唐突に現れ、イラ立つ一言を口にして唐突に消えてゆく女。  
またしても自分の手から逃れる女  
 
 
あれだけ国を人を時には仙人を動かしたにも関わらず  
今はもう四月の雪と等しい程に淡く、  
正に何処にでもいて、何処にもいない存在へと昇華した。  
人は忘れてゆくだろう。  
あるいは憎しみをもって後世に語り次ぐだろう。  
違う。  
そんな事では到底、到底収まらぬのだ。  
この憎悪、この手をどうしたらいい  
 
 
『太公望ちゃん』  
 
 
狐のくせに猫かぶりをする声。王達を惑わすあの妖艶な瞳。  
それら彼女を形成するものを順に挙げて落胆した。  
本当は、心の底で願っている。  
あの女に遇えること。  
認めたくない。  
それは王天君の感情が入れ込んだだけだ。  
そう、手を伸ばしたのだって  
今も胸中を騒がせるものもみんなそうだ。  
………そうだったらよかったのだ。  
 
 
 
 
 
「愛してるわん」  
それは他の誰かに向かって発していたのをよく耳にした。  
 
 

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