(最近ソフィーは僕の事をかまってくれない。そりゃ毎日の家事だってあるしマルクルや  
  おばぁちゃんの世話もあるだろう。僕も仕事で出かけたりしているし…。でもそれだって…。)  
 
 
ある日、ソフィーはマルクルがお手伝いをちゃんとしたご褒美として、チェザーリのマドレーヌを  
買ってきました。するとマルクルは大喜びで  
「ソフィー大好き!」  
と言って抱きつきます。  
 
(僕にはご褒美なんかくれないのになぁ。それにみんなの前で抱きつこうものなら真っ赤になるうえちょっと怒るのに)  
 
それを見ていたハウルは、もやもやっとした黒い気持ちが  
湧いてくるのを感じました。しらず顔つきも不機嫌なものになってしまいます。  
そんなハウルの変化を素早く察知したソフィーは  
「ハウル?どうしたの?ちゃんとあなたの分もあるのよ」  
などと少々的外れ気味ですが気遣ってくれます。ですが、まさか幼い弟子に嫉妬していたとは、  
言えません。  
「何でもないよ、僕もさっそく頂こうかな」  
ハウルは笑って誤魔化したのでした。  
 
 
それから少したって昼食の時間になり、ソフィーは料理を始めました。  
パートナーはもちろんカルシファーです。  
「カルシファー、焦がさないようにお願いね」  
「任せとけって!オイラの火加減は完璧だぜ!」  
やがて美味しそうなオムレツが出来上がりました。焼き具合も絶妙です。  
「さすがだわカルシファー。やっぱりあなたは一流ね」  
「エヘヘ…そうかなぁ!」  
「あなたは器用だから助かるわ」  
「オイラ、ソフィーの言う事なら大概は出来るぜ!」  
「ありがとう、カルシファー」  
調子に乗ったカルシファーは、にっこり笑ったソフィーの頬にチュッとキスをします。  
するとその途端、ぞぞっとまるで冷気のような気配を感じました。恐る恐るその気配をうかがうと、  
今にも癇癪を起こしそうなハウルがこちらを睨んでいます。真っ青になったカルシファーは  
「オ、オイラ一仕事終わったし遊んでくる!!」  
と言って慌てて外に逃げて行きました。ソフィーはそんな状態を見つつも何に気付く訳でもなく  
いつも通りです。  
「さあ、お昼ご飯にしましょう。あら?ハウルどうしたの?早く食べないと冷めちゃうわよ」  
(カルシファーの奴…!帰って来たら覚えてろよ!!しかしソフィー…君って子は…)  
自覚のない本人を目の前にして、自分のやり場のない気持ちに悶々としてしまうハウルなのでした。  
 
ハウルは、自分がこれほどまでに嫉妬深い人間だということを、初めて自覚しました。  
こんな気持ちは心を取り戻す前には無かった事です。  
それに、ハウルは初めて真剣に人を愛しました。その相手がソフィーなのです。  
ですから彼女と周りの些細な様子にも、嫉妬してしまいます。  
たとえそれが幼い愛弟子だろうと、相棒の悪魔だろうと。  
そして何より、恋愛に疎い彼女はそんなハウルの心境に全く気付く事無く、  
彼がやきもきしてしまうような行動をとってしまうのでした。  
 
そしてこの日は間が悪すぎたのです。  
昼食後、玄関のドアを叩く音が響きました。誰だろうと考えつつソフィーが出迎えます。  
「はい、どなたですか?」  
そこに立っていたのは…  
「お久しぶりです、ソフィーさん!」  
あのソフィーが助けたカカシのカブ…もとい本当の姿に戻った隣国の王子様でした。  
「カブ!?あっ…いけない、王子様よね?」  
「カブで構いませんよ」  
 
実はハウルはこの王子様が一番気に食わないのです。彼が人間の姿に戻れたのは  
ソフィーがキスをしたおかげなのですから。ソフィーが自分以外とキスを、  
しかも結果的には人間の男としたのですから、当然といえば当然の嫉妬です。  
その上この王子様はソフィーに恋愛感情を抱いているとなればなおさら。  
 
「ソフィーさん!僕はあなたをお迎えにあがりました!」  
「!!??」  
 
さすがのソフィーもこれには驚きます。マルクルは読んでいた本を取り落とし、  
ヒンはお皿から飲んでいたミルクをひっくり返してしまいました。  
なぜか荒地の魔女のおばぁちゃんだけは面白そうに眺めています。  
 
「以前お別れをした時に言いました。戦争を終わらせたらまた会いに来ますと」  
「あの…私には」  
「心変わりは世の常と言います!私はあなたをお慕いしているのです」  
ソフィーが何かを言う暇を与えず王子様は喋り続けます。そしてソフィーの前に跪き、  
手の甲にそっとキスを贈りました。  
「ソフィーさん、私と結婚してくださいませんか?」  
 
 
ぞくり……  
 
 
部屋の中は異様な寒気に包まれました。明りは消え、部屋のそこかしこから暗黒の影が立ち上ってきます。  
「ハウルさん!?いけない!ハウルさんが闇の精霊を呼びはじめてるよ!!」  
さすがのソフィーもハウルの怒りに気が付きます。  
「ハウル!!」  
「………ソフィー…君って子は…!!」  
恐れていたねばねばがハウルから流れ始め、ヒンは大慌てでおばぁちゃんの影に隠れます。  
部屋の中で唯一落ち着いているあばぁちゃんが、ようやく口をはさみました。  
「まぁまぁハウル…。ソフィーや、この子は妬いてるんだよ。今日は他にも何やら  
 あったようだしね。まして自分の女が他の男に求婚されて、手にキスなんかされれば…  
 そりゃねばねばも出るわね」  
 
至極もっともな意見に、マルクルもヒンも頷きますが、そうしている間にも闇は広がり、  
ねばねばも増える一方です。  
ソフィーはハウルに嫌な思いをさせた事を実感して、ねばねばをだして怒る彼に抱きつきました。  
それは自分にも容赦なく絡みつきますが、そんな事を気にしている場合ではありません。  
「ハウル!!私は何処にも行かないわ!私はずっとあなたと一緒にいるの!  
 私が好きなのはあなただけよ…」  
そう言ってハウルに口付けます。すると、闇の広がりとねばねばの流れ出しが止まりました。  
そしてハウルはようやく一言  
「ソフィー…。僕は君が大好きなんだ…君が居ないとだめなんだよ…」  
 
ハウルは泣いていました。  
 
それを見て、なんてこの人は自分の事を想ってくれているんだろう。自分はこんなにも彼を  
傷つけてしまった。そう考えてソフィーも泣きたくなってきました。  
「ハウル…ごめんなさい」  
そしてもう一度彼に口付け、二人はしっかりと抱き締め合いました。  
 
愛し合う二人から忘れられている男が一人。彼におばぁちゃんは言い聞かせます。  
「見てのとおりさ。あのままだったらあんたは呪い殺されてたところだよ。  
 ソフィーの気持ちも分かっただろう?もう変わりゃしないよ。早く国へお帰り。  
 なんならあたしがソフィーの変わりになってやってもいいがね?」  
 
二人の様子をまざまざと見せつけられた王子様は、さすがに堪えたのか  
「あそこまでとは…。あんな得体の知れないモノを出すほど想い合っているのですね…。  
 確かに僕の出る幕は無さそうです…。」  
とがっくりうな垂れています。  
 
するとハウルと抱き合いながらソフィーがこちらを向いて言いました。  
「カブ、私はあなたとは一緒に行けないの。私にはハウルが居るから…彼と一緒に居たいから」  
「もう分かっています、ソフィーさん…。どうか…幸せになってください…」  
そう言い残して、王子様は飛び出して行きました。愛し合う二人を背にして。  
 
 
その後しばらく抱き締めあってようやく落ち着いたハウルですが、なかなかソフィーを離そうとしません。  
「ハウル?お風呂に入って綺麗にしてきて。私はどこへも行かないから…」  
「………一緒に入ろう」  
そう言うが早いかソフィーを横抱きにして歩き出します。  
「えっ!?でもこの床のねばねばを…」  
「マルクル…」  
「は、はい!僕が責任をもって掃除しておきます!」  
これ以上師匠の機嫌を損ねてはならないと、自ら後片付けをかって出るマルクル。  
「それに、お風呂って言っても今お湯は出ないわよ!?」  
「大丈夫さ。…カルシファー!!」  
ビクッ!!!  
カルシファーが暖炉の奥から、そろそろと顔を覗かせました。  
「風呂にお湯を…たっぷり頼む」  
そう言い残してハウル達は二階へと上がって行きます。  
今日はいつもと違って文句一つ言わずにお湯を送るカルシファーなのでした。  
 
 
ねばねばを綺麗に洗い流した二人は仲良く湯船につかっています。  
「ハウル…ごめんなさい…。すごく嫌な思いさせたでしょう?」  
「まぁ…ね。あの王子様が本当に帰って来るなんて考えてなかったから。  
 でもソフィー…君もちゃんと自覚してほしい。こんなんじゃ僕は身が持たないよ」  
「だって、カブったら反論する余地もくれないんだもの…」  
「いや、それだけじゃなくて…」  
「他に?なぁに?」  
ハウルの心労に全く気付いていないソフィーに、彼が今日マルクルやカルシファーとの様子を  
どんな気持ちで見ていたかを話しました。  
「………ハウル」  
「何?子供じゃないんだからとでも言いたいの?」  
「それも少しはあるけど…」  
「ソフィーは最近僕をあまりかまってくれなかったじゃないか」  
「…………」  
「確かにマルクルに対してこんな事を思うのは、僕が幼い部分があるせいだとは思うよ。  
 でもカルシファーは…ちょっとあれはやりすぎだ。もし君が逆の立場だったら、  
 そういう場面を見たらどう思う?」  
「…とっても嫌」  
「だろう?…もう少しだけ自覚して欲しいんだ。僕の気持ちと、君の行動を…」  
 
ハウルの今までに無い強い物言いに、彼の怒り具合を感じ取ったソフィーの視界は滲んできます。  
それにすぐ気付いたハウルは、自分が彼女を泣かせてしまった事にうろたえました。  
「ソ、ソフィー?ごめん!そんな…ソフィーを泣かせたかったわけじゃ…」  
「…ううん…いいの。私が鈍感だったんだもの…。こんなにハウルが想ってくれていたなんて…。これからは私も、もう少し考えるわ…」  
「うん…ありがとう僕のソフィー」  
「でもねハウル、あなたはそんなに妬きもち焼かなくてもいいのよ?私はあなたしか見てないんだから…。  
 マルクルやカルシファーも大切だけど二人は家族だもの。あなたとはまた違うのよ。ね?…だからあんまり二人に妬きもち焼かないで?」  
「うん…努力するよ」  
 
ハウルは湯船の中でしっかりとソフィーを抱き締め、二人は口付けを交わしました。  
 
 
この後、お風呂で二人がどうなったかというのは…また別の話。  
 
 
 
 
END  
 

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