「…じゃあ、行ってくるよ」  
お師匠はそう言うと、僕らの目の前にもかまわずあの人の顎を引き寄せ、『んーっ』と口付けた。  
子供の時分から見(せつけられ)慣れてはいるけれど、最近とみにチョーシが狂う。  
僕だって、いい年だ。  
ガールフレンドの一人くらいはいる(まだ手もつないではないけどさ)。  
でも、小さい時分からこうも見せ付けられ――相変わらず魔法で端麗な容姿を保っている師匠と、僕よりずっと年上なんだけどいつまでたっても可愛らしい、星色の髪をしたあの人は口惜しいけれどとてもお似合いで――  
彼女は何年たっても師匠しか目に入らないみたいで、“恋する女”ってこうも可愛らしいのかと別に疾しい心もない僕でも時々ちょっとドキっとさせられたりする。  
綺麗で優しくて、気が利いてよく働いてちょっとドジで何にでも一所懸命で…  
こんな女性が自分のこと一途に想ってくれるのは、たまらないよな。  
なんかこう、――清楚なんだけどそれゆえの色気もあってさ…  
「…ル。マルクル?」  
「あっ、はい!ハウルさん!」  
「――大丈夫か?なんか変だぞ…心配だな。いいかい。  
 僕が留守にする間、頼んだよ?  
 僕 の 代 わ り 。  
 ソ フ ィ ー の 事、頼 む よ 」  
『いいんですかっ!?』――あぶないあぶない。さすがに口走りはしなかったけど。  
「はい。いってらっしゃい、ハウルさん。」  
すました顔で取り繕ったつもりだけど、…あの表情は、お師匠…いや、まさかね。  
「…ああ、そうだ。  
 国王からきてたあの依頼、アレもやっとくように。  
 あれくらい一人でもうできるだろう?」  
……うっ。あんな高度なの、ぼくのちからじゃ三日は徹夜だ…  
さすがお師匠(のヤキモチ)、ぼくがよからぬ事出来ないようにこんな課題―…っていうか、しませんから!!“よからぬ事”なんて!!!  
思わずため息をついたぼくを、ソフィーが見てくすくすっと笑う。  
「お茶入れてあげるわね」  
最後にもう一度、ふたりのキス(だからお師匠、長いって!なんで目だけこっち見てるんですか!!)を見せられながら、心に誓った。  
あの子と次にデートする時はちょっとは進展しよう。身がもたないよ。。  
――いや、とりあえず今は課題。課題だ。ふう…  
 
 

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