その夜、蝉玉は黙って俺っちのテントまでやってきて、そして黙って俺っちの寝台に腰掛けた。右手に酒を携えて。  
「ど、どうしたんさ、いきなり」  
やはり蝉玉は黙ったまま、俺っちに酒を押しつけた。眉間にうっすらと皺を寄せて押し黙る蝉玉なんか見たことなくて、俺っちは何も言えずに酒を受け取り、蝉玉の隣に座る。  
ふと、蝉玉の方から酒の匂いが漂ってきて、なるほど、一人酒がいやになって俺っちを酒につきあわせるつもりか、と納得はしたものの、黙り続けている蝉玉にうまく話し掛けることが出来なかった。眉間の皺がいよいよ深くなっていく。  
 
「杯は、ないわけ」  
普段よりもトーンの低い声で、蝉玉が口を開いた。  
「ごめん、ないさ…」  
「回し飲みで良いでしょ」「お、おう」  
何だってこんなに機嫌が悪いんだろうか。  
何があったのか聞きたいが、まさかこんな状況でストレートに聞けない。  
どうやって話し掛けたらいのか、精一杯頭を回転させながらも、ぐずぐずと黙り込む。  
そうこうしていると、蝉玉は痺れを切らしたように俺っちの手から酒をひったくって飲みはじめた。俺っちは呆然とその姿を眺めていたが、そのあまりの飲みっぷりに慌てて蝉玉を止めた。  
「おい!そんな飲み方したら体壊す…」  
蝉玉の手から酒を奪って抱え込んだ瞬間、蝉玉の顔がくしゃくしゃに歪んで、ぼろぼろと涙を零しはじめた。  
「…蝉玉?」  
両手で顔を覆い、声を殺して蝉玉は泣き続ける。  
「ちょ…お前、どうしたんさ」  
俺っちはおろおろと蝉玉の顔を覗きこんだ。  
 
「て、んかぁ…」  
「なにさ」  
「あたしって、そ、そんな、に、魅力、ない…?」  
ひくひくと喉を震わせながら、蝉玉はやっと口を開いた。  
あぁ、やっぱり、モグラのことか…。俺っちはそう思いながら、こんなになるまで蝉玉を拒否し続けるモグラに言いようのない苛立ちを感じた。  
「まぁたモグラと揉めたさ?」  
「お、前だけは、ぜったい、抱、かない、て、ハニーが…」  
『女の子は優しく扱う』モグラにしては思い切ったことを言ったもんだ。  
「もう、ヤダ…」  
蝉玉のむき出しになった肩が震える。正直どうしていいかわからない。女を慰めたことなんて、今まで一度もない。  
「…十分、魅力あるさ」  
俺っちはおそるおそる蝉玉の背中に手を添えた。  
そのまま振り払われるかと思ったが、蝉玉の反応はない。  
モグラは、と俺っちは考える。  
モグラは蝉玉を本当に抱くつもりが無いんだろうか。別に蝉玉はみっともない女じゃない。むしろ追い掛けられて喜んでいるんだとそう思っていた。  
そうじゃないなら、と、また俺っちは思う。  
そうじゃないなら、俺っちが蝉玉を、  
…好きでいても、いいのか?  
 
蝉玉の背中を撫でてみたいと思った。もう少し、触れたい。もし拒否されたら、このままでいよう。このままの関係で、バカな話でもしながら笑いあっていよう。  
でも、受け入れられたら、そのときは。  
 
俺っちは心の中で小さな賭けをして、意を決して手のひらをそっと滑らせる。服の薄い布地越しに、背骨の感触がわかる。  
 
ぴくん、と蝉玉が小さく反応した。俺っちはすぐに手を離す。  
「あ、」  
擦れた声で蝉玉が声を上げた。  
「…や、めないで、撫でてて」  
俺っちは驚いて、急いでまた蝉玉の背に手を充てた。  
「もっと…ちゃんと気ぃ入れて慰めなさいよ…」  
…憎たらしい女。  
でもだめだ。もう、だめだ。  
「ほんとは、お、俺の胸で泣け!ぐ、らい、言うもんよ」  
指の隙間からちろりと俺っちをねめつける。  
濡れた睫毛が光ってる。  
「…じゃあ、そうすればいいさ」  
俺っちは蝉玉の肩を引いて、蝉玉を横抱きにしてみた。これも嫌がるならやめるつもりだった。  
「さあ、好きなだけ泣くさ」  
蝉玉は驚いた目で俺を見上げる。  
「も、もう、泣きおわった」  
ぱちぱちと大きく瞬きをする目から、たしかに涙は零れなかった。  
「…もう泣きおわったさ?」  
「うん、泣きおわ、…」  
言いおわる前に、唇に唇を押し当てた。  
涙で湿った唇は、驚くほど柔らかかった。唇の隙間に舌を差し入れてくすぐってみる。頑なに閉じられた歯列にあたった。  
俺っちは服の上から胸に手を当てる。思い出したような抵抗。もう、やめない。ゆっくりと蝉玉を寝台に横たわらせて、その上にのしかかった。  
「て、てんか」  
服をめくり、乳房をあらわにする。白い胸。ジーンズの前がきつくなる。手のひらで覆うようにゆるゆると揉んでみた。  
「んっ…」  
 
尖りはじめた乳首を親指で転がすと、蝉玉の息が荒くなってくる。  
「あ、あ、…」  
蝉玉は両手で俺の手を剥がそうとし始めるが、酔っ払った女が素面の俺っちに勝てるわけない。俺っちは蝉玉の両手首をつかんで動きを封じると、今度は乳首を口に含んだ。  
「やぁん!」  
舌先でくすぐると、膝をもぞもぞとこすりあわせはじめる。  
「…胸、よわいさ?」  
「う、るさい!」  
「あんた本当に可愛げねぇさ…」  
「勝手なことしてんのそっちでしょ!バカ!」  
「でもさっきからアンタ嫌っていわねぇさ」  
蝉玉は困った顔で口をつぐんだ。そのまま、また唇を塞ぐ。今度はもう歯を薄く開いてくれた。酒で甘い舌に届く。優しく吸うと、舌をくれた。やわらかくて、やわらかすぎて、あたまの奥がジンと痺れる。ただ夢中に蝉玉の舌を味わう。  
俺っちは蝉玉の手首からそっと手を離した。もう抵抗は、ない。そっとミニスカートから伸びた足を撫でてみる。すべすべとした肌の感触が気持ち良くて、太ももの内側を何往復も行き来する。  
 
「ふ、あ…」  
声がだんだんと甘くなっていく。固く閉じていた膝からゆっくりと力が抜け始めた。  
バカ笑いしたり、憎まれ口をたたいたり、そんな蝉玉が、俺っちの手のひらの動き一つで甘い声を出してる。それがひどく嬉しくて、せつない。  
…もう我慢なんかできない。下着のなかに手を、ゆっくりと差し入れる。  
「あ…天化ぁ…」  
中指で肌の隙間をなぞり上げると、そこはもうとろとろで。  
「あぁ…ん!」  
一際高い声があがる。  
「すっげ…濡れてるさ…」  
「やだぁ…」  
「ここ、触られんの、嫌さ?」  
「や…」  
「や?」  
「ヤじゃ、ない…」  
その言葉を、待ってた。充血して硬くなった一番敏感な部分を、指の腹でくすぐる。  
「あぁああっ…!」  
「ちょ、声、でかいさ!」  
「あっ…」  
蝉玉は慌てて口を両手で塞いだ。その仕草が何かちょっと可愛くて、小さくわらってしまう。蝉玉はそんな俺を目ざとく見つけて、俺の二の腕をぱちんと叩いた。  
「いっで!」  
「ばか!」  
「別にバカにしたわけじゃないさ」  
「じゃあ何で、」  
「すきだなぁと思って」  
蝉玉はひどく驚いた顔で俺っちを見上げた。そうしてすぐに目の淵を赤く染めて、両手で顔を覆う。  
「あんたばかじゃないの…」  
「たぶん、ね」  
 
俺っちは顔を隠している手を引き剥がして、今度は触れるだけのキスを落とす。  
「声、静かに…」  
唇を付けたままそう囁くと、蝉玉の唇が震えた。  
じわじわとあふれるそこを襞に沿ってなぞる。腰が跳ねて、入り口がヒクつくのがわかる。  
「くぅ…ん、やぁ…」  
突起の皮をそっとめくって、ぬるぬると撫で上げると、ひっ、と微かな悲鳴が上がった。  
指で挟んだり、押したり、その度にぴくぴくと腰が跳ねる。  
俺っちは入り口に中指をおろして、じわじわと中に滑らせた。  
「はっ、…」  
蝉玉が息を吐いた。  
小さな覚悟。  
第一関節まで入れて、キツさにおどろく。中はあつくて、やわらかい。蝉玉はもう、どこもかしこもやわらかい。恐いくらいに。  
下唇を噛んで耐えている蝉玉の頭を撫でてから、意を決して、指を奥に進める。蝉玉の腕がすがるように俺っちの首に回る。俺っちは蝉玉の隣に横たわって、開いたほうの手で蝉玉を抱き寄せた。  
指の腹で丹念に中を撫でる。同時に親指で突起をこすった。水の音がして、あたまがぼーっとしてくる。  
いきなり蝉玉が俺の下唇に吸いついてくる。それに答えるように上唇を甘噛みしてやると、涙声で蝉玉が呟いた。  
「て、天化、あたし、もう…!」  
突っ張った足ががくがくと震えて、中がビクビクと痙攣し始める。  
 
突っ張った足ががくがくと震えて、中がビクビクと痙攣し始める。  
「ぁ、あぁあ…ん!」  
背をぴんと反らせて、俺っちの唇のそばで蝉玉は嬌声を上げた。  
「は、ぁ…はぁ……は…ぁ…」  
震える息を吐く。  
「…イった?」  
俺っちの問い掛けに、荒い息のまま何度も頷いた。  
閉じていた目を開けて、俺っちを見る。  
とろんとした目の蝉玉は、見たことない女のようだった。  
「ね、ぇ…」  
「ん?」  
蝉玉は上半身を浮かせて、もうすでにかちかちに腫れあがったジーンズの前に手を添えた。  
「ねぇ、…辛いでしょ」  
「…結構」  
「いいよ」  
「え?」  
「入れていいよ…」  
そういうと蝉玉は俺っちから目を逸らした。  
「本当にいいさ?」  
蝉玉はそっぽを向いて頷く。  
 
俺っちはジーンズのジッパーを下までおろし、脱ぎ捨てた。  
もう完全に勃ちあがっていて、少し先端から溢れている。  
俺っちは起き上がって蝉玉の足元に移動した。  
脱げかけた下着に手を掛け、引きおろし、足首から外す。  
膝の裏に手を差し入れ、持ち上げて開くと奥が濡れて光っていて、もうそれだけで出そうになった。  
自身に手を添えて、先端でそこをなぞってみる。  
「ふぁ…」  
蝉玉の声と、濡れた感覚に背中がぞくぞくする。  
「じゃあ、いくさ」  
俺っちの声に蝉玉は目蓋をうっすら開けて、恐る恐る俺っちの物に視線をずらした。  
「!!」  
急に蝉玉の膝が閉じる。  
「な、なに?」  
「ごめんやっぱだめ!」  
「…え?!」  
「そ、そんなの入んない」  
「俺っちのそんなにデカかねぇさ」  
「無理!怪我するってば!」  
「しねぇさ」  
「だめ!だめだめ!ね?」蝉玉は困った顔で俺の顔を眺めた。  
「あー、蝉玉、ごめん」  
俺っちは閉じた膝をまた開く。  
「え?」  
「もう止まりそうにねぇさ」  
俺っちは蝉玉の肩を支えながら寝台に横たわらせる。「絶対、い、痛くしないでよ」  
「頑張るさ」  
「約束だからね!」  
 
俺っちは蝉玉の頭をくしゃくしゃとなでて、キスをした。  
耳と首筋を指先で撫でるとすん、と鼻をならす。  
不安げな蝉玉が少し可哀相になるが、下半身は正直もう止まりそうにない。離れてしまった先端をまた入り口にあてがうと、ふるりと蝉玉の肩が震えた。  
「少しづつ入れるから、腰上げてみて」  
そういうと、蝉玉はためらいがちに腰を浮かせる。  
俺っちはゆっくりと腰を進めた。  
じわじわと押し進めて、ようやく先端の括れまで入れる。中は熱くて、一度イっている分とてもキツかった。蝉玉は息を止めて喉をそらして耐えている。  
「…痛いさ…?」  
こくこくと何度も頷く。  
「息、止めちゃダメさ、ゆっくり吐いて、力、抜いて」  
「は、あ、…」  
俺っちは蝉玉の脇腹を手のひらで撫でた。  
「痛かったら、もういくらでも声出していいから」  
また少しづつ腰を進める。  
「い、あ」  
ゆっくりと、胸や脇腹を手のひらでなでながら、とうとう根元まですべて入れた。  
「…!」  
「キツくて、すべる…」  
痛みのせいか力が入っていて、気を抜くと押し出されそうになる。  
「て、天化の、入ってる…」  
うわごとのように呟いた言葉に、ぞくぞくした。  
「動かしたい…ダメさ?」  
「い、いいよ…」  
その言葉に俺っちはゆっくり腰を回してみる。  
やわらかい粘膜にこすれる感触が、たまらない快楽の波になって、理性をさらわれそうになる。  
「ぃやあ…!」  
でも蝉玉を痛い思いだけにさせるのはいやだった。少しだけでもいい。感じてほしい。  
「くう…ん…!」  
 
「…辛いさ?」  
「…大丈夫、もっと、動いてもいいよ…」  
その言葉が嬉しくて、俺っちはじっくりと抜き差しを始めた。  
「あ…あ、はぁあん!」  
じっくりと解すように突く。痛みで少し乾いてしまったそこは滑りが良くない。親指を舐めて、また突起の皮をめくり、くすぐった。「ふ、ぅん」  
声に少しだけ甘さがにじむ。  
少し滑りが良くなった気がして、俺っちの快楽も増す。  
「やぁ、はぁ…てん、かぁ」  
蝉玉も少し楽になったみたいだ。足が俺っちの腰に巻き付く。  
「我慢、しないで…もっと…」  
「も、っと…?」  
「もっと突いてぇ…!」  
もう、だめだった。理性の糸がぷつりと切れて、蝉玉の膝をつかんで足を思い切り広げると、ひたすらに腰を振った。  
「ひゃあぁあん!」  
つながっている部分に目をやる。見え隠れする自身が、蝉玉の体液で濡れて、光ってる。もう、がむしゃらになる。  
「やぁ、あ、あ、あ、」  
「ごめん、蝉玉、俺っちもう…!」  
 
強く打ち付けるように、腰を振った。寝台が軋んだ音を立てる。絶頂が近い。  
「もうだめさ…!」  
甘い痺れ。…もう溢れる。俺っちは急いで腰を引いて、蝉玉の白い腹の上に精を放った。  
 
「は、ぁ、…」  
放心状態の俺っちの首に、力なく蝉玉の腕が絡んだ。汚してしまった腹の上に、倒れこむように覆いかぶさると、指で蝉玉の口をこじ開ける。震える舌を見つけて、貪るように絡めた。  
裸の胸が触れ合っている。やわらかい乳房が俺っちの胸板でつぶれてる。ずっとこうしたかった。ほんとは、こうしたかった。  
 
蝉玉を抱き抱えて、横向きに寝そべる。薄い肩、細い腰。暖かい体を感じながら、だんだんと眠たくなる。蝉玉を抱き締めて、このまま、眠りたい…。  
 
がば、と蝉玉が俺の腕を振りほどいた。  
「ど…うしたんさ?」  
「帰る」  
「寝てけばいいさ…」  
「パパが心配する」  
すう、と胸が冷たくなった。そりゃそうさ。一度抱いたからって蝉玉が俺っちのもんになったわけじゃない。甘ったるい気持ちがどんどん萎んで、虚しさが広がる。  
「送ってくさ…」  
「いいよ、一人で戻れるから」  
かなしい。  
蝉玉は疲れ切って震える足で寝台をおりて、乱れた服を直し、下着をはいた。  
その後ろ姿をただみつめる。あんな可愛かったのに、もう、冷たい。  
「天化」  
「ん?」  
ついばむようなキスが降る。  
「あ…あ、明日も飲みにくるから、今度は酒、アンタが用意しておいてよ」  
蝉玉は赤い頬でうつむいた。  
…なんだよ。  
なんだよもう、わけわかんねぇさ。  
…そんな顔されたら、ハマるだろ。  
「じゃ、ね」  
よたよたとふらつきながら、蝉玉がテントを出た。  
 
「…」  
しょうがねぇ女。  
とりあえず俺は、寝台に残る蝉玉の残り香に少しにやけながら、明日の酒をどうやって調達しようか、そんなことを考えていた。  
 
END  
 

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