まだ封神計画が始まる前。  
 
宮中で甘い汁をすすっていた妲己一味は、贅沢な暮らしこそすれ、毎日暇を持て余していた。  
妲己三姉妹の末っ子、王貴人も例外ではない。  
「はあ〜…最近、紂王以外の男ともゴブサタね…」  
憂鬱げに窓のそとを見ながら呟いて、貴人ははあとため息をついた。  
紂王に姉が嫁いでからというもの、自分も一夫多妻にもれず妻の一人となったわけだが、  
いかんせん他の男との交流がない。 ようするに欲求不満なのだ。  
「ああ…そういえば」  
そういえば丁度手ごろなところに、そこそこのイイ男がいたような気がする。  
ふと思いついた貴人は、顎に手を当て懸命に思案をめぐらせた。  
思い浮かんだのは、勝気な瞳と黒い髪を持つ、かの妖怪仙人の顔。  
名はなんといったか。貴人は必死に記憶の糸を手繰り寄せた。  
 …―――そう、たしか、陳桐。  
思わずニヤリと笑みをこぼして、貴人は近くにいた側近に静かに命令した。  
「ちょっと、そこのあなた。少しひとっ走りして、陳将軍を宮の離れまでお連れしてちょうだい」  
「…はい」  
恭しく一礼して機敏な動きで去っていく一兵士を、貴人は満足そうに笑んで見送った。  
これで、今夜は楽しくなりそうだ、と思いながら。  
 
「失礼。陳桐、御前に参りました」  
「あら、遅かったわね陳将軍」  
陽もとっぷりと暮れた時分。人気の無い禁城の離れの間は、どこか物々しい雰囲気に包まれていた。  
ゆったりと贅沢に焚かれた香のか細く白い煙が、殷の税金の限りを尽くした金の天井に飲まれていく。  
「少し、控えている出陣の会議が長引いたもので…申し訳ございません」  
跪き、頭を深々と垂れながら右拳を左の掌につける、という絶対服従の姿勢を崩さぬまま、  
陳桐はできるだけ控えめに詫びを述べた。  
なかなか見るにイイ男だ。  
貴人は自分の眼力が誤っていなかったことを、心の中で賞賛した。  
「あら、畏まらなくてもいいのよ?妲己姉さまに呼ばれていたのは知っているわ。顔を上げなさい」  
「は…有難うございます」  
うやうやしく視線だけで貴人を見やって、陳桐はそっと姿勢を崩した。  
その様子に、満足げに貴人はそっとほくそ笑む。  
この離れで焚かれている香には、実は催淫性があるのだ。それも、妲己特性のとびきり上等な。  
(いつまでそんなお上品が続くかしらね……)  
早くも少しゆらゆらと視線を揺らし始めた陳桐に、貴人は笑顔で、  
「ほらっ、そんなところで屈んでないで、お座りなさいな」  
と自分の隣の席を促した。  
「しっ…しかし…」  
「陳桐、私の言うことが聞けなくて?」  
「い、いえ…では失礼して…」  
どこかいそいそと座る陳桐の様子に、貴人はますます笑みを深くする。  
「あら、どうしたの陳桐?なんだか緊張しているのかしら」  
「い、いえそんなことは」  
「そうかしら…。なんだか苦しそうだけど…」  
ぎこちない動きで隣に腰を据えた陳桐の内股に、貴人はそっと撫で上げるように手を添えた。  
「…ここ、とか」  
「!」  
ここ、の所でつう、と指が内股を這う気配がして、陳桐はびくりと体を硬直させた。  
そのままゆっくりと服の上から撫で上げてやると、もう布越しにもはっきりと形が解るほど、  
陳桐の肉棒は硬くそそり立っていた。  
 
「あら…もうこんなにおっきくなってる…」  
「おっ…王貴人様…何を…っ」  
うっとりと呟いて愛しげに形通りになぞってやると、ドクンと脈打つ気配がして、それは一段と堅さを増した。  
もう衣服はテントの有様で、言葉と裏腹に主張してならないそれが、苦しげに熱を帯びている。  
「な、なりません…っ」  
「どこがならないのかしら?」  
「……ッ」  
ずるりとズボンをずらしてやると、陳桐のギンギンに張り詰めた男根が露になった。  
「じゃあどうしてこんなに?」  
「…!っそれは…っ」  
「どんな気分かしら…?女にそんなとこだけ脱がせられてマジマジ見られるなんて…」  
うっとりと貴人が、陳桐のそそり立った肉棒から視線を外さずに言う。  
「正直に言ってごらんなさい、ねえ陳桐?上司の命令には絶対服従と誓ったはずよっ」  
陳桐の、一番熱を持ったそこだけがひんやりとした外の空気を感じている。  
下半身だけが露になるという情けなさと羞恥に爆発しそうな顔をしながらも、  
もう彼の中の悲しい男のサガは限界にきていた。  
 
 たとえ忠誠を誓った妲己の妹君だとしても――――…  
…一刻も早く快楽が欲しくて、先走りを垂らす肉棒の前に、陳桐の僅かな理性は無力だった。  
 
「くっ…お、お相手……ご不、足でなければ、…お願いしま、す……」  
「イイ子ね…」  
どこか恍惚とした表情で貴人は今度こそ深く笑って、陳桐のそれを軽く握った。  
「うっ!」  
突然与えられた刺激に、陳桐は上ずった声をあげた。  
しかしそんなことは気にせずに、貴人は先端だけを摘むようにゆるゆると手を上下させる。  
「う…ああ………」  
「少し触っているだけなのに、もうこんなにいっぱい出てるわよ」  
摘んでいる先端から、透明な汁があふれ出てくる。  
必死にゆるやかな快楽に目を堅く閉じて耐えながら、陳桐は苦しそうに眉を寄せて貴人を見た。  
「……っく」  
 
「あら、あんなにマジメな事言ってた割りに…気持ちよさそうね、陳桐?」  
ふふふと満足げに言うなり貴人は、今度はぱくりと勃ちあがった陳桐のものを口に含んだ。  
舌先で亀頭をれろれろと舐めあげ、亀頭の割れ目に舌先が当たる度にドクンと  
それは大きく跳ね上がり、突き抜けるような快感が背筋を昇っていく。  
「おおぉ……!」  
貴人は肉棒を咥え込み、頭を前後に振りながら強く吸い付くと、じゅぼ…じゅぼ…という淫猥な音が辺りを支配した。  
 妲己三姉妹のうちでもプライドの塊のような貴人だ。  
その貴人が、主君の妹でもある貴人が、自分の赤黒くそそり立った肉棒を  
ずっぽりと頬張っているだけでも、なんという背徳感だろう。  
「気持ちいい?」  
「はいっ……あ、あああ!と、とても…っとても…っ!」  
一層深く貴人が上目遣いでくわえ込むと、つくん、と喉の奥に先があたって、陳桐の頭はもう真っ白になった。  
「う…あ!き、貴人様…っ!!」  
「…まだよ」  
「…っぃあ!」  
絶頂に達する直前でいきなり刺激から開放され、陳桐は思わず不自然な声を上げた。  
もう痛々しいほどに張り詰めた野太い陳桐の男根が、てらてらと光ったままに天を向いている。  
「私も楽しませてくれなきゃね」  
うっとりと陳桐の男根を見やって、貴人はもどかしそうに下着を脱いで陳桐の上にのった。  
下着と内股の間にきらめく糸が引いている。  
「あなたのここはどんな味かしら…?」  
恍惚とした表情で、貴人はゆっくり腰を下ろした。  
しかしそのまま最後まで下ろさず、ゆるゆると円を描くように男根の先端と割れ目を擦り合わせる。  
「き 貴人様っ先だけを飲み込むのは…っ」  
割れ目から少し離れると、どちらともない愛液が糸を引く。  
くちゅりといやらしい音を響かせながら、仕方ないという表情をして、  
今度こそゆっくりと貴人は味わうように腰を落としていった。  
ず…ずぷ…ずぼぼ…ずちゅっ…  
「あ、はぁん…陳桐の……おっきくて、おいしぃ…ん」  
「ぁああッ…!き、貴人様…!」  
貴人のなかは陳桐をさそうように熱くきつく吸い付いて、陳桐はなんとか動かないことで快感をやり過ごした。  
しかしキツくうねるように締め付ける貴人の中に、陳桐のそれは限界を知らないかのようにドクンと脈打った。  
「あ、ああぁ…!すごいぃい!!陳桐のおちんちんっ、堅くて!すごい堅くて気持ちぃいいっ…!!」  
ずっぽりと陳桐のグロテスクで巨大な男根をくわえ込み、貴人は思わず腰をくねらせる。  
ぱっくりとあいた割れ目と自らを出し入れする連結部が下の陳桐からは丸見えで、陳桐は思わず腰を打ちつけた。  
「貴人様…貴人様…!」  
「ひぁあああああっ!あっあっあっあっあっあっっ!!!」  
パンッパンッパンッパンッパンッと、乾いた肉のぶつかり合う音が、ぐちょぐちょという水音と共に部屋中に響いた。  
入れるときは最奥まで突き立て、腰を引くときは肉棒が出そうなほど激しい上下運動が、  
貴人のたわわな胸をゆっさゆっさと揺らし、陳桐はそれを鷲づかみにして揉みあげる。  
「あくぅっ…あ、あ、いっぱい、いっぱい奥まで入れてぇえええっ!あひぃぃいいいっ!!」  
「仰せのままに…ッ、うぁっ…!貴人様の淫らなココ、こんなに美味しそうに図太い肉棒をくわえ込んでますよっ…!」  
「やっ、いやぁあああっ!み、見ないで…っ!こんな、お願いこんなところ見ないでぇえええっ!!!」  
さっきまで冷静だった貴人はどこへやら、激しい動きに貴人は我を失いかけている。陳桐も頭の中はスパークしそうだ。  
「うっ…も、もう貴人様…っ!」  
「あ、あああああああっ!!イく、イく、イッちゃうぅううぅううぅぅぅぅう!!!」  
 絶叫に近い歓声をあげ、貴人と陳桐は、ほぼ同時に絶頂を迎えた。  
 
 
あれから貴人と陳桐は、平面上は何事もなかったかのような日々が過ぎ去った。  
といっても、妲己が申し付けた出陣の会議が終わり、陳桐が出陣するまでのほんの数日だ。  
陳桐はあれから何事もなかったかのように平静を装い、たまに三姉妹に呼び出されたときも  
「主君」と「一道士」の立場に落ち着いている。  
貴人は貴人で、欲求不満で妖怪仙人を食ってしまうなど、日常茶飯事なので気にしていなかった。  
 
 …そう、気にしていなかったのだ。  
 だから胸に残る甘い痛みもわだかまりも、気づかないふりをしていた。  
 
 ―――――――……あの日、までは。  
 
「あんまり不審な行動をとると許さないわよ  
あなたといえども私たち姉妹を怒らせたらただでは済まないわ!」  
「不審?とんでもありません 私は陳桐の様子を見てきたのです」  
 陳桐。  
 貴人は確かにその名前に聞き覚えがあった。  
 姉に出陣を言いつけられ…――その会議の後にあんなことがあり…――先日部下を従えて出て行った、あの男。  
「彼は太公望にコテンコテンのケッチョンケッチョンにのされましてね。  
 魂魄が封印されてしまいましたよ」  
「なっ…なんですって!?」  
はじめ、申公豹が何を言っているのか、理解するのに数秒かかった。  
しかしゆっくり頭の中で吟味して、貴人は軽く目を見開いた。  
 
 …陳桐が?  
 先日、私を腕の中に抱いた、あの男が?  
 
「それを今から妲己に報告しに行くのです…では!」  
「待ちなさい申公豹!」  
思わず鋭い言葉が口をついた。  
しかしできるだけ冷静を装って、貴人は憤然と言い放った。  
「太公望という者のことは聞いてるが…陳桐を倒すとなる程の道士となればこれはゆゆしき事態…」  
 
 ああ、どうしよう。なぜだろうか。  
 涙がでそうだ。  
 もう全部、遅すぎるけど。  
 
「次は私が行く」  
 
 許さない。  
 
ここから王貴人と、太公望の因縁の対決は始まったのだった。  
 

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