不自然な様子に気付いたのは最近の事でした。  
 
彼は以前から、ふらっと居なくなったかと思うと突然帰って来たり、  
行動的につかみ所の無いところがあったのですが、  
心を取り戻してソフィーと想い合うようになってからは、どこに行って来るだとか  
何時頃には帰って来る、などちゃんと伝えてから出掛けるようになっていました。  
 
まだ薄暗い明け方、ソフィーは微かな気配と物音で目を覚ましました。  
頬にふれる温かい手、何故か少し煙のような匂いもします。  
「ハウル…?」  
しかしそれをしっかり確認する間もなく、ソフィーは眠りの海に引き戻されて行きました。  
 
朝、お風呂でお湯を出す大きな音でソフィーは再び目を覚ましました。いつもと変わらない  
ハウルの朝風呂の音です。  
ソフィーは起き出しで身支度をし、マルクルとおばあちゃんを起こして朝食を作り始めます。  
いつもの朝が始まりました。微かな違和感を残して。  
 
あの、いくつもの国を巻き込んだ戦争はようやく収束に向かっていました。  
しかし、一国だけは無駄な戦いを止めようとしませんでした。  
 
 
その日、夕方になりソフィーとマルクルは港町に買い物に来ていました。街では例の一国の  
話で持ちきりです。  
「昨夜敵の戦艦が来ていたらしいな」  
「でも攻撃は失敗したらしい。助かったよ」  
街中でその話を耳にします。新聞にも色々な記事が書いてありました。  
 
【最後の敵国、わが国への攻撃失敗】  
【原因不明・市街地外れで敵戦艦謎の墜落】  
【落ちる敵艦…飛び上がる黒い鳥】  
 
「黒い…鳥…?」  
「ソフィー!野菜も買ったよ!早く帰ろー」  
「あ…うん、帰りましょうか」  
 
ソフィーとマルクルは買い物を済ませ、城に帰ってきました。今夜の夕食はシチューです。  
食事の準備をしている間も、ソフィーの頭からはさっきの新聞の見出しが離れません。  
(飛び上がる黒い鳥…?)  
「ソフィー?」  
突然の声に驚いて鍋を引っくり返そうになってしまいました。声の主はハウルです。  
「どうしたんだいソフィー?ぼーっとして?」  
「いえ…何でもないの。あの…今日の明け方に…」  
ゲフンゲフン!!  
「ソフィー!ヒンが喉にご飯詰まらせたよ!」  
後ろで騒ぎがおこりました。すぐにそちらに駆け寄ります。  
「ヒン!大丈夫!?ほら、しっかり」  
ソフィーは老犬の背中を叩いてやります。すると喉の詰まりはとれたようです。  
「良かった…まったくもう、ヒンも歳とってるんだから慌てて食べちゃだめよ」  
「ごちそうさま、ソフィー」  
騒いでいるうちに食事を終えたハウルは一人で二階に上がって行ってしまいました。  
ハウルに肝心な事を聞きそびれてしまったソフィーですが、おばあちゃんにご飯を食べさせたり  
片付けをしたりと色々な事をしているうちに、その事は一時的に忘れてしまったのでした。  
 
 
燃え盛る街、爆撃をする戦艦。それに一人立ち向かっていく、漆黒の姿のハウル。  
戦艦から飛び出した無数の魔法使いに取り囲まれ、一人戦うハウル。  
燃え盛る戦艦と共に落ちて行き…  
 
「…やめて!!」  
 
ソフィーは目を覚ましました。汗をびっしょりかいて、心臓は嫌な鼓動を刻んでいます。ソフィーは夢を  
見ていたのです。あの時、ハウルが一人で行ってしまった時の夢を。  
……夢?  
あれは過去の夢だったのでしょうか。それとも。  
 
不安になったソフィーはハウルの寝室へと急ぎます。彼の寝室の前まで来た時、嫌な予感がしました。  
コンコン…  
「ハウル…?」  
返事がありませんが、そっとドアを開けます。  
そこにはハウルの姿は無く、開け放たれた窓と漆黒の羽だけが落ちていました。  
一瞬の内にあの夢を思い出します。  
「ハウルっ!!」  
 
ソフィーはいつの間にか泣いていました。またハウルが一人で戦っているのではないかと考えると  
怖くて…悲しくて…。  
 
ハウルは一体どこに行ったのでしょうか。  
その時、城の外から何か音が聞こえてきました。遠く聞こえてくるその音に耳をそばだてます。  
間違いありません、その音は、爆発の音・機関銃の音…戦争の音でした。  
もしかしたらハウルは。そう考えたソフィーは二階から駆け下り、カルシファーに詰め寄ります。  
「カルシファー!ハウルはどこに行ったの!?」  
ソフィーのただならぬ様子にカルシファーは圧倒されました。  
「オ、オイラだって詳しくは知らないやい!でも、多分今もハウルは飛んでるんだと思う。  
 最近敵の空襲が失敗してるってのも、ハウルが人知れず食い止めてたからさ」  
「昨日戦艦が街外れで墜落したのもハウルが!?」  
「多分ね」  
「なんで…また一人でそんな危険な事を…。どうして私に話してくれないの?」  
「あいつ、ソフィーがものすごく心配するから黙っていようって言ってたんだ。  
 オイラもここを守ってる!でも戦艦の攻撃を防ぐにはハウルが飛ぶしかないんだよ!  
 それにこの城だけじゃない、ソフィーの街もあいつは守ってるんだ」  
 
自分だけでなく自分の生まれた街まで守ろうとしているハウル。ソフィーは彼の優しさに  
涙が止まりませんでした。  
しかし、なぜかこのまま待っていてはいけない気がしたのです。あの時のように彼はソフィーを  
待っているような気がしてなりません。  
 
「カルシファー!あの爆発音はどこからしているの!?あなたそれくらいは分かるでしょう!?」  
「ええ!?えーっと……街外れの荒地だ!ソフィーの花畑!」  
「…あそこなら魔法の扉から出て走っても行けるわね」  
そう言うなり駆け出します。  
「おいソフィー!?ソフィーが行ったら意味無いって!!」  
「ハウルを一人で戦わせるなんて出来ないの!それにあの人はきっと私を待ってる。  
 私が行ってあげなきゃ」  
そう言って扉を切り替え、ソフィーは荒地に駆け出して行ってしまいました。  
「ソフィー!!」  
慌てて叫ぶカルシファーの目の前で扉が閉まります。彼は追いかけて行くことが出来ません。  
今は、ハウルの代わりにこの城を守らなければならないのですから。  
 
城を飛び出したソフィーは音を頼りに走ります。走って走って花畑を目指し、  
徐々に爆発音が大きく聞こえてきました。やがて紅い炎と灰色の煙も見えてきます。  
ようやく辿り着いた花畑は、何隻もの戦艦が墜落し、炎と煙が渦巻く世界でした。  
 
 
その空に飛ぶのは漆黒の翼  
 
 
「ハウル!!」  
彼は何匹もの敵の使い魔に取り囲まれながら、最後の戦艦を食い止めようとしています。  
その直後  
ド――――ン!!!  
何か魔法を使ったのでしょうか、大きな音と共に最後の一隻が落ちて行きました。  
「ハウル!!もうやめて!!」  
「!!??」  
ソフィーは叫びました。それに気付いたハウルは驚き、その間に使い魔はソフィーに  
襲い掛かります。  
「ソフィー!!危ない!!」  
ソフィーの目前に迫る使い魔。ハウルの怒りは頂点に達し、  
「貴様ら!!消えろ!!」  
彼が腕を振り下ろすと無数の稲妻が使い魔に降り注ぎ、敵は叫び声を上げて消滅しました。  
 
危なく攻撃されるところだったソフィーは、へたり込みそうになりながらも気を持ち直し、  
黒い鳥の姿になっているハウルに駆け寄り、抱きつきます。  
「ハウル!?大丈夫!?」  
彼は何も答えません。勝手に飛び出して来た事を怒っているのかと思い、  
そろそろと見上げて見ると、ハウルはどこか遠くを見て冷たい笑みを浮かべていました。  
ぞっとするような凍りつくような微笑です。ですがもう敵は居ません。  
「ハウル!!ハウル!!もういいのよ!敵はいないの!」  
ソフィーがいくら呼びかけても彼は答えません。  
しかし次の瞬間、その凍るような視線はソフィーに向けられました。漆黒の姿をしたハウルの  
瞳はまるで闇のように暗く濁っています。彼は闇の力を使い過ぎたのです。  
 
思いもよらないハウルの様子にソフィーはうろたえました。彼は今、自身を見失っています。  
「私はどうすればいいの…」  
そしてハウルは握りつぶすほど強い力でソフィーの腕を掴みました。普段は何があっても  
優しい彼が、自分を傷つけるかもしれなのです。ですがソフィーはそれでも構いませんでした。  
ハウルがどんな姿だとしても、何をされたとしても、ソフィーは彼を愛しているのです。  
 
でも優しいハウルの方がいい…  
 
ソフィーは自分の気持ちを込めて彼の唇に口付けました。どうか優しい彼が戻って来ますようにと  
願いながら、まるで自分の心を移すように少しだけ深く、何度も口付けます。  
ちゅ…ちゅっ…  
 
「………ソフィー…」  
名前を呼ばれて目を開けると、そこにはいつもの優しい表情に戻ったハウルがいました。  
闇のようだった瞳もやや晴れてきています。  
「ハウルっ!!」  
ソフィーは思い切りハウルに抱きつくと、彼は顔を歪めます。  
「痛っ!」  
「…ハウル?」  
羽の生えたハウルの体には傷がいくつも付いていました。ソフィーは血が滲んでいる  
傷口ひとつひとつに口付け、優しく舐めました。  
ぺろ…ちゅっ…  
ソフィーの思いがけない行動に、ハウルは黒い欲望が湧きあがって来るのを感じます。  
 
「ソフィーっ!だめだ…!」  
「……どうして?」  
「そんな事をしたら君が欲しくてたまらなくなる…。今の僕は危険だ。まだ闇の力が抜けきっていない」  
確かに彼の瞳は薄れて来たとはいえ、まだ闇の色をしていました。まだ澄んだ青い瞳は  
戻って来ません。しかし、ハウルはハウルなのです。  
ソフィーは、彼が金髪の美青年でも黒い鳥の姿でも、たとえどんな姿であっても  
その本質は変わらないと思っています。それに、さっきのキスで感情を取り戻せたなら、  
愛し合う事で完全に元のハウルに戻れるのではないかと考えたのでした。  
「私はかまわないわ…どんなハウルでも平気よ」  
そう言ってまたハウルを抱き締め口付けました。ほんの少し深く。  
 
「ソフィー…!」  
ハウルはその姿のままに激しい口付けを返します。  
ちゅっ…ちゅっ…くちゅ…  
舌を絡め、甘噛みを繰り返すうちにソフィーの意識は、ぼうっとしてとろけていき、  
やがて二人は絡み合いながら一面に広がる花畑に倒れこみました。  
体中を羽で覆われたハウルがソフィーを包み込みます。  
彼はソフィーの首筋や鎖骨にキスをし、舌を這わせながら服を脱がしていきます。つもより荒々しい仕草で。  
 
邪魔なものを取り払えばハウルの羽毛を直に感じることができました。漆黒の羽は見た目よりも  
ふわふわと柔らかく、荒々しさの中でソフィーに安心感を与えました。  
ここは外なのに彼の体はとても暖かく優しく包み込むようです。それと同時に羽が触れることで、  
全身を愛撫されるような感覚に、ソフィーは敏感に反応しはじめました。  
一方のハウルは黒い欲望に任せてソフィーの胸を揉み解します。自分の鋭い爪で肌を  
傷つけないように気を使ってはいますが、まるでケモノのように求めてしまいます。  
ぺろ…ぺろ…ちゅぅっ!  
胸の頂を舐め強く吸い上げるとソフィーは声をあげてもだえます。  
「んんっ!あ…あっ!」  
 
そして彼女は無意識のうちに、もじもじと膝をこすり合わせます。ハウルはそれを見て  
舌を彼女の下半身に向かってつーっと這わせ、下ろしていきました。  
「あっ!?そんな!ハウル!?」  
ソフィーが止めるよりも早く、ハウルの舌は濡れそぼる花に到達しました。  
あとからあとから溢れてくる蜜を舐めとり、ソフィーの中に舌を差し込みます。  
ぴちゃ…ちゅ…ちゅく  
「あっ…あっ…んんっ!いやぁっ…はぁん…」  
初めての感覚とその淫らな水音に、ソフィーは泣きたくなるほどの恥ずかしさを覚え、  
同時に今までにない、鋭くて甘い快感に浸りました。  
 
そのうちに我慢が出来なくなったのか、ハウルはぐったりとしているソフィーの体を持ち上げ、  
座って抱き合う格好で繋がりました。ソフィーは後ろに倒れないようにハウルにしがみつき、  
彼はそのふわふわの体にソフィーを包みこみつつ、下から突き上げせめたてます。  
ハウルとキスして抱き締めあって繋がっていて…ソフィーは幸せを感じながら  
高みへの階段を登って行きます。彼女はまだ気付きませんが、ハウルの瞳の闇も段々と  
晴れていきます。  
やがて、激しくも幸せな瞬間が訪れます。  
「くっ!…ソフィーっ!!」  
「ハウルっ…あんっ!んんっ!!」  
ソフィーの中は離さないとでもいうかのように彼を締め付け、ハウルは熱い精を放ちました。  
 
その瞬間、ハウルの瞳から闇は完全に消え元の澄んだ青い瞳に戻りました。  
体を包んでいた漆黒の羽も消え、人間の姿に戻ります。  
「ハウル…?良かった…いつものハウルだわ…」  
「ソフィー…ありがとう」  
安心したのか疲れたのか、ソフィーは花畑の中でそのまま眠りの海に落ちてゆきました。  
 
眠る彼女に簡単に服を着せ終わった頃、彼らの動く城が空から現れます。  
気を利かせたのはカルシファーでした。後に彼は言います  
「敵が居なくなったのは分かったさ。でもすぐ飛んでいってもロクな事ないからな!オイラは悪魔だけど邪魔はしない主義なんだ」  
カルシファーは知っているのかいないのか。謎は全て花畑の中ヘ。  
 
 
 
 
END  
 

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