孤独をうたう歌が告げてる  
この人を抱きなさい、そして踊りなさいと  
まるで、世界が終わる夜のように  
 
 
音もなく、少女の体が浮き上がった。抱き上げられたのだと気付くのに、  
ソフィーは随分な時間を要してしまった。  
「やめて、あの、いいわ!自分で歩けるわ!」  
おろおろと声を荒らげたソフィーに軽く微笑み返し、ハウルが首を振った。  
「大丈夫、ソフィーは軽いよ。羽みたいだ」  
気障な台詞だったが、それでも初心な少女の頬は赤く染まった。  
青年は嬉しそうな微笑をこぼすと、彼女の髪に口付けた。  
ベッドに下ろされ、ソフィーはいよいよやって来る時を思い、小さく身震いした。  
それを恐怖と勘違いしたのか、ハウルが優しく彼女の髪を梳く。  
「怖い?大丈夫?」  
彼の優しさに、涙が出そうになった。それをどうにか押し留め、  
ソフィーはかすかに顎を引いた。  
「大丈夫だから……ためらわないで」  
囁いた言葉が淫らな気がして、ソフィーは目を伏せた。  
でも、まぎれもなくそれは彼女の本心だった。  
 
ハウルの唇が、ソフィーの額に押し当てられる。瞼、鼻、頬と滑り降り、  
唇に達した。強く抱きこまれ、少女は動揺したように身体を震わせたが、  
彼は気にせずに深いキスを繰り返した。  
「ふ……ん、ぅ……」  
ソフィーの知るキスは、唇を重ね合わせるだけの至って軽いものだった。  
だから、先ほどはじめて自分の口の中にハウルの舌が入ってきたときは、  
内心ショックだった。他人の舌を口腔に受け入れ、唾液を飲み込むことにも  
抵抗を感じた。  
「んぁ……うぅ…」  
でも、今は。今は、彼の舌が自分のそれと絡まる感覚がひどく心地よかった。  
彼の舌は熱く、ざらりとしていて、探るように動かされるたびに腰が浮く。  
「あぁ……」  
唇が離され、つぅと二人の唇の間に銀の糸が引いた。名残惜しくて  
ソフィーが唇を舌先で舐めると、ハウルは困ったように笑った。  
そして、もう一度キスを落とした。  
「そんな可愛い事されたら、たまらなくなる……」  
ハウルの囁きは優しかった。でも、切羽詰っていたのも事実だった。  
「押さえが利かなくなったら………」  
「なったら……?」  
「うん……ごめん。でも、嫌だと思ったら、ちゃんと言って?」  
押さえが一体どういうものなのかわからなかったが、ソフィーはとりあえず  
頷いておいた。嫌だと思ったら、といえど、一番好きな人に愛してもらえるのだ。  
何が嫌なのだろう。  
 
大概にして、お針子と言うものは噂が好きな人種だ。特に、ソフィーの勤めていた  
帽子屋は若いお針子たちが多かった。中にはもう既に恋人や所帯を持っている  
ものもいて、時にはきわどい噂話が出てくる事もあった。  
その中には、もちろん愛し合うもの達が一つのベッドで何をするのか、という  
ものも含まれていた。ソフィーの聞いた限りそれは素晴らしいもので、時には  
恍惚としてしまって何も考えられなくなってしまうらしい。  
だが、一番年かさの女に言わせて見ればはじめは痛くて仕方がなかったそうだ。  
どちらを信じていいかはわからなかったのだが、それでも愛がなければそういった  
行為を持つ事はない、というのは知っていたので、ソフィーは大人しくしていた。  
そうしている間にも、ハウルの指はソフィーの夜着のボタンを外し、  
素肌をさらし始めていた。冷気が身体を舐めるようにして這い上がる。白い身体が、  
ぞくりとすくみあがった。  
きゅっと眉根を寄せた少女に、魔法使いは小さな苦笑を洩らした。  
「安心して……僕は、ソフィーを傷つけないよ」  
がちがちに固まった白い体の持ち主は、小さな子供のように心細げに目を細めた。  
しかし、それをどうにか柔らかい微笑みに変えると、ソフィーはすっと腕を伸ばした。  
「ハウルも……」  
 
まもなく、腕の中に恋人はおさまった。その広い背に腕を回し、  
ソフィーはハウルの服の裾をまくった。心得たようにハウルは起き上がり、  
ボタンを外そうとする。しかし、ソフィーはそれを押し留め、自分も起き上がって  
彼の胸元にかがみ込んだ。  
「ソフィー?」  
ぷつん、ぷつんとかすかな音が立ってボタンが外れていく。ハウルは  
困惑したような声を上げたが、ソフィーはちらりと一瞥をくれただけだった。  
完璧にボタンを外し終えると、彼女は青年の夜着を脱がし、  
それをベッドの下に捨てた。  
「これで、おんなじでしょう?」  
嬉しそうに頬を上気させる少女に、ハウルは困ったように笑う。  
往々にして照れ屋で鈍感で初心であるくせに、自分を惑わす天性の媚態を  
持ち合わせているとは、なんと厄介な少女なのだろう。  
「そうだね」  
自分が彼女より年かさであってよかったと、この時ほど思った事はない。  
もしも自分も今日はじめて女を知るとしたならば、きっと彼女を思いやる事など  
出来なかっただろうに。  
ハウルはどうにか柔らかな微笑を浮かべると、下履きごと下半身に纏っていた  
ものを脱いだ。さすがにソフィーはきゃっと頬を赤らめ顔を覆ったが、  
彼にはそれが嬉しかった。  
「これで、二人とも同じだ」  
腕の中のソフィーを横たえながら、ハウルが言った。ソフィーは戸惑ったように  
瞬きを繰り返したが、何も言わずに彼の胸に顔を埋めた。  
 
華奢な身体に相応の、少し小ぶりな乳房が青年の骨ばった手で覆われた。  
その瞬間に、ソフィーの身体がびくりとすくんだ。ハウルは柔らかい微笑を  
浮かべると、彼女の耳にキスを落とす。  
「怖くないよ?」  
「だって……」  
顔を赤くしたソフィーが慌てて口を開いた。彼女は自分の手を彼の手に重ね、  
胸から引き離そうともがく。  
「ソフィーの胸、気持ちいいね……すごい柔らかい」  
甘ったるく囁かれた言葉に、ソフィーの顔が紅玉の様になった。  
初心な反応に、ハウルは相好を崩す。  
「何言ってるの……!」  
「ソフィーの身体、全部柔らかい。気持ちいいから、ずっと抱いていたいな」  
囁きに、ソフィーの身体が縮こまった。そうしている間にも、  
ハウルの掌に収まっていた胸が揉みしだかれはじめる。  
 
「きゃっ!」  
驚いて声を上げ、ソフィーは恨めしそうにハウルをにらみつけた。  
しかし、彼は悪戯っぽく微笑むと頭を下げ、彼女の白い胸元に口付けた。  
ちゅ、と音が立ち強く吸われる。  
「んっ!」  
目を丸くするソフィーを気にするそぶりもなく、ハウルは唇を肌に滑らせる。  
その度に、赤い華が咲く。  
「あぁ、ソフィー……綺麗だ」  
うっとりとしたようにハウルが囁いた。ソフィーも目を細める。  
二人はどちらからともなく唇を合わせた。  
キスの余韻にソフィ―が浸っている間に、ハウルが再び  
彼女の胸元にかがみこんだ。形の良い唇が、慎ましやかに鎮座した頂上を捉える。  
「ひゃぁっ!」  
ソフィーの唇から、甲高い悲鳴が零れ落ちた。まるで飴玉でも食べているかの  
ように、ハウルの舌が彼女の敏感な部分をねぶった。  
ちゅ、ちゅと湿った音がするたびに、少女の顔が羞恥に歪む。  
 
「きゃっ!」  
驚いて声を上げ、ソフィーは恨めしそうにハウルをにらみつけた。  
しかし、彼は悪戯っぽく微笑むと頭を下げ、彼女の白い胸元に口付けた。  
ちゅ、と音が立ち強く吸われる。  
「んっ!」  
目を丸くするソフィーを気にするそぶりもなく、ハウルは唇を肌に滑らせる。  
その度に、赤い華が咲く。  
「あぁ、ソフィー……綺麗だ」  
うっとりとしたようにハウルが囁いた。ソフィーも目を細める。  
二人はどちらからともなく唇を合わせた。  
キスの余韻にソフィ―が浸っている間に、ハウルが再び  
彼女の胸元にかがみこんだ。形の良い唇が、慎ましやかに鎮座した頂上を捉える。  
「ひゃぁっ!」  
ソフィーの唇から、甲高い悲鳴が零れ落ちた。まるで飴玉でも食べているかの  
ように、ハウルの舌が彼女の敏感な部分をねぶった。  
ちゅ、ちゅと湿った音がするたびに、少女の顔が羞恥に歪む。  
 
しばらくの間、ハウルはソフィーの乳房の柔らかさや甘みに夢中になっていたが、  
不意に顔を上げた。それから小さく笑うと、掌を腹部の括れからわき腹に伸ばし、  
か細くくびれた腰の辺りに収める。  
「えっ?」  
驚きに目を瞠るソフィーに、ハウルは余裕たっぷりに微笑んで見せた。  
臀部のふくらみを柔らかく揉みしだきながら、耳朶を口に含む。  
「きゃあっ!」  
びりっと走った電流のような快感に、ソフィーの身体が跳ねた。  
ハウルは彼女の弱い耳元を執拗に攻め嬲りながら、ぴたりと閉じられている  
細い足を押し広げる。  
「やっ……」  
健気にも少女の純潔を守り抜いてきた草むらを掻き分け、ぞっとするほどに  
白い皮膚を開く。裂け目は既に熱くほころび、熟した赤色をして  
しっとりと濡れ光っている。その光景に、ハウルは目を奪われた。  
 
「みない……でぇ……っ」  
呆然とする恋人に、少女は泣き声を上げた。羞恥と陵辱の極みに、  
ソフィーはひくひくとしゃくりあげる。  
その声にハウルははっとし、彼女の髪を撫でた。  
「ごめんね……でも、すごく綺麗だ。濡れてるよ、解る?」  
ソフィーが勢いよく首を振る。認めまいと躍起になる少女に苦笑しながら、  
ハウルはゆっくりと彼女の入り口をなでさすった。  
「―――っ!」  
「嬉しいな……感じてくれたんだ」  
嬉しそうな表情で、弾んだ声でそう言われてしまえば否定できない。  
ソフィーはもう訳がわからなくて、ひたすらに喘いだ。そうしている間にも、  
長い指がつぷ、と音を立ててソフィーの内部に侵入してくる。  
「んんっ!」  
 
「痛かった?」  
上がった声が事の他固い事に気付き、ハウルが心配顔で訊ねてきた。  
ソフィーは体内の違和感と葛藤しながら、どうにか首を振る。  
「ううん……そうじゃないの―――なんだか、へんだわ……」  
そう、と小さく呟くと、ハウルは埋めていた指を小刻みに振るわせた。  
ソフィーの全身がかわいそうな位に跳ね上がり、震える。  
「あぁ!や、やだ……やだ!やっ、ハウ…ル、いやっ!」  
ぞわり、と白い肌に鳥肌が立つ。それが嫌悪感からなのか、あるいは快楽から  
なのかはソフィーには理解できない。  
しかし、彼の指は確実に彼女の理性の壁を壊し、淫靡な世界へ突き落とす。  
その事に戦慄しながらも、少女は目を伏せて動きに意識を集中させた。  
 
「―――あぁっ!」  
切なげな声が響き、ソフィーがぐったりと天を仰いだ。  
ハウルは彼女の中に埋めていた指を抜き取り、それを舌先で舐める。  
「……甘い」  
そう言って、ハウルが口の端を持ち上げた。どこか艶然とした笑みに、  
ソフィーがぐぅと喉を鳴らす。  
「美味しい……ソフィーの味がするよ」  
言われ、ソフィーが泣きそうな顔でいやいやした。しかし、ハウルは  
表情を変えることもなく、彼女に深い口付けを落とす。  
「んぅ…ふ……」  
 
「……ソフィー」  
興奮に頬を上気させたハウルが少女を呼んだ。その姿を見上げながら、  
ソフィーはなんてこの人は美しいのだろうと見蕩れる。  
まるで魅入られたように、彼から視線が外せない。  
「いい……?」  
すっと、美しい手が差し伸べられた。ソフィーは目を細め、  
ごくごく自然な動作でそれを取った。  
「……連れて行って、あなたのところへ」  
熱に浮かされたような口調でそう答える少女に、青年はまるで  
溶け落ちてしまいそうなほどに甘い顔で囁き返した。  
「見せてあげる……ソフィーに、何もかも」  
 
ゆっくりと、ハウルの身体がソフィーに重ねられた。  
月が雲に隠れる位の自然さで、視界いっぱいに彼の姿が広がる。  
少女は怯えるでもなければ喜ぶでもなく、ただぼんやりと藍色の髪を見つめていた。  
「痛い、かな」  
ぽつんと呟かれた言葉に、ソフィーが不安そうな顔になった。  
上目遣いにハウルを見やり、おずおずと尋ねる。  
「痛いのかしら……?」  
「初めては、どうしても痛いって言うけどね………痛くないと、いいんだけど」  
力なく投げ出されたソフィーの足が開かれ、ハウルの膝が割り込んでくる。  
思わず竦むか細い身体を撫でさすり、緊張をほぐす。  
彼女は溢れ出る不安から逃げるように、恋人の背に腕を回した。  
「いくよ―――力、抜いて」  
低い声で囁くと、ハウルは神妙な面持ちで腰を突き出した。  
「あっ……」  
自分の入り口で感じた熱に、ソフィーの唇から切なげな声がもれる。  
崩れ落ちそうになる理性をどうにか押し留め、ハウルはゆっくりと  
自身を彼女の中に推し進めた。  
「ひっ―――!」  
 
悲鳴じみた声が漏れ、次の瞬間にはソフィーの眉根がぎゅっと引き絞られた。  
唇はわななき、全身が強張る。  
「力……抜いて」  
「っ!――――いやぁっ!いや、痛い!」  
彼を受け入れようと思う心とは裏腹に、身体はギチギチと締まって侵入者を拒む。  
痛みと切なさ、そして情けなさにソフィーは涙を滲ませた。  
ハウルも困ったように眉をひそめている。  
「ハウル…っ!怖い……や、痛…いっ……あぁ!いやぁっ!」  
「ソフィー、いい子だから……ゆっくり呼吸して」  
痛みに泣き出した少女の髪をなだめるように撫でながら、ハウルが囁いた。  
荒い呼吸を繰り返していたソフィーが、言葉に操られるように呼吸を整える。  
「そう、上手だ……」  
「……怖いわ……」  
 
ぽろぽろと涙を流すソフィーは、年よりも幼く見えた。  
ハウルはいたたまれないような気分になって、彼女の頬にキスをした。  
「爪、立てていいから」  
ハウルは一言だけ囁くと、さらに腰を推し進めた。  
内臓が押し上げられるような錯覚に陥って、ソフィーは必死で彼の背に爪を立てた。  
力のこもった指先が色をなくしていく。  
「ソフィー、ごめんね……もう少しだから」  
ハウルの声が、焦りにか低く掠れている。ソフィーはぐずぐずと  
しゃくりあげながらも、彼に縋り続けた。  
爪を立てられた背に、赤い筋がいくつも残る。  
「ハウル…おねがっ……助けて……」  
「ソフィー!」  
泣きながら懇願するソフィーの言葉を口付けで奪い、ハウルが彼女をぐっと  
抱き寄せる。あまりの激痛に、甲高い悲鳴がこぼれた。  
でも、それも行き場を無くしては喉の奥でくぐもって響く。  
 
「……全部、入ったよ」  
囁かれ、固く目を瞑っていたソフィーがゆっくりと目を開いた。  
頬に零れる涙を指で拭い、ハウルが微笑む。  
「本当……?」  
「うん―――ありがとう、ソフィー」  
礼を言われて、ソフィーが小さく微笑んだ。汗で額に張り付いた髪を  
かき上げてやると、彼女はうっとりと目元をほころばせる。  
「夢、みたいだ」  
ぽつり、とハウルが呟いた。声音の頼りなさに、ソフィーは思わず目を丸くする。  
彼は苦笑し、恋人の存在を確かめるように唇をその頬に寄せた。  
「あの日―――ソフィーにはじめてあった日から、ずっと……」  
「ずっと……?」  
曖昧に言葉を濁したハウルが、小さく首をふった。  
それからこつん、と軽く額をあわせる。  
「こうして、この腕の中に抱ける事を願ってた」  
 
馬鹿みたいだろう、とハウルが笑う。ソフィーは首を振り、彼の髪を梳いた。  
「ううん―――嬉しいわ」  
耳元で言われた言葉に、ハウルが頬を赤くした。ソフィーは微笑み、  
それから彼に唇を寄せた。  
「嬉しいわ―――よかった。私のこと、そんなに想っていてくれたのね」  
痛みに顔は青ざめ、色々な衝撃にぐったりしていた風ではあったが、  
そう囁いたソフィーは息を呑むほどに美しかった。  
ハウルはかすかに目を見開くと、それを甘ったるい台詞にすり替えた。  
「……ソフィーの事を想わない日なんて、一日だってなかったよ」  
ハウルの言葉に、ソフィーが瞳を潤ませた。右手をそっと彼の頬に回し、  
自ら伸び上がって口付ける。  
 
「………あったかい」  
羽で触れるくらいに微かなキスは、一瞬で終わった。  
しかし、ソフィーは小さく呟いてから息を吐いた。  
「今、私が世界で一番あなたに近いのね」  
幸せそうな、そしてどこか誇らしげな言葉に、ハウルの方が顔を赤らめてしまった。  
彼はさっと顔を背けて動揺を収めると、にこりと大人びた微笑を浮かべた。  
「ね」  
ハウルの唇がソフィーの耳元に寄せられた。かすかな声で告げられた言葉に、  
今度は彼女の方が真っ赤になってしまう。しかし、彼は辛抱強く待ち続ける。  
長い長い沈黙の後、少女の髪がかすかに揺れた。  
「ソフィー、大好き」  
嬉しそうな声に、ソフィーは耳まで赤くして俯いた。  
 
「んっ……あ、ふ……ん」  
きゅっと眉根を寄せながら、ソフィーが小さく声を上げ続ける。  
彼女を組み敷き、動き始めたハウルは気遣うような視線を投げた。  
「痛い?」  
「………へい、き」  
歯を食いしばり、視線を逸らしながらの言葉に、ハウルは泣き出しそうに  
目を伏せた。それから、少しでも彼女が楽に、苦しくないようにと  
小さな耳元に顔を埋めた。  
「ソフィーが、好きだよ」  
「んんっ……ふ、ぁあ…やっ」  
「……僕には、ソフィーだけだよ」  
ぎゅうと抱きしめられ、ソフィーの目に痛み以外の何かから出る涙が滲んだ。  
自分も同じ気持ちだと伝えたかったけれど、上手く言葉が紡げない。  
だけどどうにか心のうちを見せたくて、彼女は恋人に縋りついた。  
「ソフィー」  
名前を呼ばれ、見上げると唇が奪われた。甘い、甘い口付け。  
頭がぼぅっとして、全身が溶けてしまうような気がした。  
つながった部分からの痛みはやまないけれど、それ以上の何かを感じる。  
ソフィーはそれを心地よいと感じ、もっと味わいたくて  
自らハウルの舌を絡め取った。くちゅ、と湿った音が立った。  
 
「愛してるよ」  
長い間重なり合っていた唇が離れ、ソフィーが切なげに吐息を洩らしたのと  
時を同じくして、ハウルがそう言った。  
「――――……っ」  
大きな瞳から涙が溢れ、ソフィーは思わず口元を覆った。  
ハウルは不思議そうな顔をしている。  
「ソフィー?」  
苦い笑いを浮かべながら首を傾げるハウルに、ソフィーは首を振った。  
しかし、耐え切れなくてもう一度目を瞑る。  
「……はじめて」  
 か細い声で、ソフィーが呟いた。ぽかんとしていたハウルが、  
はっとしたように彼女を見る。  
 
「初めて、言ってもらった」  
泣き笑いの表情で、ソフィーがそう言った。ハウルは微笑み、彼女の髪にキスする。  
「いくらでも言ってあげるよ―――愛してる、ソフィー」  
言葉の甘やかさに思考をとろかし、ソフィーはようやっと全身から力を抜いた。  
うっとりとした表情で、彼の言葉の余韻に浸っている。  
「そういえば」  
「ふっ……あ…」  
ぎし、ぎし、とベッドに悲鳴を上げさせながら、ハウルが悪戯っぽく瞳を輝かせた。  
「僕、ソフィーからまだ何も聞いてないよ」  
ソフィーの顔が、より一層赤くなる。彼女は戸惑ったように視線を揺らし、  
それから、おずおずとハウルを見上げた。  
「………」  
「なぁに?」  
ぎゅっと目を瞑り、ソフィーがハウルを引き寄せた。  
「…………すきよ」  
「うん…」  
「ハウルの事が、大好き……ううん」  
二人の動きが止まった。ソフィーはふわりと微笑むと、彼の頬に触れた。  
 
「愛してるの」  
 
視線が溶け合う。二人は、小さく笑い合った。  
 
 
二人が寝ても十分に余裕のあるはずのベッドが、さっきからずっと悲鳴を  
上げ続けている。その音を意識の遠くで聞きながら、ソフィーはひたすらに  
体を焼き尽くすような熱に耐えていた。突き動かされるたびに感じるものは、  
果たして痛みなのかあるいは別のものなのか。  
だけど、熱に浮かされていたソフィーには、それすら区別がつかなかった。  
「ソフィー……すごい、気持ちいい」  
掠れた声で、ハウルが囁いてきた。どう答えて良いかがわからず、  
ソフィーはとりあえず大きくうなずいてみせる。  
彼は笑うと、恋人をぎゅっと抱きしめた。  
その笑顔が子供みたいに安心しきっているようで、ソフィーは胸が温かく  
満たされるのを感じた。こみ上げてくる愛しさに泣き出しそうになる。  
「ハウル……」  
青年の胸に頬を押し当て、ソフィーはそこに口付けた。  
そうせずにはいられなかった。  
「好きよ……大好き―――誰よりも、何よりも……」  
 
そう紡いだ桃色の唇がふさがれた。薄く開いた口元から舌が差し込まれ、  
ねっとりと絡めとられる。ハウルの舌の熱さ、甘さに思考が奪われ、  
ソフィーは無我夢中でそれを貪った。口の端からどちらの物かも分からない  
雫がこぼれる。もっともっと欲しくて、少女は恋人を強く抱きしめた。  
体の奥が潤むのがよく分かる。これが快楽というものなのか、と  
少女は本能で理解した。  
「ソフィー、ごめん―――もう……っ」  
いつもの飄々として大人びた彼からは想像もつかないくらいに切羽詰った顔と  
声音で、ハウルが囁いた。ソフィーは彼にぎゅっと抱きつくと、小さくうなずいた。  
「いいわ……ハウルの、好きなようにして……」  
告げられ、青年はふっと微笑んだ。それから、荒々しく腰を躍らせる。  
痛みと、それから自分が保てないくらいの熱さを感じ、ソフィーは  
甲高い悲鳴を上げた。  
「――――っ!!」  
 
どくり、と体の奥で音がした。全身が焼き焦げそうな熱を感じ、ソフィーは  
体をこわばらせた。ゆっくりと、何かが注ぎ込まれる。  
「あ、あぁ……」  
ソフィーは目を見開くと、ふっと意識を手放した。  
 
眠りから浅く覚醒し、ソフィーはううん、と身じろいだ。  
自分を包む暖かいものは心地よく、目を覚ますのが少し惜しかった。  
だけどもう一度眠れる気がしなかったので、ソフィーはゆるゆるとと目を開いた。  
見慣れない場所。ふと顔を上げると、整った顔がある。  
「―――っ!」  
驚きに息を呑むと、伏せられていた睫毛がぱっと開かれた。  
まともに目が合ってしまい、ソフィーがまたもや息を呑む。  
「……起きた?」  
「え、ええ……」  
いつもよりも掠れた、色っぽく低い声での囁きをまともに食らってしまい、  
ソフィーはどぎまぎと俯いた。真っ赤に染まる耳たぶに、ハウルがゆるく微笑む。  
「体とか、平気?」  
心配そうにたずねられた言葉に、ソフィーは目をしばたかせた。  
どきどきと暴れだした心臓に戸惑いふと視線を下げると、規則正しく動く  
自分の胸が見えた。そして、それが押し付けられたハウルの割としっかりした胸板。  
ただし、どちらも裸の。  
「!!」  
 
またもや大きく息を呑んだソフィーに、ハウルは目元をほころばせた。  
どうして裸なの、と詰問しようにも、彼が余りに穏やかで幸福そうだったので、  
少女は仕方なしに目を伏せる。  
「もっと、優しくしてあげればよかったね……」  
不甲斐ない、というような口ぶりに、ソフィーは下を向いたまま首を振った。  
「あの、その……大丈夫、あなたは、十分優しかったわ……それに」  
「それに?」  
「………すごく、素敵だった」  
消え入りそうな声でぼそぼそと告げられた言葉に、ハウルは耳まで真っ赤にした。  
いつもの余裕ぶった様子からは想像もつかない表情に、ソフィーは目を見張る。  
「ハウル、照れてるの?」  
どこかおかしそうなソフィーの言葉に、ハウルは唇を突き出して  
彼女の頬をつまんだ。  
「照れてないよ―――でも、君は時々僕の心臓を止めるような言葉を言うね」  
ほら、という様にハウルはソフィーの頭を自分の胸に引き寄せた。  
耳を当てると、たしかにとくとくという鼓動が聞こえる。  
 
「止まってないわ」  
「でも止まりそうだよ」  
拗ねた様につぶやくハウルの唇に、ソフィーは小さく笑った形のままの  
唇をちゅっと押し付けた。それからもう一度、心を込めて微笑む。  
「私があげた心臓だもの、そう簡単には止まらないわ」  
上気した頬に、きらきらと輝く瞳。生き生きとして美しいソフィーの様子に、  
ハウルは眩そうに目を細めた。  
「ハウル―――あのね、私ね」  
「うん」  
「すごく、幸せよ」  
体は確かに痛いし、色々と大変な目にもあった。辛いことだってないわけではない。  
この恋の行方なんてどうなるか分からないし、臆病者の二人が生きていくには  
この世界は冷たすぎる。それでも。  
「僕も、すごく幸せ」  
 
―――世界の終わりの夜が、こんな夜ならいい。  
紺碧の空にちらちらと星が瞬いて、すぐ近くでは恋人が微笑んでいてくれる。  
そんな夜なら、きっといい。  
 
二人は視線を合わせあい、小さく笑った。そして、ゆっくりと唇を重ねた。  
 

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