「お久しぶりです」
晴れやかに告げられたその言葉に、その姿に心が躍る。
「カブ!」
「手紙、読んで頂けましたか」
「ええ。偽名なんて使うから最初は判らなかったけど、カブからの手紙はちゃんと全部読んでる」
「やっと休戦条約にまでこぎつけました。ようやく王子としての本分を果たせそうです。
ソフィーには感謝してもし足りません」
「そんな。私こそカブにたくさん助けられたわ」
城の元まで連れて行ってくれたのも、傘を差しかけてくれたのも、急崖を滑り落ちるソフィー達を
身を挺して守ってくれたのはカブだった。たくさん、助けてくれた。
見上げた王子の顔は、呪いが解けたあの時よりも少し精悍になった気がする。
久しぶりに見るソフィーの姿が眩しいかのように、王子は目を細めて微笑んだ。
「ありがとうソフィー。貴女は本当に、美しい」
恭しい動作で以ってソフィーの手を取り、そっとその甲に口付け、
「いや、ますます美しくなったというべきでしょうか」
そして顔をあげると、まるでずっと昔から恋人だったかのように髪にも額にも唇を落とした。
身を引く暇も無く実に鮮やかな動きだった。虚をつかれたソフィーは、何も言えないまま一連のこと
に目を丸くするだけだ。
「へえ、カブ頭くん。君は人のものに手を出す趣味があったのかい?」
のそりとソフィーの背後から出てきたのは黒髪の男だ。ドアの端と端に手を置いて、入り口の正面に
立つソフィーの横から覗き込む形で王子を見ている。見ている、というより睨んでいるに近い。
「手を出すも何も。心変わりは世の常と言いますし」
ハウルに対して王子は飄々と受け流し、それに、と言葉を続けた。
「今日手の内に持っているものを、明日も持っているとは限りません。
落とす可能性も、勿論盗まれる可能性だって」
口元は微笑を絶やさないものの、目こそ笑っていなかった。