ソフィー達が王子を見送りに出た後、ハウルはふてくされたまま残っていた。  
暫くして戻ってきたソフィーはいつになく苛立った様子で、いきなりハウルに噛み付いた。  
「どうしてそんなにおとなげない態度をするの?!一緒に見送るぐらいしてもいいじゃない!」  
温厚なソフィーにしては本当に珍しい。  
「…!人の気も知らないで!だいたいあいつが無礼なんじゃないか!僕が不愉快なのは当たり前だろ!なのに君ときたら…僕は大事じゃないの?あいつがスキなのかい?!」  
売り言葉に買い言葉の応酬だが、こうなるとただの駄々ッ子ハウル。  
このぐらいならなだめすかしハウルをおとなしくしてしまうソフィ-が、今日はなぜか感情的だった。  
「ああハウル、あなたなんでそうなってしまったの?王子がカブだった頃は快く受け入れてくれてたじゃない。  
そもそも彼は命の恩人よ、あたし達みんなの。崖から落ちる所を身を挺して助けてくれたから、あたしだって貴方だってこうして…」  
まくし立てる内にソフィーにほろ苦く温かな想いが甦ってきた。  
まだハウルと心が通じてなかった頃、ハウルが緑のネバネバを出した時だ。  
ささいな事(髪の色)で落ち込むハウルを見てそれまでこらえていた自分の境遇への不安が一気にはじけたあの日。  
冷たい雨に打たれ泣いた自分を、優しく慰めて(?)くれたのもカブだった。  
 
こみあげた懐かしい思い出に、ソフィーは思わず涙ぐむ。…ものの、今では彼はカブ(カカシ)ではない、強引に求婚してくる一人の男。  
ちょっと苦手だったりもする。  
でもあの日々を思い出すと、カブも大切な家族なのだ。  
「貴方のように優しくて愛情も深い人が、あの頃の絆を忘れちゃうなんて…見損なったわ!!」  
最後に思いがけない一言が口をついて出た。  
自分でも半ばコントロール出来なくなるほど、ソフィー自身テンパっていた。  
それと言うのも、王子は去りぎわ、ソフィーの手の甲に別れのキスをしたのだが、一瞬の隙をついてソフィーの唇をも奪ったのだった。  
嫌悪まではいかなかったものの、愛しい恋人以外の男に唇を奪われ、ソフィーは軽い恐怖を感じた。ああ、ここにハウルがいてくれてたなら…!!  
ソフィーはパニック半分、八つ当り半分の癇癪を起こしたのだった。  
そうとは知らないハウル、決定打の一言に仰天し、彼もまた興奮のままに口走った。  
「何だよ、もう!知らないよ!ソフィーなんか嫌いだ!」  
 
ハウルが知らないとは言え、彼以外の男に唇を許してしまった後ろめたさもあって‘キライ’の一言はソフィーの中に深く深く突き刺さった。  
キスの現場にも居合わせたマルクルはことのなりゆきをハラハラ、オロオロ見守っていた。  
すっかり紅潮したハウル、そしてマルクルの目の前で、ソフィーはみるみる懐かしいあの姿に変化していった。  
「ソフィー!どうしちゃったの!!!」  
マルクルが飛び付く。虚ろな目をした老婆がそこにいた。  
90才の時にも懐いていたとはいえ、マルクルにとってももうソフィーは若い状態が当たり前となっていた。  
「ハウルさん!ハウルさん!」助けを求める。  
「…」険しい表情のまま、ぷい、とハウルはきびすを返し二階に上がる。  
ハウルの部屋のドアが閉まる音。  
 
…長い長い沈黙の後、老婆ソフィーがやっと口を開いた。  
「…ここには居られないわ。ハウルに嫌われちゃったもの」  
かつての強気は微塵もない。表情も暗いまま。  
「そんなこと言わないで!ここに居てよ!ハウルさんだって本気じゃないよ!」  
マルクルは必死に縋り、なんとかソフィーを押し留めた。  
「そうね、嫌われたけど、ただの掃除婦に戻ればいいのよね。それならできるわ。諦めるのは得意だったもの、私…」  
そして、疲れたから横になる、と以前とは打って変わりうなだれたまま自室に入っていった。  
 
翌日、気まずいハウルはソフィーを無視。  
ところがソフィーは大して気にならない。  
自分でも不思議だった。  
前のような楽観的な気分ではなく、すっかり諦め切った境地のせいだと思い当たった。  
〈ハウルへの恋心も壊れてしまったのね…本当に枯れはてちゃった、私、、〉  
 
心配でならないマルクル。  
「ハウルさん、僕、おばあちゃんのソフィーも大好きです。だけど、ハウルさんとソフィーが結婚するのももっともっと楽しみだったんです。どうかソフィーと仲直りして下さい。元に戻してあげて下さい」  
「…僕もおとなげなかったよ。よし、ソフィーを元に戻そうか」  
機嫌を取り戻したハウルは、マルクルと一緒にソフィーのもとへ。  
ソフィーは、以前と比べ疲れやすいのかまた自室で休んでいた。  
眠ったままのソフィーにへまじないをかけるハウル。  
…何も起こらない。  
「…?」  
何通りか試してみるものの、まったく効かない。  
ハウルへの恋心が消え去った今、ソフィーが自分自身を縛っている呪いを解くすべが無くなってしまっていたのだ。  
「ソフィー…そんな…」それに気付いたハウルは見る見る顔面蒼白。  
その場に崩折れ、焦点の合わない目を半開きにしてつぶやく。  
「ソフィー…ぼく…ぼくのこと…」  
 
「ハウルさん!!!…ソフィー!起きて!起きて!!!」  
マルクルが悲鳴混じりにソフィーを叩き起こす。  
またもやハウルの全身を、緑の粘体が包み始めていた。  
「どうしたの、マルクル…あら。あらあら…」  
力なく身を起こすソフィーにマルクルが早口で経緯を説明する。  
〈…そうだったの。ハウルの魔法を持ってしても元には戻れなくなったの、私…。もうハウルのことを…〉  
そう考えると、切ない。  
胸の奥がキュッと痛む。  
…しかしその痛みはほのかに熱い疼きを持ってきた。  
ハウルを抱き起こす腕に徐々に力がみなぎる。  
ソフィーにもう愛されてないと知り、またも生命力を失ってしまった彼。  
自分の愛が彼が生きる原動力だったなんて…そう思うと、愛しさが一気にこみ上げる。  
さっきまでの無気力はいっぺんに吹き飛んだ。戻れる!  
まだ姿は老婆だが、声には張りが出てきた。  
「マルクル、カルシファーに言ってお風呂の準備を。あたし、たぶん大丈夫よ。元に戻れるわ。」  
マルクルに元荒れ地の魔女の寝支度を頼み、浴室へ向かった。  
 
ネバネバを洗い落としハウルを湯槽に座らせる頃にはすっかり元に戻っていた。  
自分も服を脱ぎ、ハウルを後ろから抱きかかえるように湯槽につかる。まだハウルは目を覚まさない。  
あまり長くこうしたままでは湯冷めしてしまう。  
「ハウル、起きて。ハウル…」耳たぶをくわえるようにキスをしながら囁く。  
ハウルがおだやかに目を覚ます。  
まともに言葉をかわすのはよく考えればあの口論以来だ。  
そのせいかハウルもおとなしい。「ソフィー…よかった。戻ってくれたんだね。」  
「ごめんなさい…あたしが悪かったわ。」  
王子の一件を謝る(もちろんキスのことは言えないが)。  
「優しくて、勇敢で寛大な貴方がどうして?…って思っちゃったの。でもその勇敢さであんな辛い目にも遭ったのよね。  
やっぱり、弱虫でヤキモチ妬きの貴方でいいのよね。あたし好きなのは貴方だけ。だから、安心して。」  
 
それを聞いてハウルはニッコリほほえんだ。  
すっかり元気を取り戻し、ソフィーの手を取りくちづけながら  
「わかってる。僕もだよ。…でも、ソフィーは大丈夫でも、またああやって来られたらやっぱり不愉快なんだよなぁ…」  
なんかないかなぁ、諦めさせる方法…つぶやきながらしばらく考え込むハウル。  
そしてソフィーを振り返り、耳元に口を寄せてささやいた。  
 
「子供、作ろうよ」  
 
真っ赤になるソフィー。  
「…パパのヤキモチ妬きの道具にされるなんて、ベビーが可哀相だわ。」  
そう言うのが精一杯、もうその後は、いつものようにハウルのペース。。  
 
END  
 
 

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