「僕だって本当は、あなたにこんな事したくないんだ」  
 カリカリ、と万里起雲煙の弦がないた。大気が唸り、矢を形成していく。  
「でも、あなたが正直になれるように、お灸をすえてあげるのも愛情、って  
もんだろ?」  
「劉環……」  
 蝉玉はそう吐き、右手の五光石を握り締めた。  
「ハッ」  
 無数の矢が放たれるが、突き刺さる一瞬まで引き付け、跳んでかわす。  
「この勘違いヤロー!!」  
 怒りの力を五光石に込め、劉環に向かって投げつける。  
 劉環は笑っていた。冷静にそれを捉え、弦を引き、矢を放つ。無数の矢は  
対消滅し、むなしく蝉玉の手に五光石は舞い戻る。  
「……んっ」  
 宝貝に力を吸われ、ふっと気を散らせた瞬間。  
 そこに、二の矢が迫っていた。  
 
……かわせない!  
「きゃあっ!」  
 矢は足元の岩盤を穿つ。風圧で身体が浮き上がり、砕けた岩たちはその下  
に満ちた溶岩に呑まれる。  
 反射的に残っていた足場に手をかけ、辛うじて落下を防いだ。だが……。  
「……ああ」  
 ず、ず、と指が滑り落ちてゆく。  
「五光石……のせいなの……?」  
 
 ぐい、と何かが引く。  
「劉環……」  
 にこり、と劉環は微笑み、右手一本で蝉玉を引き上げる。宙吊りのままでも、  
蝉玉は鋭い眼で劉環を見る。  
「放しなさいよ、劉環!!」  
「……僕は、あんまり無理やりって好きじゃないんだけど」  
 空いていた左腕で、蝉玉の腰を抱き、唇を首に這わせる。嫌、と抵抗するも  
のの、力なくしなだれるだけだった。時折、びく、びく、と痙攣を見せる。  
「こうなること……、分かってたよね?」  
 
 劉環は蝉玉を抱えたまま、抉れた穴から少し離れる。  
「やめて……、放してよ……」  
 熱にうなされているように懇願するが、劉環は微笑んだまま。  
「……髪を、下ろしたほうが好きだな」  
 両側の髪留めを外すと、ふわり、と緩み、蝉玉の頬にかかる。その髪を梳き  
ながら、劉環は口付けをする。逃れようとする蝉玉の舌を絡みとり、頬の裏側  
をなぞり、唇を吸い、甘噛みする。  
 右手は鎖骨からの、その柔らかな曲線をなぞり、弄ぶ。その動きに合わせて  
蝉玉の伏せられた睫毛が反応しだすのだ。  
 
「どうしたの?……声を出してもいいんだよ」  
 腹に手を当て、ぐいと服を捲りあげ、乳房を弄びはじめる。  
「うっ……ん……」  
 蝉玉は奥歯をかみ締め、頬を上気させて堪えている。その様子が、劉環には  
あまりにも扇情的に感ぜられる。下半身の猛りは、もう抑制などきかない。乳  
房に顔を寄せ、吸い付く。  
「はあっ!……んあっ、あっ……いっ!!」  
 硬くなっている先端を舌で転がし、歯を立てる。吸い付く音が、耳に届く程。  
 
「……仲間が、見てる」  
 乳房を撫ぜていた右手は、そのまま脇を滑り、腰にあった布を捲りあげていた。  
「くっ、……あんた、最てぃあんんっ」  
 そしてその奥、湿り気を帯びた中心に手を伸ばしていた。  
「ああ、……濡れてるよ」  
「うるさっ……、ちがぁんっ、あっ……いやぁっ!」  
 手の平で尻を撫ぜながら、中指で腿の付け根の線をなぞり、滴るその中心を擦  
るたび、蝉玉の身体が跳ねる。ぴちゃ、くちゅ、と粘つく音と共に。  
「おねがっ……やめっ……、うあっ!あっ、あっ、はっ」  
「どうして?こんなに悦んでいるのに?」  
 脇から指を侵入させる。  
「ああああっ!」  
 指の腹で肉壁を擦り、首筋に口をつける。指が動くたび滴る雫が、床に滲みを  
つくる。自然と、蝉玉の足が開いている。  
「僕の指が、そんなに好きかい?……ああ、その顔、とても可愛いよ」  
 指を咥えさせながら、そっと蝉玉の腰を支えたまま劉環は床に座り、胸に抱く。  
そして尻を上に突き出させた。  
 
 丁度、隙間にはさまってしまった太公望と、その隙間から覗く天化に「それ」  
を見せるように。  
 二人は声を発せず、そして「それ」から、眼をそらせずにいた。  
 その様子を、劉環は眼を細めて笑った。  
「蝉玉さん、やつらが、あなたを見ているよ。……いやらしい眼で」  
 そう耳元で囁くと、中心を覆っていた薄布を膝まで下ろした。蝉玉が喚こうと  
息を呑んだ瞬間、肉の窪みに隠れていた尖りに触れる。  
「ふぁああんっ、あっ、んんっ、……っ、……ぁっ」  
「もう、ダメかい?」  
 抵抗は、そこまでだった。腰をしならせ、指と快楽を喰らうことだけしか、蝉玉  
には出来なかった。  
 息を呑み、小刻みに震えた。指を咥えたそこだけは、痙攣を続けていた。  
 
「師叔、……どうすりゃいいさ……」  
 天化が、喉に絡ませながら声を発した。  
「事が終わるまで待て」  
「なっ、何でさ?!」  
 太公望は、静かだった。  
「他に方法があるのか?……堪えろ、天化よ」  
 歯の軋む音が、太公望の背後から聞こえた。  
   
 溶岩で揺らぐその姿態から、天化は目を逸らせずにいた。  
 体液でてらてらと光り、指を咥えている肉唇。時折波が来た様に震える白い尻。  
ぞくぞくと上り詰めてくる、揺らぎ。  
 敵に対する攻撃性、ではない、何かが天化を侵食していた。  
 
 劉環は鎌首をもたげる、己が欲望を外に晒した。丁度、蝉玉の鼻先に。  
「ううっ……、やあ……」  
 そう言いながら、もぞもぞと後退しようとする蝉玉の尻を抱え、劉環はまた、滴  
る腫れた肉を捻りあげる。  
「あううっ、あん!」  
「……逃げるなら、『あいつ』が奴らを焼いちゃうよ……」  
「んんんんっ!」  
「仕方ないなぁ」  
 ため息をつき、劉環は両腕で蝉玉の腿を抱え、膝に座らせる。  
「い……、あぁ……」  
 受け入れることを拒否しようと膝で立とうとするが、腿は震えて身体を支えきれ  
ないでいた。剥き出しになった乳房を劉環がなぶると、嫌がることもせず、嬌声を  
あげるだけしか、蝉玉には出来なかった。  
「自分で、入れるんだよ」  
 尻を揉み、その後ろの穴を擦り始める。その度に上ずった声を漏らしながら、そっ  
と肉棒にあてがう。先端が、ぴちゃ、と吸い付いてくる。  
「うう……。こんなの……」入らない、と言おうとした瞬間、先が蝉玉の肉を割った  
が、痛みはなかった。それからは、簡単だった。  
 
「はぁぁ……、んっああっ……」  
 奥まで貫かれると、蝉玉は劉環にしがみつき、乳房を擦り付けていた。  
「いいっ……、ああん、はっ、んん……ぁはん」  
 自然と身体を揺らし、劉環の唇に唇を重ねた。劉環も蝉玉の乳房を揉み上げ、肉を  
咥えている下の口をなぞり、硬くなっている隆起を撫でる。  
「うあああっ、んんんんっ……ぁ……、は……、はぁん」  
「……うっ、……く」  
 汗が、飛び散る。  
「んぅっ、ぁはっ、あん……ぁ……ぅ……」  
 閉じられていた蝉玉の瞼がぴくぴくと動き、身体がもう一度、痙攣した。劉環もま  
た、蝉玉を抱えたまま動きを止めた。  
 繋がったままのその下に、ぽたり、ぽたり、と白濁の溜まりがあった。  
 
「師叔っ!もう許せねぇさ!」  
 莫邪の宝剣を振り下ろすが、轟音を立てただけだった。壁の欠片すら舞おうとはし  
ない。口の奥で悪態をつく。  
「……退け、天化よ」  
 鋭く静かな声が言った。  
 天化が振り向く間も無く、水が太公望、天化を飲み込み、壁を破壊した。濁流となっ  
て溶岩に流れ込むと、急激に加熱されたために水蒸気で部屋は満たされる。  
 蝉玉は必死に逃げなければ、と身体をよじるが、劉環が腰を抱いたまま、離そうと  
はしない。劉環は、囁くように言った。  
「……ゆけ、火鴉壺」  
 もこ、と溶岩が盛り上がると、天井まで伸びるような火柱を上げ、ゆっくりと水平  
にそれは広がってゆく。水平に伸びた溶岩は翼となり、大きく羽ばたくと、熱風が衝  
撃波となって全てを押しやった。  
 
 劉環は蝉玉の腰を掴むと、ゆっくりと持ち上げる。ごぷ、と音がすると白濁の溜ま  
りが大きくなった。蝉玉はとても自力で立つことが出来ず、その場にへたり込んでし  
まった。劉環はす、と服を正すと、蝉玉に口付けた。  
「そこで待っていて。邪魔者はすぐに片付けるよ」  
 そう言って、柔らかく笑った。  
 
 霧が晴れると、宝貝である『火鴉壺』に向かい合っているのは、長い髪をした、女  
だった。辺りには、彼女を守るように水の塊が漂っている。  
「……水は、火を諫める。そなたに勝機はない」  
 そう言うと、水は糸のように幾重にも伸び、火鴉壺を捕らえる。水蒸気をあげ、溶  
岩の鳥が鈍い石色へと変わっていく。  
「……竜吉、公主……!」  
 劉環の表情が歪み、万里起雲煙をもつ手が震える。  
「あいつだけでも……!」  
 つがえた弓の先を、奥にある、巨大な砂時計に向ける。  
 
「甘いさ!」  
 ふっ、と風が凪いだ。  
 甲高い音を立て、万里起雲煙が弾き飛ばされる。飛び出してきた天化の後ろに、割  
れた砂時計が見えた。劉環は小さく舌打ちをし、後ろへ飛ぶ。宝剣の閃光が胸すれす  
れを水平に走った。  
 そのまま後ろへ駆け、弓を取ろうとした。だが水の矢の方が早く、手足を深く穿っ  
た。呻く間も無かった。  
 天化が踏み出す。劉環は床に倒れようとしていた。  
「終わりさ!」  
 
 振り向いた劉環の瞳に、天化が……閃光が……、映っていた。  
 
「劉環!」  
 蝉玉の声が、辺りに溶けた。  
……だが、その声は届くべき人に届かず、閃光に呑まれた。ぼんやりと魂の残光を見つ  
めている。  
 あれは、夢……?  
 はっとしたように頭を振った。  
「……大丈夫、ハニー?!」  
   
 

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