窓からは朱い日が差し込んでいる。それは彼女の星色の髪も朱く染め、彼女の体の線をもなぞっている。  
伏せられたブラウンの瞳は熱っぽく潤み、長い睫毛が薄く影を落としていた。視線は正面を床に落ち、  
口元はそんな自分を恥じるかの如く軽く引き締まっている。  
「早く、もっと……こっちに……」   
 彼女は目を合わせないまま、切なく呟く。とろかすような光景にごくり、と喉が鳴る。  
 彼女の言うとおりに近寄って、二人、ベッドの端に座り込む。濡れた瞳の彼女は、どこか艶かしい。  
彼女は私の手を取ると、指先を舌で舐め始めた。温かくて柔らかな彼女の舌先。指と指の間も丁寧に  
舐めとり、中指を口に含んだ。ちゅぷっと音がして粘膜に包まれる。唾液は彼女の顎を伝い、いつの  
間にかはだけられた彼女の胸元に零れている。  
「んふっ……」  
 生殖器を舐めるようにやらしく舐る。  
「…ふ…ぅ…」  
 口を離すと糸を引いた。夕日に糸が煌く。  
 くす、と彼女は赤く染めた頬のまま微笑んだ。肩をつかんでゆったりとベッドに押し倒す。細い肩  
の感触に今更ながら胸が高鳴った。  
 ふと胸を見やれば、下着も身に着けないままに服を着ていたのか、あの青い布地越しに胸の先端が  
尖っている。思わずそこを摘み、指でくるくると刺激を与えると彼女は荒い息を吐いた。  
「…ここ、も…」  
 お願い、というようにスカートを捲りあげると、内腿を濡らす彼女のそこがある。  
「ソフィー…」  
 名前を呼ぶと彼女は誘うように笑った。欲した人はようやくこの腕の中にいる。そう思うと中々に  
感慨深い。  
 感触を、匂いを、全てを焼き付けるように抱きしめれば、彼女は身じろぎした。おかしなことに、  
その瞬間さっきまであった彼女の感触とは違うものが腕の中にある。  
彼女の頭が動いて、こちらを見た。  
「若いっていいねぇ」  
 先程とは全然違う声。このひとの顔を見た覚えが確かにある。  
「ご馳走様」  
 元荒地の魔女がにやにや笑ってそこにいた。  
 
「具合はどう?」  
 目を覚ませば、そばにカップの乗った盆を置く魔法使いの姿があった。  
…………夢?  
 さっきのはどうやら全て夢だったらしい。湧き上がる微妙な感覚。一体なんだったのだろうか。   
ここのところ公務続きだったため恐ろしく欲求不満なのか、いや、最後があんな終りだったのは  
何か意味が―――?  
 深く意味を考えるのは止しておこう。どうせ夢、高が夢なのだ。  
「戦争の後始末、まだ大変なのかい?」  
「ええ。後始末程厄介なものはなくて」  
 本当に、壊すのは簡単なんですけどね、と言いかけてはたと気づく。ブランケットをかけられて  
ソファーの上に寝かされている。そうだ、自分は倒れたのだ。霞がかった頭がやっと冴える。  
 ことの始まりはお昼ごろ。ソフィー(とハウル)の城にやって来たものの、出迎えたのはハウルと  
カルシファーのみ。ソフィーもマルクルもおばあちゃんも一緒に買い物にいったということだった。  
そうですかと言った後、急に意識が途切れて……後は覚えていない。  
「ソフィー達が出払ってるって言った途端いきなり倒れるから、僕もカルシファーもびっくりしたよ」  
「……申し訳ありません」  
 半身を起こして項垂れる。  
 王子たるもの、これは粗相をしてしまったと心から恥じた。原因は分かっている。ここのところ  
寝ていない為だ。公務に励むあまり、つい眠るのを忘れるなんてよくある事だった。今日もその関係  
でペンドラゴンの店の在る街を通りかかり、またソフィーに会いたいなどとふわりと考えに  
至った。この真面目な王子にしては気まぐれな訪問。勿論留守であればすぐに戻るつもりであったし、  
長居するつもりも毛頭なかった。あの笑顔を軽くでもいいから見られれば、すぐに元気になれそうな  
そんな気がしていた。  
 
「疲れているならしょうがないよ。これ、ハーブティー」  
「頂きます」  
 熱いから、と湯気のたつカップを渡され、息をカップの中に向かって吹きかければ、湯気は散り散り  
に消えまた元に戻った。冷まされたそれを、少しだけ飲む。王子である自分はこのハーブティーよりも  
何倍も上質なものを飲んでいる。しかしここのお茶の味にはそれらが束になっても敵わないように思う。  
何故か心からほっとするのだ。テーブルを囲んでの団欒。賑やかな笑い声。どこか落ち着くような  
懐かしいような、そんな雰囲気がこの城には染み付いている。  
『我が家族はややこしいものばかりだな』  
 案山子だったころにそんな温かな言葉をよこしたのは、目の前の魔法使いだった。どこの者とも知れ  
ない自分を家族と。この手に持ったカップのように、じんわり温かくなる。  
「眠ったら少しは疲れ、とれたかい?」  
 少しばかり感傷的になる彼に、魔法使いが尋ねた。  
「おかげさまで。礼を言います」  
 カップを一旦置いて、丁寧に礼をする。さっきの夢はある意味疲れを増やすものだったが、この際  
それは忘れて、この優しい魔法使いに感謝すべきだろう。   
 魔法使いがそんな王子を見て、妙なくらい陽気に告げた。  
「君、熟睡してたから『いい夢』をと思ってさ」   
 再び手に取ったカップの、その湯気の向こうで魔法使いと目が合う。  
「いい夢を見られるようにって。調合してたまじない、ついでだから試してみたんだよね」  
 もし彼が王子でない身ならば、思い切り吹いていたところであろう。しかし流石は、というべきか  
表情を変えない。というか、既に固まっていて動いて無い。底の方に半分ほど残したまま、ハーブ  
ティーは熱を失いつつある。  
 
「……それはどういう……」  
「ん、教えない。それでどう?どんな夢だった?」  
 まさか貴方の恋人を抱いていて、それが元荒地の魔女に成り代わった夢でしただなんて言える  
はずもなく。目をイキイキさせながら夢の内容を聞く辺り、自分がどんな夢を見たかは悟られてはいま  
い。これが本当にいい夢を見せるまじないなら失敗作だ!と声を大にして言いたいところであったが、  
まさかハウル程の魔法使いがこんな失敗作をおいそれと人に使うわけがない。ああ、これはつまり。  
――明らかな嫌がらせだ。  
 恋敵は相変わらず、どこかしらにやりと笑っているような、しかしそれを敢て表に出さないように努め  
ているような顔をしている。  
「……結構根に持つ方なんですね、貴方は」  
「ソフィーのことならね」  
 多分、いや絶対前に城を訪れた時のことだろう。  
 温かかったカップからは、既に湯気が消えていた。  
 

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