クっと声を漏らして緊張した後、ハウルはぐったりと力を抜いた。フーっと満足げに
ついたため息が、彼の重みを受け止めたソフィーの耳をくすぐる。まるで大きな獣に
懐かれているよう。ただし、その獣は獰猛な肉食獣なのだけど。お腹一杯で上機嫌な肉食獣。
『全部、見せて。きみを教えて』
ハウルの腕の中にいる間、ソフィーは一切の隠し事を許してもらえない。肌を晒され
身体を開かされ、それだけでは済まされず、快感も欲望も隠さず露わにするように要求される。
じっと耐えることで抵抗を試みても、彼の指先には逆らえない。そもそも腕の中に閉じ込められて
熱っぽく囁かれただけで、もう気持ちはとろけてしまうのだ。
泣きながら懇願するまで追い詰めたくせに、全身をツキンと走る甘さに屈服したソフィーが
彼を求めると、ハウルはうっとりと嬉しそうに微笑んだ。その笑顔にまるっきり邪気がないことが、
かえって邪悪である。
『ソフィー、だいすき』
繰り返し囁かれた言葉がまだ耳の奥に残っている。熱に浮かされたまま、その言葉に何か
応えたような気もするが、彼の体温に翻弄されていたソフィーには、どんな言葉を返したのか思い出せなかった。
もしかすると、何か言ったのは自分の方で、ハウルの言葉はそれに応えたものだったのかもしれない。
ただ覚えているのは、すがりつくものを求めて腕を伸ばしたソフィーを、しっかりと抱きとめてくれたこと。
今と、ちょうど逆で。
ソフィーはハウルの背と頭を腕で抱え込んで、呼吸が整うのを待った。
ハウルはソフィーの肩口に顔を埋め、時々体温を確かめるようにソフィーの肌に額を擦り付ける。
甘える仕種まで、獣の仔のよう。そんなことを思いながら、指先でハウルの髪に触れた。ふと、ハウルが顔をあげる。
「…重い?」
「ううん」
ソフィーはハウルに微笑みかけながら、小さく首を振った。
「あったかいわ」
ハウルは、嬉しそうに笑うと、ソフィーの首筋に再び額をくっつけた。唇が肩に触れる。髪の毛がさらりと揺れる。
その髪の中に指を刺し込むようにして、ソフィーはハウルの頭をゆっくりとやさしく撫でた。
ハウルは細く息を吐き、目を閉じた。
「――気持ち、いい……」
そうして二人は、しばらくの間、お互いの呼吸に耳を傾けた。
世界中が眠りの中にいるような、静かな夜。聞こえるのは、愛しい人の安らかな寝息。
ソフィーは、眠ってしまった彼の形のよい耳たぶに向って「おやすみなさい、ハウル」
と囁くと、その胸に幸せを満たして目を閉じた。