それは、ソフィーが夜中に目を醒ました事から始まりました。  
「・・・?」  
誰かが自分を呼んでいる、そんな気がしたのです。しかも、やたら苦しげで・・・  
「誰?」  
空耳ではないと確信し、ソフィーはすっとベッドから出ると、皆を起こさぬように注意しながら静かにドアを開け、廊下に出ました。  
「誰なのかしら・・・?」  
足音を立てぬように用心しながら、ゆっくりと廊下を歩くソフィー。呼ばれているような気がする・・・その方向へ向かうにつれて、あの時の光景が脳裏に浮かびます。  
黒い羽毛に包まれた体・・・虚ろな瞳・・・  
「まさか・・・!」  
すぐにでも愛しい魔法使いの名前を呼びたい衝動に駆られましたが、同時に他の城の住人の事を思い出し、安易に事を荒立てるのは良くないとすんでのところでソフィーは我に返りました。  
でも・・・この声は・・・・  
「ハウ・・ル・・・?」  
小声で彼の名前を呼びながら、ソフィーはハウルの部屋に忍び足で近づいていきます。  
間違いありません。荒い息遣い・・苦しそうなうめき声・・・・  
「ハウル・・・あなた・・・」  
ソフィーがドアの隙間からそっと中の様子を伺うと・・・・  
「そっ・・・・ふぃー・・・・」  
大きなベッドの真ん中に座る彼の姿がありました。  
とりあえず、姿はいつもの彼です。緑色のネバネバを出している様子もありません。  
しかし、額に汗を浮かばせて、うつむく彼の姿はどこか苦しそうです。  
「・・・・?」  
 
何故か高鳴る心臓を抑え、ソフィーは彼の顔から胸、そして腹部の方へと視線を移そうとした時・・・・・  
「ックシュ!」  
寒い廊下に寝巻きのままで出たせいか、体が冷えてしまったようです。  
「ソソソソソ・・・・ソ、ソフィー!?」  
途端に、ハウルの体がビクッと跳ね上がったかと思うと、何故か彼は咄嗟に布団を体に巻きつけ、ドアの方を振り向きました。  
「ソ・・・ソフィー・・・何でき、君がこここ・・・・ここに・・・・?」  
「何でって・・・あなたに呼ばれたような気がしたから・・・」  
先ほどとは違うであろう、冷や汗をたらたら流す彼の迫力に押されつつ、ソフィーはボソッと呟きます。  
「そそっそ・・それは君の気のせいだよ・・・。た、多分僕の夢でも見てくれたんだね。」  
「そうなのかしら・・・?でも、ハウル、大丈夫?なんか苦しそうだったけど?」  
「見たの!?」  
「何を?」  
「い・・いや別に。そ、そうだ。カルシファーにミルクを温めてもらうといいよ。彼にちょっと起きてもらおう。」  
「そんな・・カルシファーに悪いわよ・・。」  
「いや、君はぐっすり眠った方がいい。うん、本当に!さ、台所に行ってホットミルク飲んできなさい。」  
「うん・・・でも、ハウル、本当に大丈夫?何で布団体に巻きつけてるの?」  
「い・・いや・・・これは・・ね。何でもないから。」  
「?」  
「ね・・ね、ここで騒ぐとマルクル達も起きてしまうよ。だから早く・・」  
「????」  
いつもの彼らしくなく、妙にどもるハウルを不審に思いながらも、ソフィーは言われるがままに台所に向かうのでした。  
 
そして翌朝。  
「おはよう・・・ソフィー」  
「おはよ、ハウル。昨夜は大丈夫だった?」  
「あ・・う・・うん。」  
どこかバツが悪そうにおどおどしているハウルとは対照的に、ソフィーはいつものように明るい笑顔でハウルの頬にキスをします。  
(良かった・・ばれていないみたいだ。)  
ホッと胸を撫で下ろすハウル。彼はソフィーが純で天然(?)な娘で良かったと、心の底から思いました。  
「おはようございます、ハウルさん。」  
そこへ洗顔を終えたマルクルもやって来ました。  
「あ、ああ。おはよう、マルクル。マダムは?」  
「腰が痛いとかで寝てます。大丈夫ですか?ソフィーから聞きましたよ?ハウルさん具合が悪そうだって・・・。夜中にベッドに座って苦しそうにしていたって。」  
「・・・・。」  
・・・前言撤回。  
「な、何でもないよ。さあ、朝食にしよう。」  
努めて冷静を装うと、ハウルはマルクルをテーブルに促しました。  
しかし・・・彼はすっかり油断していたのです。荒野の魔女がいないばかりに。  
いつもと殆ど変わらぬ朝食風景の横で、暖炉の中でニヤニヤと笑う姿がそこにありました。  
 
そして朝食後。  
「本当に大丈夫かしら?ハウル・・・」  
「ん?何がだい?」  
「ん、だからね・・・。」  
食事の後片付けをするソフィー、そばの暖炉で食後のごろ寝をするカルシファー。これも変わらぬ風景です。  
「ほら、夜中に言ったでしょ?ハウル、本当に具合が悪そうだったのよ。」  
「大丈夫、大丈夫〜。ま、女の子にはわからない、『おとこのぷらいべーと』ってやつさ〜」  
「・・・?カルシファーは何か知ってるの?教えてよ。」  
「まあ、察しはつくけどね〜。でも、ソフィーには教えない〜・・・」  
言いかけて、カルシファーは咄嗟に息を飲みます。  
ソフィーの体が瞬時に動き・・・・そのまま、水をかけられると思いきや、彼女は黙って部屋を出て行きます。  
「ソフィー・・?」  
再び台所に戻ってきた彼女が手にしていたものは、何故かごみ箱でした。そして・・・・  
 
「わーっ!ごめん、ごめんなさいっ!言う、言います!だから埃屑を食わせるのだけは勘弁してくれ!おいらが具合悪くなっちまうよ〜!」  
「本当ね?」  
泣き声交じりでカルシファーが懇願すると、ソフィーは持ち上げたごみ箱を静かに床に置きました。  
「・・今、本気でおいらの口に中身ぶちまけようとしただろ・・?」  
「当たり前でしょ。で、何?ハウルの具合悪くなった原因って。」  
「う〜ん・・・やっぱ、ただで教えるのはな〜。そうだ、ソフィー、右の戸棚の中に何かうまそうな物しまってただろ?あれを少しおいらに分けてくれよ〜。」  
「え?あれは夕食に出そうと思っていたのに・・・仕方ないわね。」  
ソフィーはしぶしぶと棚の中からチーズを一切れ出すと、カルシファーの口に放り込みました。  
「う・・うん、うまい。で、ハウルが具合悪そうだった理由だっけ?なんか、息使い荒くしてソフィーの名前呼んでいたんだっけ?」  
「そうよ。ハウルは私の夢だって言うんだけど・・・確かに私の名前を読んでいたのよ。」  
「う〜ん、それはね〜。ソフィーを『おかず』にしてたってやつだね〜。」  
途端にニヤニヤ笑いを浮かべるカルシファー。  
「おかず・・・?」  
おかず・・?何の事かしら・・?おかずといったら、やっぱり食べるおかずよね・・?私が「おかず」って・・?  
頭の中を「?」マークだらけにしていたソフィーでしたが、途端に、帽子屋時代のお客の言葉を思い出しました。  
「動く城の魔法使いは、若い娘の心臓をとって食べるんだって。」  
まさか・・・  
「ハウル・・・あなた・・・」  
「ソ、ソフィー・・・?」  
急に真っ青になったソフィーに、カルシファーがおそるおそる呼びかけます。  
「ハウルが心臓を食べるなんて・・・いいえ、勿論デマに決まってるけど・・でも・・」  
「・・・ソフィーちゃ〜ん〜・・?」  
「やっぱり、主食はパンかしら・・?それともパスタ・・・?じゃなくて!しっかりするのよ、ソフィー!ショックを受けている暇はないわ!」  
「あの〜・・だから・・・」  
急に血の気が引いたと思いきや何やら自分に気合いを入れ始めたソフィーを、カルシファはただ呆然と見つめる事しか出来ませんでした。  
 
夜になりました。  
「ソフィー、やっぱり様子がおかしかったなあ。」  
長い長いお風呂を済ませ、濡れた髪をタオルで拭きながら、ハウルはベッドに腰掛けます。  
「夕食の時、なんか不審な目でじっと僕の事見てた様な気がするんだよなあ。僕だけチーズが無かったし。」  
ぶつくさ呟きながらごろりとベッドに寝転がり・・・ハウルは溜め息をつきました。  
1人には少々広過ぎるクイーンサイズのベッド。まさか、「彼女」は自分の為にハウルがベッドを新調したとは思っていないでしょう。  
ソフィーは元の姿に戻っても相変わらずでした。  
朝早く起きて皆の為に朝食を作り、昼間は花屋の仕事をする傍ら、テキパキと家事をこなします。そして夜も夕食を作ったり昼間の家事の残りを片付けたりと甲斐甲斐しく働き、夜遅くになってやっと自分の部屋に戻ります。  
・・・そう、それが彼女の毎日なのです。朝早くから夜遅くまで、1日中忙しく動き回るソフィーの生活に、ハウルが入り込む余地は全く無いのです。  
自身の臆病さも手伝って、普段はせいぜいキス止まり、たまに花畑でデートしても、あまりにも純粋過ぎる彼女を軽く抱きしめる位しか出来ません。  
自分が今一歩踏み出せないのも原因なのでしょうが・・・彼女があまりにも忙しい生活を送っている事がなかなか進展出来ない理由であると、ハウルは思い込んでいました。  
「だから、これ位は許してよ。」  
誰に言うでもなくハウルは呟くと、枕の下から1枚の銀貨のようなものを取り出しました。  
くるりと手の平の上でひっくり返すと、それはやや大きめの鏡に変化します。  
そして、その鏡に映っていた姿は・・・・・  
 
 
それはほんの偶然から見つけたものでした。  
ソフィーにどやつけられ、ハウルがしぶしぶ自分の部屋の片づけをしていた時、古い箱から出てきたのです。  
普段は銀貨ほど大きさで、ちょっと魔法をかけると鏡ほどの大きさになるこの魔法の道具、ハウルが小さい頃は「これ」を使ってよく悪さをしたものです。  
「あ、やっぱり・・・」  
ハウルが覗き込んだ、その鏡の中では、ソフィーが入浴の準備をしているところでした。  
肩の下くらいまで伸びた髪をまとめていたピンクのリボンをほどき慣れた手つきで結い上げると、するするとワンピース、スリップと服を脱ぎ始めます。  
やがて一糸まとわぬ姿になった時、ハウルは思わず息を飲みます。  
 
形の良い2つの胸のふくらみ、なだらかなウエストライン、白い引き締まったヒップ・・  
彼女が意外と着やせするタイプだという事を、ハウルはこの魔法の鏡を覗き込んで初めて知った事でした。  
「やっぱり、綺麗な体してるよなあ・・・」  
離れている場所の様子を映し出す事が出来るというこの魔法の鏡、何も最初から覗き目的で使っているのではありません。  
たまたま部屋の片づけをしている時に見つけた子供時代のおもちゃを懐かしさから引っ張り出し、家事をするソフィーやあそび回るマルクルの姿を微笑ましく眺めているうちに、  
ある日たまたま入浴中のソフィーの姿を目撃してしまった・・・と彼は自分自身に言い聞かせていました。  
しかし、その「偶然」に味をしめ、最近はソフィーの姿しか観察しないようになったのも事実なのですが・・・。  
 
勿論そんな事も露知らず、ソフィーは鼻歌交じりで湯船につかると、スポンジにたっぷりと石鹸を含ませて体を洗い始めます。  
ハウルはこの時、ソフィーの滑らかな肌の上を滑るスポンジになりたいと本気で思いました。  
「やっぱり、見てるだけじゃ物足りないよなあ・・・ああ、僕があの場にいたら・・・。」  
ここで良からぬ妄想がハウルの頭の中を巡り始めます。  
 
「ソフィー、湯加減はどう?」  
「キャッ!ハウル・・何であなたがここに?」  
言って両腕でその場にうずくまるソフィー。ハウルは腰に巻いたタオルを取ると、ソフィーを優しくバスタブに誘います。  
「僕達は家族でしょ?しかも、特別な・・ね。君と僕との仲で一緒にお風呂に入るのはおかしいかい?」  
「え・・・そんな・・・。」  
「いいよね?じゃ、一緒に入ろう。」  
「う・・うん。」  
ハウルは全身うっすら紅色に染まったソフィーを抱きかかえるようにしてバスタブにつかりました。  
「ソフィー・・・その腕をどけてくれないかな?」  
しっかりと胸を隠しているソフィーの腕を優しく撫でながら、ハウルが耳元で囁きます。  
「えっ・・そんな・・。」  
「そんな風にしていたら、ちゃんと体洗えないでしょ?」  
悪戯っぽく笑いながら、ハウルは石鹸を含ませたスポンジで、優しくソフィーの首筋から胸元を撫で上げます。  
「や・・・そんな・・ハウル・・・」  
「ん?スポンジでこすっても痛いの?じゃ、こうしてあげようか・・・・」  
言ってハウルは石鹸の泡を自分の手の平に乗せると、そっとソフィーの腕と胸の間に滑り込ませました。  
「や・・あん。ハウルぅ・・・」  
「これなら痛くないでしょ・・・?下の方も洗ってあげようね・・・」  
優しく胸を撫で回していた手は、やがて腹部、そしてその下へと・・・・  
 
 
「いやいや」  
ここでハウルは頭を振りました。  
「お風呂だったら逆パターンも悪くないよな・・・ソフィーが僕の為にご奉仕してくれちゃったりして・・・」  
 
 
「ハーウルっ!」  
「ソフィー!?君が何で・・・」  
「私も一緒に入りたいなあって思って。駄目?」  
全裸になったソフィーはニコニコしながらバスタブの中へと入り込んで来ます。  
「ちょ・・ちょっと・・」  
「いいでしょ?私もハウルもお仕事で忙しくて、なかなか二人っきりになれないんだもん・・・。」  
そう言って、胸の膨らみを押し付けるかのようにハウルに抱きついて来ます。  
「ハウル・・・こういうの嫌い?」  
「い・・いや、むしろ大歓迎・・・」  
「良かった。私、普段はマルクルやヒンやお婆ちゃんの相手ばかりして、なかなかハウルのお世話してあげられないでしょ?だから、ハウルにも何かしてあげたかったの・・」  
言って軽く頬にキスをすると、そのまま、耳たぶから首筋へと舌を這わせていきます。  
「ちょっ・・ソフィー・・・!?」  
「お口で綺麗にしてあげるね・・・。」  
言ってソフィーはハウルの乳首をペロッと舐めあげます。  
「う・・・んっ」  
「気持ち良くなってね。ハウル・・・」  
彼女はそのまま舌を下腹部まで移動させ、その下まで到達すると、そっと顔を埋めました。  
「ソ・・ソフィー・・・そんな事まで・・・うっ・・・」  
 
 
「うん、エッチなソフィーも悪くないよな。うん、悪くない。」  
ソフィーの入浴を覗きながら一人で勝手に興奮するハウル。いつの間にか下半身も疼いて来ます。  
「そういえば・・・昨夜は当の本人に邪魔されて、不完全燃焼で終わっちゃったんだよな・・・。」  
 
幸い彼女は入浴中。今がチャンスです。  
ハウルはズボンのファスナーに手をかけ…と、その時。  
「ハウルさーん!」  
「!?」  
自分を呼ぶ大きな声に、ハウルは思わずベットからころげ落ちそうになりました。  
「な、なな何だい?マルクル?」  
「大変なんです!ちょっとこっちに来てください!」  
とりあず一呼吸して自分を落ちつかせ、廊下に顔を出すと、マルクルが必死の形相で手招きしています。  
「お婆ちゃんの腰痛がひどくなったみたいなんです。僕には何も出来なくて…診てあげてください、ハウルさん。」  
「わかった…。」  
はあっと大きくため息をつき、ハウルはとぼとぼと廊下を歩き始めました。  
 
「何でもないようです。大丈夫ですよ、マダム。」  
ベッドに横たわる荒地の魔女の腰を軽く撫でながら、ハウルは弱々しく微笑みます。  
「ありがとね。・・それよりも、あんたの方が元気ないみたいだね、色男。」  
「え?」  
「マルクルから聞いたよ。具合が悪くないみたいだって…まあ、男には色々あるからねえ。」  
言って意味ありげににやりと笑う魔女。さすが年の功、マルクルのさり気ない一言で何かを察したようです。  
「え・・あの…それは…」  
「まあ、我慢出来なくなったら私の所へきなさい。私だってまだまだ現役だよ。」  
「は・・はあ…・」  
弛んだ目でウインクをする荒地の魔女の言葉に、ハウルは引きつった笑顔を浮かべる事しか出来ませんでした。  
 
「ったく…・皆してちょっとした事で大騒ぎするし、僕をからかうし、そしてソフィーはやらせてくれないし!」  
口の中でぶつぶつ文句を呟きながら、ハウルはやや乱暴に自室のドアを開けます。  
しかし、まだ諦めた訳ではありません。施錠と防音の魔法をかけると、ハウルはベッドに腰を下ろしました。  
鏡の中を覗きこんでも、ソフィーはとうに入浴を済ませてしまっています。ハウルもなんとなく気が萎えてしまい、もう入浴の妄想を思い浮かべる気にはなれませんでした。  
しかし…・・  
 
「あら、おかえりなさい、ハウル。今日は早かったのねえ。」  
ドアを開けて入ってきたハウルの姿に気付き、ソフィーはモップがけをする手を止めました。  
「うん。頑張ったから仕事が早く片付いたんだ。ソフィーも花屋の方はもう閉めたの?」  
「ええ、今日はちょっとマルクルが釣りに行きたいって言ってたから、お店も早く閉めたの。あ、お婆ちゃんとヒンも一緒よ…ん…」  
ソフィーが言い終わるか終わらないかの内に、ハウルはソフィーの顎を指で掴み、深く口付けていました。  
「う・・うん・・やだ…カルシファーが…」  
「やつなら昼寝しているから大丈夫だよ。でも、ソフィーが騒いだら起きちゃうよ…」  
わざとゆっくりそう言いながら、ハウルは、じりじりとソフィーの体を壁に押し付けます。  
「や…・やあ…ハウル…」  
「ん?本当に嫌?こうやって胸を可愛がってもらうの…」  
何時の間にか、ハウルはソフィーの襟ぐりから手を入れ、胸の膨らみを軽く揉んでいました。  
 
「ちょ…ちょっと…・駄目…」  
「じゃ、こっちかな?」  
調子付いたハウルは、ソフィーのスカートの中にも手を入れると、下着をずり下ろし、スカートを引き裂きます。  
「やっ…何するの…!?」  
「大丈夫、魔法で元に戻してあげるから。それにどっちみち、スカートが汚れて駄目にな  
っちゃいそうだしね。だってこんなに…」  
「やだあ…。」  
ゆっくりと這うようにハウルの指がそこを撫で回すと同時に、ソフィーの体からも力が抜けていきます。  
「仕方ないなあ、君は。」  
そう言いつつ、ハウルはソフィーの体を抱き起こすと、テーブルに腰かけさせました。  
「さあ、ソフィー。僕が何を望んでいるのかわかっているよね?」  
「……・。」  
「僕は君の住んでいるこの城の主だよ?御主人様の言う事はきちんと聞かなきゃ駄目なんじゃないかな?」  
「…・はい。」  
ハウルの言っている事はかなり滅茶苦茶なのですが、もはやソフィーは、冷静な判断が出来ません。  
ソフィーは真っ赤にした顔を背けたまま、ゆっくりと足を開き始めました。  
そんな彼女の猥らな動作を眺めながらも、ハウルはこっそり睡眠作用のある魔法の粉を、カルシファーの上に振りかけます。  
「いい子だ。やっぱり座った方がよく見えるね・・・・。」  
「言わないで・・・」  
「そうやって恥ずかしがる君の顔が可愛いからだよ。色々教え込んだ甲斐があったね。」  
ゆっくりと指を差し込みながら、ハウルはそこにそっと顔を近づけました。  
「やだ・・こんな場所で・・恥ずかし過ぎるわよぉ・・・。」  
「こらこら、御主人様には従順に、だろ?」  
顔を上げてそう言うと、自分の言葉に酔ったかのような恍惚とした笑みで、ハウルはソフィーに再び深く口付けます。  
「ふぁ・・・ハウル・・・」  
 
「んっ・・・・ソフィー・・・」  
額にうっすら汗を浮かべ、なにやら熱中しているハウル。愛しい彼女の名前を呼びながら、「いい子だね・・」だの「上手になったね・・・」だの、時折意味不明の言葉を呟きます。  
「ソ・・・ソフィーっ・・・・」  
やがて何かに力尽きたかのように崩れ落ちると、はあはあと息をつきながら布団にもぐり、途端にすやすやと眠り始めました。  
しばらくして・・・・  
ギィー・・・という小さな音と共に、一人の影がクローゼットの中から出てきました。  
 
「何だったのかしら・・・?」  
そう、その姿はソフィーでした。昼間のカルシファーの発言と、昨夜のハウルの様子が気になって、クローゼットの中に隠れていたのです。  
お婆ちゃんの腰痛を利用するのは少々気が咎めましたが、背に腹は代えられません。お婆ちゃんにはわざと大げさに騒いでもらい、マルクルにも一芝居打ってもらい・・・  
ハウルがお婆ちゃんの所に行っている間に、こっそりと部屋に忍び込むのは簡単でした。  
つまり・・・一部始終を見てしまったのですが、やっぱりソフィーにはわかりません。何しろハウルは背中を丸めて何やら「儀式」を行っているので、  
ソフィーからはよく見えなかったのです。  
ただ、息がやたら荒かった事と、自分の名前を連呼していた事から推測すると、  
昨夜の出来事はやはり自分の夢ではなかったのだという事はわかりました。  
何だったのかしら・・とりあえず、心臓食べているのではないみたいだけど・・・・ハウルすごく苦そうだったし・・・  
でも、何か止められたくても止められないって感じだったし。  
しばらく考えた末に出た結果は・・・  
「ハウルは何か悪い呪いを受けている。」  
でした。  
「そうよ・・・だから、あんなに苦しそうなんだわ。あたしの名前を呼んでいるのも助けを求めているのよ。きっと。あの人の性格だから、どっかから100や200の恨みをかっていてもおかしくないし。」  
こうしちゃいられないとガッツポーズをとるソフィー。  
「待っててね・・絶対に助けてあげるから・・・。」  
そう言って、何も知らずに眠るハウルの唇にそっと口付けると、ソフィーは身を翻して窓から部屋を出ました。  
 
「・・・という訳なの。だからね、私達がハウルを助けてあげなきゃいけないと思うの!」  
場所は変わって台所。文字通り「叩き起こされた」マルクルとカルシファーは呆然と顔を見合わせました。  
「ハウルは絶対悪い魔法にかかっているのよ。早く何とかしてあげないと、大変な事になっちゃうかもしれない・・・だからね、あなた達の協力が必要なの。いえ、協力してくれるわよね!?」  
・・ソフィーの瞳の中に炎が燃えているのは、カルシファーが映っている訳ではなさそうです。  
「う・・うん・・・。」  
「ま・・まあなあ・・・・・」  
ソフィーの迫力に押されて、思わずこくこくとうなずく2人。ただ、カルシファーの方は真実を知っているだけに気まずいものを感じていました。  
「うーん・・・男の呪いと言うより男の性(さが)って感じなんだけどなあ・・」  
「そうだわ、カルシファー!あなた何か知ってるんでしょ!?私に教えて頂戴!!」  
「え・・ええ・・・!?教えるって言っても・・・」  
「いざとなったらお婆ちゃんとヒンにも協力してもらうわよ!皆ハウルの大事な家族なんだから!」  
(どうすりゃいいんだよ・・ハウル・・・・)  
助けを請うようにマルクルの方を向くと、彼もすがるような目でカルシファーを見ます。  
「ソフィーって・・あんなキャラクターだったっけ・・?」  
「ソフィー婆さんの時はあんな感じだったような気もするけどなあ・・・」  
もはや自分達が悪い呪いをかけられたかのような2人を他所に、ソフィーは一人勝手に熱血して盛り上がっていました。  
「悪い魔法使いに負けたりしないわよ!あたしには包丁だって麺棒だってモップだって裁縫箱だってあるんだからね!!ぶん投げてやるんだから!」  
・・既に自分が何を言ってるかもわからなくなっていました。  
 
 
あの夜から一週間。  
ハウルは皆が自分を見る目がおかしいのには気がついていました。  
荒地の魔女はニヤニヤ笑い、ソフィーは何やら決意を秘めたような目で、マルクルはどこか戸惑っているような眼差しで、カルシファーは同情するような視線をハウルに向けます。ヒンは・・・・いつもと変わりません。  
「・・・・?」  
訳もわからず何とも居心地の悪い一週間を過ごしたハウルですが、だからと言って男の生理本能が変わる訳でもなく・・・・  
「あら、ハウル。もう部屋に帰るの?」  
夕食後のお茶を飲み干したハウルがそそくさと立ち上がるのを見て、ソフィーは声をかけ、ました。  
「う・・うん。まあ。」  
言えません。やや大きめに開いた襟ぐりから覗いたソフィーの胸元を見ているうちに、急に「もよおしてきた」などとは。  
「ちょ・・ちょっとね。仕事に必要な書類を読まなきゃいけなくてさ。」  
「ふーん・・・お仕事大変ね。」  
いつものハウルなら気がついていたはずです。ソフィーの「ふーん」が微妙なイントネーションだった事に。しかし、今のハウルは平常ではないのです。  
「・・・。」  
「・・・。」  
代わりにマルクルとカルシファーがそっと顔を見合わせます。  
ハウルが慌ただしく台所を出ると、ソフィーは気合を入れるかのように胸の前でぐっと拳を固めました。  
 
「よし、決行は今夜よ!皆!」  
「け・・・・決行って!?」  
マルクルが慌てて立ち上がります。  
「言ったでしょ、ハウルは悪い呪いにかけられているかもしれないって。呪いのせいで、ハウルは妖しい儀式をしなくちゃいけないみたいなの。きっとこれからやるのよ!」  
さすがソフィーとハウルの仲、と言ったところでしょうか?カルシファーは女の勘の鋭さに内心驚いていました。  
「・・ねえ、大丈夫なんじゃないの?なんかさあ・・・」  
おそるおそる声をかけるマルクル。こちらは男の勘というやつで、ハウルの「儀式」にはあまり深入りしない方がいい事に気がつき始めているようです。  
「マルクルだってハウルの事が心配なんじゃないの!?大事な師匠なんでしょ?」  
いつもの大人しく優しげなソフィーはどこへやら。いや、これもハウルへの愛故の優しさでしょうか。  
「そ・・そりゃあ、ハウルさんは尊敬する師匠だけど・・・・。」  
「で・・・でさあ、ソフィーは、どうやって、その・・・・ハウルの呪いってやつを解くんだい?」  
「わからないわよ。」  
おそるおそる口を挟んだカルシファーに、ソフィーはきっぱりと返しました。  
「でも、とりあえずは呪いの種類がわからなければどうしようもないでしょ。だから、私、これからハウルの部屋に行って・・・」  
「まさか覗く気かい!?」  
「人聞きが悪いわねえ。呪いの種類を調べるだけよ。」  
あわあわと思いっきり動揺しているカルシファーを尻目に、ソフィーはさっさとハウルの部屋に向かおうとします。  
「あ、でもやっぱり・・・」  
止めてくれるのかとカルシファーがほっとしたのもつかの間、次にソフィーの口から飛び出したのはとんでもない言葉でした。  
「あまり強力な呪いだと私まで巻き込まれちゃうかも・・・皆も来てくれる?」  
「えええええええええ!?」  
 
その頃、ハウルは部屋で軽い自己嫌悪に陥っていました。  
「な〜んか虚しいよな・・・・好きな女の子と1つ屋根に住んでいるのにこんな事してるなんて・・・・。でも、幸いソフィーにはばれていないみたいなのが幸いかな。」  
ある意味、ばれる以上に悲惨な事態になっている事に、彼はまだ気がついていません。  
「ソフィーにばれたらどうなるかなあ・・・・絶対まずいよな。最悪、城から追い出されるかも(僕の城だけど)。いや・・・それとも・・・」  
ここでまたお得意の妄想が始まります  
 
「やだ・・・ハウル、こんな事してたの?」  
ハウルの部屋のベッドの上で。  
真っ赤になって恥らいつつも、ソフィーの視線は一点に集中しています。  
「まあ、男だから仕方ないんだよ。ソフィーはわかってくれるよね?」  
「う・・うん。」  
ますます赤くなり、こくこくうなずくソフィーの仕草にたまらなくなったハウルは彼女をぎゅっと抱きしめます。  
「ねえ、ソフィーはした事ないの?」  
「えっ・・・し、した事って・・・」  
「だからさ・・・自分でここを触るって事・・・」  
ハウルがスカートがスカートの上から強く触ると、ソフィーはいやいやをするように身をくねらせます。  
「や・・ん・・・そんな事する訳・・・」  
「あるよね?ソフィーってすごくエッチそうだしさ・・。」  
「ばかあ・・・・」  
「ねえ、こういう事ってさ、自分でやるより、好きな人にやってもらう方が気持ち良いんだよ。知ってた?」  
言って、ハウルはソフィーの手をとると、自分のへと導きました。  
「やあ・・・」  
「や、じゃなくてね。僕はソフィーに気持ち良くして欲しいんだ。・・・してくれるよね。」  
恥ずかしそうにうつむきながらも、ソフィーの手がゆっくりと動き始め・・・  
 
 
どたどたどたっ!  
 
激しい足音でハウルは我に返りました。  
 
 
「ななななな・・・・!?」  
咄嗟に枕の下の鏡を取り出し、覗き込むと、そこには自分の部屋に向かってくる家族の姿がありました。ソフィーを先頭に、マルクル、荒地の魔女・・何故かヒンまでいます。  
「い、一体何が・・・!?」  
事態を飲み込めないままハウルが混乱してると、どんどんっと激しくドアを叩く音が聞こえます。  
「ハウル、いるんでしょ!?開けてちょうだい!」  
「(開けられるわけないだろ!こんな時に!)」  
「私達、皆わかってるのよ!だから隠さなくてもいいから開けて!」  
「(ええええ!?わわわ、わかってるって・・しかも皆・・・!?)」  
「私、あなたを助けたいの!愛してるから!」  
「(え?助けるって・・?)」  
最後の一言は非常に嬉しいのですが、やはりハウルは訳がわかりません。とりあえず、ズボンを直すのももどかしく、そこら辺に転がっているがらくたでドアの前にバリケードを築きます。  
魔法を使って事態を何とかしようという考えはすっかりありません。今やハウルは偉大な魔法使いではなく、ただの間抜けな男でした。サリマン先生が見たら卒倒するような醜態です。  
「・・・ん?」  
ドアの前が急に静かになったかと思うと、今度はマルクルのやめてくださいと泣き叫ぶ声が聞こえてきます。  
「(ここ・・今度は何を・・?)」  
と、思ったその時。どーん!どーん!と地を揺るがすような大きな振動がハウルの部屋を襲います。  
「(なななななな・・・!?)」  
慌てて鏡を見ると、そこには台所から持ってきたらしい椅子でドアを叩くソフィーの姿と、必死にとめようとするマルクルの姿がありました。  
・・・・・僕の城が壊される・・・・・・!  
意を決すると、ハウルは腰に毛布を巻きつけてからドアを細く開けました。  
 
「あ、やっと・・ってキャア!」  
瞬時にソフィーの腕を掴むと、部屋の中に引きずり込み、再びドアをバタンと閉めます。  
「もうっ・・ハウルったら。ねえ、隠さなくてもいいから。ね?」  
哀れむような目でそっとハウルを見上げるソフィー。  
今まで見たことないような彼女の眼差しにどきどきしながら、ハウルの頭にさっきの妄想が浮かびます。  
「(もしかして・・・・妄想を実現するチャンス!?)」  
「どうしたの?ハウル。」  
「う・・うん。まあ、ソフィー。落ち着いてここに座りなさい。」  
「・・?」  
「君は何だか勘違いしているみたいだから、正直に話すよ。いいね?」  
「も、勿論よ・・・。」  
ソフィーがきょとんとしながらうなずくと、ハウルは腰の毛布を取りました。  
 
しばらくして  
 
ソフィーの絶叫と同時に、ハウルの悲鳴が城中に響き渡りました。  
 
 
翌朝、台所にて。  
「で、ソフィーに変態呼ばわりされた挙句、横っ面を張り飛ばされ、散々引っかかれたと・・・。」  
「・・・。」  
顔中ひっかき傷だらけにしたハウルが黙ってこっくりうなずきます。  
「まあ・・・その・・・なんだ・・・ハウル・・・」  
「・・・・・。」  
「今回は・・・・なんか災難だったな。」  
「・・・・・・。」  
ハウルは全てに疲れたような顔をして、もはやカルシファーの哀れみの言葉にもうなずこうともしませんでした。  
その時・・・  
「あの・・・ハウル。傷大丈夫・・?」  
そっと当の張本人のソフィーが姿を現しました。  
「ごめんね。昨夜はちょっとやり過ぎた。・・・少しは私が悪かったわ。本当にごめんなさい。」  
「(いや、おいらはソフィーが100%悪いと思う・・・)」  
「あとね・・・・・」  
これはカルシファーに聞こえないようにこっそりと。  
「我慢出来なくなったら、その・・・自分でしないで、私に言ってね。私、別に嫌じゃないから・・・。」  
「え?」  
「じゃ、お大事にね!」  
ソフィーはくるっときびすを返すと、ばたばたと台所を出て行ってしまいました。真っ赤になっているのは後姿のうなじを見てもわかります。  
で、ハウルの方は・・と言うと。  
「ソフィー・・・その・・本当に?」  
ソフィー以上に真っ赤になって、その場に呆然と立ち尽くしていましたとさ。  
 (end)  
 
・・・そして。  
いざコトに至ろうとして、枕の下の鏡を見つけられ。ハウルが本当に城から追い出されそうになったのはまた別のお話です。  
 
 

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