「おはよ、カルシファー。早く起きてね。」  
いつものように、カルシファーはソフィーの挨拶で目が覚めました。  
ぼんやりした視界に飛び込んでくるのは、見慣れた台所の風景。そして、ソフィーの笑顔。  
ただ、少し違っていたのは…・  
「いやねえ。また寝ぼけて台所で眠ってたの?風邪引いちゃうでしょ?」  
え…?  
そこで初めて、カルシファーは、視界の中に「暖炉」がある事に気がつきました。  
と、いう事は…  
「!!!????」  
なんと、カルシファーは台所の椅子に座っていました。  
姿もいつものような炎の形ではありません。そう、この姿は…・  
「オオオオオオオ…・・」  
意味不明の言葉を呟きながら、カルシファーは台所を飛び出していきました。  
 
廊下の鏡に映っていたのは…・・それはそれは美しい若者でした。  
真っ赤に燃えるような紅い髪と同色の、形のいい切れ長の瞳、どことなくセクシーな口元。身長は中くらいですがすらりと足が長く、黒い絹のシャツが良く似合っています。  
「オ、オイラ…・どうしちまったんだよ?」  
カルシファーは自分の姿にうろたえていました。  
昨夜は、いつものように家族が全員入浴を済ませた後、暖炉の灰の床でぐっすりと休んでいたはずです。  
そして、これまたいつもの朝のように、暖炉の中で目を覚ます…はずが。  
「何でだよう…。」  
そう、今のカルシファーは、どこをどう見ても人間の青年――――それも、ハウルに勝るとも劣らぬ美青年の姿でした。  
「一体何が…・」  
未だに事態を飲み込めないまま、廊下で呆然と立ち尽くしていると、部屋の扉がひょこっと開き、マルクルが出てきました。  
「おはよう、カルシファー。」  
「お・・おはよう、マルクル。」  
「何ぼーっとしてるのさ。朝食作るの手伝わないと、ソフィーに叱られちゃうよ?」  
言って、マルクルはカルシファーの手を引っ張りながら台所へと入っていきました。  
 
ソフィー、マルクル、元荒地の魔女、そしてヒン。いつもと変わらぬ朝食です。  
「あの…ソフィー。ハウルは?」  
「昨日から出張よ。しばらく帰らないっていってたじゃない。カルシファー、スープのお代わりは?」  
「あ、ああ…頂きます。」  
空になったスープ皿を渡しながら、カルシファーはちらっと暖炉に目をやります。  
そこには至って「普通の火」が赤々と燃えていました。  
(皆、おいらの姿を見て何も疑問に思わないのかな・・?)  
そう、誰も何も言わず、いつもと変わらぬ振る舞いです。まるでカルシファーが昔からこの姿であったかのように…。  
(うーん…。)  
何かが喉につかえたような、今いちすっきりしない気分のまま、カルシファーは黙々と朝食を食べ続けました。  
 
もやもやとした気分が晴れないまま、それでも1日が過ぎ…・・何時の間にか、夕食後になっていました。  
「カルシファーは相変わらず食べっぷりがいいわねー。好き嫌いもないし、本当に作りががいがあって嬉しいわ。」  
ソフィーはにこにこしながら、洗ったばかりのお皿をカルシファーに渡します。  
「いや、だって・・ソフィーの作るご飯は本当に美味しいし。」  
赤面したのを見られないように、顔をそらしながらカルシファーはクロスでお皿を拭いて積み重ねます。  
「ふふふ、ありがと。あ、拭いたお皿は右上の戸棚にしまってね。洗いもの手伝ってくれて助かったわ。」  
「あ・・いや・・その…」  
ますます赤くなった顔を見られない為に、カルシファーはしっかりソフィーに背を向けて、震える手で食器を戸棚にしまいました。  
 
「人間」のカルシファーの寝室は、暖炉の中を思い出させるような、グレーの調度品で統一された部屋でした。  
「ここが…おいらの部屋…。」  
思わず、おそるおそる足を踏み入れ、何となく辺りを見渡しながら、ベッドにそっと座り込みます。  
「へえ…」  
座り心地はなかなか悪くはありません。  
腰掛けたベットから見えるのは…洒落たデザインのナイトテーブル、小さなタンス、シルク地のカーテン付きの出窓。  
こんな素敵な部屋で生活出来るのなら、人間の姿も悪くないなあ…・・。  
1人カルシファーがニヤついてると、  
「カルシファー、入ってもいいかしら?」  
ドアの向こうからは、よく聞き慣れた女の子の声がしました。  
 
「どうぞ?」  
「ごめんね〜。忙しくて〜」  
カルシファーがドアを開けると、腕に大きな布と毛布を抱え、よたよたとソフィーが入ってきました。  
「あなたの毛布とベッドカバー、今朝取り替えなきゃと思ってたのに、すっかり忘れてたの。今になって思い出して…・本当にごめんね。」  
どさっと腕の中の荷物をベッドの上に放り投げると、早速枕カバーからとり外していきます。  
「そんな…おいらが自分で…」  
言いかけ、カルシファーは自分がベッドメイキングのやり方など知らないのに気が付き、  
「…いや、ありがとう。ソフィー」  
仕方なく、窓際にぼんやり立って、ソフィーの仕事をぼんやり眺めていました。  
(それにしても…・)  
ソフィーの手際の良さは、まるで1種の魔法でした。  
さっとシーツを矧ぎ、毛布と布団をどかすと、瞬く間に真新しいシーツをセットし、枕カバーを取り替えます。  
(さすがだよなあ…)  
感心しながらソフィーを見ている内に、カルシファーはつい最近の昔を思い出していました。  
 
初めて彼女に会った時の事はよく覚えています。  
人を恐怖に陥れる、誰もが恐れる火の悪魔…・そう、自分が支配する「動く城」に突如侵入した老婆。  
腰は曲がっていて、肌は皺だらけで…でも、目だけは異様に綺麗で勝気そうな光を放っていて…・  
まるで若い娘の瞳みたいだと思ったのをよく覚えています。  
そして、その突然の彼女の訪問が、今までの城の生活を一変させました。  
何しろ、彼女は、老婆の癖に城の住人一番の凄まじい働き者で、しかも周りをやたらと騒動に巻き込む癖があったのです。  
悪魔の自分を無理矢理働かせようとするわ、暖炉の中から出そうとするわ…挙句の果てには水もかけられました。  
姿だって…・呪いをかけられていたのには気が付いていましたが、まさか本当にあんなに若い女の子とは思ってもいなかったのです。  
 
(でも、元気の良さと無謀っぷりは元に戻っても変わらないよなあ…)  
「ちょっとカルシファー、何笑ってるのよ?」  
気が付くと、仕事を終えたソフィーがこちらを軽く睨んでいました。  
「え・・?オイラ、笑っていた?」  
「ええ。思いっきりいやらしく笑っていたわ。まるで誰かさんみたいに。」  
言って、彼女はベッドに腰かけてそっぽを向きます。  
(そっか…・。)  
彼女のいう「誰かさん」の正体は、言わずともわかります。  
「寂しいんだね。ソフィー。」  
「え…」  
「ハウルがいなくてさ」  
「別に…」  
「だからそんな事言うんだろ?君は。」  
カルシファーも寄り添うようにベッドに腰かけました。  
「家事に夢中になって強がるのもいいんだけどね。でもさ…」  
そう。自分はーーーーーーー  
「ソフィー」  
「…何?」  
恐怖の火の悪魔、誰もが恐れるカルシファー。  
(でも今のオイラは…)  
廊下の鏡で見た、自分の姿が浮かびます。  
「…ソフィー」  
もう1度、彼女…愛しい彼女の名前を呼ぶと、カルシファーはゆっくりとソフィーを押し倒しました。  
 
プラチナブロンドの髪がふわりと広がり、白い肌がさっと紅色に染まり…大きな瞳が一層大きく見開かれ…・・  
目の前の、彼女のあまりも美しい姿に、カルシファーは思わず息を飲みます。  
「ね…やめて?」  
僅かに震えを帯びた…それでもはっきりした声で、ソフィーはカルシファーに呼びかけました。  
「冗談でしょ・・?いつものようにふざけてるんでしょ?ね?」  
(そっか…)  
口では否定を言葉を呟くも、彼女の体が全く抵抗しようとしないのは…  
「本気だよ」  
そっと体を屈め、耳元で囁きます。  
「ソフィーはオイラがふざけてると思ってるんだね?でもね…オイ…いや、オレは本気だからね。」  
本気だから…本気で君を抱きたいと思うから。  
「ねえ、ソフィー。」  
抵抗して。本気でオレを見つめて。オレと真剣に向き合ってーーーーーーー  
「カルシファー…」  
「君はオレの事を好きでいてくれていて…・」  
言いながら、カルシファーは彼女のおでこにキスを落とします。  
「でも…君が『男』として好きなのは、あいつだけなんだ。」  
「わかってるなら何故…」  
「だからだよ。」  
彼女の言葉を遮り、今度はほっぺたに。  
「オレは悪魔だからね。人を…君を不幸にしなくてはいけないんだ。」  
心にもない言葉。しかし、悪魔の我が身にはきっとふさわしい・・・・  
言い放つのと、彼女の唇を奪うのはほぼ同時でした。  
 
プラチナブロンドの髪がふわりと広がり、白い肌がさっと紅色に染まり…大きな瞳が一層大きく見開かれ…・・  
目の前の、彼女のあまりも美しい姿に、カルシファーは思わず息を飲みます。  
「ね…やめて?」  
僅かに震えを帯びた…それでもはっきりした声で、ソフィーはカルシファーに呼びかけました。  
「冗談でしょ・・?いつものようにふざけてるんでしょ?ね?」  
(そっか…)  
口では否定を言葉を呟くも、彼女の体が全く抵抗しようとしないのは…  
「本気だよ」  
そっと体を屈め、耳元で囁きます。  
「ソフィーはオイラがふざけてると思ってるんだね?でもね…オイ…いや、オレは本気だからね。」  
本気だから…本気で君を抱きたいと思うから。  
「ねえ、ソフィー。」  
抵抗して。本気でオレを見つめて。オレと真剣に向き合ってーーーーーーー  
「カルシファー…」  
「君はオレの事を好きでいてくれていて…・」  
言いながら、カルシファーは彼女のおでこにキスを落とします。  
「でも…君が『男』として好きなのは、あいつだけなんだ。」  
「わかってるなら何故…」  
「だからだよ。」  
彼女の言葉を遮り、今度はほっぺたに。  
「オレは悪魔だからね。人を…君を不幸にしなくてはいけないんだ。」  
心にもない言葉。しかし、悪魔の我が身にはきっとふさわしい・・・・  
言い放つのと、彼女の唇を奪うのはほぼ同時でした。  
 
重ね合わせた唇の奥に強い力を感じ、カルシファーは一旦口付けをやめました。  
「ちょっ・・・」  
「『彼』ともキスする時は、こんなに歯を食いしばるの?」  
嘲笑するようにそう言って、彼女の開きかけた唇を再度ふさぎ、素早く彼女の口内へと侵入を試みます。  
「ん・・・・・・」  
絡め取った舌と吐息の熱を堪能しながら、彼はソフィーの体にへと手を伸ばしました。  
細い産毛の生えた首筋、弾力を持つ胸、細いウエスト、意外と重量感があるヒップ、すらりとした足・・・と、文字通り足の爪先まで軽く撫で上げると、今度は来た道をたどるかのように、下から上へと撫で上げていきます。  
「ん・・・ふう・・・」  
彼女の体温が僅かに上昇してきているのを、カルシファーが見逃す訳はありませんでした。  
「いけない子だね・・・君は・・・」  
しっとりと艶のある声で囁き、今度はゆっくりと首筋から耳へと舌を這わせ…・  
「ふぁ…や…やあんっ…。」  
(やっぱりここが弱いんだね)  
カルシファーは時折盗み見ていたハウルとソフィーの睦み合いを思い出していました。  
 
ハウルは決まってソフィーと深い口付けを交わした後、彼女の首筋や耳を唇でなぞっていました。そうすると、戸惑い気味だったソフィーもたちまちぐったりとして、ハウルに身を預けてしまうのです。  
「駄目え…・そんな事ぉ…。」  
「そんな甘い声で言われてもね〜」  
面白がるかのようにそう言いながら、カルシファーはひょいひょいと、ソフィーの体を大の字のポーズにしました。  
「…?…!?」  
一瞬怪訝な顔をしたソフィーですが、次の瞬間、びっくりしたように大きく目を見開きました。  
「や・・ちょっ…何これ!?」  
何かに押さえつけられている訳でも、縛られている訳でもないのに…・何故か体は大の字になったまま動きません。  
「悪魔の魔法だよ。簡単には解けないから、ちょっと我慢していてね。」  
言いながら、早くもワンピースに手をかけるカルシファー。  
まるで紙で出来てるかのように、ワンピースはあっさり縦2つに引き裂かれ、スリップも勢い良く捲り上げられました。  
 
「いやあ!馬鹿!見ないでよおお!」  
露わになった乳房を隠す事も出来ない代わりに、ソフィーは思いっきり声を張り上げて威嚇します。  
「ごめんね。恥ずかしい?」  
言葉とは裏腹に、ちっとも気の毒がっている様子を見せる事もなくーーーーカルシファーはソフィーの乳房の先に口付けました。  
「やだ…・やめて…・や…んっ…」  
魔法使いの恋人に開発された故かーーーーー乳首を強く吸われると、つい反射的に甘い嬌声を上げてしまいます。  
「あ…・駄目え…」  
少し荒々しく乳房を揉まれる感触にも、ついつい刺激されてしまい……  
「だから駄目だって…・やっ…本当に…・・」  
恥ずかしいポーズをとらされたまま、身動きとれずに淫靡な行為をただ向かい入れる…・そんな状況に興奮している自分に気が付き、ソフィーは不意に涙が滲んできました。  
相手は恋人以外の男…しかも自分の家族の一員なのです。ハウルの留守中に、家族間同士で…こんな…・  
「ん……っ。」  
勢い良くドロワーズを降ろされる感触に、ソフィーはびくっと身を震わせました。そして、次に行われるであろう行為に覚悟を決め、ゆっくりと目を閉じ……  
 
「…・・?」  
何となく一変した空気を感じ、ソフィーはうっすらと目を開けました。目の前の至近距離には相変わらずカルシファーの姿。彼の目は、露わにされたばかりのソフィーの秘所を見つめているのかと思いきやーーーーー  
「カルシ…ファー…?」  
何と彼は目を閉じていました。そして頬には……。  
「どうしたの…?カルシファー…・?」  
「ソフィー…オレ…・」  
「カルシファー…」  
いつの間にか自由になっていた体を起こし、ソフィーは自分の状況も忘れ、カルシファーの頬の涙を指でそっと拭いました。  
 
 

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