姉さん、事件です。  
 大変なことが起こってしまいました。  
 それというのも・・・・・・。  
 
「どうした?」  
 ホテルのロビーで、従業員二人が頭を悩ませているところに出くわしたのが、そもそもの始まりでした。  
「いえ・・**号室のお客様から苦情が出てるそうで・・・・」  
「苦情?」  
「はい・・それに、お隣のお客様からも・・・・」  
「一体、どうしたっていうんだ」  
 僕が聞いても、二人は頭を抱えるだけでした。  
「よし、俺が見てこよう」  
 どのようなお客様にも、やはり不満を与えるわけにはいきません。そこで僕は、従業員から聞いた部屋へと向かったのですが、そこで・・・・・・  
 
「い、いえ、お客様、そう言われましても・・・・」  
 **号室のお客様は、まだ二十代も中盤の、それは美しい人でした。スーツ姿で、口には煙草を銜えて、恐らく会社では立場も上の方にいる、それが一目で分かりました。  
「・・ったく」  
 部屋の中に通された僕は、彼女の姿に見とれていたのですが、その彼女からとんでもないことを言われたのです。  
「・・あのねぇ、私は、やらしー番組を見てただけなのよ。それだけだってのに、何で隣の部屋から文句を言われないといけないのよ」  
「いえ、ですから・・・・」  
 厳しい目で僕を見る彼女は、とても苛立っていて、こういうお客様にはまず冷静になってもらうことだと、そう思いました。  
 
「・・やはり、親子で旅行しているのですから、そういったことは・・・・」  
 そう言うと、彼女は煙草の煙を盛大に吐き出しました。  
「あのねー。ここは、私が借りた部屋なの。私がどう使おうと勝手でしょ」  
「いえ、そういうわけには・・・・」  
 言葉を濁す僕に、彼女の厳しい目が向けられます。  
「常識は弁えてるわよ。何も部屋のものを片っ端から盗もうとか、そういうことを言ってんじゃないの。私は、ただ、オナニーするためにテレビをつけた、それだけなの」  
 彼女ははっきりと言いました。姉さん、大変です。  
「い、いえ、お客様、お客様、落ち着いてください」  
「落ち着いてるわよ。焦ってるのはそっちでしょ」  
 ふん、と鼻を鳴らした彼女は、まるで僕をからかうように煙草の煙を吐き出しました。  
 姉さんもご存知のとおり、僕はこういう展開に非常に弱いのです。どうすればいいか、それを考えるだけで精一杯でした。  
 その時です、彼女が煙草を灰皿に押し付け、僕の正面に立ちました。  
「ねえ、なら、ホテルマンさんが相手してよ。もう溜まってて仕方ないの」  
 彼女はそう言うと、僕の胸にもたれかかってきたのです。ああ、姉さん、事件です。  
「お、お止めください、お客様・・・・!」  
「選択肢は二つ」  
 狼狽する僕の前に、指が二本立てられた彼女の手が表れます。  
「一つ、あんたはこのまま戻る、私は部屋でテレビをつけて、大音量でそれを聞きながらオナニーする」  
「・・・・もう一つは」  
 僕は喉を鳴らして唾を飲み込みました。  
「あんたが、私とセックスする。まあ、それなら少しぐらい声は抑えてもいいかな。その方が燃えるし」  
 ああ、姉さん、どうすればいいのでしょう。どうすればよかったのでしょうか。  
「さあ、どうする?」  
「・・・・・・・・・・」  
 ああ、姉さん、大変な事態になってしまいました。  
 

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