「愛しいソフィー、僕と結婚していただけませんか?」  
夕陽に赤く染まる花園の中で、美しいの青年は傍らに座っている星色の髪の少女に向けて、  
真面目な顔でそう訊ねた。彼の全身は夕陽に染まり、そういった頬が一層赤い。  
少女は全身を薔薇色に染め、瞳を潤ませた。唇はゆっくりと微笑みの形を作ったが  
すぐに真一文字に引き結ばれた。強い風が吹いて、花びらが散り、彼女の髪も流れた。  
浮き上がった髪を押さえながら、彼女は静かに首を振る。縦にではなく、横に。  
「………え?」  
「お気持ちだけ、有難く頂いておきます」  
少女はまっすぐに青年の目を見据えて答えた。鈴の様な声の余韻が響き渡る。  
「どうして!」  
青年が声を荒らげた。少女は彼の頬に手を添え、それから微笑む。  
「誤解しないで、あなたの事は本当に愛してるわ。でも、その気持ちだけで充分」  
「でも、ソフィー。僕は君を妻に迎えたい」  
少女の華奢な肩を掴み、青年が詰め寄る。彼女は柔和な笑顔のまま首を振り、彼に  
ゆっくりともたれかかった。  
「あなたの傍にいられるなら、もう何も望まない。そう決めたの。だから、いいの」  
言い切ると、少女は深呼吸を二回した。いい匂い、と小さな声で呟き、だらりと  
降りていた彼の手を握る。  
「私を甘やかしたりしないでね。期待してしまうから」  
少女の言葉の真意が分からず、青年は泣き出しそうに顔をゆがめた。彼女はもう一度  
幸せそうに目尻を下げると、そっと彼の唇に自分のそれを寄せた。そのままゆっくりと  
腕を廻し、二人は背の高い草花の間に倒れこむ。柔らかい風が吹き、星の様な白金色と  
闇夜の如く深い藍色が宙に舞った。  
 
ソフィーが失踪したのは、あの花園でプロポーズをした次の日だったから、もう一週間も  
前のことになる。必ず戻ります、という書置きを一つ残し、彼女はひっそりと家を出て  
いった。理由もわからず、家族達はただ呆然とした。ことに彼女の恋人である魔法使いの  
青年は、ただただ絶望に打ちひしがれていた。  
 
「だからと言って、こうして愚かに振舞う事が許されるとでも思っていて?」  
深紅のローブに身を包んだ初老の魔女が、呆れたようにため息をついた。所在なさ気に  
立ちすくんでいる青年に対し、彼女は落ち着き払って椅子に身を沈めている。魔女は  
静かに向かいの椅子を指さし、座りなさい、と促した。  
「そうなった理由はわかります。あの若いお母さま……いえ、言い換えます……  
ハッター嬢のせいでしょう?」   
冷ややかな微笑を作り、王宮付き魔法使いであるマダム・サリマンは愛弟子である  
ハウルを見た。彼は憤然とした表情を浮かべると、無造作に椅子に腰を下ろした。  
「人が一人失踪しているのですよ?そんなに冷たいことを言っていてよろしいのですか?」  
弟子の挑戦的な物言いに、サリマンは紅い唇をさらに吊り上げた。そのまま若い少女の  
ような口ぶりで尋ねる。  
「だとしたら?」  
 
「人間性を疑います」  
ハウルにぴしゃりと答えられ、サリマンはころころと笑い声を上げた。それから、  
持っていた扇子で彼を指す。  
「不甲斐ない事。彼女が出て行ったのも、よく解るわ」  
サリマンの言葉に、ハウルの眉間に刻まれていた皺がさらに深くなった。彼女はもう  
一度座り直すと、扇子で口元を覆った。  
「私が何も知らないとでも?調べさせていただいたわ、あなたとハッター嬢のことを。  
随分と入れ込んでいるようじゃない」  
ハウルが苛々とサリマンを睨んだ。彼女は表情を崩さずに目を眇める。  
「同じ家に住み始めて随分経つみたいね。彼女の為に花屋を作ったのも聞いたわ。  
それに、私も彼女をここで何度か見かけているの。よく連れまわしているようで」  
言葉の真意が分からずに、ハウルは小さくみじろぎする。サリマンは相変らずの  
冷笑を浮かべたまま、首を傾げた。  
「あの娘を、抱いたのですか?」  
ハウルが固まった。薄く開いた口からは何の言葉も発されず、押し黙っている。  
しかし、彼は長く息を吐くと微かに視線を落とした。  
「何度も?」  
それを肯定だと取ったのか、サリマンが畳み掛けるように訊ねて来た。ハウルが  
気まずそうに唇をとがらせる。  
「………噂を知らないのですね」  
「……どんな噂ですか?」  
「彼女が、あなたの情婦だと」  
 
サリマンがため息とともに呟き、対峙したハウルは凍りついた。彼女は彼の顔を見ると、  
静かに目を伏せた。非常に美麗な、そして冷淡な動作だった。  
「年若い娘が、男、それもある程度の地位をもった者とともに暮らせば、嫌でも  
そのような噂は立ちます。その上あなたは、私の弟子である上に王様の覚えもいい。  
そして私が後継者にと願っている人物です。不本意でも目立つのは、仕方がありません」  
「でも、彼女には何も関係ない!」  
「……あなたは、あの娘を手元に置いておきながらも結婚もせず、婚約もしなかった。  
そういう扱いをする以上、誰だって彼女を情婦だと認識するはずです」  
「そんなつもりは……」  
「ハッター嬢は聡明な方ね。きちんと自分の立場を理解していたから、姿をくらましたの  
かもしれません。あなたの将来を心配してくれているのよ」  
サリマンがそう言い、傍らの水晶玉を軽く撫でた。ハウルが腰を浮かせ、  
大股に部屋を横切る。  
「どこに?」  
「ソフィーを探しに。失礼します」  
「……もう少しして、あなたが落ち着くようになったら、今日呼びつけた理由を伝える事にします」  
「しばらく会うことはないでしょう。少なくとも、ソフィーが戻るまでは」  
冷ややかな視線を恩師に投げかけながら、ハウルが口元をゆがめた。サリマンは  
柔らかな苦笑を浮かべると、愛弟子を見上げた。  
「彼女はきっと戻るわ。待っていておやりなさい」  
「………どうして?」  
「……あなたが考えるよりもずっと、私はあなたの事を思っているのよ」  
情愛や、執着以外の心でもね。  
言外に匂わされた言葉に、ハウルは少しだけ瞳を潤ませた。彼は頭を下げると、  
足早に魔女の執務室を出て行った。  
 
しかし、サリマンの言葉とは裏腹に、ソフィーは一向に姿を見せなかった。それから  
さらに一週間が経ち、失踪してから半月が過ぎた。魔法で何度も見つけ出そうと  
試みたのだが、彼女が見つけられまいと強く念じているのか、ちっとも見つからない。  
途方にくれたハウルは、日がな一日を花園の中の小屋で過ごすようになった。  
 
おびただしい量の魔法書を読んで、新しい公式や道具や呪いを考えたりもした。  
酒で唇を湿らして、眠りこける事もあった。でも、そうしていられるうちはまだ幸せだった。  
昼間にふと空を見上げれば、彼女の暖かい視線が思い出され、夜はさらに分が悪く、  
星色の髪の感触や輝き、月のように優しく清らかな面影が蘇った。  
自分を呼ぶ甘い声が、あの、何者にも変えがたい唇の柔らかさが、温もりを持った  
細い身体が、抱き締めた質感が、滑らかな肌も涙に滲む睫毛も全て。彼女の姿が、  
自分を侵食していく。もはや発狂するのを待つしかなかった。それ位、切羽詰っていた。  
「ソフィー……」  
結婚を申し込もうと考えたのは、彼女と暮らし始めてすぐだった。家にいてもらう  
以上、微妙な関係ではいられないのはわかっていた。でも、もしも彼女の愛が自分の  
思い込みだとしたら。そう考えると恐ろしくて、口にする事が出来なくなってしまった。  
彼女の愛をもっときちんと確認してから。そう自分に都合のいい解釈をして、何時までも  
先延ばしにしていた。   
 
ただ、そう考える以上は超えてはならない一線があった。苦しいほどの独占欲や  
猜疑心、そして子供じみた愛情を持て余しても尚、清い心で接しなければならなかった。  
それが道理だった。しかし、自分はその道をいとも簡単に外した。彼女の寝台を移させ、  
なんの躊躇いもなく抱いた。彼女は、行為の間はいつも泣いていた。  
あの涙は痛みや恥ずかしさや悦びからだろうと、彼女の泣く訳をなんとなく解った  
ふりをしていたのだが、おそらく、不道徳を行った事への不甲斐なさや悔しさも感じて  
いたのだろう。真面目で、身持ちの固い彼女が婚前交渉に応じるという事は、それ相応の  
覚悟を決めたという事で。自分は彼女を想っていたのに、平然と彼女の心を踏みにじった。  
「どうか……どうか戻ってきておくれ……君に、謝りたい事があるんだ」  
寝台に身体を投げ出し、かさかさに乾いた声でハウルが呟いた。あんなに艶やかだった  
漆黒の髪は、今は力なくくすんだ灰色となって広がっている。  
満月の光は神々しいほどに白く、それが憎くて仕方がない。  
 
「……馬鹿ね、こんなに痩せて……」  
明け方の靄が満ちた小屋の中に、一人の少女が立っていた。彼女は寝台に腰掛けると、  
横たわっている男の髪をかき上げた。  
「あまり、食べてなかったの?それとも、眠っていなかった?」  
男の光のない瞳が、少女を捕えた。濁った深緑色の目が、みるみる透きとおっていく。  
「そ、ふぃー……?」  
「ただいま、ハウル」  
ソフィーが柔らかく微笑んだ。何事もなかったかのように、ごくごく自然に。  
ハウルはよろよろと上体を起こし、ゆっくりと彼女を抱き締めた。  
「ソフィー」  
「心配かけてごめんなさい」  
「ソフィー」  
「こんなに遅くなるつもりじゃなかったのだけれど」  
「ソフィー」  
それしか言葉を知らないと言うように、ハウルはただただ恋人の名前を繰り返した。  
ソフィーは彼の背に腕を廻し、彼の髪を優しく梳いていく。  
「でも、戻ったわ」  
「……夢を、見てるようだ……」  
 
瞳を熱く潤ませながら、ハウルがソフィーの目を覗き込んだ。彼女の目にも涙が  
浮かんでいる。二人はどちらともなく唇を寄せ合い、ベッドに倒れこんだ。  
浅い口付けの後に、一瞬の間があく。  
「だめだ……また、同じことになる……」  
「いいえ」  
暗い表情のまま起き上がろうとしたハウルを引き寄せ、ソフィーはきっぱりと言い切った。  
そのまま、伸び上がってキスをする。  
「ならないわ。私は、そうなる事を望んでいるもの」  
不敵に微笑んだソフィーに、ハウルは言葉をなくした。なおも躊躇っている彼に、  
彼女はことさら優しく囁きかける。  
「私はあなたが恐くないわ。だって、見た目よりもずうっと優しい心を持っているから」  
「あんなに君を傷つけたのに?君の気持ちがわからない、愚か者なのに?」  
ハウルが自嘲するように吐き捨てた。ソフィーは首を振り、晴れやかに微笑んで頷く。  
「構わないの。あなたの愛に応えるために、私はここに戻ったんだもの」  
そういったソフィーの顔はきらきらと輝いていて、何の迷いも躊躇もなかった。  
ハウルはもう一度彼女の瞳を見据えると、そっと唇を寄せた。  
 
低いうめき声が漏れ、それと時を同じくして甲高い悲鳴が響いた。淫らに表情を  
崩した少女は苦しそうに肩で息を切り、呼吸を乱れをどうにか直した青年は彼女の顔を  
見て目を細めた。  
「大丈夫?」  
「ん……久しぶりだったから……」  
ソフィーが照れたようにそう言い、髪の乱れを直した。ハウルは彼女を抱き締め、  
口付けの雨を降らせる。  
「あ、重かったね」  
ハウルが慌ててソフィーの上から身体をずらした。彼女は少しだけ残念そうに彼に  
手を伸ばし、次の瞬間には男性の割には細い、でも力強い腕に抱きこまれていた。  
「ソフィー……」  
「なあに?」  
「寂しかった」  
ハウルがソフィーの髪に顔を埋めながら呟いた。彼女はふ、と笑いを漏らすと、  
彼の掌を自分の頬に添えた。  
「……今まで、お母さんのところに置いてもらっていたの。あなたには言ってなかった  
けれど、私、あなたの家に住み込みで働いてるってお母さんに嘘付いてたの。  
暮らしているけど、何でもないって」  
「なんで?」  
血相を変えたハウルに、やっぱり怒ると思った、とソフィーはあっさり言った。  
言葉をなくす彼に、彼女は儚い笑顔を浮かべて見せた。  
「事実、そう思っていたんだもの。抱かれるのも、置いてもらってる以上は仕方のない事だって。私はあなたを愛しているから、そうなる事に抵抗はなかった。むしろ求めてもらえるのは嬉しかったわ。でも、すごく悲しかったのも本当」  
淡々とまるで他人の事を話すようにソフィーが言った。ハウルが悲しげに目を閉じる。  
「きっと、あなたは私と結婚する気なんてないんだろうなって思ったの。だからどんなに  
願ってもいつかは捨てられるんだから、そうなるまでの日々を幸せに暮らそうって決めたの。  
もしその時が来ても、幸せな記憶だけで生きていけるようにって」  
 
ソフィーの微笑みは脆く、そして彼女の言葉には嘘がなかった。ハウルは胸苦しさを  
覚えて唇を噛む。  
「だけど、あなたはそうじゃなかった。私と結婚してくれるって言った」  
泣き出しそうに声を震わせながら、ソフィーが言った。ハウルが慌てて彼女の顔を見る。  
彼女はただすぅっと目を細め、唇を持上げた。  
「そう言ってもらえて、すごく幸せだった」  
ソフィーの目に涙が滲み、ハウルの顔もくしゃりと歪んだ。  
「なら、どうして断った?」  
「失いたくなかったの……手に入れたものはいつかは失うけれど、手に入れていない  
ものなら、失くなりはしないから……」  
ソフィーもハウルも、幸せと縁遠い人間だった。ソフィーは物心つく前に実の母を  
亡くしているし、まだ幼い頃に実の父にも先立たれた。義母も義妹も優しく、彼女を  
愛してくれたが、それでも今は離れている。ハウルに関しても似たようなもので、  
唯一信じ、愛し、尊敬していた叔父は魔法学校に入った翌年には死んでいる。一種の  
因果か何かのように二人は出会い、惹かれあい、愛し合った。だが、愛し方を知らない  
ハウルはソフィーを傷つける事でしか彼女の愛を確認できなかったし、愛され方を  
知らないソフィーはハウルがどんなに心を痛めているかに気付かないまま、全てに  
期待するのをやめた。だから、こんなにも二人の心は傷だらけで、よじれていて、  
無様なのだ。  
「ごめんね」  
そう耳元で囁かれた声は、泣き声のように掠れていた。ソフィーは彼の背に腕を廻し、  
か細い声で訊ねる。  
「……どうしてハウルが謝るの……?」  
「君を沢山苦しめ、傷つけたから」  
「ハウル……」  
 
ソフィーが弱々しい泣き声を上げ、ばつが悪そうに視線を下げているハウルにしがみついた。  
彼は彼女を見ようともせず、早口に言葉を続けた。  
「君を幸せにしたかったのに、僕は何ひとつしてやれなかった。傷つけてばかりで、  
何も与えられなかった。当たり前だよね、出て行きたくもなる。僕は、君の気持ちを  
少しも解っていなかった」  
「………ハウル」  
「君がそんなに苦しんでいるだなんて、知らなかったんだ」  
こんなに傍にいるのに、二人の心が遠いのに気付いてソフィーはぽろぽろと涙を零した。  
ハウルは悲しみに打ちひしがれて、震えている。  
「……昔々、あるところに愛を知らない王子様が住んでいました」  
小さな、それこそ闇夜の静けさに負けてしまいそうなほどに微かな声でソフィーが  
囁いた。ハウルが不思議そうな顔で彼女を見る。  
「王子様はある晩、醜い老婆を無碍にしたが故に呪いを受け、野獣の姿になりました。  
それからしばらくして、野獣に無礼を働いた男の代わりに、男の娘がやってきました。  
彼女に惹かれた野獣は結婚を申し入れましたが、娘ははいとは言ってくれませんでした」  
ハウルが顔をゆがめた。ソフィーは彼の唇を人差し指でなぞると、彼の首筋や胸に  
口付けを落としながら言葉を続けた。  
 
「娘はある晩、病気になった父親が心配だから家に帰りたいのだと野獣に告げました。  
野獣は彼女を愛しているので傍を離れて欲しくはなかったのですが、彼女を愛して  
いるからこそ彼女を自由にしてやりました」  
「………どうして?娘が離れていかない保証はないのに?」  
ハウルが不満げに唇をとがらせた。ソフィーが微かに微笑みながら彼の髪を撫でた。  
「愛しているからよ。野獣は娘を愛しているから、彼女を信じたの。愛とは求める物  
ではなく、与える物だと気付いたのよ」  
ソフィーがぐっとハウルを引き寄せた。彼女の花色の唇が、彼の品よく薄い唇を捕えた。  
二人はしばらくの間唇を重ねあい、そして、きつく抱き合った。  
「続きは?野獣はどうなったの?」  
ソフィーの首筋に唇を這わせながら、そっとハウルが囁いた。彼女は目を細めて彼の  
愛撫を受け入れた。甘い吐息の狭間から、物語が紡がれる。  
「野獣は中々戻らない娘を待ちわびて、遂には患ってしまいました。でも、彼は娘を  
信じて待ち続けました。そして娘は戻ってきて、瀕死の野獣を見つけました。彼の  
純粋な愛を目にし、彼女はようやく、自分がどれだけ野獣を愛しているかを知りました。  
そして、娘は彼の求婚を受け入れました。その時、二人の愛の深さに呪いは解け、  
野獣は元の王子様の姿に戻りました。そして、二人は永遠に幸せに暮らしました」  
そういう話、とソフィーは微笑んだ。ハウルが泣きそうになりながら微笑み、彼女の  
唇にもう一度自分のそれを重ねた。  
「……娘は、野獣を信じてた?戻る気でいた?」  
「もちろんよ。彼女が立ち去ったのには訳があったし、彼女は野獣を想い続けた。  
娘は彼を愛していたから、約束どおり野獣のもと戻ったの」  
 
そう言いきると、ソフィーはまっすぐにハウルを見つめた。大きな瞳が涙で滲んでいる。  
強張った顔のまま、彼女は息を詰めていた。  
「……もう一度、答えて欲しい」  
「………はい」  
「ソフィー、僕と結婚してくれますか?」  
「はい」  
弱々しい上目遣いで覗っているハウルに、ソフィーは今開いた花の様な、あるいは  
朝露の輝きの様な、もしくは星の瞬きの様な笑顔を浮かべ、しっかりとした声で答えた。  
「私の愛しい人、もちろんです。私はあなたと結婚します」  
 
とさり、と軽やかな音が立って、ソフィーがハウルに組み敷かれた。彼は目を閉じ、  
泣き笑いの表情を浮かべて彼女を抱き締めた。  
再び甘い声が上がりはじめ、二つの身体が絡み合う。男のくすんだ灰の髪が、艶やかさを  
取り戻してだんだんと宵闇色に戻っていく。少女は指先に感じるすべらかさに微笑み、  
彼の頭を掻き抱いた。  
 
遠い国の物語のように、夜は優しく暖かく恋人たちを包み込んだ。  
 

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