元魔女に対し、ソフィーはますます星色の頭を傾げる。  
が、言外に含まれたものをようやく悟って、思わず噴出してしまった。  
「やだ、そんなことあるわけないじゃない」  
ぱたぱたと手を振り、否を示す。  
「この城の掃除夫ってだけなんだから。わたし」  
目を見張る老婆に、ソフィーは弱弱しく笑ってみせた。  
臥所に横たわった老婆は小さな目をしょぼしょぼとさせ、次いで長い息を吐いた。  
「単なる掃除夫とは扱ってないと思うけどねえ」  
ソフィーはかすかに首を振る。  
「それに、あの人に好きと言われた覚えすら無いもの」  
自分は彼に言った。大好きと。  
近い言葉は言われたような気がしないでもないが、  
そういう気がするのは自分の自惚れだとソフィーは結論づけている。  
何言ってるんだい、老婆はあきれたように笑う。  
「ハウルがあんたを見る目は、いつでも優しいんだよ」  
 
優しい目、とは何を意味するのだろう。  
『我が家族』の一員として?  
家族という定義は、ひどく難しかった。  
形の無いもの。強そうに見えて実は弱い繋がり。  
今、家族と呼んでいる状態が脆弱でないと信じたいが、信じ切れない自分もいる。  
帽子屋の跡取りとして働いていた当時の家族とは、実際離散してしまっているのだ。  
父母とは死別、継母は再婚し、妹たちはそれぞれ奉公や弟子入り済み。  
そして自分は、魔法使いの城で家事に明け暮れる日々。  
それぞれ別々の屋根の下で暮らし、  
会おうと思わなければ一生顔を合わせぬことも可能だ。  
妹たちの世話をし、親の元で過ごしていたあの頃、家族の絆を強く感じていた。  
なのに、いつの間にかばらばらになってしまっている。  
あんなに強いと思っていたものは、こんなにも脆く、  
たやすく壊れてしまうのだと、思い知らされた。  
経験がなまじある分、ソフィーは家族という言葉に、少しばかり敏感になっていた。  
食卓を囲む面子を見る度、強く感じられる家族としての繋がり。  
他愛のない会話ですら、ただ言葉を交わすという行為なのにひどく楽しい。  
けれど自室に戻り、背中で扉を閉めたとき思うのだ。  
実は強く感じているのは自分だけ、全ては自分の気のせいなのかもしれない、と。  
 
いつかは別れる時が来る。  
それはずっと先のことかもしれないし、もしかしたら明日なのかもしれない。  
壊れるのを前提としての付き合いなのだと、自分は知ってしまっている。  
所詮家族なんて儚いものなのに、自分は何故こんなにも求めてしまうのだろう。  
こういったことは、一度考え出すと止まらなくなる。  
だが物思いに耽って家事を疎かにしてしまうほど、ソフィーは愚かではなかった。  
もはや無意識に洗濯をし、効率良く掃除をし、機動的に食器を片していた。  
ただ意識の方は思考に費やされているのでめっきり会話が減り、  
誰かに話しかけられても相槌程度の返事しか出来ていない。  
そしてそんな彼女を心配そうに見る家族の目にも、気がついていなかった。  
 
「ソフィー」  
彼女が布巾を干し終える瞬間を見計らったかのように、暖炉から声が掛けられた。  
「なに、カルシファー。薪なら用意しておいたと思うけど」  
前掛けで手を拭いながら、薪を確認する。一晩過ごすには、十分すぎる量だ。  
「そうじゃねえんだ。たださ、その、ハウルの奴がつらそうでさ」  
「ハウルが?病気かしら」  
ソフィーは小首を傾け、ハウルの様子を思い出す。  
彼女の目からは、特に変わったことは無いように思えたのだが。  
「約束を、忘れたのかい?」  
突然、背後の暗がりから聞こえてきた言葉に、ソフィーは振り返る。  
夜の居間で、杯を重ねていた元魔女はしっとりと続ける。  
「ハウルの心臓を大切にする約束、どうやら忘れちまったようだねえ」  
意外な言葉に、ソフィーは眉根を寄せつつも答える。  
「いいえ、忘れていないわ」  
「忘れていないだって?じゃあここんとこのあんたの態度は何なんだい?」  
ソフィーは思わず息を呑む。  
決して怒鳴られているのでも、甲高い声で喚かれているのでもない。  
氷のように冷酷で凄みのある声音に、彼女は気押されたのだ。  
「何を話しかけても上の空、あの手この手を使ってハウルはあんたの気を引こうとした。  
 で、全然効き目がないもんだから、なんとあの色男が半泣き状態。  
 いつ死霊を出してもおかしくなかった」  
「それでハウル、今夜は外で過ごすって」  
言いにくそうにカルシファーは言う。  
血の気の引いた顔で、それでも疑問の声を呟いた。  
「何故」  
「ソフィーが掃除するの、大変だから、ってさ」  
元魔女ははき捨てるように言うと椅子に伸び、長々と息を吐いた。  
「全く・・・何考えてるんだい、あんた」  
 
硬く握り締められた拳は震えている。  
それでも少女は項垂れずに面を上げていた。  
「家族のことを考えていたの」  
「帽子屋の家族かい?」  
ううん、と銀の髪が揺れた。  
「何気ない会話とかでも、すごく相手の気持ちが伝わってきて、  
 ああ、これが家族なんだな、すごく繋がってるなって思うの。  
 でも、そういう強さを感じているの、わたしだけなのかなって」  
「んなことで悩んでたのかい。呆れた娘だねえ」  
とは言うものの、老婆は苦笑している。  
「相手に尋ねてみたら一発で解決することじゃないかい、ええ?」  
「・・・そうね。本当に、そうね」  
ソフィーは感情を耐えるように目を閉じた。  
そして毅然とした表情で、謝りに行ってくると言い、身を翻した。  
短い階段を駆け下り、扉の前に立ったその華奢な背中に、  
老婆は先程とは別人のように、温かみのある声を掛けた。  
「迎えにいっておやり。お前さんにしか出来ないことだ」  
 
足元を冷ややかな空気が抜けてゆく。  
伴って聞こえるのは、草を渡る夜風の音。  
日中色彩を広げて咲き誇る花々も、今は下を向いて眠りについていた。  
時折雲が流れて、月明かりが湖面を照らした。  
無論、傍らにひっそりと佇むあの小屋も、ソフィーの星色の髪も。  
ここに、ハウルがいると思った。  
何故そう思ったかは、わからない。  
とにかく、でろでろに溶けているであろう彼を見つけ出さなければならない。  
彼女は歩き出した。  
 
歩みは速まり、やがて服の裾を両手で掴みあげて走り出す。  
「ハウルー!」  
溶けているのなら、名を呼んだところで返事は無い。  
けれど叫ばずにはいられなかった。  
我を忘れて名を連呼する度、彼女の胸は痛みを増した。  
わたしが傷つけたんだ。  
元荒野の魔女に、大事にすると誓って、譲り受けたその心を。  
わたしが。  
わたしが・・・!  
後悔だけが胸を満たし、全力で走ったところで無駄だという気さえ起きる。  
けれども彼女は必死に駆けた。  
自分がつけた傷は自分にしか癒せないのだからと、弱気になる心を叱咤しながら。  
「!」  
体が宙を舞ったと感じた瞬間、彼女は草の上に手を付いていた。  
足がもつれて転んだと思ったのだが、何かに躓いた感触が、つま先には確かに残っている。  
と、下からうめき声がして、思わずがばりと身を起こす。  
「ハウル」  
「・・・重いんだよ」  
慌ててどくと、彼はさも気だるげに身を起こした。  
幸いなことに緑の粘液に覆われてはいなかった。内心ソフィーは胸を撫で下ろす。  
しかし素晴らしいまでの仏頂面だ。相当怒っていて、かつ不機嫌極まりないときている。  
「何なの君は。人の名前大声で喚いて、はしたないくらいに裾捲り上げて走って、  
挙句の果てに人を踏んづけて盛大にすっころんだ」  
まさにその通りなので、ごめんなさいと彼女は素直に頭を下げた。  
ソフィーがつっかかってこない上、率直に謝られてしまい、青年はばつが悪そうに横を向いた。  
そしてそんな彼に頓着せず前掛けを払って立ち上がるなり、ソフィーはひたとハウルを見た。  
「ハウル。わたし、謝りに来たの」  
 
「考え事していたら深みに嵌ってしまって。あなたのこと、蔑ろにした  
つもりはなかったんだけど・・・ハウル、いろいろしてくれていたんですってね」  
「くれいたんですってね、てことは、その、全然覚えてないってこと?」  
「ごめんなさい。悪いんだけど全く」  
傷口に塩をすり込む行為に等しい彼女の告白ではあったものの、  
嘘をつかれるよりはましであると判断した彼は、何とか立ち直る。  
顔色が少し悪かったり、手が細かく震えているが、  
彼女の関心を惹いていないのは不幸中の幸いであった。  
一方ソフィーは色々言葉を並べてみたものの、  
それが結局言い訳にしかなっていないことに気づいて口を噤んでいた。  
そして言うべき言葉は、一つだけなのだと彼女は思い至る。  
「許して、もらえるかしら?」  
夜空に瞬く星々と同色の髪を、ひと筋の夜風が揺らす。銀糸が虚空に魔法の如く浮き、夜だというのに眩く光った。  
澄んだ双眸がこちらを見つめてくる。夜の僅かな明かりの元では、あの茶色を判別することは不可能だ。  
だが、いつも瞳に宿す輝きがそこにはある。彼女の芯の強さを具現する輝きが。  
こんな表情をされて否と言える男がいたら、そいつは人間ではないとハウルは思った。  
少女に軽視されたあまりの悲しさ故に、城を飛び出してきた頃が、今はひどく遠い。  
時間的にはそんなに経っていないはずだ。けれどあんなにささくれていた心が、彼女に名を呼ばれた直後から、穏やかになっていくのを彼  
 
は確かに感じていた。  
機嫌の悪さを取り繕うともせず感情をぶつけてしまう程、彼女を求めていた自分。  
彼女の挙動の逐一に、こうして振り回されることは、不思議と嫌ではなかった。  
ハウルは目の前の少女を慈しむように見、ひとつ首肯する。  
途端、見るからにほっとした様子で、少女は胸をなでおろす。  
「ああよかった。許さないって言われたらどうしようかと思っていたの」  
安堵して笑う彼女だったが、ふと真顔になって彼を見上げた。  
「あの、ハウル」  
それだけを言って、少女は口を閉ざしてしまう。  
言いかけて黙るとは、いつもの彼女らしからぬことだった。彼は内心首を捻りつつ、視線だけで彼女を促す。  
それでようやっと、しかしとても言いにくそうに、ソフィーは言った。  
「あと、その、質問に答えて欲しいんだけど」  
 
ハウルは鸚鵡返しに訊ねる。  
「質問?」  
「そう」  
こくこくと彼女は頷く。  
「家族の繋がりを、ハウルは信じている?」  
「そうだな・・・」  
しばし考え込むように顎に手を当てていた青年は、ふと顔を引きつらせながら、心底嫌そうに質問した。  
「ねえ、もしかしてそれが原因、とか言わないよね?」  
「え?そうだけど?」  
ハウルは脱力してへなへなと崩れ落ちた。その場で頭を抱えて思わず唸った。  
「君はねえ、一人で思い込み過ぎるんだよ!何でもかんでも!」  
「そう、かしら?」  
「そうなの!ああもう、自分のせいじゃないかって死ぬ程気を揉んだ僕の立場はどうなるのさ」  
「・・・何よ。心当たりがあるわけ?」  
自らの失言に反応し白眼視を始めてしまったソフィーに、彼は慌てて手を振る。ふと振る手を止め、呟きを漏らした。  
「家族、か」  
普段通りの軽薄な語調の中に、何故か哀しさが垣間見えて彼女はハウルを見る。  
雲間からの月光に照らされた彼の横顔は、どこか遠くを見ていた。  
「みんな、一人ぼっちだったんだよ。カルシファーもマルクルも、荒野の魔女も、ヒンも。  
そしてソフィーも僕も。だから余計に家族としての繋がりは強い。とても互いを大切に思っているよ。ソフィーは分からなかった?」  
「いいえ、感じていたわ。すごく強く。だけどそれは私の気のせいだと」  
「思い込んじゃった?」  
ようやく自分が勝手にそう解釈してしまっていただけなのだと悟り、恥じ入って少女は俯いた。  
覚えてる?、と懐かしむような彼の声が耳に届く。  
「僕は君達が安心して暮らせるようにしたいんだよって言ったこと」  
それは初めてこの花園に連れてきて貰った時の出来事だ。忘れるわけが無い。  
未だ彼を直視することができず、視線は下に向けたまま返事をした。  
「ええ」  
「あのね。そりゃあもちろん、マルクル達だって大事だ。けど」  
草がこすれる音。一段と濃くなる彼の匂い。  
顔を上げれば、自分を見つめてくる視線とぶつかった。  
「命を懸けて守りたいと思うのは、ソフィー、君だけだ」  
 
少女は唇を噛んだ。自分は何て浅はかな人間なのだろう。  
この人は、こんなにもはっきりと好意を示してくれていたのに、物語や小説のように歯の浮く台詞を欲して、駄々を捏ねていたなんて。  
感極まって彼女はハウルに抱きついた。精一杯の感謝の気持ちを込めて。  
突如抱きしめられた方も、小さな背中にゆっくりと腕を回した。  
しばらく相手の体温を味わっていた彼は、ふいに視線を下に落とす。  
自分の胸板に頬を寄せている星色の髪を、思いつめたように見つめていた彼は、やがて彼女の耳に唇を寄せ、囁く。  
ソフィーの肩がぴくりと蠢き、瞳は大きく見開かれた。  
華奢な体を抱きしめたまま、彼は耳元で続ける。  
「怖い?」  
腕の中の彼女は僅かに黙考する。  
「・・・少し」  
怖くない、と言えば嘘になる。けれどもそれは。  
「ハウルが怖いのではないの。知らないものが少し怖いだけ」  
敢えて微笑むことはしなかった。  
ただ見栄で言っているのではないことを、信じて欲しい。それだけだった。  
少女と青年は見つめ合い、先に口を開いたのはハウルの方だった。  
「愛してる」  
静かな声音で紡がれた言葉が全身を満たしてゆく感覚の中、ソフィーは全ての感情を込めて言った。「愛してる」  
二人の呼吸が混じる。  
互いの唇を啄ばむこと数回、やがてそれは貪るようなものへと変わってゆく。  
静かな夜の草原に、二人の倒れ込む音が渡った。  
 
首筋や手の甲の下、葉片がさわりと揺れる。  
押し倒された形になっていたソフィーは、夢中で彼の唇を吸い続けていた。  
今彼女が溺れているのは、小鳥が嘴をつつき合うような幼い口付けではない。顔を交差させ、相手の唇を争奪する、とても深い愛し方だ。  
二人は頭を右に左に振って、より一層互いを求め合う。  
ふと薄目を開けたハウルは、自分の荒い鼻息が伏せられた少女の睫毛を揺らずのを見た。  
彼女の腕に触れているだけだった手が、その華奢な手首を押さえ込む。空いている片手は彼女の耳に添わせる。  
親指の腹で柔らかな耳朶を弄ぶと、甘い吐息と共に可憐な唇が半開きになった。  
その瞬間を狙っていたかのような俊敏さで、彼は舌を口内に差し入れた。  
「んんっ」  
ソフィーは驚愕に目を見開くが、彼はさも当然の如く舌技を展開し始める。  
真珠のような歯をなぞり、歯茎を伝い、口腔の奥で縮こまる舌をつついた。  
彼女がおずおずと絡ませてゆけば、ねっとりと暖かい感触が味蕾を刺激する。  
たまらなくなって白い喉が仰け反る。だがそれに追随するように覆い被さってきた彼からは逃れられない。  
口を深く蹂躙されて、時折切なげに喉が鳴る。  
溜まってゆく、混じり合った唾液。普段嚥下するものとは少し違っていて、躊躇しながらもこくこくと体内に流し込んだ。  
飲み込みきれずに溢れた液体が、少女の唇の端からこぼれ出る。  
それを一滴たりとも無駄に出来ない美酒であるかのように、ハウルは頬を、顎を舐めとってゆく。  
伝い落ちる舌の先で、乙女の柔肌を健気に守っていた布地を次々と剥がし、その度に新たに現れる無垢な肌に舌を伸ばす。  
豊か過ぎる湿気に覆われた、生暖かい感触が彼女を否応なしに高ぶらせてゆく。  
今までに与えられたことの無い快感に身体がよがる。羞恥に染まる心とは裏腹に。  
徐々に熱を帯びる表皮の上を、まるで、人間でない何か別の生き物のように這い回る舌。  
深過ぎる接吻からようやく解放された口からは、空気を求めるものとは違う喘ぎが漏れた。  
「はあ、はあ、は・・・っああ」  
自分の艶声に真っ赤になった少女は、思わず手元の草を掴んでそれ以上の発声を耐えた。  
 
縦に続く止め具は外され、彼の愛撫は胸元まで下る。ひどく柔らかな膨らみが、両頬に感じられた。  
胸の谷間に顔を埋めたまま、両手を服と肌の間に差し入れる。  
わずかに肌が覗くばかりだった隙間が、一気に肩口まで押し広げられた。  
素肌が夜気に晒され、ソフィーはその冷たさにはっとする。  
露わになった胸元を慌てて覆おうとするが、倍の速さで動いた彼の手に阻止された。  
動きを完全に封じられ、自分を見てくる熱烈な視線に耐えかねて彼女は睫毛を伏せる。  
月光にぬらりと光る肌。すっきりとした鎖骨に溜まる程の唾液量。羞恥にかられ背けられたままの顔。  
そして青白く照らされた美乳。  
半裸で横たわるその姿は、ひどく幻想的で蠱惑的だった。  
匂い立つような瑞々しい肌に誘われ、彼は双丘をじっくりと眺めた。  
陶器のような滑らかさで形作られた、女性特有のふくらみ。  
大きさこそ小振りだが、若さ故の張りと艶を兼ね備え、こうして見る者の視覚を攫う。  
その頂に鎮座する、淡茶色の乳輪。薄い色素は、誰にも触れられていないことを如実に物語っている。  
しかしそんな純潔さとは裏腹に、乳頭は既にそそり立ち、時折ひくついて愛撫を乞うのだった。  
彼は乳房にそっと両手を添え、ゆっくりと撫で回し始めた。  
「は、あ・・・」  
あえかな吐息を聞き取り、その反応に気を良くした彼は胸への愛撫を一層強化する。  
円を描くように揉み乳房を寄せ上げ、また両方を挟み込まれて谷間はより深くなる。  
きつく握り締めれば、指の間から肉がぷっくりと盛り上がる。  
白磁さながらだった肌は桃色に染まり、捏ねるたびに濃さを増す。  
「っく・・・くう、う・・・んっ」  
喉の奥から搾り出されるうめき声は、徐々に大きくなっていた。  
 
彼はふいに、揉みしごく手のひらに違和感を感じた。  
はっきりと突起物が当たっているのだとわかり、堪えきれずには胸元へ顔をさらに寄せ始める。  
愛撫され続けた胸に、熱い息を感じてソフィーは頭をもたげた。  
潤む視野に移った光景に、彼がしようとしていることを悟り、慌てて制止する。  
「ちょ、やめ・・・っあああん」  
熟れきった果実のような乳頭に、彼の薄い唇が触れた瞬間、少女の背が反り返った。  
背骨の辺りを痺れが走る。電気を通されたかのように、そこに感覚はない。  
強い快感に襲われながらも、彼女は必死に頭を引き剥がそうとした。だがハウルは離そうとするどころか、ますます唇を密着させる。  
数度感触を味わうように啄ばんだ後、口に含む。唾液がたっぷりと含まれた舌先を絡め、音を立てて突起をなぶる。  
口で攻めていない方も指の腹でこすり合わせ、休む隙を与えない。  
一旦口を離し、今度は乳房と共にべろりと舐め上げて、親指と人差し指で摘む。  
水の滴り、はねる音。荒い呼吸。むせび泣く声。  
絶えることのない快感に、いつしかソフィーは抵抗をやめ、彼の髪をゆっくりと漉き回していた。  
そんな彼女の変化を、心底嬉しく思いながら、つややかに潤った蕾を吸い、軽く甘噛みをした。  
「やああああああああっ」  
大きく甲高い嬌声と共に、少女の身体は弓のように見事な曲線を描いた。  
ふつりと硬直が解け、草の上に音を立てて崩れ落ちる。  
突然の彼女の変化に、ハウルは驚いて声をかけた。  
だが返事はなく、せわしない息遣いが聞こえてくるのみ。  
ぐったりと全身を弛緩させて横たわる彼女は、肌という肌を上気させ、瞳を潤ませ、愛欲という名の酒に酩酊している状態だった。  
他人から愛撫されるという初めての体験だけで、既に軽く達してしまったらしい。  
うぶな少女そのもののソフィーを、ハウルはひどく愛おしく思った。  
 
四肢を弛緩させ切ってしまっていることを契機とばかりに、彼は彼女の夜着の裾を捲し上げ、片方の大腿部を捕らえた。抵抗は勿論無い。仮にしようとしたとしても、それは試みだけで終わるだろう。こんなに力の抜けた状態では顔を上げることすらままならないはずだ。  
臀部の下部を持ち上げて、片足だけを肩に担ぐ。股間へそっと差し入れた指先に、湿ったというよりは濡れそぼった下着が触れた。この状態ならば、おそらく平気だろう。  
秘部と思しき場所に当たった瞬間、伸び切っていた彼女の身体がびくりと震える。意識は朧でも身体は正直に反応するらしい。  
「ソフィー」  
名を呼ばれた。その声音の、あまりの切なさに彼女はようやっと意識をもたげる。首筋や手の甲の下、草擦れの音が立つ。  
覚醒とは到底呼べない状態ながら、彼女はうっすらと双眸を開いた。天に縫い取られた幾万の瞬きは、疲れた瞳にとってひどく優しい光だった。  
ソフィーはハウルの肩越しに空を仰ぐ。  
あの夜は一面に星が流れていて、その光景を畏ろしいと思った。反面、不謹慎ではあるが綺麗だとも思った。  
まだ花が咲き乱れてはいない、ただの草原と湖、水車のある小屋。  
何もかもがきっと、あの夜から始まったのだ。  
時を越え、ハウルとカルシファーの名を呼んだあの時から。  
待っていてと、きっと会いに行くからと告げたあの時から。  
自分がこの世界に生を受けたこと、帽子屋の娘として育ったこと、老婆に姿を変えられたこと、その他諸々膨大な量の事象が積み重なって今、ここに愛する人と結ばれるということ。  
胸にひたひたと打ち寄せていたものが、一気に心の堰を越えた。  
星空が見る見る滲み、瞼を閉じれば滴が頬を伝う。しゃくりあげないように、呼吸を詰めた。  
それを不審に思い、顔を上げたハウルは痛かった?、と尋ねた。  
嗚咽に震える吐息の中、思い出していたの、と彼女は言った。  
「あなたが、初めてわたしに会った夜のことを」  
愛撫が止む。深い夜色の瞳がこちらを見つめてくる。  
自分より随分年上のくせに、少年を彷彿とさせるその真摯さ。あまりの愛おしさに泣きそうになって、それでも彼に笑んでやる。  
「……嬉しいの」  
瞬きをする度に、新たな涙が零れる。  
「何が嬉しいのかわからないくらい、嬉しいの」  
「ソフィー」  
彼の顔が近い。ある一定の距離を置いて静止し、それ以上は近づこうとはしていない。魔法使いの問うような、伺うような視線に、ソフィーは自分から唇を寄せることで答えた。  
今彼女が溺れているのは、小鳥が嘴をつつき合うような幼い口付けではない。顔を交差させ、相手の唇を争奪する、とても深い愛し方だ。  
二人は頭を右に左に振って、より一層互いを求め合う。  
襞に押し付けられる異物の感触。ひんやりとしていた指先とは違う、ひどく熱い肉の塊。  
質の違う快感に襲われて、全身がひくりと戦慄した。  
視線を下方にやれば、彼の逸物が自分の秘奥にあてがわれている所が見れるのだろうが、それをする勇気が彼女にはなかった。  
 
瞳を閉ざし、来る衝撃に備える。ああいよいよなのだと、今更のように覚悟した。  
下腹部に圧迫感が生じる。挿入に伴う派手で卑猥な水音が、ここまで聞こえてくる。  
そして激痛が脳天にまで響いた。息の根を止められたかと思ったほどだ。  
「いっ……たぁ……!」  
あまりの痛みにきつく眉根を寄せ、涙を滲ませたその瞼に、彼はそっと唇を落とした。  
労わるように、宥めるように、春の雨の如く柔らかな口付けを降らせてゆく。  
挿入による激痛を和らげるには、彼女の身体の強張りを解す必要があった。  
ハウルは乳房を下から掬い、手のひらで揉みしだいた。強く力を込めた、かと思えば時に羽毛のような優しさで撫で回す。  
硬くしこった乳首を摘み上げ、転がし、爪を立てる。  
緩急をつけた胸への愛撫は、上気する肌への接吻と並行して行われた。  
それが功を奏したのか、やがて彼女の声は痛みを訴えるものから甘く艶やかなものへと変わる。  
高く透き通る喘ぎ声は彼の牡の部分を刺激し、いや応無しに昂ぶらせてゆく。  
そして凄まじいまでの締め付け。精魂全てを搾り取られるような感覚に、何度か意識を手放しそうになる。  
このままでは彼女が絶頂を迎える前に果ててしまいそうだった。  
彼は一旦、ゆっくりと自身を引き抜く。  
うっすらと涙目を開けて物問う彼女を見つめながら、先端を膣口にぐりぐりと押し付けた。  
体中が酸素を求めて悲鳴を上げる。  
どんなにせわしなく呼吸を繰り返しても、楽になったという気がしない。  
少女は絶叫した。背中が見事な弓を描いて硬直する。  
失われゆく意識を繋ぎ止めようと、彼女は無我夢中で抵抗する。  
何もかもが解き放たれ飛翔する中、その腕は虚空に伸び、彼女は宙を掴んだ。  
 
 
頬をなぶる風の冷たさに、ソフィーは一気に覚醒する。  
意識がなくなっていたのは一瞬のことだったらしい。未だ、呼吸は荒い。  
体が冷え切っているのを感じて、思わず二の腕を抱いた。汗ばんだまま冷気に晒された為に、体温が低下しているのだ。  
ふと見やれば服のあちこちが肌蹴ている。羞恥に頬を染めながらも手早く整え、立ち上がろうとしてふらついてしまった。  
無様に尻餅をついてしまった彼女の横から、噛み殺したような笑い声が聞こえてきた。  
「……何笑ってるのよハウル」  
「だって可愛いんだから仕方ないじゃないか」  
全然理由になっていない典型的のろけなのだが、彼女は気づかず笑われた事のみに憤慨した。  
そして再度起き上がることに腐心する。今度は注意深く、慎重に。  
腰が萎えてしまって無理かと思ったが、何とか立ち上がれた。  
少し歩いてみる。鈍い痛みが腹部に走るが、動けないわけではない。  
「このままだと間違いなく風邪を引くわ」  
なだらかな丘の下方に佇む、例の小屋に視線を投げる。  
彼女は入浴を切実に欲していた。勿論冷えた体を温めるためという理由もあったが、大腿部を伝い落ちる液体の、あまりの気持ち悪さに閉口していたのだ。  
遅れて立ち上がった彼も又、その意見に同意した。夜露を払い、夜景を望んでいる彼女の脇に寄り添う。  
抱き寄せようと肩に触れた途端、まるで雷に打たれたかのように彼女は震えた。見つめている彼の視線に気付いていないわけがないだろうに、一向に顔を上げる気配が無い。  
「ごめんなさい。ちょっと……顔、まともに見れそうもないの」  
恥ずかしくて、と消え入りそうな声で呟くなり彼女は踵を返し走り出してしまった。  
見事置いてけ堀をくらった彼は、やれやれといったように肩をすくめる。  
けれどその表情は決して暗いものでは無い。  
何故なら彼は知っていた。夜はまだこれからだということを。  
 
部屋に差し込む朝日が、青年の瞼を直撃する。おかげで彼は、重たい瞼をこじ開けなければならなかった。  
寝返りを打ち、傍らに腕を投げかける。だが、その腕は空しく宙を切った。あるはずの手ごたえが、返らなかった。  
慌てて身を起こして狭い部屋を見回しても、彼女の姿は見当たらない。  
見慣れた質素な家具がひっそりと佇む。昨晩の出来事がまるで幻だとでも言うように。  
幻想ではない。ましてや妄想でもない。自分は確かに昨夜、ソフィーと結ばれたのだ。  
だが目覚めた途端の、この状況には思わず顔を覆って嘆息した。  
やはり嫌だったのだ。特に初めての場合、痛みは相当なものと聞く。しかも及んだ回数は一晩に二度。  
愛の表現の仕方が無数にあることは嫌という程知っている。伊達に浮名を流していたわけではない。  
けれど、もはや体を重ねる行為でしか表せないところまで上り詰めてしまっていたのも事実であった。  
好きという言葉、愛しているという言葉を100万回口にしたところで、この感情を言い表すのは到底不可能だ。  
臥所の脇に腰をかけ、悄然と項垂れて再度ため息を吐いた。  
窓の外は、自分の気持ちとは裏腹に明るい陽光で満たされているらしい。  
ぐずぐずとここに篭っていたところで状況が変わるわけではないと、自らを鼓舞しのろのろと立ち上がる。  
鉛のように重い心身を、ようやっと動かして小屋の扉を開く。  
未だ俯いたままの青年の足元に、淡い彩色が数片、さざ波の如く寄せてきた。  
顔を上げた彼の目に映った光景―――それは、まさに楽園だった。  
朝焼けの空に、舞うは薄紅の花。花園一面を風が撫で、筋をつけては消えゆく。  
花いっぱいの手桶を両手に抱える少年。足元をうろつく老犬。そして剪定鋏を手に、花手折る少女。  
ふいに少女は顔を上げ、立ち竦んでいる自分を認める。屈めていた腰を伸ばし、体をこちらに向ける。  
幸せに満ちた表情でソフィーは微笑んだ。「おはよう、ハウル」と。  
むせび泣きそうになりながらハウルは笑った。「おはよう、我が家族」と。  
 
 
終  
 

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