はぁはぁと息も絶え絶えのソフィーが、苦しそうに身をよじった。足の間からはとろりとした愛液が際限なく溢れ返り、シーツにしみを作っている。
「ハっ……ハウル……もう、だめ……苦しい……」
ソフィーの懇願にも、ハウルは軽く微笑むだけで答えない。彼の指は、濡れそぼった彼女の中にうずめられ、小刻みに動いている。
「お願い……もう……」
「言ってよ……ソフィー、どうして欲しい?」
ハウルの声は優しく、彼の顔は楽しそうだった。ソフィーはその全てに翻弄され、首を振るばかり。銀色の髪が闇に軌跡を描き、彼女の体が急激に震え出す。
「あ、あ、あ……」
「言ってくれないと……」
ハウルの指が、ある一点を擦り上げた。何度も、何度も指を滑らし、その度にソフィーが喉をのけぞらす。
「ずっと、指だけだよ」
「あぁっ!」
ソフィーが短く声をあげ、シーツの中に沈みこんだ。ハウルの指をくわえ込んでいるところは、さらにきつく締まり、じゅぷ、と濡れた音が生まれる。
「ねぇ、ソフィー…それでもいい?」
「やぁ……」
囁くようにハウルが問い、ソフィーの中をかき混ぜた。真っ赤に上気した頬に、
涙が伝って落ちていく。
「ソフィー、ねぇ」
「ハウル……」
陥落寸前、といった様子のソフィーに、ハウルは笑み崩れるのをとめられなった。
かわいい奥さんが快楽に溺れきって彼を求めているのだから、
それも無理もないことだろうが。
「お願い、ハウル……きて……私、もう…」
ソフィーの哀願に、ハウルは内心拳を握り締めた。それから、焦らすように
ゆっくりと覆い被さり、熱く潤んだ秘所を押し広げた。
そして自らのそそり立ったそれを入れようと、腰を落とした――――その時。
トントン。
ノックの音が響き、二人の動きが止まった。でも、弾みがついてしまっているので、
ハウルは無視を決め込んで、ソフィーにキスを落とした。
「ソフィー?」
ドアの外から、涙声のマルクルがソフィーを呼んだ。ハウルに組み敷かれている
ソフィーの顔色が、一瞬で変わった。
「ソフィー、寝てるの?ソフィー、入れて?」
マルクルはぐずぐずと鼻をすすっている。泣いているらしい。ソフィーは
申し訳なさそうにハウルを見上げると、首を振って起き上がった。
「ソフィー!」
マルクルの手前、ハウルは押し殺した声でソフィーに抗議した。
彼女は声には出さずにごめんなさいと囁くと、夜着を頭からかぶる。
「あなたも、はやく」
ソフィーが早口でそういい、ハウルの夜着を差し出した。彼は驚きに目を見開き、
憎憎しげにドアの外をにらんだ。
「ソフィー、いい。放って置いたらいい」
「だめ、かわいそうよ!だって泣いているのよ?」
さっさとして、とソフィーが手をひらひらさせた。それは、先ほどまで色っぽく
喘いでいた人物と同じとはおおよそ思えないようなさばさばした仕草だった。
ハウルはむぅ、とふくれたまま彼女を見ている。
ソフィーは早々にベッドを下り、ドアをあけた。廊下で何かマルクルと
話しているようだ。すぐに終わって戻ってくるだろう、そうしたらさっきの
倍いじめてやるとせこい腹いせを考えていたハウルは、彼女が
部屋に戻ってきた時に幼い弟子を伴っていたことに、卒倒しそうになってしまった。
「ハウル」
ソフィーは、上目遣いにハウルを見ながら訊ねた。
「マルクル、ここで寝かしてもいいかしら?」
「本当に怖い夢だったんだよ―――大きな黒いものが空から降ってきて、
僕のことを追い掛け回すんだ!お化けみたいなうめき声で、それで、僕……」
「マルクル。今日はもう寝なさい。大丈夫、もう怖い夢は見ないわ」
マルクルは興奮した口ぶりで、ソフィーに悪夢の内容を話している。
ソフィーはハウルのじとーっとした視線に耐えながらも、懸命に
幼いこの少年を寝かしつけようとしていた。
「ソフィー、今日はずっと一緒に寝ててね」
「大丈夫、解ってるわ」
今の状況は、ソフィーを真ん中にして、両端にハウルとマルクルが寝ている
状況である。ハウルとしては非常に不本意だ。
未だ疼いている体をどうにも出来ないことに苛々し、ソフィーがあっさり
マルクルをベッドに入れたことに苛々し、そしてマルクルがソフィーを
独占していることに苛々している。おかげで、秀麗なはずの眉間には皺が
よりっぱなしだし、口はへの字にひん曲がっていた。
「おやすみ、ソフィー」
「おやすみなさい、いい夢を」
そう言ったときに、ソフィーがマルクルの頬にキスをした。ちゅ、という軽い音に、
ハウルの頭に一瞬で血が上った。
「やっと眠った。マルクルね、怖い夢を見たみたいなの」
ソフィーがハウルに向き直った。彼はむっつりと黙りこんでいる。
「知ってる。同じ部屋にいたんだ、それくらい聞こえるよ」
同じ部屋、を強調した言い方に、ソフィーが唇を噛んだ。ハウルが怒っている。
しかも、かなり。
「ハウル……だって、マルクル泣いていたのよ。かわいそうだわ」
ソフィーがささやかな反論をした。でも、ハウルの不機嫌な顔は崩れない。
ばつが悪くなったのか、彼女は視線をさげた。
「私だって、その……残念だけど」
ハウルが信じられない、というように眉を持ち上げた。その仕草に腹を立て、
ソフィーは彼に背を向けた。
「信じられない!あなたは泣いている子供より、自分のことのほうが大事なの?
マルクルはまだほんの子供なのに!」
もう知らない、とソフィーは毛布を引き上げた。そのまま不貞寝を決め込もうと
する彼女に激昂したハウルが眉を寄せ、それからすぅっと腕を毛布の中に突き入れた。
ハウルの手は毛布とシーツの間を進み、ソフィーの夜着をめくった。
先ほどの名残で濡れたままの秘部に、指を這わせる。
「っ!ハウルっ!」
押し殺した声で、ソフィーがハウルを怒鳴りつけた。でも、彼は知らん顔で
指を進めていく。そのまま、指は先ほどのように彼女の内部に埋められ、
やがて湿った音が漏れ出す。
「っ……ぅくっ……ふ………ん」
ソフィーの口から、くぐもった喘ぎ声がこぼれる。隣にマルクルが眠っている手前、
指をかみながら耐えているようだ。
「まだ、ほんの子供?」
ハウルの声が、ソフィーの耳に流し込まれた。彼女の体がびく、と跳ねる。
「子供なら、ベッドに簡単に入れてあげるの?かわいそうなら、ソフィーが
ぬらしたシーツに寝かせてあげるの?」
ソフィーの顔がかあっと赤くなった。ハウルは彼女の耳を甘噛みし、
ぴちゃぴちゃと音を立てて嘗め回す。
「いやっ……お願い……せめて、外へ……」
「―――そうして、清らかなふりをするの?」
嘘つき、と低い声が囁く。同時に、ほんのり隆起し始めた肉芽の皮を剥き、
そこを指でつつく。
「っあ!」
ソフィーの腰が跳ねた。ハウルはそ知らぬ顔で彼女を嬲り続ける。
「やめてっ……マルクルが………起きちゃう」
ソフィーの懇願にも、ハウルは動かされない。それどころか、体を摺り寄せて
きて彼女の夜着を捲り上げた。そのまま彼女を後ろから抱きこむと、一気に貫く。
「ぃっ!……ひぁぁぁぁぁっ!」
声があがり、ソフィーは慌てて口を抑えた。マルクルが、ん、と軽く身じろいだ。
「ハウル!だめっ……あっ、本当に…ん、起きちゃ、う!」
先ほどまでさんざん焦らされていたせいか、ソフィーの体はいとも簡単に
ハウルを受け入れた。それどころか、自然と律動をしては彼を奥へ奥へと
誘うように蠢く。
「やめていいの?今この状態で、ソフィーは大丈夫?」
ず、と奥まで突き上げられて、ソフィーは目を堅く瞑った。咥えていた
人差し指を、血が滲むほどにきつく噛み締める。んん、と喉の奥から漏れる
くぐもった喘ぎが響いた。
ハウルは加減することなく、速い動きで彼女を攻めためた。最奥まで入れ、
かき回すように動かしたかと思えば、緩急をつけた動きで腰を前後させる。
その度に、ソフィーの顔が絶望と快楽に引きつる。溢れ出る涙が嗜虐心をそそり、
彼は余計に腕の中の少女を嬲った。少女が逃げ出そうと伸ばした手が、
何度も何度もシーツを握りなおした。
「も…やっ!おねが……あぁあ…あっ…いやぁ………」
ソフィーの体は小鳥のように震えている。涙が頬を伝い、シーツを湿らせた。
慌てて指を噛み締める彼女の体を反転させ、ハウルが覆い被さる。
その瞬間にかかった圧力に、声にならない悲鳴があがった。
「声、聞かせてよ……ねぇ、ちゃんと聞かせて?」
ハウルは笑っている。残忍な悪魔のような顔で、青白い月光がよく映える
冷たい微笑を浮かべて。ソフィーは泣きながら彼から顔をそむけた。
シーツに腕を押さえつけられては、唇を噛み締めることしか出来ない。
声がもれてしまえば、マルクルが起きてしまうし、現場をみられてしまう。
何より、こうされる事がソフィーにとっての恐怖だった。この姿勢はいつも
彼女に展翅版の上の蝶を連想させ、無力な己を思い知らされる。
そして、舐めるように上下する彼の青の瞳と、鮮烈な視線に犯されることも
恐ろしかった。
「も……ダメ………」
ぜいぜいと肩で息をし、ソフィーは一切の抵抗を止めた。泣きながらハウルを
見上げ、限界を示す。彼はにっこりと微笑むと、わななく唇を奪った。
ベッドが、ぎしぎしと悲鳴を上げる。
「ソフィー…気持ちいいだろう?」
「あっ…や……んっ!ふぇ……っぁ」
ソフィーが言葉にならない喘ぎを洩らし、ハウルの手に指を絡めた。
しんと静まり返った部屋に、いつものように甘ったるい嬌声が満ちる。
「あぁ……も、やぁ……なんでぇ……っ?」
隣に眠るマルクルは背を向けていてくれる。それだけが救いだった。
ソフィーは声があがりそうになるたびにハウルに唇を押し付けて、はしたない
喘ぎを殺した。ぐちゅ、ぐちゅと結合部からもれる淫液の音すら、
気になって仕方がない。
「ハウル……も、わたし………ダメ…っ……」
「じゃあ、一緒にいこう……」
ハウルがソフィーの頬に唇を寄せた。それを合図に、二人はいっそう深く絡み合い、
腰を進めていく。迫り来る絶頂の影を感じ、彼女が体をすくめた。
「ソフィー……」
「ああぁっ!あ、あ、やっ!あ、あぁぁあ!」
細いからだが弓なりにしなり、ソフィーが歌うような高い声を上げて果てた。
ぎゅ、と彼女の内部が縮まる。
「く……っあ!」
ハウルも耐えられず、遂に欲望をソフィーの中に吐き出した。
体の奥に感じる灼熱に、彼女がうめき、それからぱたりと意識を失った。
マルクルは固まっていた。目覚めてから約二分、彼は目を見開いたまま固まっていた。
この哀れな少年は、今は彼の師匠とその妻である少女のベッドの中にいる。
夜半に見た悪夢に怯え、少女に泣きつき入れてもらったベッドだ。それ位は
わかっている。
「……えーと……」
ちらり、と視線を流せば、大きな背中が規則正しく上下していた。
艶々の黒髪がシーツに散らばっている様はなんともいえずに美しかったが、
問題はそこではなかった。
「……ハウルさん?」
眠りに落ちる寸前、彼の横に眠っていたのは少女だった。だが、どうしてだろうか、
今この時彼の横で寝息を立てているのは、彼の師匠である。
「ソフィー?」
二人は熟睡しているようだ。すぅすぅという寝息ばかりが聞こえる。
マルクルはそっと起き上がると、彼らを覗き込んだ。
「………」
ハウルは、しっかりとソフィーを抱きしめていた。誰にも渡さない、というかの
ようにきつく。よく寝苦しくないなぁ、とマルクルは呆れたように息を吐いた。
ソフィーもソフィーで、ハウルのシャツがくしゃくしゃになるほど握りしめている。
「……まだ、起きないのかな」
よく見ようと二人に顔を寄せれば、奇妙な匂いが鼻をついた。
彼らは気にも留めていない風ではあるが、マルクルにとってはかぎなれない、
異様な匂いだった。
「……ル?」
その時、ソフィーが小さく寝言を発した。マルクル、と呼ばれた気がして
少年はすくみあがったが、彼女は口元をほころばすと、ハウルの胸に
頬を摺り寄せた。
「あー……」
大方(というか、もはや絶対と言う確信であったが)、彼女が呟いたのは
『ハウル』という言葉であろう。
やはり、自分が招かれざる客だったのだと言うことを思い知り、マルクルは
急に冷めた気持ちになった。彼は顔をしかめると、なるだけ音を立てないように
してベッドを降りた。
それから、静かに部屋を出て行った。寝息は、未だ途絶えない。
「マルクル、一体いつ自分の部屋に帰ったの?」
明るいキッチンの中で、(彼女が寝坊したために朝昼食となってしまった)食事の
用意をしながら、ソフィーが不思議そうに訊ねた。彼女の隣で
野菜の皮を剥いていたマルクルが、妙に大人びた仕草で肩をすくめた。
「朝、早く起きたときに」
「そうなの?全然気付かなかったわ。何なら、そのときに起こしてくれたらよかったのに」
そうすれば朝ご飯の支度が出来たわ、とソフィーが残念そうに言った。
マルクルは溜息をつきながら包丁を動かしている。
「だって、ソフィー、すっごく気持ちよさそうに寝てたし。起こすのも悪いなって」
「変な気を使わなくてもいいのに。大人みたいね」
ソフィーがからからと笑った。マルクルは眉根を寄せると、皮を剥き終わった
野菜と包丁を彼女に押しやった。
「はい、出来たよ。それから、僕、もう怖い夢を見てもソフィーの所には行かない」
マルクルの宣言に、ソフィーが目を丸くした。
「どうして?いいのよ、遠慮しなくても」
ううん、とマルクルは首を振った。栗色の猫っ毛がふわふわと揺れる。
「確かに、ソフィーのベッドに行けば怖い夢は見ないけど、変わりに
もっとすごいもの見ることになるから」
その一言に、ソフィーがぼっと赤くなった。マルクルはやれやれ、というように
首を振って台所を去ろうとした。しかし、寸での所で彼女に捕まえられる。
「マルクル!あなた、起きてたの?」
「起きてたから見たんだってば」
「〜〜〜〜!!」
ソフィーが顔を両手で覆ってその場にへたり込んだ。耳朶まで赤く染めている。
「……別に、気にしてないよ?ただ、ソフィーってやっぱりハウルさんしか
見てなんだなぁ、と思っただけ」
じゃあ、僕ほかにもやる事があるから、と言い残し、マルクルはさっさと
台所を出て行った。ソフィーは相変わらず、顔を覆ったまま固まっている。
「ソフィー!鍋!焦げてる!」
カルシファーが悲鳴を上げても、かちこちに凍りついたソフィーは動かなかった。
焦げ臭いにおいを感じ取り、ハウルがキッチンに飛び込んでくる。
「ソフィー!一体どうしたの?」
慌てて鍋を持ち上げたハウルを、ソフィーは涙目でにらみつけた。
きょとんとしている彼の脛を、彼女は無言で殴りつけた。
「いっ!?」
「ハウルのばか!私、もう恥ずかしくて生きていけない!!」
わんわんと泣き出したソフィーを、ハウルがどうにかなだめようとする声が
聞こえる。それらの賑々しい音を聞きながら、マルクルは何だかひんやりと
冷えてしまった心を持て余していた。これは一体何なんだろう、と
ハウルの持っていた医学書をめくってみたが、そんな症状は載っていなかった。
あーあ、とマルクルは溜息をつき、その分厚くて重い本を閉じた。入れ変わりに、
悪夢を見ないためのまじないを探すべく、ハウルがくれた魔法所に顔を埋めた。