レティー・ハッターはがやがや町で一番人気のカフェ、  
チェザーリの看板娘です。  
豊な金髪が自慢の美少女で―――まぁ、化粧が少しばかり濃いのが  
難点ですが―――愛想が良くて頭の回転も早く、客あしらいも上手でした。  
彼女が店に出ると、そのレジには男達が群がっていきます。  
その有様はすごく、彼女が店に出る日とでない日では売上が倍近く違う、  
と噂されるほどです。  
レティーは今日もいつもと同じように店に立っていました。  
すんなりとした指がリボンを結ぶたびに、  
群がっている男達からため息が漏れます。  
「レティー、今日も美人だね」  
「レティー、この後の予定は?」  
「レティー、パーティがあるんだけど、一緒にいかないかい?」  
 お金を払い、商品を受け取るまでが彼らに与えられたアピールタイムです。  
毎日飽きもせずに彼らはやってきて、クッキーやらケーキやらを  
買っていきます。  
「あらぁ、ダメよ。あたしはここの店員。あなただけ特別扱い出来ないわ」  
暗い赤茶の髪の男に口説かれた時、レティーはにっこり笑って断りました。  
しかし、男がしゅんとうな垂れた時に、レティーは胸が苦しくなるのを感じました。  
慌てて取り繕うようにまくし立てます。  
「冗談よ。私、今日は姉に会いに行くの。だからまた今度誘って」  
男がぱあっと笑顔を浮かべました。どうしてこいつにだけ、と周りから  
文句が飛び交いますが、理由なんてありません。  
ただ、男の髪が暗い赤茶だったから。それだけです。  
 
その日、チェザーリが閉店してからレティーは部屋に引っ込み、  
身支度を整えました。いつもより念入りに化粧直しをし、襟の高いくすんだ  
赤のドレスを着ます。ハイヒールの靴音も高らかに街を闊歩するレティーを、  
振り返らない人間はいませんでした。何人ものナンパ男を振り切りながらも、  
レティーは教えられた住所へと辿り着きました。  
 
そこは、かつてはレティーが住んでいた帽子屋でした。  
母の再婚を機に売ってしまったのですが、何の因果か姉はまた  
ここに住んでいる様子です。  
ジェンキンス生花店、とガラス戸に書いてありました。  
そういえば、ここの噂は何度か耳にしています。  
なんでも、美しい夫婦が営んでいる花屋だそうで、夜色の髪の旦那は  
とんでもない美形で口が上手く、気がつくと両手一杯の花を買わされてるとか、  
星のような銀髪の奥さんは若くて美人で、おまけに彼女の作った花束は  
夢のように可愛らしいとか。  
みんな困ったような、でも楽しそうな口調でその不思議な花屋の話をしていました。  
「ふーん、なかなか流行ってるみたいね」  
CLOSED、という看板が揺れているガラス戸の中はほの明るく、清潔でした。  
同じ客商売をしてるものから見ても、人の出入りが多いのは見て取れます。  
裏手に回って住居のドアをたたきます。呼ばれた時間より大分早かったのですが、  
あの姉のことです。時間を持て余しているに違いありません。  
 
「……留守?」  
 返事が返ってこないのでレティーが首を傾げていると、  
出し抜けにドアが開きました。ぱあっと明りが漏れ、レティーを照らし出します。  
「はいはいっ、ごめんなさい!!」  
 騒々しい音を立てて現れたのは、銀髪の髪の女の人でした。  
ここの奥さんかしら、とレティーが彼女の顔を見つめた時、  
あることに気付きました。  
「姉さんっ!?」  
「まぁ、レティー!早かったのね!」  
目の前に立っているのは間違いなくレティーの姉、ソフィーでした。  
しかし、レティーの記憶の中にいるソフィーとは大きく様変わりしています。  
沈んだ赤茶の髪は銀に変わり、陰気だった顔は明るく輝いていて、  
美人と名高いレティーすら霞んでしまうほどです。  
「ね、汚い家だけど上がって!待ってたのよ!」  
ソフィーは心底嬉しそうに笑うと、レティーの背中に手を廻して  
家に招き入れました。心なしか頬は紅潮し、目は潤んでいます。  
再会がそんなに嬉しかったのかしら、とレティーはとても嬉しくて  
楽しい気分になりました。  
 
「ソフィー、誰か来たのかい?」  
階段を上がると、とんでもなく綺麗な顔をした男の人が現れました。  
レティーが思わず目を見開き、ソフィーに耳打ちします。  
「誰?この人」  
ソフィーはにこにこしながらその人を手招きし、レティーと引き合わせます。  
「ハウル、この子がレティー。可愛いでしょう?  
レティー、この人はハウル………魔法使いのハウルよ」  
「えっ!?」  
レティーは弾かれたように後ずさりました。ソフィーは咎めるように  
レティーを見ましたが、ハウルは気にした様子も無く、嬉しそうに笑っています。  
「よろしく、レティー。話は聞いてるよ。本当に綺麗なお嬢さんだね!」  
「よ、よろしく……あなた、本当にあの『ハウル』なの?」  
レティーは差し出された手をこわごわと握りながら彼に訊ねました。  
ソフィーが慌てて口を挟みます。  
「レティー!」  
「だって姉さん!無事なの?!」  
レティーが涙目でソフィーに詰め寄ります。ソフィーは苦笑いを浮かべると、  
レティーの肩をたたきました。  
「無事よ無事。あの噂は大嘘ね」  
「いや、あながち嘘じゃないんじゃない?」  
ハウルが楽しげに言いました。レティーが彼を見上げ、首を傾げます。  
「だって、ソフィーの心臓は僕のものだから」  
ね、と同意を求められ、ソフィーは真っ赤になりました。  
意味がつかめずきょとんとしていると、ソフィーが恥ずかしそうに言いました。  
「………結婚したの。私達」  
乾いた笑いを浮かべ、今度こそレティーは二歩ほど後ずさりました。  
 

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