欠陥宝貝回収のため、仙術を封じて人界で旅をしている和穂と、  
護衛役の殷雷は、とある宿場町を訪れた。  
どうやらこの街のどこかに、いくつもの宝貝があるらしいのだ。  
「でも、索具輪の調子が悪いのかしら?  
正確な位置が分からないんだけど?」  
首を傾げながら、和穂は言った。  
「はーん、索具輪の操作すら覚束なくなったか?和穂元仙人」  
嫌味を言いつつ、殷雷は自分で、和穂から受け取った  
他の宝貝の位置を探ることのできる索具輪を扱ってみた。  
 
和穂の言った事は、本当だった。  
より遠隔の微弱な宝貝の反応は、それなりに分かるので、  
索具輪の不調ではないようだ。  
それなのに、この街のどこかにあると思われる宝貝の、  
詳細な位置が掴めない。  
「こいつは、隠蔽(いんぺい)系の宝貝のせいかも知れんな」  
「それって、気配消しの符みたいなもの?」  
 
思わず漏れた独り言に、和穂が質問を投げかけてきた。  
「うむ、似ているが、それとは少し違う。  
敵から、完全に隠れる訳ではないが、正確な位置や情報は渡さない  
といった機能を持つものかも知れん」  
「それって、ずいぶんと中途半端な能力だと思うんだけど」  
「そうでもない。完全な隠蔽は、自由を大きく制限する。  
自由度を保ち、掴まれる情報を減らすための実験宝貝かもしれん」  
言いながら、殷雷はこの宝貝をぜひとも手に入れたいと思っていた。  
自分に何かあった場合、この手の宝貝を持っていれば、  
和穂の安全を図る事が、格段に容易になるだろう。  
 
「殷雷は、封印の中でそうゆう宝貝の事と知り合ったの?」  
「何を馬鹿な事を。閉じ込められていたとは言え、  
膨大な数の宝貝が、広大な空間の中に居たんだぞ?  
自分から、動いたり喋ったりしない奴も多かった。  
封印の中で、各々が友達になろうとしていた訳じゃないんだ」  
 
和穂の無邪気な問いかけに、殷雷は答えた。  
彼の推測は、欠陥宝貝の製作者である龍華仙人が作った  
逃亡宝貝の一覧表に拠っていた。  
思い返せば、それらしい宝貝はいくつかあったが、  
その中のどれなのか、とは確定できなかった。  
隠蔽系の宝貝は、その性格上、  
どうしても回収が後回りになりがちだった。  
 
どうにも、遣り難い相手だった。  
完全に気配を消せる相手なら、何度か探査を繰り返せば足を出す。  
相手が、「居る」ことが判ったなら、手の打ちようもある。  
だが、今度の相手は、存在することは判っている。  
だいたい、どの辺りにあるかも判断が付く。  
だが、目の前にある品々のうち、どれが宝貝かとゆう事が判らない。  
誰かの所有物であるうちは、断縁獄への格納にも、抵抗するだろう。  
 
「とりあえず、宿屋を決めよう。それから、聞き込みだ」  
思案をやめて、手早く行動方針を決め、殷雷は歩き始めた。  
置いていかれないように、和穂はあわてて後を追った。  
聞き込みの後、いささかあっけなく、宝貝の所持者が判明した。  
強欲そうなこの街の顔役が、得体の知れぬ道具を手に入れた事を、  
誰彼なしに吹聴していたのだ。  
 
「とゆう訳で、さっさと宝貝を返してもらおうか?  
嫌なら嫌で構わないが、その場合は、  
ちょっとばかり痛い目をみてもらう事になる」  
真鋼の棍を相手の鼻先に突き付け、殷雷は言った。  
和穂は、慌てた様子で殷雷を押し止めようとしているが、  
彼の姿勢は微動だにしなかった。  
 
宝貝の所持者は、ふてぶてしく落ち着いたまま、鼻先で笑った。  
「ほほぅ、仙人の和穂が己の仙術を封じて、宝貝の回収に  
当たっている、とゆうのは、本当だったのだな。  
見れば、なかなかかわいい娘(こ)じゃないか。  
おっと、乱暴はやめてもらおうか。  
条件さえ聞いてくれれば、宝貝とやらは、返してやらんでもない」  
 
殷雷も、相手と同じような笑みを浮かべて言った。  
「はっ、返してやらんでもない、ときたか。  
自分が拾った物でも、他人の物ならきちんと返すって礼儀は、  
守った方が身のためってもんだぜ」  
所持者の落ち着きは、相変わらずだった。  
 
「ならば、俺を叩きのめして宝貝を奪うかね?  
なんなら、殺してでも?  
でも、所有者でないお前たちに、宝貝の在り処が判るかな?  
探し出すのは、ちょっとばかり骨なはずだぜ」  
「ちっ。こいつは、自分の持っている宝貝の能力を知ってやがる」  
殷雷は心の中で、舌打ちをした。そして、表情を変えずに聞いた。  
「はん。一応、条件とやらを聞いておいてやろうか」  
 
「和穂を一晩、俺の自由にさせろ」  
 
その瞬間、殷雷の髪の毛が、湧き上がるように立ち上がった。  
純粋な殺気を放ちながら、一歩前に踏み出した。  
殷雷が本気で怒ったことを察した和穂が、必死の思いで殷雷を  
押し止めようとする。  
 
「明日の夕方まで待ってやる。  
受け入れるなら、明日の夕方、和穂だけでここへ来い。  
話は終わりだ」  
 
***  
 
宿に戻った殷雷は、断縁獄から回収済みの宝貝を取り出しては、  
使えるかどうか検討していた。  
索具輪で高精度の探査ができないかも、試している。  
 
「わからん、奴が持っている筈の宝貝が分からん!」  
殷雷は、頭を抱えていた。  
彼の周りには、断縁獄から取り出した、回収済みの宝貝が、  
置き並べられていた。  
しかしそれらは、大半は破壊されたがらくたであり、  
原型を留める物も、用を満たすに至らなかった。  
己自身も、その中に属する事を自覚しつつ、殷雷は毒づいた。  
「欠陥宝貝共め!」  
常に冷静な状況判断を是とする筈の彼だが、  
今はあせりの色が濃く、苛立つ素振りさえ見せていた。  
 
「くそっ、導果の野郎なら、この状況を打破したかもしれんのに」  
確かに導果筆なら、こんな話でも馬鹿笑いできる与太話に  
変え得たかもしれない。だが、導果はまだ回収できていなかった。  
この人界のどこかで、今頃誰かを、道化に仕立てていることだろう。  
殷雷は、自分がコケにされてでも、和穂を傷つけることなく、  
今の状況を打破できるなら、それでいいと、心底思っていた。  
歯軋りし、髪をかきむしりながら、殷雷は苦悩していた。  
 
一方、早いうちに断縁獄から呼び出され、早々に「使えない奴」  
との烙印を押された流麗絡は、和穂から詳細な事情を聞いていた。  
彼女は、一緒に使えない奴呼ばわりされていた綜現台を、  
一足先に断縁獄に戻し、殷雷を呼んだ。  
 
「何だ!俺は忙しい!」  
「落ち着いて、話を聞きなさいよ。  
和穂が奴の言うことを聞いてもいいってよ」  
「なんだとぉっ!」  
 
和穂は、うなだれて肩を落とし、小さくなっていた。  
大声を出してしまった殷雷は、弱々しげなその姿に、たじろいだ。  
むりやり、声の調子を落とし、殷雷は聞きなおした。  
「聞いてもいいって、奴が何を要求してるのか判っているのか?」  
「そりゃ、判ってるわよ。それがどんな事かは知らなくてもね」  
うなだれている和穂の代わりに、流麗が答えた。  
「大体、今度の件は、あんたの失敗よ。  
失敗の張本人が、おたおたするんじゃないわよ」  
流麗の決め付けに、殷雷は苛立った。  
「何故だ!何故、そんなことが言えるっ!」  
 
「充分な情報収集を怠り、一気に所持者の所に突っ込んだじゃない。  
即断即決もいいけど、足元固める手間を惜しんだのは、あんただわ。  
相手が、街の顔役だって事がわかった時点ででも、  
もっと人となりを、押さえとくべきだったわね」  
流麗は仙界で、龍華の補佐を勤めた事もある宝貝だ。  
咄嗟の状況判断では、武器の宝貝に後れを取るとしても、  
大局眼については、殷雷にも劣らぬ能力があった。  
 
唇を噛んでうなだれた殷雷を尻目に、流麗は断縁獄から、  
恵潤刀を呼び出して、何事かを頼むと、  
殷雷がちらかした宝貝の残骸を、片付け始めた。  
ショックを受けていた殷雷が、何か喋ることが出来るぐらいには  
回復した頃、流麗は掃除をあらかた終え、更に断縁獄から  
呼び出した帰書文と静嵐刀に、何事かを言いつけている所だった。  
 
「待て、お前ら、何をしている?」  
「役に立たない包丁宝貝の後始末よ」  
何やら、一仕事終えた風情の恵潤が、殷雷に答えた。  
「和穂は覚悟を決めている。でも、男女の営みは知らない。  
だいたい、初めてが宝貝のカタだなんて、悲しすぎるわ」  
「…」  
「だから、教えてあげるの。あなたが。何も知らない和穂に。  
そのために、この部屋には結界を張ったわ。仲居も入ってこない。  
この部屋の存在は、人の意識には、登らないようにしたの。  
中の音も漏れない、外の音も入らない」  
「そして、ヤリ逃げされないように、帰書文に証文を書かせとく。  
静嵐は、帰書文の護衛役よ」  
恵潤に継いで、流麗が説明した。  
 
和穂に向き直った流麗は、言った。  
「いい?終わったら、私と恵潤を呼ぶのよ?しっかりね?」  
和穂は、黙ったまま、こくん と頷いた。  
帰書文と静嵐刀が、宝貝の所有者の下へ出かけたあと、  
流麗と恵潤は、自分で断縁獄に戻っていった。  
「分かってる?どんなに辛く感じてるか知らないけど、  
一番辛いのは、和穂なんだからね」  
恵潤は、断縁獄に戻る寸前、殷雷にきつく言った。  
 
二人っきりになってしまった部屋の中で、  
和穂と殷雷は、言葉も無く固まっていた。  
「… すまん。俺が不甲斐ないばかりに …」  
「あの、殷雷、私、何をすれば…」  
和穂の方に、静かに歩み寄りながら、殷雷は答えた。  
「何もしなくてもいい。じっとしていろ」  
殷雷は、椅子に腰掛けたままの和穂を、静かに抱き上げた。  
和穂の顔が、自分のそれと、思いもよらぬほど近づいた事に気付き、  
一瞬、躊躇した後に、そっと唇を合わせた。  
和穂は、黙って接吻を受け入れた。  
 
殷雷は、和穂を寝台の上に座らせた。  
和穂は、目を閉じ、両手を胸の前で結んでいた。  
「服を取るぞ」  
殷雷が言うと、和穂は黙って小さく頷いた。  
和穂の手をとって、両脇に伸ばさせる。  
和穂は、抗おうとはしなかったが、  
妙に力が入ったギクシャクした動きになってしまった。  
道服の紐を解き、大きくはだけさせて和穂の身体から取り去る。  
 
和穂の呼吸が、早く、浅くなった。  
肌着も取り去り、和穂の肌が露わになった。  
和穂は、さすがに恥ずかしいのか、両腕を胸に回し、  
うつむき加減にそらした顔は、しっかりと目を閉じていた。  
白い肌は、上気してほんのりと桜色に染まっている。  
殷雷は、和穂の上体をゆっくりと寝かせた。  
和穂は、これから行われる事の予感に怯えて、  
両手で顔を覆った。  
 
小ぶりながら形の良い乳房が、ふるふると揺れている。  
その先端の薄桃色の乳首を、魅せられたように見つめていた殷雷は、  
そこに、そっと、自分の唇を重ねた。  
「・・・」  
両手に隠された和穂の口が、声にならないくぐもった悲鳴をあげた。  
殷雷は、もう片方の乳房を手のひらで包み込むように愛撫した。  
 
和穂の呼吸が、すっかり喘ぎに近いものになった。  
殷雷は、顔を覆う両手を外させた。  
微かに泪を滲ませた両目を、うすく開いた和穂は、  
少し顔を背けて、接吻しようと寄せてくる殷雷の顔を拒んだ。  
「どうした?」  
「私だけ裸でいるのは、恥ずかしいです」  
不審そうに尋ねる殷雷に、少し拗ねたような声で和穂が答える。  
 
手早く自分の衣類を脱ぎ去った殷雷は、  
和穂に寄り添うように、横になった。  
和穂は、少しはにかんだ表情を見せ、そのまま二人は唇を合わせた。  
「和穂、なんなら、このまま …」  
「その先は、言わないで下さい」  
 
和穂が、誤魔化すような言辞を受け入れる性格ではない事を、  
思い起こし、殷雷は素直に謝った。  
「悪かった。正直に言おう。俺は和穂の事が好きだ。  
だから、お前があんな奴に弄ばれるのを、認める訳にはいかんのだ。  
だから、行くな。行かないでくれ」  
 
和穂は、殷雷の言葉を聞き、涙ぐんでいた。  
「ありがとう。その言葉だけでも嬉しい。でも、私は、  
一日でも早く、一つでも多くの宝貝を回収しなきゃならないの。  
私も殷雷の事が好き。今度の事も、殷雷の所為だなんて思ってない。  
自分が悪かったことぐらい、分かってるの。  
だけど、だからこそ、何を犠牲にしてでも、宝貝を取り戻さないと。  
だから…」  
 
ここまで一気に喋った和穂は、一度息をついだ。  
堪えきれなくなった涙が、顔をつたうがままに言葉を続けた。  
「だから、今この時だけは、一緒に居て。  
そして、明日の朝、戻ってきた私を許してくれるなら、  
また、私と共に、旅を続けてください」  
和穂は、堪えきれなくなって、嗚咽を漏らした。  
 
それからしばらく、殷雷は、泣きじゃくる和穂の顔を  
自分の胸に埋めさせて、抱きかかえていた。  
ひとしきり泣いた後、落ち着きを取り戻した和穂が、詫びた。  
「あ、ごめんなさい。あの、続けてください」  
殷雷は、和穂の泪の跡を拭いてやった後、  
再び彼女と接吻を交わし、胸などを手と口を使って責めた。  
和穂の感情が、再び高まってきた様子を見取ると、  
殷雷は、身に付けたままだった、和穂の道服の袴に手を伸ばした。  
 
覚悟を決めたかのように、和穂は、微動だにしなかった。  
袴に続き、腰布も取り去ると、和穂の身体を覆うものは無くなった。  
これまで和穂の事を、小娘だ子供だとからかっていた殷雷だったが、  
小ぶりながら形良くふくらんだ胸や、柔らかくくびれた腰、  
白く肌理細やかな肌は、既に和穂が女になっていたことを、  
強く意識させた。  
 
殷雷は、再び和穂の口を自分の唇で塞ぎ、  
彼女の髪と同じ艶やかに黒い産毛で覆われた場所に、手を這わせた。  
怯えるように身体を一震いさせ、無意識に両足を閉じようとしたが、  
殷雷の指は巧みに隙間を突き、彼女の足の間を、這うように進んだ。  
そこは、外見の成熟とは裏腹に、未だ潤ってはいなかった。  
殷雷は、しばらく指先を使って刺激を与えていたが、  
そこは、一向に潤う気配は無かった。  
 
和穂の耳元に、殷雷は口を寄せた。  
殷雷の唇と舌を受け入れる事で、はしたなくあえぎ声を上げる事に  
耐えていた和穂は、いやいやをするように首を振った。  
そんな彼女に、殷雷は足を開くよう、囁き掛けた。  
それを聞いた和穂は、一瞬驚いたように目を見開き、そして、  
再度恥ずかしさに耐えるように目を閉じ、おずおずと足を開いた。  
殷雷は、和穂の開いた両足の間に、自分の身体を置き、  
足を閉じられないようにした。  
そして、顔の位置を、和穂の身体に沿って下にずらせて行った。  
 
喉元から、再び乳房に唇を這わせた。  
やがて、腹の上、臍に至り、そのまま艶やかな産毛の上を通り、  
彼女の中心に行き着いた。  
「だめっ、そこはだめ」  
あわてて叫びながら、足を閉じようとする和穂だったが、  
殷雷は無視して、彼女の入り口に舌を這わせた。  
快感に翻弄されている和穂は、あえぎ声を押し留める事が  
出来なくなりつつあった。  
閉じようとしていた足から、力が抜けていった事を察した殷雷は、  
和穂の中に、舌を割りいれた。  
 
「うくくっ!」  
身体を痙攣させるようにした和穂に、殷雷は声を掛けた。  
「痛かったか?大丈夫か?」  
「う、うん。すこし痛かった。もう、大丈夫、だと思う。たぶん」  
気弱そうにしながらも、健気な声で和穂が応えた。  
殷雷は、自分の舌に、充分唾液を分泌するよう心掛けて、  
再び、和穂の入り口に舌をあてがった。  
 
今度は、先ほどより用心深く舌を動かす。  
彼女の中に差し入れた舌先を、前後に探るように動かしていたら、  
彼女の突起を探り当てる事が出来た。  
殷雷は、そこを重点的に刺激した。  
「あんっ!だめ、そこはだめっ!」  
言葉は拒否しても、その声にはどこか媚びる様な甘さが滲んでいた。  
殷雷は、腕を伸ばして和穂の身体を愛撫しつつ、  
彼女の入り口を、自分の唾液で充分に濡らそうとしていた。  
 
もう、あえぎ声をとめる事が出来なくなっていた和穂が、  
押し寄せる快感に耐えかねて、殷雷に行為の続きをねだった。  
「おねがい、もう、我慢できないの。来て。おねがい」  
殷雷の見たところ、和穂のそこは、  
未だ充分に潤っているとは、思えなかった。  
だが、目に涙を浮かべて求めてくる和穂を、  
これ以上責めるような真似も、彼には出来なかった。  
 
殷雷は、和穂に自分自身をあてがうと、  
なるべくゆっくりと、彼女の中に進入していった。  
未だ固いそこに、殷雷を受け入れたために、  
鋭い痛みが走ったのか、和穂が悲鳴を上げた。  
大丈夫かと問う殷雷に、大丈夫だと和穂は応えた。  
殷雷は時間をかけて、和穂の中を押し進んでいった。  
破瓜の徴が、彼らの腰の下に染みを作っていた。  
 
奥まで繋がったところで、しばらく動きを止めてから、  
和穂にそのことを伝えた。  
彼女は、痛みに耐えて涙ぐんだまま、儚げな笑顔を浮かべた。  
「私たち、つながったんだね、殷雷。好きだよ。大好きだよ」  
殷雷の背中に腕を回し、しがみ付くようにして、抱きついた。  
やがて、どちらからともなく、腰を動かし始めた。  
 
初めのうちは、おずおずとした動きだった。  
だが、動くうちに、和穂の中から染み出してきた蜜が、  
動きをスムーズにする手助けをした。  
だんだんと大胆さを増しつつ、彼らの動きは激しくなっていった。  
初めての行為の緊張がほどけていった頃、  
和穂は、快感と興奮の中で、意識を失った。  
 
しばらくして、意識を取り戻した和穂は、殷雷の手を借りながら、  
身体を拭き清め、予め用意してあった肌着と道衣を身に付けた。  
そして、先刻の言いつけ通りに、  
流麗と恵潤を、断縁獄から呼び出した。  
 
流麗と恵潤は、殷雷には目もくれずに、和穂のところに向かった。  
言葉すくなに彼女の状態を確かめ、手分けして和穂に化粧を始めた。  
「な、何をしているんだ!?」  
殷雷のたじろぐように問いかけに、恵潤が答えた。  
「見て判らないの?化粧よ」  
「何で化粧なんか!」  
駄々をこねるように文句を言う殷雷に、恵潤がつかつかと近づいた。  
 
「どこまでボケてるの?  
宝貝の所有者に媚を売って、確実に宝貝を回収するためよ。  
何か文句でもあるの?」  
「だ、だが…」  
食い下がろうとした殷雷だが、最後まで話す事は出来なかった。  
恵潤は、いきなり殷雷の頬を平手でぶった。  
 
もし、この時恵潤が、必殺の一撃を繰り出してきたのなら、  
殷雷は易々と、それをかわすことが出来ただろう。  
だが、うっすらと瞳に涙をにじませる恵潤が、  
乾いた怒りだけで放つ平手をかわす術を、殷雷は持っていなかった。  
「だがも、ヘチマも無いの!  
これは、惚れた男の為の装いじゃない。  
女としての戦装束(いくさしょうぞく)なの。  
黙って見ていられないなら、部屋の外にでも出ててちょうだい!」  
 
それだけ言うと、恵潤は、  
黙々と作業を続ける流麗のそばに戻っていった。  
流麗と恵潤が、何かする度に、和穂は美しくなっていった。  
だが、その有様は、いままで共に旅を続けてきた、  
今肌を合わせたばかりの和穂を、  
別人に変容させているように見えた。  
その情景に、耐え切れないものを感じていた殷雷は、  
とうとう部屋を出る事にした。  
有体に言って、この場から逃げ出そうとしたのだった。  
 
部屋を隔てる襖の前に立った殷雷は、  
その襖がいきなり開かれた事に驚いた。  
襖の外には、髪も着衣も乱れた、静嵐が立っていた。  
「どうしたんだ!静嵐!」  
思わず発した殷雷の声に、和穂も、流麗も恵潤も、彼らの方を見た。  
一瞬の静寂が流れた。  
静嵐は、いきなり号泣しながら部屋に駆け込み、そのまま断縁獄に  
飛び込むようにして戻ってしまった。  
あっけにとられた殷雷たちの前に、今度は、帰書文が現れた。  
 
「はい、これ、宝貝を回収してきました」  
「な、なんだってー!」  
思わずハモって驚く殷雷たちに、帰書文が事情を説明した。  
 
「所持者のところに出向いた途端、静嵐の顔を見るなり、  
そいつが、『うほっ、いい宝貝』とか言って…」  
「うほ?」  
「身の危険を感じた僕は、とっさに証文に姿を変えたんです。  
でも、静嵐はそいつに捕まってしまって…」  
こころなしか、帰書文の顔は蒼ざめていた。  
「そのまま、静嵐は服を毟り取られて…  
話には聞いたことがあったけど、男同士でもできるんですね…」  
 
あえて、「何が」できたのかを聞く者はいなかった。  
ともかく、ついさっきまで、激しい「何か」が行われていたようだ。  
「そいつは充分に満足したみたいで、宝貝も持って帰っていいって。  
和穂も、来なくていいそうです。  
一応、宝貝の気配は残ってなかったけど、  
念のために、索具輪でも確かめておいてください。  
僕も、断縁獄に戻っていいですか?何だか、気持ち悪くて…」  
 
帰書文も断縁獄に戻し、殷雷は回収できた宝貝の検分を、  
和穂は、索具輪で残った宝貝の確認を始めた。  
回収できた宝貝は、残念ながらと言うべきか、案の定と言うべきか、  
使い物になりそうな物は無かった。  
宝貝とはいえ、早い話が、欠陥品なのだった。  
只、幸いなことに、この街には、もう他に宝貝は無いようだった。  
 
せっせと、化粧道具を片付けている、流麗に気付いた殷雷は叫んだ。  
「流麗!和穂を元通りにしてから戻ってくれ!」  
流麗と恵潤は、妙にねちっこい話し方で和穂に語りかけた。  
「ねぇ和穂。せっかく綺麗にお化粧したのに、殷雷が嫌だってぇ」  
「殷雷が、綺麗になった和穂は、きらいなんだって。勝手よねぇ」  
「すいません。私からもお願いします。お化粧を落として下さい」  
目に見えて、ほっとした様子の和穂自身の言葉を受けて、  
しぶしぶと言った風情で、流麗と恵潤は化粧を落とした。  
 
断縁獄に戻る寸前、恵潤は殷雷に言った。  
「夕方になったら、結界は自動消滅するから、  
あんまり大きい声で、和穂とヤっちゃだめよ」  
「馬鹿野郎!何ほざいてやがる!」  
真っ赤な顔で悪態をつく殷雷に向かって、和穂から見えない位置で、  
思いっきり「いーっ」とゆう表情を作った恵潤は、  
一陣の風を残して、断縁獄に消えた。  
 

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