その夜、霊獣王一族の軍隊が陳塘関を包囲した。  
『俺の子を殺した子供出て来い!出て来ぬならこの関所ごと吹っ飛ばしてやるぞ!』  
霊獣王の鈍い声が響く。  
「母上…安全なところへ。オレが全部片づける」  
数百の霊獣の軍を前にして、?咤は無表情に言った。  
「だめよ!」  
咄嗟に殷氏が声をあげる。彼女は霊獣王の前へと歩み出て、思いつめた表情で言った。  
「その不始末は親の罪…私がどんな処罰でも受けます!」  
「よせ殷氏!家長の私が責任を取る!」  
殷氏を止めて、李靖が言う。  
「オレが片付ける」  
相変わらず、?咤は無表情で繰り返した。  
だが、殷氏にはそんな事をさせるつもりはなかった。  
この子がいくら強くても、霊獣王に敵うはずがない。それに、関所の民を巻き込むわけにはいかない。総兵の妻として、?咤母として、私が犠牲になれば済む。  
「?咤、あなたは下がってなさい。私が、私が罰を受けるわ」  
殷氏は霊獣王の前に跪き、許しを請うた。  
「お願いです、霊獣王様。この子はまだ無知な子供。子の罪は親の罪。私が代わりに罰を受けます」  
「何を言う、殷氏!私が責任を取る。お前は下がってろ」  
霊獣王は、城壁の上で跪く殷氏に眼を向けた。  
『女、お前が代わりに罰を受けると?』  
「……はい」  
「待ってくれ!責任は私が取る!だから殷氏は――」  
『李靖、お前には言っていない。俺はこの女に言っている』  
「だ、だが……」  
『うるさい奴だ。この関所を吹き飛ばしてもいいのだぞ』  
そう言われ、李靖は唇を噛んで黙った。  
霊獣王は考え込む仕草をし(少なくとも、殷氏にはそう見える)、やがて彼女に視線を戻す。  
『いいだろう……その子供に代わり、貴様に罰を与えてやろう』  
「ほ、本当ですか!?」  
殷氏の顔に、希望が灯る。  
『ああ、ただし、条件がある。女、貴様が罰を受ける間、その子供が大人しくしているのならば、だ。もし、その子供が俺たちに歯向かうのなら、この関所を吹き飛ばす。むろん、貴様ら親子もだ』  
 
「待て。母上は関係ない」  
風火輪を駆り、?咤は飛び出そうとする。それを、殷氏は彼の腰布を掴んで止めた。  
「?咤、大人しくしていなさい。……霊獣王様、私は罰を受けます。この子は決して歯向かったりはいたしません。」  
「母上……」  
「?咤、言うことを聞くのです」  
殷氏に言われると、?咤は黙り込んだ。  
「あなた、?咤を頼みます」  
止めようとする李靖の手をすり抜けて、殷氏は城壁の先へと歩み出た。  
覚悟は出来ている。?咤のために死ねるのならば、怖くはない。  
不意に、城壁の端に立つ殷氏の足元で何かが蠢いた。  
「っ!!」  
悲鳴すら上げる間も無く、それは殷氏の体に絡みつき、彼女を夜の闇へと持ち上げる。  
「なっ、母上!」  
無表情だった?咤に、かすかな変化が生まれる。右腕の乾坤圏を霊獣王の眉間に構える。  
「?咤!」  
殷氏の声に、それを放つのを留まった。  
彼女の体に纏わりつくのは水だった。両手首を縛るように、彼女の体を持ち上げている。彼女は城壁のわずか先に吊るし上げられている。その水の戒めが解けてしまえば、大地に落ちて命を失うほどの高さ。  
夜の闇で足元が定かではないとはいえ、恐怖に体が竦む。  
『どうした。お前の子供は、大人しくしているんじゃないのか?』  
「だ、大丈夫です。決して、反抗させたりはしません。さあ、霊獣王様。覚悟は出来ております。私の体、大地へ投げ出してください」  
『投げ出す?何か勘違いしているのではないか?』  
にゅるり、と粘着質の液体の動く音が聞こえた。  
『女、お前を殺すとは言っていない。罰を与えるとは言ったがな』  
手首の水が触手のように、奇妙に動き回った。衣を濡らすことのない、固体と液体の中間のような触手。袖口から、彼女のきめ細やかな肌を伝い、徐々に這い込んでくる。  
「れ、霊獣王様!?何を!?」  
『どんな罰を与えるかは、俺の自由だ。お前の子供が、どこまで母親の陵辱に耐えられるかな?』  
囁くような小さな声で、霊獣王は言った。  
 
――ま、まさか!?  
整った彼女の顔から、一瞬にして血の気が引く。  
彼女のおぞましい考えは、想像の範囲で収まりはしなかった。  
意志を持った水が、触手のように腕を這う。それはまるで、無数のミミズがのたくる様。恐怖と嫌悪感が綯い交ぜになり、唇が震えた。  
が、すぐに震える唇を噛み締め、その感触に耐えた。私が辛そうな顔を見せれば、?咤は大人しくしていてはくれない。あの子を守るため、そして、関所の民を守るため、彼女は耐えた。  
考えるうちにも、水は容赦なく衣の中へ進入してくる。冷たい感触が、脇を撫でる。  
「ひくっ」  
小さく呻いたが、何とか堪える。  
李靖も?咤も、彼女に視線を向けている。水が這い回るのは、衣の中だけ。彼らには何が起こっているのか、わからないのだ。  
水はゆっくりと、乳房の隆起に沿って這う。ぞくぞくと、体が震える。  
「ふっ、……ぅ……っぁ」  
巧みな愛撫であった。李靖のものとは比べものにならない。水という特殊な感触が、人間同士では感じることの出来ない感覚を引き出してくる。  
「ぅ……ふぅんっ!?」  
水の触手が、乳首を弄った。とっさのことに耐え切れず、口から甘い声が漏れる。  
――わ、私、何を……だめ、こんな、はしたない……  
普段なら、こんなことでは感じたりはしない。だが、夫とわが子の目に晒されて、感じまいとすればするほど、妙に意識してしまう。  
「母上!」  
「だ、大丈夫です!心配しないで!」  
二人とも、まだ気づいてはいない。このまま耐え続ければ、何事もなく終えられるかもしれない。  
言い聞かせるように、気を強く持つ。それを挫くかのように、新たな責めが始まった。  
胸を揉みしだき、乳首を転がしながら、水の触手が体中に伸びる。軽く、体中を撫で回し、徐々に下へと降りていく。  
「ぁ……ぁぁ……っ」  
下腹部を撫でる水は、腰のくびれ、太腿を撫で回す。  
もちろん、胸も同時に弄られていた。絶妙な感触に、全身に鳥肌が立ち、鼓動が早くなる。青かった顔は、いつの間にか朱を帯び始めていた。  
 
「ん……ぅ……?」  
ふと、殷氏の頭に疑問がよぎる。  
全身を愛撫する水の触手は、なぜか彼女の大切な部分には触れようとしないのだ。  
『どうした?弄って欲しいのか?』  
「そ、そんなことは!」  
叫んで、二人の視線に気づき、顔を真っ赤にして俯いた。  
そんな中、霊獣王の愛撫は激しさを増していった。乳房のふくらみを押さえつけ、乳頭を軽く押しつぶし、全身を覆う水はあらゆる場所を刺激した。臍の窪みを穿り、滑らかな背中を撫で回し、敏感な脇への愛撫も忘れない。  
「んふ……ぅ…はぁ……」  
だが、これは殷氏に耐えられぬほどの刺激ではない。秘所を弄られぬもどかしさを微かに感じながらも、小さな呻きをあげるだけで留めていた。  
『どうした、もう耐えられないか?』  
「そんなこと、ありません」  
『そうか、なら、少し本気でやってみるか』  
言った瞬間、胸に奇妙な、それでいて強烈な感覚が走った。  
乳房を弄る水が、乳首を激しく弄った。触手は細い糸と化し、乳管を押し広げ乳房の奥へと侵入してきた。鋭い感覚が全身を駆け抜け、体中の筋肉が痙攣する。  
それと同時に、水の触手が殷氏の秘所を擦りあげた。  
「ふぁぁっ、はぁぁぁっ!」  
胸の奥を犯される、熾烈な感覚。そんな責めは、今まで一度として受けたことがなかった。  
全身から汗が噴出し、視界が白黒する。  
「っか、かはっ、はぅっ、っあ!」  
一瞬の筋肉の硬直から、一気に体が弛緩する。がくがくと体を揺らし、口をパクパクさせていた。  
そして、股間に生暖かい感触。水の触手に濡れることのなかった衣に、仄かな染みが広がっていく。全身の弛緩は、尿道の筋肉さえ例外ではない。  
「はぁうっ、くぁ!はぁ、ぁぁ……」  
一時的に責めが止む。殷氏は自らの股間に広がる感触に、燃えんばかりに顔を紅くした。激しい羞恥が彼女を襲う。  
――あぁ、私、なんてことを……まさか、失禁なんて!  
暖かな小水が、太腿を伝っていく。それがなおさら、殷氏の心に惨めさをに拍車をかける。  
火の様に赤い彼女の頬を、涙が伝う。  
 
「母上!」  
「殷氏!」  
李靖と?咤の声が、彼女の耳に届く。恐る恐る目だけを向けると、心配そうに叫ぶ二人の姿があった。  
彼女は首を振り、気を持ち直そうとする。二人は気づいていない。何もないフリを続けなければ。  
が、そう思う彼女をよそに、霊獣王の熾烈な愛撫が始まる。  
「ひゃぅん!ひは…はぅぁっ!」  
乳房の中へ、水が流れ込んでくる。殷氏の胸は衣の中で、痛々しいほどに膨れ上がる。  
『ずいぶん辛そうだな、女』  
「そん…な、んぁ、こと、ぁ…」  
『さて、そんな状態で、胸に溜まった物を一気に出されたらどうなるかな?』  
「――っ!!」  
彼女の顔が引きつる。  
水がうねり、触手が胸の双丘に螺旋に巻きつく。下腹部の水も蠢き、襞をこすり、肉芽に取りつく。  
胸の触手に力がこもる。  
――ダメ!夫が、ナタクが見てる!  
彼女が耐えられたのは、一瞬だった。  
「――くひぃぃぃっ!」  
搾り出すように、胸の付け根から力が加わる。乳首がぷっくりと膨らみ、次の瞬間、透明の液体が吹き出す。  
それと同時に、新たな責めが加わる。秘所の肉芽を弄る水から、新たな糸が伸びる。それは迷うことなく、殷氏の尿道を溯った。  
「ひぁっ、はぅぁ、ひぁうぁぁっ!」  
体がびくびくと痙攣し、手足の先まで突っ張る。送り込まれた粘液質の液体は、すぐに吸い取られるように吹き出す。  
擬似搾乳と、擬似搾尿。強烈な感覚が殷氏の体を駆け巡る。  
だが、今までに感じたことのない快感である。彼女の体は、それを快感と認識しきることは出来なかった。  
がくがくと痺れる彼女の体は、絶頂へとは達しない。  
「ひぁっ、ぁっ、くぁっ、ぁっ」  
全身の感覚が吹き飛び、口からよだれを垂れ流しながら、涙を溢れさせる。  
「母上!貴様、母上に何を!」  
「だ、だい、んはっ、じょうぶです……ナタク、おと、んぅ、なしく…」  
無理やり笑みを浮かべる。  
二人の表情は不安で支配されている。とてつもない苦痛を与えられている、そう思っているのだろう。まさか、快感によがっているとは思うまい。  
なんとしても、隠し通さなければならない。夫への操のため、そして何より、無垢な?咤に母の不様な姿は見せられない。  
 
「霊獣王、もうやめてくれ!罪なら私が負う!だから、殷氏を!」  
『李靖、お前は引っ込んでいろ。それに、俺は女に苦痛を与えているわけではないぞ』  
「れ…れいじゅう…おうさま!?」  
殷氏が顔を上げる。  
――まさか、私の痴態を話すつもりでは!?  
『まあ、何をされているかは想像に任せるがな』  
見せ付けるように、殷氏の衣の中で水の触手が蠢く。柔らかな愛撫に、昂ぶった彼女の口から甘いと息が漏れる。  
「な……まさか、殷氏!?」  
はっとして、殷氏は李靖の顔を見た。  
気づかれた。耳の先まで、真っ赤に染まる。  
「き、貴様ァ!」  
李靖は怒りのこもった目で霊獣王をにらんだ。  
『ふん、罪を被るといったのはこの女だ。それとも、俺には向かって関所ごと滅ぼされるか?』  
「……くっ!」  
李靖は奥歯を噛み締めて、それ以上は何も言えなかった。  
霊獣王は鼻で笑い、再び愛撫を開始する。  
「ふぁぁ、はぁ、んくぅ」  
――あぁ、見ないで、あなた。こんな、こんな私を……  
羞恥に怯えながら、それでも体は反応した。  
「母上!」  
ナタクの声が耳に入り、はっとした。  
――だめ、ダメよ、殷氏。ナタクには、あの子には、気づかれてはダメ。  
湧き起こり始めた快感を、必死に堪える。  
「なた、く…心配、んく、いらないわ。私なら、ふっ、大丈夫」  
『ふふふ、あの餓鬼、母親を弄ばれて、どこまで耐えられるかな』  
はっとする殷氏。  
霊獣王の意図はわかっていた。ナタクの前で母親を嬲りものにして、怒らせるつもりなのだ。怒りに任せてナタクが逆らえば、それは殺す口実になる。  
耐えなければ。ナタクを守るためにも。  
 
『そろそろ、あっちの方に挿れてやろうか』  
「――っ!!」  
いずれそうなることはわかっていたが、やはり、実際に言われて恐怖が芽生える。行為自体よりも、それに対して自分が耐えられるかどうかが。  
殷氏は、恐る恐る顔を上げる。視線の先で、李靖は顔を伏せ、ナタクは心配そうに(無表情だが、彼女にはそう思える)母を見ている。  
ぬるり、と全身の水が蠢く。獰猛な形を帯びる触手が、彼女の秘所にあてがわれる。  
歯を食いしばり、訪れる挿入感に耐えた。  
「――ぅぅ、くっひいぃぃっ!」  
襞を絡ませながら、水の杭が子宮へ向かって進入する。  
「ひくっ、くふぅん、ひぁぁっ!?」  
僅かな間を置き、もう一本の触手が菊門をこじ開ける。  
ふた穴を犯す挿入感、奇妙な触手の冷たさ、二つの触手が肉壁を隔て擦れあう圧迫感。  
同時に、体中の水の触手があらゆる性感帯を犯す。乳房を絞り、乳首を弾き、臍を穿り、脇をする。  
「ひっ、くぁ、はぅんっ、くぅん!」  
膣と直腸に交互にピストン運動を繰り返され、殷氏の思考が快楽に支配される。  
――はぁぁ!だ、だめ!流されては、ダメ!  
「あっ、ふぁ、ひくっ、んぁっ……ぁぁあんっ!」  
理性の欠片を集めて、必死に耐えようとする。だが、火のついたような快感に、絶頂へと駆け上っていった。  
挿入されていた触手が、同時に穴の出口ギリギリまで引き出される。  
「ふぁぁんっ!」  
意思に反し、膣が収縮し、括約筋が窄まって、二本の水の杭を放すまいと咥え込む。  
締め付けるふた穴へと、触手が雪崩れ込んだ。  
堰を切ったように、殷氏の中で快感が弾けた。  
「ぁ、ぁ、ぁぁあん、ひく、くぅ、ぃぃぃくぅぅん!」  
必死に歯を食いしばったが、唇から快感の悲鳴が漏れる。  
体中をがくがくと痙攣させて、絶頂へと達した。涙を流し、引き締めた唇から唾液が糸を引き、首筋を伝う。  
「はぅ……ふ…ふぅ、はぁ、はぁ……」  
――あぁ、ナタク、こんな母を、嫌いにならないで。  
快感の余韻に浸りながら、自分に目を向けるナタクを見た。気づいているのか、いないのか。無表情な顔からは、彼の考えを読み取ることは出来ない。  
気づかないでいて欲しい。不様な母の姿など。  
 
「もうやめてくれ!霊獣王!」  
妻が弄ばれるのに耐えられないのか、李靖が叫んだ。  
「だ、だい…じょうぶです、あなた。私は…だいじょうぶ…だから」  
肩で息をしながら、切れ切れに言う殷氏。  
「…違う。オレが死ねばいい」  
ガシャッ、とナタクが額当て投げ捨てた。  
その言葉に、それまで彼女の中に滞在していた快楽の火が、一瞬にして吹き消される。  
「母上……この肉体お返しします」  
呆然と、ナタクの言う言葉が理解できない殷氏の前で、彼は自らの顔に右腕を当てた。  
そして――乾坤圏が、親子の絆を断ち切った。  
 

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