あなたは太陽、わたしは月  
 運命の神に導かれ、共にいる  
 真夜中と真昼  
 ひとつの空を分け合う  
 祝福されている、あなたとわたし  
 
 
鋭い痛みが全身を駆け巡り、少女は甲高い悲鳴を上げた。  
青年も端正な美貌をぐしゃぐしゃに歪めながら苦しそうに呼吸している。  
荒い息遣いが、狭い部屋の中に満ちた。分厚いカーテン一枚で区切られたそこは、  
少女と青年の体から発される汗と体液の匂いが濃く、誰かが廊下を通れば、  
中で何が行われているかは容易に知られてしまうろう。  
ただ、この二人の濡れ場を見て、彼らを恋人同士と感じる人は一人もいないはずだ。  
何せ、組み敷かれた少女はしきりに痛い痛いと喚いているし、  
青年はそんな彼女の腕を乱暴に掴み、悲鳴に一切耳を貸さずに腰を動かしている。  
そして何より、少女はこの店の売り子で、青年は一国の王子だった。  
けれども、どちらの目にも必死に縋りつくような色があった。  
まるで、相手だけが自分を救い出してくれる細い糸だとでもいうように。  
 
青年があぁ、と溜息をついて力を抜いた。少女の目は真っ赤に充血していて、  
顔全体が涙と唾液でべとべとになっている。  
「………すみませんでした」  
「謝らないで」  
青年の吐き出した白濁を布でぬぐいながら、少女が低い声でさえぎった。  
双方の顔には、後悔と疲れの色が濃い。  
「でも……」  
「いいの」  
少女はきっと眦を吊り上げながら、自分の衣服の乱れを直した。  
きしきしと痛む体に鞭をうち、すくっと立ち上がる。  
「あなたが元気になるなら、あたしの体くらい何でもないの」  
だから、と少女は微笑んだ。太陽のような、と形容される美しい表情だった。  
 
「元気を出して。寂しいなら、いつだってあたしが慰めてあげるから」  
 
サロンから出てきた看板娘は、泣きはらしたような顔をしていた。  
店主や同僚、そして何より彼女の信望者である男性客立ちは心配したが、  
彼女は何一つとして答えなかった。  
そして、時間をおいて出てきた金髪の青年は、思いつめたような顔をして  
足早に店を出て行った。  
 
帰り道を歩く青年が、ふと顔を上げた。頭上の月は、頼りないほど細い上に  
分厚い灰色の雲がかぶさっている。  
ちかちかと瞬く星や、芳醇な夜空に比べて、三日月は儚すぎた。  
太陽に当たらない限り、自らは輝けないよわいもの。  
自分にふさわしすぎて、青年は自嘲するように笑った。  
もろくて輝けない己は、ひどく惨めで格好悪かった。  
 
「あなたがレティー・ハッターですね?」  
低い声で、老婆は目の前に退治している少女の名を問うた。  
店の中は不気味に静まり返っている。レティーはごくりと喉を鳴らしてから、  
首をかしげた。  
「ええ、そうです。失礼ですが、あなたはどちら様でしょうか?」  
客商売の娘らしく、はきはきとした物言いでレティーは訊ね返した。  
目の前の老婆は黒いショールを頭に巻きつけ、黒い外套をしっかり着込んでいた。  
彼女の乗る車椅子を、同じく黒尽くめの格好をした少年が押している。  
怪しすぎる二人組みを、レティーを除いた店中の人間がはらはらと眺めていた。  
「そういえば、面識はありませんでしたね」  
そういうと、老婆は少年に指示を出した。するりとショールがはがれ、中からは  
白髪の老女の顔が現れた。品よく整った顔立ちが年齢より若く見せている  
感じではあるが、相当な年と地位をもったものだろう。  
取り巻く雰囲気が、この下町の誰とも違う。  
「はじめまして、ミス・ハッター。私の名前はサリマン。皆はマダム・サリマンと  
呼びます。この国の王宮に仕えるものです」  
マダム・サリマンの名前に店内がざわめいた。レティーは背筋に走る冷や汗を  
感じながらぎこちなく微笑んだ。  
 
「はじめまして。お名前とそのご功績は存じております。  
偉大なる大魔法使い、マダム・サリマン。所で、こんな下町の菓子屋の娘に、  
何の御用でございましょうか?」  
レティーの口調は慇懃ではあったが、そこはかとなく苛立ちが滲んでいた。  
サリマンがうふふ、と笑った。つりあがった唇が血のように赤い。  
「用件は唯一つです。あなたを、私付きの侍女にしたいのです」  
サリマンの言葉に、レティーは慌てて店主を振り返った。しかし、彼は切なそうに  
目を伏せているだけだった。  
「―――そんな」  
ノーと言えない選択を迫られ、レティーは唇を噛んだ。大金を握らせたのか、  
あるいはまた何か別のものでか。とにかく、レティーは売られてしまったのだ。  
 
「あたしなんかでよろしいのでしたら………どうぞお連れ下さい」  
店内がざわめいた。数人の売り子は羨望と嫉みと、そして同情の入り混じった目で  
レティーを見ている。男達はあっけに取られるばかりだ。サリマンは満足そうに  
頷くと、少年に何か指示を出した。  
「三日後に迎えをよこします。身辺を片付けて置きなさい」  
それでは、とサリマンは颯爽と店を出て行った。  
残されたものはただぽかんと、去り行く後姿を眺めるだけだった。  
 
 
 
コンコン、と軽いノックの音に、執務中だったジャスティン王子は顔を上げた。  
どうぞ、と声をかければ、サリマンの金髪の小姓が中をのぞきこんでいる。  
「マダム・サリマン?」  
「お仕事中失礼します、殿下」  
彼女はふわりと微笑みながら入ってきた。ドアの前に車椅子を止め、首を傾げる。  
「お時間、少しよろしいかしら?」  
「構いませんよ」  
王子はつかつかと部屋を横切り、笑いながら手を広げた。  
迎賓館を兼ねている離宮の一番奥、その中でも一番上等な部屋が今の彼の執務室だ。  
広々とした部屋の次の間は彼の寝室になっていて、それもあってかこの執務室に  
足を踏み入れる人間はそう多くはない。  
「ご所望だった侍女の用意が整いました」  
サリマンはまるで食事の用意が出来た、とでもいうような言い方でそう告げた。  
王子は目を瞠る。彼女に、自分の望みを告げたのはほんの二日三日前だというのに。  
「―――ありがとうございます」  
情けないような気持ちで、王子は魔女に礼を述べた。  
所望の侍女、とは随分と皮肉な言い方だと内心舌打ちをする。  
所望した娘は、形式上は世話係の侍女であるが、実質は自分の寵姫となるのに。  
 
「入りなさい」  
サリマンがドアの外に向けて声をかけた。しずしずと一人の娘が歩いてくる。  
地味な色味の女官服を着た彼女は、輝くばかりに美しかった。  
「ジャスティン王子殿下」  
サリマンが、娘の肩を抱いて微笑んだ。挨拶なさい、と低い声で囁く。  
「レティーと申します」  
娘はたいした感慨もなさそうに王子に向き合い、挨拶した。  
彼は何もいえないまま固まっている。  
「至らないところもございますが、殿下のために出来うる限りの事はさせて  
いただきます。どうぞ、よろしくお願いします」  
 
 
事の発端は、あの運命の晩までさかのぼる。  
 
 
ふらふらとした足取りで王宮に戻った王子は、自分の寝台に身を投げ出し、  
激しい自己嫌悪に陥っていた。  
「まさか、こんなことになるなんて―――」  
報われない思いを、あの娘を抱いて紛らわせた。そうするつもりなんて  
なかったけれど、それでも結果は出た。最悪なものとして。  
当たり前だが、健全な職業婦人で若いレティーはまだ生娘だった。  
彼女の貞操観念がどうだったかは知らないが、今のこのご時世で婚前交渉を  
持つ例は殆どなく、大多数の娘たちは純潔のままで結婚する。  
最も、娼婦や踊り子、劇場の歌い手などは除いてだが。  
だが、レティーは菓子屋の看板娘だ。そんな彼女が婚前に男を知っている。  
もう、残された道はないのだと王子は自分の不甲斐無さに唇をかんだ。  
彼は起き上がると、大股に部屋を横切り、廊下に出た。まっすぐに歩き、  
王宮のとある部屋へ向かった。  
 
「マダム・サリマン」  
執務を行っていた、この国の王宮付魔法使いの老女は驚いたように顔を上げた。  
「まぁ、ジャスティン王子殿下。どうかなさいましたか?」  
彼女はほんの少しの苛立ちを微笑で隠しながら、いきなりやってきた  
隣国の王子に尋ねた。彼は、ひどく思いつめたような顔をしている。  
「お願いが、あります」  
「あら」  
いつもは傲慢なまでのマイペースさを誇る王子のしおらしさに、  
サリマンは少なからず驚いていた。  
「神に背かず、そして国王陛下の意に反さぬ限り、私達はあなたの願いでしたら  
全てかなえる用意がありますのよ?」  
サリマンが微笑みながら言った。ここで機嫌を損ねて、平和協定を潰すのも惜しい。  
というよりも、できる限りのご機嫌取りをして、こちら側に有利な平和協定を  
結びたいのだ。欲しがるものは、何でもくれてやる覚悟はある  
 
「ありがとうございます。その……世話係を一人、私に付けていただきたい」  
王子の願いは、至極まっとうで些細なものだった。確かに、ここに長期に  
渡って滞在するのに、自分の世話を自分でするのも大儀なことだし、寂しくもある。  
「構いませんわ。すぐに、城で一番優秀な侍女を―――」  
「違います、頼みたい人は既に決まっています」  
用意します、と言おうとしたサリマンの言葉を、王子が遮った。  
一瞬、躊躇ったような様子を見せたが、すぐにまっすぐに顔を上げる。  
「ハッター嬢にお願いしたい」  
「え?」  
続く言葉は、当然ソフィー・ジェンキンス夫人だと思っていたので、  
サリマンは肩透かしを食らったような気分でそう聞き返した。しかし、王子は  
至極まじめな顔で頷く。  
「はい。レティー・ハッター嬢にです」  
この場合の侍女が何を指す言葉なのか、わからないほどサリマンとて腑抜けではない。  
彼女はかすかに視線を下げると、しっかりと顎を引いた。  
「解りました―――それが、あなたの望みなのですね?」  
「もちろんです、マダム・サリマン」  
その声には嘘がない。彼なりの考えがあるのだろうとサリマンは考え、  
軽く息を吐きながら答えた。  
「解りました。すぐに手配します」  
   
そして、それがこの受難劇の幕開けとなった。  
 
それでは、あとはお二人でとサリマンは執務室を出て行き、今この広い部屋に  
いるのはレティーと王子だけだった。レティーは所在なさげにきょろきょろと  
部屋を見回し、王子は困ったように彼女を見ている。  
「あの」  
先に声をかけたのはレティーだった。王子は飛び上がらんばかりに驚き、  
まじまじと彼女を見ている。  
「……はい」  
「どうして、あたしなの?」  
「はい?」  
レティーは不思議そうに王子を見上げていた。問われた彼は、逆に怪訝そうな顔で  
彼女を見返している。  
「言っておくけれどあたし、お姉ちゃんと半分しか血がつながってないのよ?」  
「知ってます」  
間髪いれずに返され、レティーが面食らったような顔になる。  
王子は緩く笑うと、そういう意味じゃないんですけどね、と呟いた。  
 
「別に、あなたがソフィーの妹だからとか、そういう理由で  
呼んだんじゃないんです」  
レティーが目を瞠る。王子は微笑みながら、彼女の結い上げられた髪に触れた。  
「あなたがいいんです。あなたに、傍にいて欲しいんです」  
驚いて立ち尽くすレティーを、王子は抱きすくめた。ヘアピンが抜き取られ、  
金色の長い髪がふわりとなだれる。  
「レティー。あなたが、いいんです」  
熱い唇を首筋に押し付けられ、レティーが溜息をついた。  
堪忍したように力を抜くと、彼女は自分を抱いている青年に身を預けた。  
 
ほんの数分後、離宮の一番奥から風に乗って高い声が流れてきても、サリマンは  
表情一つ変えなかった。ただ、あの哀れな娘のために上等のワインを一杯だけ  
煽った。酔ってでもいなければ、なんだかやりきれない気分だった。  
 
「ジャスティン王子?入りますよ」  
サリマンが尖った声を出し、王子の執務室の戸を開けた。  
中にいた金髪の青年が、びくりと顔を上げる。  
「あぁ――」  
狼狽したように、王子は顔を上げた。彼の膝の上に乗っていた娘が、散漫な  
動作で身体を離した。  
「マダム・サリマン。どうかなさいましたか?」  
服の乱れを直しながら、王子は魔女に尋ねた。レティーはかすかに目礼すると、  
お茶を入れるために簡易キッチンへと消えた。  
「どうもこうも―――」  
そこまでいうと、サリマンはちら、とレティーを伺った。  
だが、彼女が帰ってくるような気配はない。  
「ご自分の立場をわかっていますか?」  
サリマンは後れ毛を跳ね上げながら言った。きつい言い方に、王子がわずかに  
眉根を寄せる。  
「立場、ですか?」  
「そう。解っていらっしゃるの?婚約パーティーまで、あと一月ないんですよ?」  
サリマンが低く吐き捨てた。途端、王子の顔色が変わる。  
「平和協定のための政略結婚なのは重々承知です。でも、お相手の姫君にも  
少しくらい誠意を払ったいかがですか?」  
「承知の上で、あなたはそんな事をおっしゃる?」  
 
「―――ええ。それに、こんな真昼間から侍女と戯れているなんて、  
あなたの体裁にも関わります」  
体裁、と王子は鼻で笑い飛ばした。肩をすくめ、さも小馬鹿にしたように宣言する。  
「あの娘を与えてくれたのはあなたです。そのあなたがそんな事を  
おっしゃるだなんて、滑稽なだけです」  
サリマンの目に怒りに似た熱いものがたぎった。  
ぎらぎらと光る双眸を、王子は冷ややかに眺める。  
「あとで―――後悔しますよ。あなたの選択を」  
王子は微笑を浮かべながら肩をすくめた。そして、ぽつりと呟いた。  
「地獄に落ちる覚悟は、もとより出来ていますから」  
そう言った顔は、どこか物悲しくさえ見えた。サリマンは睫を伏せると、  
部屋を出て行った。  
 
 
激しい眩暈を感じ、レティーは壁に手をついた。抱えていた銀のトレイが、  
がしゃがしゃと耳障りな音を立てて震えている。  
婚約パーティー、政略結婚、姫君への誠意。それだけの条件が揃っているのに  
推測が出来ないほどに、レティーは馬鹿ではなかった。  
 
「じゃあ、あたし―――」  
 
厄介払いをされるまで、日はないだろう。そうしたら、自分はどうなる?  
菓子屋の看板娘、位の高い魔女の侍女、王子の世話係。どれも自分ではない気がする。  
自分に残された道は、もう一つしかない。  
 
「ここを、出て行くの?」  
 
その声は、迷子になった子供のよりも頼りなかった。  
 
 
「ジャスティン王子殿下」  
その晩遅く、執務を終えてようやっとくつろぎ始めた王子に、  
彼の侍女は声をかけた。  
「レティー、二人きりの時はカブと呼んで欲しいと言ったでしょう?」  
王子はくすくすと笑いながら侍女をたしなめた。彼女は静かに笑ったまま顔を傾ける。  
「お願いがあります」  
「ん?なんだい?」  
「あたしを、解放してください」  
王子はまじまじと侍女を見た。彼女は迷うことなく、まっすぐに彼を見つめている。  
「レティー、一体何を……」  
「侍女の職を、解任してはいただけませんか?」  
侍女、というよりも籠姫というのがこの場合は正しいのだろう。  
王子はあんぐりと口を開けたまま、食い入るように侍女を見ている。  
彼女はふっと微笑むと、きつく結っていた髪を解いた。  
「もう、あなたとは一緒にいられないんです―――お願いです、あたしを  
もう離してください……」  
 
そう言った侍女の顔は浮かなかった。かすかに青ざめ、疲れが色濃く見える。  
「どうして?何か不満が?それとも、誰かに何か言われた?」  
「いいえ」  
縋りつく王子をあしらいながら、侍女は首を振った。わずかに笑いながら、答える。  
「あたし自身のためよ―――あたし、このままここにいたら、  
駄目になってしまうから」  
彼女はそう言って、王子に向けて頭を下げた。  
「お願いします、解任してください」  
「ふざけるな!」  
王子が激昂した。侍女の腕を遮二無二引っつかみ、抱き寄せる。  
「ここにきた時点で、どうなるかはわかっていたはずだ!それを何故今さら!?  
だめだ、絶対に許さない、認めない!」  
「わがままは承知の上です。お願いします、どうかご慈悲を」  
希うレティーの唇が、ひどく熱い物にふさがれた。驚いて目を見開いた瞬間に  
映るのは、激情に燃え盛る彼の瞳。  
その時、これが自分達のとって初めてのキスだということに気が付いた。  
 
――――キスは、大切なんだ。  
 
――――魔法を解くには、愛するのもののキスが一番効くからね。  
 
だから、軽はずみにはしないんだと言い訳するように彼は微笑んだ。  
さんざんに嬲られ弄ばれ、真っ赤になった身体で憮然としているレティーに向けて。  
「……嫌っ」  
意味がわからない。何故、彼はキスしてきたの?何故、私を離してくれないの?  
何故、私を愛していないのに傍に置くの?  
なぜ?なぜ?なぜ?  
 
「いやぁ―――っ!」  
 
ソファーに押し倒され、乱暴に侍女服を引き裂かれながら、  
レティーが甲高い悲鳴を上げた。  
そしてその晩、彼女が過ごした部屋に誰一人としてやってくることはなかった。  
 
 
あなたは太陽、私は月  
運命の神様に導かれて共にいる  
どうして、二人はこんなにも  
遠い所からここまで来た?  
 
 
暴かれた胸元から、ぞっとするほど白い胸元が覗いた。  
豊かに盛り上がった半球型の乳房はふるりと揺れ、薄茶色の突起が慎ましやかに  
鎮座している。王子は軽く舌なめずりをすると、そこに顔を埋めた。  
「や!ちょっと、やめてっ!」  
レティーが金切り声を上げた。しかし、ぐいぐいと押し付けてくる男の力には  
勝てず、ソファーに縫い付けられてしまっている。  
「お願い!いや!こんなの、嫌ぁっ!!」  
泣き喚く侍女の声にも、王子は耳を貸さない。幸か不幸か彼女は彼の籠姫なのだ。  
多少煩い声を上げても、事情を心得ている人間達は足を踏み入れては来ない。  
そうしている間にも、王子の手がレティーの身体を蹂躙する。  
ぞわりと皮膚があわ立ち、レティーは泣き出しそうに眉根を寄せた。  
胸の中央にある突起はつんと挑戦的に立ち上がり、皮膚は薄紅色に染まっている。  
「ぁ……あん……や……」  
全身にくまなくキスされ、レティーが溜息を洩らした。殆ど毎日のように  
肌を重ねているのだ。男を知っている若い身体は、いとも簡単に体温を上げる。  
「や……お願い……やぁ…」  
 
コルセットが音もなく外され、下履きが足首まで下ろされた。  
まくれあがったスカートがひらりと揺れる。真っ白く、ふっくりとした  
太ももに男の手が伸び、そこもめちゃくちゃに撫で回される。  
艶やかな茂みに縁取られた茂みに、王子の長い指が触れた。しっとりと  
湿り気を帯び始めたそこに、レティーは顔をそむけ、王子は会心の笑みを浮かべた。  
「―――身体は、嘘をついてはいない」  
王子は薄く笑いながら、彼女の入り口に指を這わした。ぐっと力を入れて  
中に入れる。高まる内圧に、レティーがくっと息を詰めた。  
「運命が、あなたを私に縛り付けているんだ!」  
ヒステリックなまでの大声をあげ、王子が高らかに宣言した。  
くちゅくちゅともれ始めた細い水音に、レティーが啜り泣きをはじめる。  
「離れるなんて、許しませんよ―――!」  
そういうと、王子は自分のズボンを下履きと一緒に引き摺り下ろした。  
隆々と猛ったそれに、レティーの顔が引きつる。そして、蜜に潤んだ彼女の  
入り口にそれを添えると、王子は一気に腰を進めた。  
「いやあああああーっ!!」  
 
レティーの甲高い声により興奮したのか、王子ははじめから速い動きで  
彼女を攻め立てる。ぐちゅ、ぐちゅ、と淫靡な音が立ち、それが余計に  
レティーの羞恥を煽る。  
「あっ、あっ、あああ!やだ、あっあっ!!」  
ずんずんと突き上げられ、レティーが顔を手で覆った。きゅうきゅうと  
締め付けてくる彼女に、王子が恍惚とした笑いを浮かべる。  
「あぁ……レティー……」  
「やぁっ!やだ!やっあっ!あぅ、あ、あんっ!」  
レティーがいやいやと身をよじった。溢れ返った愛液がシーツに染みを作る。  
王子の眉間に深い皺が刻まれた。二人の息が上がる。  
「ああああ!あ、あ、アっ!!んっ……ふぁ…っ!あああっ!」  
「レティー……もう、イきそう―――っく!」  
「あぁぁぁあっ!あ、やだ、はっ!アァ!!いや、いやぁぁぁっ―――!!」  
「ぅ……あっ!」  
どん、と身体の奥深くに突き入れられ、レティーが一際高い声を上げて  
背を反らした。びく、びくと白い身体が震える。王子も同じように身体を  
痙攣させながら、彼女の中に白濁した液体を流しいれた。  
ひゅうひゅうと音を立てて、レティーはただぼんやりと呼吸をしていた。  
のしかかってきた男の体重も、鈍いからだの痛みも倦怠感も、  
まるで自分のものではないような気がした。  
 
 
ぼろぼろになった身体を引きずりながら、レティーは夜明けの街を  
さまよい歩いていた。白々と明るくなりつつある街路には、年若い新聞少年と  
泥酔して道端で眠りこけている数人の男達、そして客を取れなかった年かさの  
商売女しかいない。その中で、レティーは異質な存在だった。  
何度も何度も傍にいると約束させられたのだが、それを破る事は  
別に心苦しくなかった。  
目覚めたとき、自分が傍にいないことを彼は絶望するだろうか。  
「聞いて、太陽」  
太陽の化身のようだと謳われたレティーの美貌も、疲れ果てた今では  
ひらめきもしない。  
「夢がね、醒めてしまったの」  
微笑はすぐに悲しみに翳った。溢れ出た涙が、頬を濡らす。  
「全部、終わってしまったのよ」  
ブーツに包まれた小さい足が、まるで駆けるように地面を蹴って行く。  
レティーは拳で涙をぬぐいながら、殆ど全力で走った。  
何もかもを振り切るように首を振って。大きな、悲しいまでによく響く声を上げて。  
 
 

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