川の流れる音が聞こえる。  
川の水は高台の頂上から絶える事無くあふれつづけ、  
飽く事無くどことも知れない空間に落ち、消えゆく。  
この川の音と梢のなる音が神界に広がっていくのだ。  
あまりに荒涼としているので、最近は人間界から動植物を積極的に取り入れている。  
魂魄体となっても、神達は自然の落ち着きを求めた。  
桃源郷を手本にしたいと誰かがいっていた  
先の音に最近では小鳥の鳴き声も重なってきている。  
その小鳥の声が一段と大きな森の一角に紂王はいた。  
安楽椅子に腰を掻け、ただただ目を瞑るだけ・・・  
封神されてからずっとこうして限りがあるかないかもわからない時間を過ごしている。  
彼が椅子から立つのは来客を迎えるときだけだった。  
来客は意外に多い。  
と言うより同じ魂魄体が何度も会いにきた。  
聞仲、黄飛虎、姜氏の三人。  
特に姜氏は二日に一度はやってきた。  
封神台の解放前から彼女は足繁く紂王の下に通っている。  
紂王の魂が封じられた時には誰よりも早く駆け付け、何も言わずに彼を抱き締めた。  
すでに姜氏の心は紂王を許している。  
神界にでは殷郊、殷洪と共に、また暮らさないかと提案した。  
 
しかし紂王は断った。  
「予が落ち着くまで・・・こうさせてはくれぬか・・・」と。  
それからと言うもの、ずっと聞仲と飛虎の作ってくれた小屋の外で  
安楽椅子に腰を掻け続けていた。  
彼が椅子の上で考えることのほとんどは妲己のことだった。  
妲己が狐狸精という妖怪仙人だったのを聞仲から再度聞いたのはいつのことだったか・・・  
そして今やどこにも彼女はいないと聞いたのはいつのことだったか・・・  
妲己について得られる情報はすべて遥か昔に聞いた。  
そのいずれを聞いたあとも語り手は哀れみの目で彼を見た。  
深くを知らない者から見れば彼は哀れな王だった。  
 
地位も、名誉も、信頼さえも奪われた亡国の王だった。  
しかしそんな紂王自身は自分を哀れになど思ってはいない。  
 
彼は心から妲己を愛している。  
その愛するもののために尽くせたのだ。  
その事実が彼にわずかな笑顔を残す結果になったのは皮肉でしかない。  
妲己に出会わなければ姜氏とともにさらなる幸せと笑みを手に入れていたはずだった  
それでも出会った事実に紂王は満足していた。これ以上の幸せはないとでもいうように・・・  
そんな彼を妲己は誘惑をといてからも縛り付けている。  
 
会いたいが叶わない、だが会いたい、という精神の落し穴に突き落として。  
安楽椅子が前に倒れるたびに会いたいと思い、  
後ろに倒れるたびに叶わないと思う・・・  
「妲己・・・」  
紂王は声に出して名を呼んだ。死んでから初めて名を呼んだ。  
呼んでから初めてそのことに気付き、自嘲気味に笑う。  
まったく未練がましい男だ、と・・・  
その時、紂王は頬に風を感じた。  
ただの風ではない、何か懐かしい感覚をともなう風。  
そうだ、妲己が頬を撫でたときの感覚だ。  
思わず目を開けた。  
風は目の前でつむじとなっていた。  
つむじ風は木の葉を巻き込み、鳥の羽を巻き込み、砂を巻き込み起こっていた。  
その勢いはみるみる増してゆき、やがて光を伴うようになっていた。  
風のなかで光は人の形にかわっていく。  
紂王はその様子をただ茫然と見ていた。  
やがて光は急激に収縮し、完全に人の形になった。  
次の瞬間、風は消え、木の葉も、鳥の羽も、砂も宙を舞った。  
その中心で人の形となった光は微笑んでいた。  
頭には簪をさし、その端には花をあしらった装飾がなされている。  
その身は十二単衣ににた衣に包まれており、  
首からは腹に『太』と書かれた珍妙なぬいぐるみを下げていた。  
そして腕を通し、まとわれた羽衣が天女のようにその姿を見せた。  
その姿、見紛うはずもない。  
「妲・・・己・・・?」  
「ただいまんv・・・紂王様んv・・・」  
 

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