遠雷の音に、ソフィーは繕い物の手を止めて顔を上げた。  
「嵐が来るのかしら…」  
強い風がぶつかり、窓枠がガタガタと音を立てる。夜は更けていて、雷の光が遠くで光ったのが見えた。  
「……」  
光が走ってからかなりの間を置いて、ドオンという音が耳に届く。自分でも気づかないうちに、ソフィーは眉をしかめていた。  
自然現象だと分かって居ても、空襲の記憶が否応なしによみがえる。この城はカルシファーに守られているから、雷が落ちてくることはけしてないと分かってはいるけれど。  
コンコンという可愛らしいノックの音がソフィーの仕事部屋に響いたのはその時だった。手に持っていた縫い針を針山に戻し、ソフィーは体を半分、扉の方に向ける。  
「マルクル?」  
穏やかな声で尋ねれば、キィと音を立ててドアが開かれる。  
そこにいたのは予測どおり、パジャマに着替えてどこか不安そうな顔をしたマルクルだった。ソフィーは微笑んで椅子から降り、エプロンを軽くはたいた。  
「眠れないの?」  
空襲の夜を鮮明に覚えているのは、ソフィーだけではない。小さな子供である分、マルクルの方が喚起される恐怖心は大きいのかもしれない。  
小さなふくふくした両手が、ソフィーのエプロンをぎゅっとつかむ。  
この小さな家族を守らなくてはと思えば、落ち着かなく騒ぐ心はひとりでに静まっていく。柔らかく笑ってから、うつむいているマルクルを抱き寄せ、ソフィーはまだ落ちている雷の音に耳を澄ました。  
 
「大丈夫。あれは雷よ。それに、ずーっと遠くの方で鳴ってる」  
「うん……」  
マルクルの足元では、ヒンがせわしなく走り回っている。雷の音が聞こえるたびに目を大きく見開き、耳をぱたぱた振っている。癖のついた髪を何度も撫でてやっていると、ようやく落ち着いたのか、マルクルはソフィーからゆっくり離れた。  
「ひとりで眠れる? 怖いならここで眠ってもいいわよ?」  
「ソフィーは寝なくていいの?」  
くりくりした瞳がソフィーを見上げる。  
うん、とうなずいて、ソフィーは再び窓の方に顔を向ける。マルクルもつられるようにそちらを見る。視線の先には、途中で止まっている繕い物の山と、窓があった。  
「もう少しで、キリがいいところまで終わるから」  
マルクルがソフィーを見上げる。何か言いたそうな顔をしているマルクルの頭を、ソフィーはまたゆっくり撫でる。その仕草はマルクルのためというよりは、ソフィー自身を落ち着かせるために繰り返されているようだった。  
城の主であるハウルがまだ帰ってきていない。彼が何日か家を空けることはざらだし、ソフィーもそれは勿論分かっている。  
 
毎日毎日遅くまで起きているわけではないけれど、それでもこんな夜は不安になるのだ。――彼が、帰ってこない気がして。  
だから帰ってくるのをぎりぎりまで待っていたいと思う。  
 
ソフィーの横顔をじっと見つめた後で、マルクルは両手をソフィーのエプロンから離した。  
「ん?」  
「おばあちゃんも心配だから、僕、今夜はおばあちゃんについてるよ」  
「そう? じゃあお願いしていい?」  
「うん。行こう、ヒン」  
ヒン!と一声返事をして、ヒンがマルクルの足元でぱたぱたと駆け回る。  
「足元に気をつけてね」  
「うん」  
子供独特の軽い足音と、ちょこちょこいうヒンの足音が、扉の所でぱたりと止む。  
「ソフィー、大丈夫だよ。きっとハウルさんは帰ってくるから」  
くるりと振り返って、真剣な顔でマルクルが言う。励まそうとしてくれているのだと分かって、ソフィーの胸に温かなものが広がった。  
「……そうね」  
「おやすみなさい」  
「おやすみ」  
扉が小さな軋みの音と共に閉められる。遠ざかっていく足音に耳をすましながら、ソフィーは作業台の前に腰掛けて繕い物の続きを再開した。  
 
チリチリと手元の灯りが揺れる。はっと顔を上げれば、手元のランプの油が切れかけていた。どれくらい時間がたってしまったのだろう。  
雷は相変わらず鳴り続いている。  
時折視界の端で火花のように飛び散る稲妻、地響きのような音。  
ふっと息を詰めれば、静寂があたりを支配する。寒くはないはずなのに、ぞくりと体が震えた。  
「ハウル、帰ってこないのかしら……」  
言葉にすれば、不安はより一層くっきりと浮かび上がる。  
一人きりで部屋にいることが、ふいにとんでもなく空恐ろしいことのような気がした。ここはあの帽子屋で、動く城も、新しい温かな家族も、……ハウルも、幻なのではないだろうか。  
また稲妻が、荒れ野に落ちる。  
「……」  
針を置き、糸を切る。  
「……今日はここまでにしよう」  
小さく自分自身に言って、蝋燭に灯りを移す。作業用のランプの火を落とせば、外の闇がより一層くっきりと視界に飛び込んでくる。  
雨粒が窓ガラスにぶつかり始めている。  
嵐が来るのだ。  
 
「カルシファー?」  
起きているだろうか。蝋燭の明かりを頼りに足元を照らして居間に出る。  
自由の身になったというのに、何故か暖炉で寝起きをしている悪魔のいびきらしき声が聞こえてきた。  
起きているときのようにパチパチとあたたかい音を立てている訳ではなく、うずみ火のようにちらちらと明るい色が見えるだけだ。  
 
確かにあの心優しい悪魔はここにいて、これは夢ではないのに。  
自分だけが置いてけぼりを食らっているような気分になる。  
 
ドォン、と雷の音が、また聞こえた。  
 
ソフィーは思わず自分で自分の体を抱きしめた。  
細かく震える指が腕に食い込んだその時、扉の取っ手がカチャリと回される音がした。  
 
「ソフィー? まだ起きて……」  
階段を登りきって手すりに手をかけた状態で、ハウルが立ち止まる。  
「お……」  
お帰りなさい、びしょ濡れじゃない、でも今カルシファーを起こすのは可哀想よ、タオル取ってくるからちょっと待ってて――  
言いたいことはたくさんあるのに、胸が詰まってどうしてだか言葉が出なかった。口をわずかに開いたまま、舌が凍りついたように動かない。  
口元に手をやってそれを隠し……隠してから、ソフィーは自分の失敗に気づいた。  
これではまるで、泣くのをこらえているみたいではないか。  
外では相変わらず雷が鳴り続いていて、夜は更けていて。  
(誤解されちゃう。これじゃまるで雷が怖くて眠れなかったって言ってるようなものだわ)  
「ソフィー?」  
足音がマルクルやヒンのものとはまるで違う。静かで、ほとんど音を立てなくて、それなのに……。  
ぽたぽたと、髪から雫が落ちている。それなのに自分の様子にはまるで頓着する様子を見せずに、ハウルは身をかがめてソフィーを覗きこんだ。水を含んでしっとりと艶を増した黒髪の間から、あの青い両目が自分を見つめている。  
「ちが、うの。そうじゃ、なくて」  
凍った舌を無理矢理動かした瞬間に、本当にじわりと視界が歪んだ。  
「ソフィー!?」  
ぼろぼろと涙がこぼれだす。自分の涙に自分でうろたえて、ソフィーはあわててハウルから視線を逸らす。  
「何があったんだ」  
「……にも、ないんだけど。どうして……」  
おちつけ、おちつくのよソフィーと心の中で何度も念じる。  
どうして涙が止まらないんだろう。ハウルはちゃんと帰ってきて、目の前にいるのに。悲しくなんてないのに。  
 
雷の音が。  
 
「雷が怖くて、眠れなかった?」  
「ちが、それは、マルクル……」  
呼吸を整えようとしては、と息を吐き出す。ぎゅっと目をつぶると、まぶたの上を柔らかい感触が羽のように軽くかすめていく。  
すぐにあつい舌が、まぶたの端に溜まった涙をなめとる。温かな感触が離れて行くのを感じ取ってそっとまぶたを上げると、鼻先と鼻先がくっつきそうなほど近い処にハウルの顔があった。  
「……抱きしめたいんだけど。このままだと君が濡れてしまう」  
吐息に乗せて言われている言葉が本当に困っている風だったので、ソフィーはくすりと小さく笑ってしまった。それでようやく、完全に涙が止まる。両手を伸ばして、ハウルの指に自分の指を絡める。  
「冷え切ってるわ」  
形が整っていて華奢にさえ見えるつくりをしているのに、自分のものより随分と大きい。自分の手だけでは足りるはずもなくて、息を吹きかけるだけでも充分でない気がする。思いついて、火照っている頬にハウルの両手を自分の手ごと当ててみる。  
「熱い。ソフィー、熱でもあるんじゃ」  
「違うわ、ハウルの体が冷たいのよ。どうしよう、よく眠ってるカルシファーを起こすのは可哀想だけど、お風呂に入って温まった方が……」  
ハウルに触れられて、自分から触れて。魔法のように胸のつかえが取れて、いつもの言葉が口から滑り出す。  
 
ああ。  
ソフィーの胸の中で、ことりと答えが転がり出る。  
安心したから、涙が出たんだわ。  
 
風のうなる音、雨粒が壁を叩く音、雷の音。  
蝋燭の頼りない明かりが揺れ、ハウルの漆黒の髪に、青い瞳にゆらゆらと淡い暖色を落としている。  
雫が床に落ちる音さえ聞こえてくる。  
外はあんなに騒がしいのに、ここはこんなにも静かだ。  
先ほどまではそれが恐ろしくて仕方がなかったのに、今は逆にその静寂がひどく慕わしかった。  
頬からハウルの両手を少しだけ離して、ソフィーはハウルに微笑みかけた。蝋燭の光でゆらゆら揺れる青い瞳のなかに、自分の顔が映りこんでいる。  
鏡に映る自分の顔よりずっとずっと綺麗に見えるのが不思議だ。どうしてだろう。  
「……タオル取ってくるわね。カル、んっ」  
カルシファーを起こすために少しだけ大きな声を出そうとしたら、唇で唇を塞がれる。  
ソフィーの手に導かれてではなく、ハウルの意志で、彼の指がソフィーの頬の輪郭をとらえる。  
唇の上をハウルの舌がゆっくりと辿っていくのが分かる。  
背筋にゾクリと震えが走り、甘い余韻を残して震えが消えていく。  
ソフィーが軽くトン、とハウルの胸を叩いて、抗議の意志を伝える。  
ぽたぽた落ちる雫は、もう床に水溜りを作ってしまっている。放っておけば、ハウルは風邪を引いてしまう。  
「起こさなくていい」  
ハウルの唇が、音をつむぐたびに吐息と共にソフィーの唇をくすぐる。  
「でも……そのままじゃハウルが風邪ひいちゃう。こんな時にお湯を使わなくてどうするの」  
「ソフィーがいるじゃないか」  
お湯と自分がどう結びつくのか分からずに、ソフィーはハウルから顔を離す。  
蝋燭の光が濃い影を落としている顔は、ひどく優しいくせに今にも泣き出しそうなようにも見えた。  
「そんなに熱いんだから、少し熱を分けて」  
 
ささやきかけられた言葉の意味を理解するのに、少しだけ時間がかかった。  
先ほどハウルの両手が熱を奪っていったばかりだというのに、頬がまたかっと熱くなる。  
 
「だから、私が熱いんじゃなくて、ハウルが冷たいんだってば……!」  
「そう? 僕の両手はもう温まったと思うんだけど、でもまだソフィーの頬の方が熱い」  
「誰のせいでそうなってると思って……」  
「僕のせいかな」  
嬉しさを隠そうともせずに、ハウルは温まった指でソフィーの星色の髪を一筋すくう。  
怒ったのに、反省させるどころか喜ばせただけ。  
墓穴を掘ってしまったことを思い知らされて、ソフィーは暗闇の中でもはっきり分かるほどに赤くなった。  
 
 
厚いカーテンで遮られているのに、稲光が時折部屋の中を青白く染めては消えていく。  
「雷は苦手なんだ」  
ベッドに腰掛けて、大人しくソフィーにタオルで体を拭いてもらっていたハウルが、ぽつりとそんな言葉を落とした。  
タオルで頭を丸ごと包んで拭いているので、ソフィーから彼の顔を見ることは叶わない。  
布越しのくぐもった声は、本気なのだろうか冗談なのだろうか。  
爆弾が落とされている戦地に毎夜飛び込んでいったことを考えれば冗談だと思えるし、臆病で弱虫な一面を思い出せば、それは本当であってもおかしくないと思える。  
ハウルの言葉が本当かどうかを確かめることにあまり意味はないのかもしれない。  
「私も……あまり好きじゃないわ。空襲を思い出すもの」  
そして、引き止める声を聞かずに、自分を守ると言って飛び出して言ってしまったハウルを思い出すから。  
「そうだね。戦争が終わっても、爪跡はそうやって人の心に残ってしまう」  
 
どういう風の吹き回しだろう。あれから何故か戦争は終結の方向に向かいだしている。  
それでもまだ、空爆は完全には終わっていないし、街には軍人があふれている。平和とはとても呼べない状態だ。  
前のような無茶こそしなくなったが、それでもハウルはこうして時折家を空けては、戦場を見に行っている。  
 
ひときわ強い光が、部屋の中になだれ込む。  
思わずびくりと体をすくませたソフィーの背中に、ハウルの腕が回された。  
「……怖い」  
低い声で漏らされるつぶやき。ガラス越しの激しい雨の音も、うなるような風の音もまっすぐに突き抜けて、その声はソフィーの耳に確かに届いた。  
「うん」  
「怖いけど、ソフィーがいれば大丈夫なんだ。臆病者でも、君を護るためならいくらでも無茶が出来る。怖いのも我慢できる」  
「我慢しなくていいのよ。怖いなら怖いと言って」  
手を止めて、タオルごとハウルの頭を抱え込む。  
腕の中のハウルが震えるのが分かる。笑っているのだ。  
「分からないのかな。君を失うこと以上に怖いことなんてこの世に存在しないんだよ」  
嬉しいはずの言葉なのに、泣きたくなるのはどうしてだろう。  
顔が見えない。  
それがたまらなく切なくて、ソフィーはタオルの片方をくい、と引いた。  
ぱさりと音を立ててタオルが落ちる。  
髪の毛終わり? と無邪気に尋ねてくるハウルの唇に、そっと自分の唇を落とす。  
触れるだけのキスだったのに、ハウルが目を丸くした。  
何を言えばいいのだろう。どう言えば聞いてくれるのだろう。  
弱虫がいい、無茶をするより一緒に逃げてくれる方がずっと嬉しいのだと、どうやればこの臆病な癖に無鉄砲な魔法使いに伝えられるのだろう。  
「ソフィー?」  
「……今は怖くないのよ、雷。なんでだか分かる?」  
床に膝をついて、湿り気がわずかに残るだけの髪をかきあげる。  
答えをじっと待っているハウルに微笑んで、ソフィーは小さくささやいた。  
「あなたがここにいるからよ。どこにもいかずに、こうやって手を伸ばせば触れるところにいてくれるのなら、私だって何も怖くない」  
どきどきうるさい心臓を押さえて、瞳を伏せる。  
熱を分けてくれと言ったはずなのに、自分を包み込んだハウルの体は、とっくにぬくもりを取り戻していた。  
 
息が上がる。外はきっととても寒くて恐ろしいのに、壁一枚をへだてたここは、どうしてこんなに熱いのだろう。  
大きな手が、腰の細さを、胸の柔らかな曲線をたどり、一点で止まってはソフィーに熱を与える。  
「……大丈夫?」  
気遣う声の方が辛そうで、ソフィーはくすりを笑みを漏らした。  
触れる肌の感触が心地いい。自分のものとは違う質感、違う身体。  
ハウルの固い胸に手を当てて、ことこととせわしなく動いている心臓を確かめる。  
彼は確かにここにいて、生きている。  
涙が出てくる。  
それが快楽で引き出されたものではないと察したのだろう、ハウルが半身を起こして、ソフィーの額に手を置いた。  
汗で貼り付いた前髪をかきあげて、心配そうな目でソフィーの瞳を覗き込む。  
「……重い」  
「え」  
慌てて離れようとするハウルの首に腕を回して、ソフィーはハウルの身体を自分の方に引き寄せた。  
不意をつかれたせいだろう。自分よりずっと大きくて力も強いはずの身体は、易々と引き倒された。  
一瞬だけソフィーの息がつまる。本当に重い。  
「ソフィー、重いんだよね?」  
「ええ、重いわ。……重くて温かい」  
 
ぬくもりと重さをかみしめながら、首筋に顔を埋める。  
さらさらした黒の帳の中で、こつんと固い感触にぶつかる。あのピアスだ。  
「だいすき」  
弱さも強さも、重さも熱鼓動も、ハウルの全部が愛しくてたまらない。  
動きを止めていたハウルの体が、ゆっくりと起こされる。  
絹糸を夜闇で染めたような髪の、その奥の青い瞳がうるんでいる。  
なんて綺麗なんだろうと思う。  
そのまま口に出したら、ソフィーの方がずっと綺麗だと真顔で返された。  
ハウルはソフィーの分まで自惚れ屋だ。けれど自惚れた言葉がささやかれるたびに、ソフィーの中で熱が生まれる。信じられない、大げさだと思うのに。  
「……っは、ん……ぁ」  
ハウルの指が、唇が、丹念にソフィーを確かめていく。  
馴染みつつある感触なのに、飽きることがない。もっと、もっとと願ってしまう。  
「ソフィー」  
名前を呼ばれる。何を求められているのか分かる。  
こればかりはまだあまり慣れないけれど、でも。  
こくりとうなずいて了承の意を伝える。唇が軽く触れ合った後で、ハウルが幸せそうに微笑むのが見えた。  
こどものような顔だとつぶやくと、少しだけ不満そうに唇を尖らせた後で、意地悪な男の顔になる。  
ソフィーはぎくりと身をこわばらせた。……失言だったかもしれない。  
「子供かどうか、ソフィーが確かめてみればいい。……覚悟するんだね」  
言葉に詰まったソフィーの額にもう一度キスを贈り、ハウルはゆっくり時間をかけて、ソフィーの中に身を沈めた。  
 
「まだ鳴ってるね」  
一瞬光った窓の外に目をやって、ハウルがつぶやく。数秒遅れで届いた音にあわせるように、ハウルはつながれた手に力をこめた。  
もしかして、本当に雷が怖いのだろうか。じっと外を見ている顔が、また雷の光に照らされる。  
彫像のように整っている顔が青白い光に照らされるのはぞっとしないものがある。  
思わず繋がれたままの手を伸ばそうとすると、青い二つの宝石は、あっという間に自分の方に戻された。  
「疲れた?」  
「……疲れてないと思うの?」  
少しだけ恨みがましい目で見上げれば、ごめんごめんとハウルが笑う。  
なだめる調子で頬に手を当てられる。子ども扱いの仕返しを受けている気分になったが、ひんやりとした手の感触は火照った身体に心地よかったので、ソフィーは素直にその感触に身をゆだねた。  
「眠い?」  
「うん……」  
心地よい倦怠感、ゆりかごのようなまどろみに、ソフィーの意識は半ばしずみかけていた。  
外は相変わらず、ひどい風の音ばかりが聞こえる。  
「……あなたがいれば、雷は怖くないのよ」  
「うん」  
「だから、あなたがいないと、雷は怖い……の」  
「うん」  
「今日は、このまま……」  
言葉は最後まで続かず、すう、とソフィーは穏やかな寝息をたて始める。  
愛しい人の寝顔を見つめ、ハウルはソフィーを抱き寄せて目を閉じた。  
 
愛しい人が腕の中にいれば、激しい音でさえ、遠い世界の柔らかな音楽に変わる。  
 
 
 

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