今日もソフィーは掃除に忙しい。もう掃除婦ではなく城主の妻であるのだから、  
そんなに忙しく働きまわる必要もない気もするのだが、性分からか大人しく座っていられず  
やはり忙しく立ち回ってしまう。  
ソフィーは非常に几帳面な性格で、掃除をする動作も軽やかだった。しかし、ほんの  
少しだけ、それこそ城主が時々指摘する程度にぼんやりしている所もあった。その  
ごく僅かな欠点が顔を出し、彼女の操る箒の柄が棚に並んだ瓶をなぎ倒した。  
がしゃん、という音にソフィーが振り返る間もなく、がたがたがた、と城が揺れた。  
そして、城にいる家族達はその場に倒れこんだ。  
 
なんだ、これは。  
王宮での仕事から解放されて我が家に戻ってみれば、そこには強い魔法の跡が残っていた。  
慌ててリビングに飛び込むと、ワインの様に紅い髪をした妙齢の女が立ち尽くしていた。  
「………マダム?」  
女がハウルを振り返り、その顔に柔らかな苦笑を浮かべた。  
「解るのかい?あたしの事が」  
「ええ……あなたは荒地のマダム。そうですね?マダム、一体何があったのですか?」  
荒地の魔女はソファーに腰を下ろし、そこに眠っていた幼子を抱きあげた。その子供をハウルに示す。  
「マルクルだよ。さっきまで泣いててねぇ……やっと寝付いた」  
やれやれ、というように荒地の魔女が幼いマルクルの顔を覗き込んだ。ハウルもそれに  
倣い、息を呑む。眠るマルクルはどうみても2つか3つの、完全なる幼子だった。  
それこそ、この城に転がり込む以前の歳であるかのように。  
「カルシファー!何が起きたんだ?」  
暖炉で神妙な顔をしているカルシファーだけが変化を起こしていなかった。何事も  
なかったかのようにちろちろと炎を揺らしている。  
「それは解らない。ただ、昼過ぎに強い魔法が動いて時世が狂った。おそらく五年間、  
この城の中は時間を遡った」  
「狂うって、なぜ……」  
「そんなのオイラが聞きたいやい!ただ、強い魔法が発動したんだ!城の内側から  
だから攻撃されたわけではないと思うけど……」  
「ソフィーは?」  
はっとしたようにハウルが問い掛けた。愛する少女の姿が見当たらない。  
「ソフィーは?マダム、カルシファー、ソフィーは?」  
「二階で寝てるよ。ソフィーもすごく混乱してた。ハウル、あんまり驚かすなよ」  
カルシファーが答え終わる前に、ハウルは階段を駆け上がり、二階の夫婦の寝室に  
飛び込んだ。ベッドの中にささやかなふくらみを見止め、そこに駆け寄る。  
「ソフィー!」  
 
ば、とハウルがベッドカバーを剥ぐと、そこには一人の少女がいた。驚きに上体を  
起こして腕で身体を庇い、こぼれ落ちそうに大きな目をさらに見開き、ハウルを  
凝視している。  
「ソ、フィー……?」  
「……だれ……?」  
ハウルが愕然としたのかその場に膝をついた。少女がベッドの上を一歩後ずさり  
駆け出そうと身を翻す。  
「待って!」  
少女の華奢な腕を掴み、ハウルは彼女を引き寄せた。ひ、と少女が息を呑む。  
「ソフィー!どうしたんだ一体!」  
「離してください!あなた、何なの?」  
怯えたように顔をゆがめながら、少女が喚いた。ハウルも呆然と彼女を見つめている。  
 
そこにいたのは、今朝までのソフィーではなかった。背中を覆うほどに伸びた暗い赤茶の  
髪の、白い肌の、痩せた体の、どう見ても12、3歳の少女だった。ただ、彼女の顔は  
全くもってソフィーに似ていた。というよりも、ソフィーを幼くさせた以外は何も  
変わっていなかった。  
「君は…ソフィーだね。ソフィー・ハッター。違うかい?」  
少女が―――否、ソフィーが軽くそむいた。ガチガチに強張った表情は変わらない。  
「ソフィー。君、歳はいくつ?」  
「……13です。あの、離してくれませんか……?」  
おずおずとソフィーが言い、つかまれた腕を振った。ハウルが慌てて手を離す。  
「あぁ、ごめんね」  
いいえ、とソフィーが髪を揺する。青ざめていた顔が、明らかに落ち着いたように見えた。  
緊張がほぐれたのか、ソフィーがハウルを真っ直ぐ見つめる。  
「あなたは、一体誰?」  
 
「僕は……ハウル。魔法使いのハウル」  
「魔法使いなの?」  
「そう」  
ソフィーが物珍しげにハウルを見つめた。しかしすぐに視線を外して首を振る。  
不躾すぎると思ったのかもしれない。  
「すごい……でも、どうして私が魔法使いの家に?」  
心底不思議そうに、ソフィーが訊ねた。ハウルが喉の奥で低く唸る。  
あぁ、一体何があったんだ!  
「……信じられないだろうけど、君はね、僕の――――――妻なんだ」  
ソフィーがばっと顔を赤らめて飛びのいた。軽く口を開き、唖然としたようにハウルを  
見つめている。  
「う、そ……」  
「……覚えてないんだね。君は本当は18歳で、僕と結婚している」  
「嘘!」  
ソフィーが大きく頭を振った。ハウルが困ったように眉を下げ、ベッドに腰掛けた。  
彼女に向けて手招きし、近くに座らせる。  
「この城は魔法にかかった。ここと外の世界は時間が五年間ずれているそうだ。  
そして、城の中にいた君も、五年間分時間を遡った」  
真顔で言われた言葉に、ソフィーがぽかんとした表情を浮かべた。それから、むっと  
したようにハウルを睨みつける。  
「話が見えません。あなた、私のことからかってるの?」  
「全て真実だよ」  
「だって、こんなのおかしい……私、昨日まで学校に通ってたのに。それが今日に  
なったら知らない部屋にいるし、何より結婚だなんて……!」  
ソフィーが絶望したように天を仰いだ。崩れ落ちそうになる彼女を、ハウルが慌てて支える。  
「……信じられないかもしれないけれど、僕は一つも嘘をついていないし、からかっても  
いない。ソフィー、必ずどうにかするから、あまり思いつめないで」  
 
ぎゅ、とハウルがソフィーを抱きすくめながら囁いた。間近に感じる吐息と体温に  
彼女の顔がばっと赤らむ。  
「あ、あのっ、離していただけませんか?」  
「……ねぇ、ソフィーは僕と結婚してる事、嫌?」  
きつく廻された腕からどうにか逃れようと、ソフィーが体をよじる。しかし、ハウルは  
そんなことお構いなしに彼女の首筋に顔を埋めながら囁いた。  
「え、あの、嫌だというか……だって、私あなたに出会ったばかりだし、結婚って  
言われても……困るって言うか、信じられない……」  
「じゃあ、僕の事は嫌い?」  
ふ、と細い首に吐息が当たり、ソフィーが息を呑んだ。それから、震える唇を騙し騙しに言葉を紡ぐ。  
「嫌い……ではないです。だって、あなたが言うように結婚が本当なら、未来の私は  
あなたを愛してるわけだし……でも」  
「でも?」  
「ごめんなさい、やっぱりからかってるとしか……」  
ソフィーが消え入りそうな声でそう告げた。ハウルの顔が悲しそうに歪められる。  
「どうして?」  
「………あなたが、すごく綺麗だから。姿もだけど、心も優しいし綺麗だわ……  
でも、私は綺麗じゃないし何も出来ないし。それで結婚だなんておかしいもの」  
ソフィーが自嘲するように笑った。自分自身を卑下する性質は昔から変わっていないらしい。  
ハウルはむきになって彼女の肩を揺さぶった。  
 
「違う、ソフィーは綺麗だよ。未来の君にもいつも言ってるけど、君は僕なんかよりも  
ずっとずっと綺麗だ」  
ガラス球のような緑の瞳に射抜かれ、ソフィーが瞳を潤ませた。その表情があまりに  
脆くて色っぽくて、ハウルが思わず彼女のそれに唇を寄せた。  
「あ……」  
重ねられたあたたかい感触に、ソフィーが顔を背けた。赤く染まった頬に手を添えながら  
大粒の涙を零す。  
「……出て行って……」  
「…あの、ごめん……」  
「出て行って!」  
「ごめん……あとで下に降りておいで。食事を用意しておくから」  
小さくなって震えているソフィーに、ハウルは優しく囁いた。彼女は無言で彼を  
見つめると、ベッドにもぐりこんだ。  
 
それから三日間、ソフィーはハウルの前では普通に振舞えなかった。何をしていても  
あのキスが蘇り、泣き出しそうになる。  
確かに、彼は素敵な人だ。綺麗だし優しいし、思いやりにも溢れているし、何より  
自分をとても愛してくれる。自分の夫だというには上等すぎる程の人物だ。別に  
心に決めたファーストキスの相手がいたわけでもないからそんなに傷つく必要もないのだが  
それでも心がざわめいた。  
自分はまだたったの13だ。恋愛小説にだって夢中になるし、いつか落ちるであろう  
恋に憧れないわけでもない。彼が悪いわけではないが、何となくがっかりしてしまった。  
物語のラストを、不意に知ってしまったような気分だった。つまらないというよりも  
拍子抜けしてしまう。  
「……愛してる、ってどんな感じかしら?」  
胸がきゅうきゅうと締め付けられる感じが、もうずっと取れない。  
その痛みは重いのに、なぜか甘やかだと思った。  
 
ソフィーが13歳の姿になってからそろそろ一週間が経とうとしていた。彼女も  
ここでの暮らし慣れて来た様で、よく笑うようになったし、ハウルにも随分と心を  
開くようになった。が、それが問題だとハウルは考える。  
たとえ幼くなろうと、ソフィーの魅力は少しも変わらない。元の姿ももちろん可愛かった  
けれど、今はもっと儚げで、でもどこか蠱惑的で目が離せない。その愛くるしさに  
時々欲望が押さえられなくなる。抱き締めたいと思うし、むちゃくちゃに抱いて  
しまえればとすら思ってしまう。  
「……なんで呪いが解けないんだろ……このままじゃ、狂いかねない」  
失敗した呪いを処分しながら、ハウルが呟いた。あの魅力を前に手出しできないのは  
殆ど拷問に近い。しかし、がっついて無垢そのものの彼女を怯えさせるのも可愛そうだし  
そんな風ことは望んでいない。だから、結局はこうして悶々としている他ないのだ。  
「ハウル、起きてる?」  
こんこん、とドアを叩く音が聞こえ、名前を呼ぶ声が届いた。細くて可愛らしい声は  
間違いなくソフィーのものである。こんな真夜中に、とハウルは窓の外を一瞥した後に  
ドアを開けた。  
「ソフィー、どうしたの?こんな時間に」  
廊下には、枕を抱きかかえたソフィーが立っていた。夜着一枚で頼りなさそうに  
ハウルを見上げている。  
「あの、恐い夢見ちゃって。だから、えっと……一緒に寝てもいい?」  
ソフィーが恐る恐るといった様子で訊ねた。その顔には別に故意も他意もないようで  
余計にたちが悪い。  
「……いいよ、入って」  
 
やばいな、と思うよりも先に口が動いていた。ソフィーは顔をぱっと輝かせ、嬉しそうに  
笑う。その笑顔にハウルはばつの悪さを覚え、目をそらした。  
「何かしていたの?」  
散らかった机を見て、ソフィーが明るく訊ねた。ハウルが何でもないと首を振り、彼女を  
ベッドに案内する。彼女の年齢や反応からマルクルの部屋を使わせていたので、二人で  
眠るのは随分久しぶりだ。  
「ふふ、あったかい」  
布団にくるまったソフィーがにっこりした。ハウルもそうだね、と答えたが、内心  
それ所ではない。こんな至近距離で無防備な姿を晒されたら、理性を保つのも容易ではないのだ。  
「……もう少し、寄ってもいい?」  
一定の距離を保っているハウルを訝しんだのか、ソフィーがそう囁いた。彼がぐっと  
眉根を寄せる。しかし、彼女は答えも聞かずにつつつ、と身体を彼のほうへ寄せた。  
「ソフィー」  
「嫌?」  
ハウルにたしなめるように名前を呼ばれ、ソフィーは首を傾げた。彼の眉間に寄った  
皺がどんどん深くなる。  
「嫌じゃないけど、ちょっと」  
「嫌じゃないなら、こうさせて?私、ハウルの傍に行きたい……」  
少女の甘い囁きに、ハウルの理性の糸がぷつりと切れた。瞬時にソフィーを抱き込み、押し倒す。  
「え……」  
口を乱暴にふさがれた事と急にひっくり返った視界に、ソフィーが目を瞠った。  
ハウルがそっと唇を離し、申し訳なさそうに目を細める。  
「ごめんね」  
ハウルが熱っぽく囁きかける。こんな時にでも、ソフィーは相変わらず天使の様に  
無垢で、無性に腹が立った。汚したいと思った。   
 
ぐ、と体重が掛けられ、自分が組み敷かれている事を知った。こんな体勢を取られたのも  
取ったのも初めてで、ソフィーは驚いたまま瞬きを繰り返す。肩越しに見えた天井の  
高さと木目に、何故だか懐かしさを覚えた。彼の形のいい唇が、頬や首筋を辿っていく。  
何をしてるのだろう、と少しだけ不思議に思う。猫の毛づくろいに似てるとも思った。  
ただ、むず痒いようなくすぐったいようなこそばゆいような、微妙な感覚が全身を  
呑み込んでいく頃には、そんな事を考える余裕もなくなっていたのだけれども。  
「あ、あの……ちょっとっ!」  
「黙っていて、いい子だから」  
「もう、やだってば!」  
抵抗を試みたが、彼の指に柔らかく口をふさがれた。彼は開いている方の手でするすると  
夜着を剥いでいく。素肌が剥き出しになり、頬がかぁっと熱くなる。  
「やだっ!」  
ソフィーがハウルを突き飛ばした。しかし、華奢な少女の力で大人の男から身を守れる  
わけがない。彼はことさら優しい口付けを落とし、どうにか彼女を懐柔しようとしているが  
そうされる事にすら言いようのない恐怖を感じ、胃がぎゅうっと縮む。  
「いやぁっ、離して!お父さんっ、お母さん!」  
ソフィーの大きな瞳に涙が浮かんだ。はたはたとそれがこぼれ落ち、身体が小刻みに  
震えている。ハウルはその変化に気付き、ゆっくりと身を起こした。  
「…………ごめん、また君を傷つけてしまった……」  
そう言ったハウルには表情がなく、目も穴のように落ち窪んでいた。ソフィーも慌てて  
起き上がり、彼を困ったように見つめた。彼は自分を傷つけたと言ったけれど  
傷ついているのは彼のほうじゃないか。  
「あの……ごめんなさい、私、違う、そうじゃないの」  
 
おろおろと言葉を捜すソフィーに、ハウルは優しく微笑みかけた。彼は寝台から立ち  
上がり、つかつかと扉に歩み寄って手をかけた。湛えた儚い笑いには、絶望と悲しみが滲んでいる。  
「頭を冷やしてくるよ。今日は他の部屋で寝るから、ここは好きに使って。もう、君を  
怯えさせるような真似はしないよ」  
「待って、そうじゃなくて私!」  
「……例え18歳の君が僕の妻でも、今の君は違う人間なんだ。だから、君が申し訳なく  
思う必要はない」  
そう言われた事がたまらなく悲しくて、ソフィーはまた涙を流した。ハウルに追い  
すがり、その肩にしがみつく。  
「違う!私が誰であろうとあなたが好きなことに変わりはないの、傍にいて欲しいの!」  
ソフィーが搾り出すような声で叫んだ。ハウルが立ちすくみ、視線だけで彼女を振り返る。  
少女は涙に濡れた頬を男の背に押し付け、そのまま固まっていた。  
「……本当に?」  
「あなたが好き……だからお願い、そんな事言わないで……」  
ハウルが身体の向きを変え、ソフィーを抱き締めた。背の高い彼の首には、少女の腕は  
届かない。きっと、未来の自分は難なく抱きつけたのだろうと悔しく感じながら  
彼女は男の背に手をまわした。  
「……僕は駄目な人間だから、君を必ず傷つけることになるよ?」  
「いいの」  
ソフィーがハウルを見上げた。彼女小さい顔には固い決意と強い意志が映っていた。  
その清らかさ、鮮烈さに目を奪われていると、彼女はにこりと微笑んだ。  
「例え傷ついても、あなたが好きな気持ちは少しも変わらないから」  
 
月明かりの下に晒されたソフィーの体は痩せていて、ひどく幼かった。胸は成長を  
始めたばかりで固く、膨らみはぎりぎり見て取れる程度。腰も子供のそれとなんら  
変わらぬほどに細い。けれども張り詰めた肌はきめが細かく、積もったばかりの淡雪の  
ように白くて、それが異様なほどにハウルを煽り立てた。  
「あまり見ないで、恥ずかしい」  
「恥ずかしがらないで。君はとても綺麗だ」  
早口に言って顔を背けたソフィーに対し、ハウルはゆったりとした笑いを浮かべて  
彼女の首に顔を埋めた。軽く唇を滑らすと、少女の身体が強張った。  
「大丈夫、力抜いて」  
ハウルに優しく囁かれ、ソフィーがおずおずと力を抜いた。それでも緊張は痛いほどに  
伝わってくる。どうしたものか、とハウルは内心腕組みをしながら、ゆるゆると愛撫を  
続けた。ただくすぐったがっていただけの少女の瞳が、次第に潤み始める。  
小さい耳朶を食めば、彼女が目をぎゅっと瞑った。そのまま舌を動かしたり耳の穴に  
差し入れたりすれば、少女の唇から悩ましいため息が漏れる。  
ハウルの骨ばった手がソフィーの首筋をなで、胸元を覆った。緩やかな動きで彼の指が  
胸のラインをなぞり、掌が膨らみを包み込んだ。繊細な動きで揉みしだかれ、少女は  
身をよじった。死にたいくらいに恥ずかしいのに、信じられない程に甘美だ。頭の中に  
紗がかかって、もう彼のことしか考えられない。  
 
「ハウル……私、なんだかおかしいの…身体が熱い……」  
消え入りそうに小さな声で、ソフィーがハウルに異変を告げた。彼は暖かい眼差しを  
少女に投げかけ、彼女に口付けを落とす。彼の唇は少女の顎、首、胸元へと下っていき  
遂には淡い桃色の蕾に辿り着いた。そっと口を開き、それを含む。  
「あっ……」  
暖かい舌の感触に、ソフィーが喉を反らせた。すべり出た艶っぽい声は自分のものじゃない  
ようで恥ずかしい。お腹の中がじんじんして、何かが溢れ出す。なんだか切ないような  
不思議な気持ちになって、彼女は投げ出していた脚を閉じた。  
「んんっ……ふぁ……」  
押し殺したような少女の声を聞き、ハウルが口を離した。ソフィーの赤茶の髪を梳き  
ながら甘く囁く。  
「声、出していいからね」  
「だって、恥ずかしい……」  
「聞かせて?ソフィーの声、聞きたい……」  
ハウルの熱っぽい囁きに、ソフィーはどぎまぎしながら頷いた。彼は満足げに笑うと  
彼女のウエストから腰に手を滑らせ、ぴたりと閉じられた脚に触れる。少女の身体が  
ぴくっと反応した。  
「脚、開いてごらん?」  
 
囁きに操られるように、ソフィーがおずおずと脚を開いた。ささやかな茂みの奥も  
すべすべした下腹もただ白く、これを汚すのかと思うとわずかな罪悪感といいようの  
ない喜悦が感じられて、ハウルは唇を吊り上げた。  
ハウルの長い指が少女の未完成な秘部に触れた。ぴく、と幼い身体が跳ね、眉がぎゅっと  
引き絞られる。  
「いやっ!そんなとこ、汚い!」  
排泄にしか使わない部分に触れられた事により、ソフィーが血相を変えて叫んだ。  
ハウルはこの歳だとそういう反応も仕方ないか、と苦笑を浮かべながら、茂みをゆっくり  
掻き分け、地肌に触れる。  
「あっ」  
何ともいえない感覚が背中を駆け抜け、ソフィーが頼りない声を上げた。次第にぴちりと  
閉じられていた秘唇が押し広げられ、内部が晒される。彼女は羞恥に顔をしかめ、脚を  
とじようとするが、ハウルがそれを許さない。  
「やだ……」  
僅かだったが蜜を吐き出しているそこに、ハウルは目を奪われていた。小さなそれでは  
自分の昂ぶりを受け入れる事はできないかな、と心配になる。けれども、熱に侵食された  
身体が彼女を解放するとは思えない。  
「痛いと思ったら、ちゃんと教えるんだよ」  
ハウルはなるだけ冷静を装ってソフィーに告げた。彼女はぼんやりとした表情のまま  
頷いた。言葉の意味が解っていないらしい。  
 
ハウルは微苦笑を口の端に乗せ、指先でソフィーの秘所を撫でた。輪郭をなぞったり  
18歳の時も敏感だった核を嬲ったりするうちに、蜜の量が増えていく。彼はひどく  
神妙な面持ちで、次第に開かれた少女の中に人差し指を沈めた。  
「んっ!」  
痛みを感じたのか、ソフィーがうめいた。ハウルが心配そうに彼女の顔を覗き込む。  
「大丈夫?」  
「ん………なんか、変な感じがする……」  
ハウルは彼女がなるだけ痛みを感じないように指を動かし、胸の突起を指先で弄ったり  
耳朶を食んだりと絶えず快楽を送り込み続けた。強張っていたソフィーの顔が緩み  
次第に息があがり始める。  
沈められた指の数が増え、ソフィーがまた声を上げた。しかし、その声に痛み以外の  
何かも滲んでいたのに気付き、ハウルはほっと息をつく。  
「痛くない?」  
「ぁ、ん…うん……」  
下肢に感じる違和感に気を取られて訳がわからなくなっているのだろうか、ソフィーは  
慌てて首を縦に振った。ハウルは彼女にゆっくりと口付けを落とすと、指の出し入れの  
スピードを上げる。それに比例するように、少女の甘い鳴き声があがった。彼は少しだけ  
哀れむような顔をしてから指を抜き、服を脱いだ。彼女がさっと顔を背ける。  
「これからする事はね、どうしてもソフィーが辛い思いをしなきゃいけない。だからね、  
嫌だったら我慢しないで言って」  
 
「痛い、の?」  
ソフィーが不思議そうに訊ねた。何ひとつ解っていないこの子に苦痛を強いるのは  
心苦しい。しかし、今さら引くことも出来なかったのでハウルは厳かに頷く。  
「どうしても初めは痛いよ。でも、ソフィーが嫌なことを僕はしようとは思っていない  
から、きちんと伝えて欲しい」  
「……それは、ハウルが私を好きだからするんでしょ?」  
「そうだよ」  
上目遣いに訪ねて来たソフィーに、ハウルはきっぱりと言い切った。少女が晴れやかな  
微笑を浮かべて頷く。  
「じゃあ大丈夫。心配しないで」  
 
少女のいたいけな微笑みに、ハウルは目を伏せた。ごめんね、と最後に一言だけ呟いて  
彼はソフィーを抱きしめ、先ほどからの行為で湿っている秘所に自分の昂ぶりを押し付けた。  
感じる熱に彼女の細い肩がびくりと揺れる。  
入り口に自身をあてがい、ハウルはゆっくりと腰を勧めていった。ソフィーが怯えたように  
目を見開き、小さく叫んだ。存分に濡れているわけではないが苦痛を感じるほどはないだろうという  
読みは見事に外れてしまったらしい。少女の狭いそこは他者の侵入を拒み、彼を締め  
出そうとしているかのように縮こまり続ける。   
痛い、と少女は歳相応の情けなさで泣き叫んだ。大丈夫などと微笑む殊勝さはどこかへ吹き飛び、 
ただ本能のままに泣き喚く。その様は目を背けたくなるくらいに哀れで、それでいて官能的だった。  
「あぁあ!っ、くぁ!!んっふぅ……!!」  
痛いと口にした事でハウルの顔が曇った事を聡く感じ取り、ソフィーは慌てて唇を  
かんだ。くぐもったうめき声があがり、それが彼の罪悪感を攻め立てた。  
「……ごめんね……」  
すすり泣く少女の身体を無理やり開くのは申し訳がなかったのだが、それでも久々に  
触れた女の肌、しかも愛する者の身体はハウルを魅了して止まなかった。  
「いいの……ハウルが気持ちいいなら、私、それでいいから……」  
 
すすり泣きの間から、ソフィーが途切れ途切れに囁いた。ハウルは辛そうに目を伏せながら  
腰を勧める。こつ、と先端が彼女の最奥に当たった。半分程度しか収まらなかった事に  
気付き、男はさらにばつの悪い思いをする。いくら健気だといえ、彼女の未熟なそこは  
彼を受け入れるには貧弱すぎた。  
「大丈夫、泣かないで。全部入ったから」  
肩で息をしている少女を落ち着かせようと、ハウルは囁きかけた。ソフィーは涙に濡れた  
眦に微笑を浮かべ、彼に抱きついた。  
「繋がってるの……?」  
「そうだよ」  
「……嬉しい……」  
ソフィーが泣き笑いの様な微妙な表情を浮かべた。微笑みの形につりあがった唇に  
ハウルはキスを落とし、彼女の手首をシーツに縫いとめるようにおさえた。  
「…動いても、大丈夫?」  
少女が微かに顎を引き、強張らせていた全身から力を抜いて身体を男に委ねた。  
彼は彼女を抱きとめると、ゆっくりと律動を開始した。  
 
「愛してるわ……解るの、これがそうだって………」  
少女がかすれた声でうわごとを呟くのと、男がうめき声をあげて彼女の中に飛沫を  
ぶちまけるのは、殆ど同時だった。  
 
「……ハウル、どうしたの…?」  
事が終り、泣き腫らした目のソフィーは黙りこくっているハウルに訊ねた。彼は静かに  
少女の中に埋めていたものを抜き取ると、彼女を抱き締めた。  
「ハウル…?」  
「本当にごめん、いくらなんでも性急すぎた」  
「そんなっ!」  
ソフィーが声を上げ、それから顔をしかめた。半分程度しか入らなかったにも拘らず  
彼女の秘所からは鮮血が流れ出していて、細い腿を不気味に汚している。それが彼女の  
身体の幼さを物語っていて、ハウルを苦しめた。  
「こんなに酷く傷つけるとは、思っていなかった。愚かだったね」  
感情のない、強いて言えば自責に心を失ったような言い方でハウルが言った。  
ソフィーがその事に恐ろしさを感じ、彼の目を真っ直ぐに見つめた。  
「そんなことない、あなたは私を愛してくれた。ねぇ、私いま幸せよ」  
「ソフィー」  
瞳一杯に涙をため、大きく頭を振りながらすがり付いてくる少女を抱きながら、男は  
口付けを彼女の額に落とした。彼女は顔をあげ、大して彼は痛々しい微笑を浮かべた。  
「ありがとう、僕もとても幸せだ」  
けれども、そういったハウルの顔はひどく悲しげで。幸せではあるが、それが心から  
出た言葉ではない事が容易に読みとれ、ソフィーがまたすすり泣いた。彼にそういう  
顔をさせてしまう自分が悔しい。満足に妻としての務めを果たせない自分が憎い。  
「………早く大人になりたい。早く、あなたの愛した私になりたい……」  
みっともなくしゃくりあげながら、ソフィーがハウルの背に腕を回した。彼は彼女を  
抱く腕に力をこめると、最大限の誠実さをこめて囁いた。  
「どんな姿であろうと、僕は君を心から愛しているよ」  
幼い少女は、何時までも何時までも泣いていた。彼女の恋人である男は、彼女の髪を  
撫で続けた。  
 
その晩、不思議な事が起こった。それは言葉に魔法を込められるソフィーの  
「早く大人になりたい」という強い願いのこもった呟きがそうさせたのかもしれないし、  
見た目には解らないが五年分年若くなって浮かれていたヒンが中身をぶちまけてしまった  
薬品の効果かもしれないし、高くひっかかっているような満月を睨みながら呪いを  
唱えていた魔女の努力の成果かも知れない。  
どれがそうさせたにせよ、夜半に不思議な事が起き、ハウルは目を覚まして本能的に  
その魔術を払いのけた。ソフィーは穏やかに眠り、マルクルも大人しく寝ていた。  
起きていたヒンと魔女はその場に倒れ、カルシファーだけが動き始めた魔に息を吐いた。  
 
肌寒さを感じて毛布を引き寄せると、小さなうめき声が付いてきた。うっすらと目を  
あけると、息のかかる距離にソフィーが眠っていた。それに気付いてハウルは微笑み、  
彼女を抱き寄せた。暖かい体のぬくもりに息を吐き、もう一度眠ろうとした。  
が、胸の辺りに感じる圧迫感に目をあける。  
「え?」  
傍らで安らかに眠っているのは、間違いなく愛しいソフィーだった。長い睫毛の、白い肌の、  
なだらかな肩に細いが女性らしい身体つきをした、星色の髪の少女。  
「ソフィー!」  
ハウルが思わず叫び、ソフィーが慌てて飛び起きた。まじまじと彼の顔を見つめ  
彼女は怪訝そうな顔をする。  
「な、なに?」  
「あぁ、君……元に戻ってる!」  
幸せそうに叫んだハウルに、はい?とソフィーが素っとん狂な声を上げた。不意に  
何も着ていない事に気付いて、慌ててシーツを引き寄せる。  
「わ、私なんで裸なの?掃除していたはずなのに?」  
おろおろと首を振るソフィーをハウルは抱きすくめ、長いため息をついた。彼女は  
目を白黒させたまま彼のなすがままにされ、そのまま大人しく抱かれていた。  
「ソフィー……」  
「なに?」  
ハウルは何も言わずにソフィーに口付けた。それから泣きそうな顔で微笑み、  
もう一度唇を寄せた。  
 
「お帰り。とてもとても、君に会いたかったんだ」  
 

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