「何でもないわけないでしょ。さっきからじーっと私の事見張ってるじゃない。」
またハウルがなにかよからぬ事を企んでいるのではと、ソフィーは訝しみました。
どこかおかしいところはないかとそれとなく様子を探りますが、どこもおかしなところはありません。
いつものように、嬉しそうな顔で自分を見つめているだけです。
ソフィーはふと、こんなことを考えている自分が恥ずかしくなって慌ててハウルから目をそらしました。
(私の事を見つめて嬉しそうな顔をしてるですって?それってどういうことかわかって言ってるの、ソフィー!)
いきなり顔を赤らめたかと思うとモップの柄に頭を打ち付け始めたソフィーに、
「可愛い奥さんを優しく見守るのも夫の務めさ。それにソフィーを見てると退屈しないからね。目を放せないんだよ。」
僕はいいお嫁さんをもらった、とくすくす笑いながらハウルは言いました。
ソフィーのおでこに痛々しい傷が出来ないうちにモップを奪い取るのも忘れません。
そんなハウルの行動にさらにソフィーの顔は赤くなっていきます。
(このキザ男!)
照れ隠しのためにわざとぶっきらぼうにハウルの手からモップととり返すと、これまたぶっきらぼうにモップがけを始めました。
「おだててもなにもでないわよ。さあさあ、お掃除の邪魔だからちょっとそこに投げ出してる長い足をどけて頂戴。」
そんなソフィーの心のうちを知ってかしらずか、ハウルは態度を改める様子もなく、
あいかわらずにこにこと笑顔でソフィーのことを見つめつづけていました。
(いいかげん、あっちの部屋に行ってくれればいいのに!)
ソフィー心臓は、ハウルに見つめられているという恥ずかしさと緊張のせいで、飛び出そうなくらいドクドクしていました。
「あれ、ソフィーいい匂いがする。」
ハウルはふと呟きました。匂いのもとを探ろうと、鼻をひくつかせながらソフィーににじり寄ってきます。
「さ、さっきハウル以外のみんなでお花畑まで花を摘みに行きがてら、散歩してきたのよ。花の匂いじゃないかし、きゃあっ!?」
にじり寄ってくるハウルから少しでも離れようと身を引こうとした瞬間、ハウルの手が勢いよく伸びてソフィーのスカートを掴みました。
そして匂いを嗅ぐようにしてスカートを鼻のあたりに押し付け
「んー、いい匂い。何の花の香りだろう?それに、草の匂いもするね。」
スカートに移った微かな花と草の香りを堪能するように、何度も息を吸ったり吐いたりしています。
その表情はまるで、火にかけてとろとろに溶けたチーズのようでした。
ソフィーはなにがなんだか、頭の中がまるでハウルの部屋みたいにひっちゃかめっちゃかになってしまって、言葉を発する事も出来ません。
ただモップを持ったまま硬直して、突っ立っていることしか出来ませんでした。
「あぁ…。花の香りのなかで仲良くするのもいいかもしれないなぁ……。」
近いうちに花の綺麗な丘の上で行われるであろう愛しい人との睦言に思いをはせ、ハウルは今日も愛という名の暴走を繰り広げるのでした。
おわり。