「公主、大事ないか?」  
 太公望がそっと差し伸べた手に、細い指が置かれる。  
「……久しい外の空気に、あてられただけじゃ」  
 ふっと微笑んだ頬に、赤みが差す。赤雲、そして碧雲に支えられ、  
立ち上がる。ふわり、と柔らかな黒髪が揺れた。  
「……はよう、先へ」  
「……」  
 表情を変えず、太公望は公主を見つめる。開きかけた唇が何かを言おう  
として、でも言葉にならずに歪む。  
「私は……大事無い」  
 ごく自然に、公主は空いた手で太公望の頬を包む。  
「無理は、するな」  
 太公望は公主の柔らかな髪を撫でながら、少し微笑んだ。そして、すと視線を天化に向け、  
行くぞ、と静かに言った。  
 
「師叔、……おかしいさ」  
 太公望に肩車をしながら、足場を跳ねる天化が呟いた。  
「な、何がだ?」  
「あの仙人さんには、変に優しいさ」  
「気のせいでは……ないのか?」  
「いや」  
 きっぱりと言い放った天化の上から、うぐぐ、と言葉に詰まった呻き声がする。  
「……やはり……か」  
 そっとため息をつき、囁いた。  
 
 
封神計画など何も知らなかった頃、太公望は崑崙で瞑想をする毎日だった。  
 修行など、どうでもいい。  
 胸の奥から湧き上がってくる憎悪を、昇華出来ない苛立ち。生き残ってしまった、悲しみ。  
 その日、白鶴の目を盗み、隠れ場所としていた鳳凰山に向かった。  
 鳳凰山には唯一、水の満つ宮がある。そのほとりにある岩場に座り、仙桃の小枝にくくった  
糸を垂らすのだ。勿論、針はない。  
 長く、瀟洒な鰭を持つ鯉の、鱗が時折、きら、きらと光を放つ。水面は揺れず、鏡か氷と思  
わせる。動く魚を閉じ込めたような宮で、太公望は、ひとつ大きな欠伸をする。  
 
 ちりん、と鈴が鳴った。  
「たれぞ、そこに?」  
 
 声を聞き、はっと太公望が顔を上げると、小枝の糸が揺れていた。  
 水鏡に波紋が広がり、鱗の煌きの中に、女が降り立った。裳に結わえられた鈴が、鳴ってい  
るのだ。腿まで浸かってしまっている。  
「そなたは、元始天尊さまの……」  
 太公望は慌てて小枝を下に置き、そして膝を折って頭を下げた。  
「太公望と申します。竜吉公主さまの住まう鳳凰山と知りながら、このような非礼、お許しく  
ださい……」  
「良い、頭をあげよ」  
 ゆっくりと太公望が公主を見上げると、裳をするり、と脱ぎ捨て、水面に浮かべた。その瞬間、  
白の裳は水に同化する。   
「……そなた、逃げ出したか?」  
 
 太公望は、目を見開いた。  
 白い肌。細すぎる身体だが、女のその曲線は保ったまま。静謐な瞳だが、悪戯っぽく微笑む桜色  
の唇は、幼さを感じさせる。  
 
「ふふ、……修行を逃れ、私の沐浴を覗きにきたか?」   
「……まさか」  
 くるりと太公望に背を向け、指で水を手繰る。  
 水は織られた布のように公主の指に絡み、その肢体に絡みつく。黒髪がふわりと舞うと、太公望  
の目の前に揺らぐ。  
 横目で見据えられ、その場を立ち去ろうとした瞬間、小枝を蹴り、水の中へぽちゃん、と落とし  
てしまった。しまった、と太公望が屈んで水底を覗くと、底はなかった。  
 奥で、きら、きら、と鱗の煌きが見える。  
「……す、すまぬ、あなた様の宮を汚してしまった」  
「ならば、取りにゆかぬか」  
 くすくす、と笑うと、太公望の腕を引いた。  
「やめ、うわあっ?!」  
 太公望は素直に、派手な水音を立てて落ちた。  
 銀の泡の幕の向こうに、鯉がいた。沈んでいるのか、浮いているのか分からない。  
 ふと、心がざわめいた。  
 
 ぽこ、とひとつ空気を吐いたその瞬間、公主の腕が伸びる。はっと気づいた瞬間、太公望の唇が  
桜色の唇で塞がれた。慌てて逃れようと水をかき、押し退けようとするのだが、水が、それを拒む。  
そして、たゆたうようにと、促しているように思えた。  
 太公望の頬に添えられた手が、不意に懐かしさを呼び起こす。思い出さぬと決めながら、それで  
も消えない過去に縛られる。優しい香りと、焼け爛れた匂い。  
 消したくない、消えてしまえばいいのに……。  
 
 そんなことを思いながら、太公望がゆっくりと公主を抱こうとした瞬間だった。公主はさっと身  
を翻して煌きの中へ消えてしまった。しまった、と思っても遅い。  
 思わず水を吸い込んでしまうと、がぼぅっ、と泡を立てて息が逃げてしまった。暴れながら水面  
を目指していると、下から圧力がかかる。  
 水が、蠢いている。  
「ぷわぅはあっ!」  
 豪快な水音と共に太公望が現れると、その傍の岸に公主が立っていた。いつの間にか、いつも身  
に纏っている衣の姿で。  
 耳まで真っ赤にして咳き込む太公望を見、眉を動かさずに言い放った。  
「思い上がるな」  
 咳をやめ、顔を上げた。水に浮かびながら、太公望は公主を見据える。  
 
「……なら、わしをからかったのですか?」  
「修行から逃れたのを、咎められたとでも思えば良い」  
「何を仰るか。戯言にしては面白くもない」  
 長い睫毛の奥で、冷ややかな瞳が太公望を捉える。  
「……何が言いたい」  
 よいしょ、と岸に手をついて水から上がると、公主が瞼を伏せる。それと同時に、太公望の身体を  
水がしゅるしゅると生き物のように伸び、大きな玉となって水面に落ちた。  
 もう太公望の身体は乾いている。  
 
「あなたさ……おぬしは、卑怯だ」  
 道衣をととのえながら、公主を睨んだ。  
「わしの心を覗いておいて、己は逃げるのか?」  
「私は……、覗いてなどおらぬ」  
 声に、気迫が見えない。  
「見えなかったと? 何も、……何も?」  
 公主は、何も言わなかった。  
 すまぬ、と太公望は呟き、その場を去った。だが、「逃げた」というのに等しかった。  
 
 何故、わしは苛立っているのだ?  
 
 当然のごとく白鶴に見つかり、元始天尊から有難くもないお説教を延々と聞かされた。だが、そっと  
特製耳栓をして聞く振りをした。まあ、それもいつものこと。  
 
 公主は、たばかった……のか?  
 冷たい視線、くすくすと微笑む顔。あどけない唇……。触れた感覚を、少し覚えている。  
   
 公主の宝貝、霧露乾坤網があの宮にはあった。  
 裳に代わり、そして溶け、そして太公望の身体からしゅるりと落ちた、それ。宝貝に飲み込まれた瞬  
間、公主に飲み込まれたも同然。  
 すべてを見ることは不可能だろう。だが、感じ取ることは出来るはず。心の奥に刻まれた、その傷。  
 
 あやつは、泣いてはいないだろうか?  
 
 崑崙にも、夜は訪れる。闇夜は雲に覆われ、時折、切れ間から満つ月が覗く。  
 月光で、灯りは必要なかった。太公望はその光を頼りに、浄室に向かった。何故向かうのか、何か言  
いたい訳でもない。なじりたいのでもない。ただ一つ、気にかかることがあったから。  
 天空に浮く足場を飛び、雲を渡し、そこを目指した。  
 だんだんと霧が立ち込め、道が薄い絹に遮られているように見える。仙人界では珍しい、青草を踏み  
しめ歩いていると、ふと緑が途切れた。  
 
 浄室の周りは宮の水が取り囲み、立ち入ることが出来ない。  
「さて、困ったものじゃな……」  
 岸にしゃがみこんだ太公望が、誰に聞かせる訳でもなく、呟いた。始めから、知っていたのに。手袋を  
とり、水に触れる。針で刺したような、冷たさ。その周囲に波紋が広がり、消えた。飛び込めば浮くこと  
も難しい。  
 もうやめよう。まさか、竜吉公主ともあろう者が……。  
 水から手を引いた刹那、それは止まった。  
 
「……?」  
 
 指先の水粒を落とすと、波紋は出来ず、水面で弾けた。太公望はそっと足を出し、水鏡を踏む。波紋も  
出来ず、水の上に立ててしまった。  
「公主……」  
 ゆっくり、ゆっくりと歩みだす。  
 
 自分の声が聞こえると、心はざわめいた。喉が乾いて、苦しさが増していく。  
 落ち着け、と閉じた瞼の裏側には、頬に涙を伝わせる公主が見えた。  
 
 身を翻して、とはいかないものの、ようやく土塀を飛び越えると、開けた庭に出た。月明かりが差す縁  
側を通り、灯りもない廊下を歩いた。ところどころに作られた、格子からの月明かりが助けになった。  
 時折靴音がする。おそらく衛兵か給仕だろう。見つかった時の弁解が面倒だと考えた太公望は、足音を  
立てぬようにし、柱に身を潜めてやり過ごした。  
 
 長い廊下を歩いていると、部屋があった。扉のないその部屋の中を太公望が覗き込むと、そこは誰かの  
寝室のようだった。窓際に寝台が置かれ、天蓋から薄い布が垂れている。月明かりで、人影が映っていた。  
 影が、振り向いたようだ。  
「……誰?」  
 凛とした、でも小さな声だった。太公望は寝台に近づいて、  
 
「眠れぬのか?」  
と囁くと、小さく叫んだ人影は、すぐに薄布を捲った。目の前に、小さく座っている竜吉公主がいた。  
 
「……どうして……?」  
「ん? なに、月夜の散歩じゃ。今宵は満つ月ゆえ、心惑わされたかな?」  
「下らぬ……」  
 ふい、と顔をそらし、窓の格子を指で撫でた。そしてかりかりと爪で掻き始める。その様子が、可愛らし  
かった。太公望は口元をほころばせると、公主の頬にかかる髪を手で梳く。  
 と、途端にううん、と唸って逃げる。  
 もう一度、公主の傍に座りなおして頭を撫でる。また逃れる。  
 
「……お前に、惑わされたかな」  
 
 手袋を取り、頬を撫でる。公主は逃げずに、太公望をまっすぐに見つめた。唇が、何かを言おうと震えだ  
している。  
「何だ?」  
 公主の瞳が、潤んだ。  
 
「……許して」  
 
 そう、吐き出すように呟いた。  
「あまりにも、恐ろしかった。私は、見る気などなかった。だけど、私の中に、全てが流れ込んできて、私  
の中に入ってきて、全てを……乗っ取られたようで……」  
「もういい」  
「すまぬ、私は……」  
 言葉をさえぎるように、太公望は公主を抱いた。肩が、小さく震えているのが分かった。  
「……人が、死んでいて、火の手が上がっていて……」  
「それはわしの記憶だ。おぬしには関係ない」  
 震えは収まらない。公主の背をさすり、大丈夫だ、と耳元に囁いた。  
「おぬしには、分からぬままでよいのだ。 人の死を、見ずともよいのだ……」  
「……何故?」  
「うん?……おぬしは、血に濡れなくともよい。血に塗れるな」  
 
 不意に、公主が太公望の胸を押した。  
「私は、清いままで、いろと……?」  
 睫毛に月光の粒を纏わらせ、目尻から一筋、涙が落ちた。  
「何も、知らぬままで、いられるのか?」  
 太公望の胸に爪を立て、ぎゅう、と道衣を握った。その手を、振り払うことをしなかった。その代わり、  
頬の涙を手で払い、顔を引き寄せた。唇が触れるか、触れないかの距離。公主は目を伏せた。  
「……わしは、もう血に濡れたもの。そなたとは違うのだ」  
「ち、違わぬ……」  
 
 そう公主が言った瞬間、その唇に己の唇を這わせた。刹那、逃れようと身を引いたが、ゆっくりと力を抜  
いていく。太公望の舌に舌を絡ませ、身を寄せていった。  
 だが、太公望がそれを制し、唇を離した。  
 
「無理をするな」  
 子供をあやすように頭を撫で、微笑んだ。  
「おぬし、震えておるぞ。 辛いのであろ?」  
「辛くなど、あるものか」  
 また、公主の瞳から涙が零れた。太公望がそれを拭おうと、そっと右手を差し出す。  
 が、その手を打ち払い、公主は太公望の襟首を掴んだ。  
 
「お前こそ、卑怯だ」  
「……公主?」  
「何故、私の心を砕いておいて、汚そうとはしない? 私は、死も血も知らぬままでいるのが正しいのか?  
 私は綺麗なままでいるためにいるのか? ……私だけ違うのか?」  
   
 震えた指先が、太公望の頬に触れる。  
 
「私は、お前のそばにいてはいけないのか?」  
   
「私は……、人として生きた、お前が……羨ましい」  
「……そんなものかのう」  
 太公望は重いため息をつき、公主の首筋に唇を這わせた。公主がぴくりと身を震わせた瞬間、荒々しく襟  
元を掴み、力任せに剥いだ。白い肌が、乳房がそこに晒される。  
「人は浅ましく、脆く、愚かだ」  
 そっと乳房に触れる。公主は目をつぶり、仰け反った。  
「……父上も、母上も、すべて火の中に消えた」  
 乳房の、その硬くなっている先端に触れる度、ぴく、ぴくと公主の長い睫毛が痙攣を始める。  
「……んっ、う……」  
 太公望は空いた左手で、己の股にある膨張しきった「そこ」に公主の右手をあてがう。はっと目を見開い  
た公主の頬が、上気していくのが見えた。公主が逃れようとするが、乳房を弄ばれると黒髪を揺らして呻き  
始めた。  
 
「わしは、汚い人間じゃ。……それでもよいのか?」  
 そう言い、太公望が手を緩める。急に罪悪感が湧き上がってきたのだ。  
……わしは、間違ってはいないか?  
 
 刹那。  
 柔らかな胸に包まれ、黒髪が頬をくすぐった。  
 温かい肌。そして、耳に響いてくる公主の、大きな鼓動。  
 
「……望」  
 ぽつり、と公主はそう囁いた。  
 
 そっと、公主の腰紐を解く。するりと衣がめくれ、全てが晒される。  
「望……、望……!」  
 太公望の首にしがみつき、名を繰り返す。言葉にならないこころが、溢れて零れていくように。  
「公主……」  
 はあ、と漏れるお互いの吐息が、熱を持ち始めていた。  
 開いた衣に手を差し入れ、腿をさすり、柔らかな尻を撫でていく。  
 内腿をさすると、ぴちゃ、と液体に触れた。太公望の指がそれを上に向かいなぞると、そこは、太公望の  
それよりも熱を放ち、蜜を垂らしていた。  
 
「いやあぁぁっ」  
 首筋の手が、爪を立てる。  
「だぁ……めぇぇっ、はあぁん!」  
 太公望は何も言わず、その蜜を指に含ませて肉を擦り、膨れ始めているその小さな芽をそっと揉んでやる。  
「うあああぁんっ!……やぁあ……、あっ……ううっ」  
 ずるずると崩れ落ちていく公主に、追い討ちをかけるように乳房の先端を捻りあげる。がくがくと身体を  
揺すり、悶えだした。  
「公主……痛いぞ」  
 そっと中指を当て、中へと進入させていく。  
「いいっ!……んんっ」  
 ぎゅうと縮こまった入り口は、中指一本すら狭すぎる。緊張をほぐしてやろうとするのだが、そう簡単に  
受け入れようとはしない。太公望を拒むように。  
   
「望……、ううっ……、望!」  
 太公望が手を引こうとした瞬間、公主はそう叫び、首にしがみついた。  
「はうっ……、やめる……な……」  
 身体が、震えている。  
 太公望は空いた片腕で公主の髪を梳き、大事ない、と囁いた。首筋に唇を這わせると、少し汗ばん  
でいた。不意に公主が顔を横に振った。ふと身体を離してやると、公主は震える指で太公望の道衣を  
引く。  
「何じゃ……わしも脱げ、と?」  
 ふっと微笑み、止め紐を緩めると、ばさりと床に投げ捨てた。  
「……あまり、格好のいいものでないがのう」  
 肋骨が少し、月明かりで浮き出ている。首筋は細く、かろうじて喉仏が影を見せる。公主は頬を紅く  
しながら、そっと太公望の胸に顔を寄せる。大きい鼓動が、はっきりと感触として分かる。手を添え、  
頬を擦りつけた。  
 太公望が肩を抱くと、さっきより、震えがなかった。そっと額に唇をよせると、公主が顔をあげ、  
微笑んだ。  
 顎をもたげ、口づけをする。  
 お互いが望むように、お互いが求めるように。  
   
 公主を寝台に寝かせると、そっと秘部を指でなぞる。  
「ああっ……、んんっ、あっあ……」  
「……痛いことないぞ。……公主」  
 ひたり、とその頭を濡れた肉に押しつける。みちゃ、と音をさせながら肉を割っていく。  
「ううっ!あああっ!」  
 部屋に響く、公主の叫び。  
「いやあっ……! ううっんっ……」  
 
 やめるか、と太公望が言おうとした瞬間、声がした。  
 
 
 
「公主さま?」  
 
 
 
 
 
 

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