今宵も寒空に月がとても美しいですね。まるで、空を飛んでいたあの城から見た風景を思ってしまいます。  
本日は、あの夜咲花とアブダルが動く城にやってきてお茶をした日の話を致しましょう。  
 
彼らは庭にブルーベルを咲かせたいのだけれど、どうしたらいいだろうと聞きに来たのですが、その時に  
ちょうどあの騒動でソフィーがどんな風に変身を解かれたか、何で解けたのか、という話になりました。  
そして、アブダルがうっかりと口を滑らせたんです。  
「ソフィーさんが、目の前にいた時はそれはとてもとても驚きました。  
 それまでは女性のその・・・素肌など見た事が無かったからです、偉大なる魔法使い殿。今思えば、それも・・・」  
その言葉を聞いた直後から、ハウルは笑ってはいるのですが、目からは笑いが消えていました。  
勘の鋭い夜咲花はそれに気付いて、それとなくアブダルを促して早めに帰って行きました。  
そして、2人が帰った後の事です。  
 
マイケルや、新しい見習いさん達が部屋に戻って眠った後、やっと夫婦は2人の部屋で2人だけの時間を持つ事が出来ます。  
いつも通り、モーガンの寝顔を確認して、子供部屋を出たソフィーは、愛しい旦那様の横に座ります。  
「ねぇハウル、今日夕方からずっと不機嫌な顔してたけど、どうかしたの?」  
ソファーに寄りかかったまま、自分には目線もくれずにずっとどこか遠くを見ているようなハウルの手を握り、ソフィーは尋ねました。  
「君は・・・」  
言いかけて、ハウルは一瞬ソフィーを見ます。  
 
今夜のソフィーは、夜咲花が持ってきてくれた、彼女の生まれ国の風習を思わせる薄物のガウンを身に纏い、  
そこに透けて見えるのは、とても出産した女性とは思えない体のラインを出しています。  
「ね、言いかけて止めるのは嫌いって言ってるでしょう?何?」  
握る力を少し込めて、ハウルを見つめると、ハウルが大げさにため息をつきました。  
「僕は、ヤキモチ妬いてるんだよ、ソフィー」  
そんな事をいきなり言われたって、ソフィーには何の事やら見当がつきません。  
「まぁハウルったら!誰に、何で妬いてるのか言わないとあたしわかんないわ!」  
手を口に当てて、首をかしげる仕草は、子持ちにはやっぱり見えません。  
相変わらず可愛らしい奥さんを見て、ハウルはまたため息をつきました。  
「だって、あのアブダラに君は裸見せたんだろ?今日、彼が言ってたじゃないか。僕以外の男の人の前で、裸になんて!」  
言った途端、ソフィーはクスクス笑い出しました。  
「あらやだ、ハウルったらおバカさん!だって、猫が服を着ると思う?それに、あそこにいたのはレティーもいたし、サリマンもいたのよ?  
 あたしの裸を見ちゃったのはアブダルだけじゃないし、それに仕方がない状況じゃないの!妬くだけ無駄ってものよ、大好きな旦那様」  
言いながらハウルに軽くキスをすると、ハウルが頬を膨らませました。  
「そんな事言ったって、僕は嫌なんだ、サリマンは仕方ないよ、術を解いてくれる人なんだから。でも、あんな・・・」  
「あら、でも彼のお陰であなたもカルシファーもあたしも助かったようなものでしょう?そのお礼だと思えばいいじゃない?  
 それとも、あなたは助けて貰ってもお礼も何も出来ないような心の狭い人だったのかしら?」  
 
にっこり笑って言う妻に、それ以上口答え出来ないハウル。  
「わかったよ、次彼に会うまでにはこのモヤモヤを消化しておくよ」  
言いながら妻の細い腰に手を回します。  
「そうね、あの2人にちゃんとしたお礼しなきゃね・・・ブルーベルが年中咲くように魔法で助けてあげるってのは・・ん・・」  
ソフィーの提案も、最後の方はハウルが強引にキスしてきたせいでかき消されてしまいました。  
「もう、ハウルってば。甘えるのが2人に増えて、あたし1人じゃ抱えきれないわよ!」  
「昼間はモーガンにソフィーあげてるから、夜は僕にくれてもいいんじゃない?」  
「もう、我侭なんだから、私の大好きな旦那さんってば!・・・・・・あ、モーガンが泣いてる!」  
「あぁ、何てタイミングなんだ、モーガンめ!せっかくいい雰囲気に持っていけそうだったのに・・・何てひどい息子なんだ!」  
「そんなひどい事言うパパは知らないわ、1人で寝てちょうだい!」  
「えぇぇぇぇっ!」  
その日ハウルは結局1人で寝る羽目になったそうです。  
そしてソフィーは、モーガンを慣れない手であやしながら、大好きな旦那様がヤキモチを妬いてくれる幸せをかみ締めていたとか。  
 

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