とある冬の日。
ひんやりとした空気のなか、ソフィーは目を覚ました。
隣ではハウルが毛布を頭までかぶってすぅすぅと眠っている。
静かに、はぁっと息を吐いてみると、白い靄がすうっとあらわれて消えていく。
白い靄があらわれては消えるのを何度か愉しんだ後、窓のほうに目をやった。
窓枠にそって白い色がくっきりと浮かび上がっている。
「もしかして…」
ハウルを起こさないように、ゆっくりと静かにベッドを抜け出したとたん、
きりっとした寒さが身体を包んだ。
思わず歯を食いしばって息を止めてしまう。
急いでベッドのわきにかけてあったガウンを羽織り、
手を擦り合わせながら窓辺にちかより外を覗いてみると、やはり雪が積もっていた。
昨日まではマルクルの背丈ほどある、緑色の葉をふさふさと広げていた木が、
今日はその大部分が白い雪に覆われていた。
雪が帽子をかぶっているようにてっぺんのほうだけのぞいている。
「マルクルが目を覚ましたら、きっとびっくりするわね」
きゃあきゃあとはしゃぎまわって大変なことになるだろう。
そんなマルクルの姿を思い描きながらくすくすと笑っていたら、
どうやらハウルを起こしてしまったらしい。
もぞもぞと毛布から目だけをのぞかせて、眠たそうにソフィーのほうを見ていた。
「ふああ…。おはよう、ソフィー。なにしてるの?ううっ、今日は寒いね。
すぐにカルシファーにあっためてもらわなきゃ」
「おはよう、ハウル。ごめんね、起こしちゃって。ね、こっちに来てみなさいよ。すごいわよ」
おはようのキスをした後、渋るハウルを窓辺までひっぱって外をみせる。
「雪か!どうりで寒いわけだよ」
窓の外を見たとたん顔を輝かせ始めたハウルにソフィーは問うた。
「そうね、私もびっくりしちゃったわ。ね、ハウルも子供のころは雪で遊んだりした?」
「雪で?もちろん。懐かしいなぁ。よく雪玉に魔法で爆竹を仕込んだりして、サルマン先生に怒られたりしてたよ」
ハウルの顔がニヤリといじわるそうな顔に歪む。
「雪のなかにロープをしこんで敵を転ばせたりとかもね。転んだ先には落とし穴。これは基本だ。
あとは、敵の雪玉に魔法をかけて、投げたとたんにその人の顔面にクラッシュするようにしたりとか……」
事細かにその時の事を身振り手振りで説明しだすハウルに呆れて、
「あなたって、相当の ワ ル ね」
ソフィーはハウルがマルクルにこのばかげたいたずらを教えないようにしなければ、と溜息をついたのだった。