ぼんやりと湯気がたつ熱い酒は、寒い夜には心地よかった。
誰が傍に居るわけでもなく、ただ涼しいからだを暖める。
…失ったものがあまりにも多すぎた…。
武成王。普賢…
数え切れない仲間が犠牲になっていった。
それはまるで己の体から血が流れたような出来事で、
体を冷やす原因もそれではないかと思えてくる。
「…わしもまだまだ…青いのう」
目元を熱い雫が伝った。軍師は弱みを見せれない。
それを拭えば急に疲れがのしかかってきたような気がして、椅子から立ち上がり寝台へと向かう。
その時だった。
とん、とん。
控えめなノック。
こんな夜遅くに訊ねてくるのは珍しい。もう作戦も何もまとまったはずだった。
「…太公望…?起きてる…?」
扉の向こうに居るであろう人物の声は意外にも女性であり、
それが、さらに蝉玉であるということは…頭のどこも想像はしていなかった。