暗がりを見詰めていた。  
 さきほどまで、確かに少年の姿の恋人がいた空間をソフィーは呆然と見詰めていた。  
「ね? 素敵な人だったでしょう?」  
「きゃあ!?」  
 耳元で突然囁かれた言葉にソフィーは飛び上がって後ろを振り向く。  
 そこには笑みを噛み殺しそこねているハウルの姿があった。  
「ハ、ハウル!?」  
「今夜はあの時と同じぐらい満月がすごかったからもしかしてって思ってたんだけどね。そ  
の様子だと、やっぱりここに居たんだ? ―――――ぼく、が」  
「いたんだって……ぼくって……」  
 混乱して鸚鵡返しに繰り返すソフィーにハウルはにこりと笑った。  
「だから、ぼくが初めてキスをした人はそりゃあきれいで可愛くて、素敵な人だったよって言っ  
たでしょ?」  
「あれ、あれ、本当にハウルだったの? でも、どうして……?」  
 勢い込んでどうしてを連発するソフィーに僅かに苦笑しながら、さあね、とハウルは首をか  
しげた。  
「なんでかはぼくにもよくわからないよ。満月の夜には魔法があるからか、それとも、ぼくが  
望んだことがそれほど強かったのか、もしかしたら、ソフィーも強く願ってくれたからかもしれ  
ない、なんて、うぬぼれてみてもいいかな?」  
「わたしが願って……って」  
 ハウルの言葉に、ソフィーは首筋まで赤くなった。  
 自覚はあった。  
 夕食の席で、ひどく懐かしそうな顔をして初めてキスをした時の事を語るハウルにひどくム  
カムカとして、同時にハウルとはじめて唇を交わしたという女性にとてもイライラとした。  
 どうしようもないことだと判っていた。  
 まだその頃にはハウルと自分は出会ってなかったのだし、ハウルはこんなに魅力的なの  
だから出会う前に何人もの女の人がハウルに魅了されてもソレは当然のことだし、ハウルが  
そういう人たちと付き合ったことがあってもソレも普通のことなのだと、納得しようとした。  
 
 けれど、茶化すような元魔女の言葉にひどく幸せそうに「素敵な人でしたよ」なんていわれ  
ると……今、目の前にいる自分よりも素敵だったのか、とか、そんなみっともない事をわめい  
てしまいそうで。  
 どうしようもなくて部屋に飛び込んでからは、確かに、その「素敵な人」よりも早くハウルに  
出会いたかった、と願った気が……する。  
「わたしが、願ったから…?」  
「ぼくたちが願ったから、気まぐれなお月様が望みをかなえてくれたのかもしれないね」  
 腰を落としたハウルは床にへたり込むソフィーを一動作で抱き上げると、そっとベッドの上  
に下ろした。  
「ごめんね、泣かせてしまった?」  
 暗がりでは目につかなったソフィーの頬に残る涙の痕に、ハウルは人差し指の背で頬の  
線を辿りながら眉をひそめる。  
「これは……ううん、別に、いいの」  
 優しい感触にほっと息をつきながら、少女はふるふると首を振った。  
「わたしがあんなに望んだから子供の頃のハウルに会えたんだったとしたら……お釣りがく  
るような気がするから、いいわ」  
「でもね」  
「嬉しかったからいいの」  
 バカみたいだけど、でも、ハウルのはじめてがわたしだったのって、すごく、嬉しい。  
 素直にそう口にして微笑む少女に、魔法使いはそう? と首を傾げてから、なにかを思い  
ついたような顔でにやりと笑った。  
「でもぼくとしては気がすまないから、お詫びをしたいんだけれど」  
「お詫び?」  
 きょとん、とした少女は、どんどん近づいてくる魔法使いの美貌に慌てて目を閉じる。  
「ん……ッ!」  
 深く重ねあわされ、ゆっくりと少女を味わって離れていった唇に、頬を赤くしながら「これが  
お詫び?」と、ソフィーはひどく嬉しそうなハウルを睨みつけた。  
「うん、お詫び。こんなものでいいかな?」  
 無邪気な様子で首を傾げる、完全にわかっていてやっている仕種に少女は頬を膨らませ、  
首筋にかかる黒髪を捕まえた。  
「――――――わたし、たくさん悲しかったんだから、この程度じゃ足りないわ」  
「仰せのままに」  
 
 さきほど煽った熱が炎になるように。魔法使いは少女に再びキスをする。  
 ちゅぷ、と含みきれなかった唾液が少女の顎を伝っていった。  
 その流れを舌で辿りながら、ハウルは手際よく少女を脱がしてゆく。それと一緒に自分の  
服も脱いでいくのを、手を伸ばして手伝いながら少女はポツリと呟いた。  
「ハウル、寂しそうな顔をしてたわ」  
 脱ぎ捨てたシャツをベッドの下に落としながら、魔法使いは少女の顔を覗き込む。  
「それは、さっきの、ぼく?」  
「うん」  
 はあ、と愛撫に息を弾ませながら、少女は頷いた。  
「あ、さっきの、ハウル、すごく……寂しそうだった」  
「そうだね」  
 快感に熔けて行く少女の顔を見つめながら、ハウルも呟くように囁いた。  
「あの頃は、おじさんももういなくて、魔法学校もいやでたまらなくて、カルシファーしか側に  
いなくて」  
 でも、心をなくしてたせいか、あれが寂しいっていう状態なのも、よくわかってなかったよ。  
 睦言めいて耳に流し込まれる言葉に、ソフィーは悦びからだけのものではない涙を浮かべた。  
「わたしが、側にいられればよかったのに」  
 叶うはずもない、けれども純粋な願いに魔法使いはゆっくりと笑う。  
 少女の言葉が嬉しかったのだと、この魔法使いの心を暖めたのだと判る微笑だった。  
「いてくれたよ」  
 うやうやしく、少女の白い肌の上に所有のしるしを刻み込んでゆきながらハウルは言う。  
「君はいつだって、ぼくの側にいてくれたんだ」  
 そして、約束の通り、ぼくに会いに来てくれた。  
 
「は、ぅあっ、あ、ハウル…ッ!」  
 くちゅ。  
 既に充分潤っている泉をかきまわされて、ソフィーは背を逸らした。  
「ハウル、ハウル、…好きよ、あなたが、好き…ッ」  
「ぼくもだ。愛してるよ、ソフィー。君だけを」  
 はじめて約束を交わしたときからいろいろなことがあった。お互いが側にいない時間を、二  
人は随分長く過ごしてきたけれど、それもこうやって一つになるために必要な時間だったの  
だろう、と、今は素直に思うことが出来る。  
 大事なのは、この瞬間に、目の前に愛する人がいて、その人からも愛してもらえるというこ  
とだった。  
 片手を強く握り締めあったまま、ハウルは少女の中に潜り込む。  
 暖かく潤った秘所はハウルの高ぶりを優しく受け止めた。  
「は、ああああっ、ああっ!」  
「ソフィー…いいよ。すごく、いい」  
 先端を埋め込んだだけで待ちわびたように締め付けられてハウルは反射的に奥歯を噛み  
締める。  
 今まで経験した女性たちの誰も、これほどの快感をハウルに与えることはなかった。  
 少女のつたない反応は、どんな極上の媚薬よりもハウルを煽り立てる。  
「あ、わたし、も……ハウル、気持ちいいの…!」  
 酔ったように叫んでしがみつく少女の腰を抱えあげ、律動を開始する。  
 抜き差しだけの単純な動きのはずなのに、脳みそがゆだってしまいそうな快感があった。  
「は、あ、あ、あ…ッ!」  
 濡れた音と少女の甘いため息が月光の照らす部屋に降り積もる。  
「あ、ハウル、ハ…わ、わたし、もう…ッ!」  
「いいよ、二人でいこう…!」  
 
 最奥までを何度も突き上げられて、ソフィーは悲鳴を上げる。締め付ける動きに、ハウル  
もぎゅっと眉を寄せた。  
「ソフィー、ソフィー……!!」  
「あっ、ハウル、ぁあ、ああああ、あ――――!」  
 打ち付けられる熱い飛沫の感触に、ソフィーは長い絶頂の声をあげた。  
 そのまま、重なってきた恋人の重みをどこか面映い気持ちで受け止める。  
 とても幸せで、とても、心地いい。  
 だるい腕を伸ばして、魔法使いの背に回した。  
「ハウル……あなたに会えて、よかったわ。わたし」  
「おばあさんになったり、兵隊に追いかけられたりしても?」  
「おばあさんになったり兵隊に追いかけられたり、緑のねばねばを掃除したりする羽目に  
なっても」  
「ここでそれを言うかな」  
 情けないハウルの顔に、ソフィーはくすくす笑いを押し殺す。  
「いいじゃない。だって幸せなんだもの」  
「ぼくも幸せだよ」  
 ちゅ、と降ってきた軽いキスを笑いながら受け止めたソフィーはまだ自分の中から出て行っ  
てなかったハウルの反応に慌てて目を見開いた。  
「ハ、ハウル!?」  
「で、まだまだ幸せになりたいなって、思うんだけど」  
「え、あの、その、ちょ、ちょっと…あんッ」  
 達したばかりの敏感な場所を突き上げられて、ソフィーは濡れた声をあげる。  
「やだ、そんな何回も体、持たないわよう…ッ」  
「だいじょうぶだいじょうぶ」  
「大丈夫じゃないわー!!」  
 そんな二人を月だけが見守っていた。  
 
 
おしまい  

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