マックスファクターの秋のファンデーションのCMを元ネタに  
しています。  
 
 
「来週は君の誕生日だな。たまには外で美味いものをごちそう  
してやろう。ありがたく思え」  
「きゃーっ!ホントですか?何で誕生日だって知ってるんですか?」  
「これ見よがしに家中に雑誌をバラ撒いた挙げ句、『誕生日に  
カレと行きたいレストラン特集』だの『誕生日に彼女にあげたい  
プレゼント』だのの切り抜きが貼り付けてあれば嫌でも目につく。  
しかもそれが洗面所の鏡や風呂の蓋、私の枕にまで貼り付けて  
あったぞ。まったく、鏡に付いたテープの痕を消したのは誰だと  
思ってるんだ」  
「ごめんなさいまし〜〜。でも、でも、ぶちょおと過ごす初めての  
誕生日だから特別な思い出が欲しかったんです…」  
 
今まで怒っていた高野の顔がふっと微笑んだ。  
「何かリクエストはあるか?」  
「はい!あのですね、私、ここのフレンチが食べたいのでありんす」  
そばにあった雑誌を広げて渡し、某高級ホテル内にあるフレンチ  
レストランの記事を指差した。  
「100g1680円のチーズの味もわからん君が高級フレンチの味を  
理解できるとは思わんがまあいい。わかった」  
「いやっほーい!やったー!フレンチ♪フレンチ♪」  
 
前日の夜  
「○○ホテルを19時に予約しといたからな。遅刻するなよ」  
「ラッシャー板前!何着て行こうかな〜〜」  
いつもなら縁側でビールを飲みながらいろいろと話をするのに  
その日は部屋に籠ってあれこれと服を出しては鏡の前で  
一人ファッションショーをしていた。自室から窓越しにその様子を  
眺める高野の眼差しは限りなく優しかった。  
 
蛍は昨日までの会話を思い出してついつい顔がニヤついてしまう。  
しかし今の時間は19時過ぎ。  
身支度に時間をかけすぎた上に居眠りをしてしまい、ギリギリに  
なってしまった。  
慌ててタクシーに飛び乗ったものの、とても間に合いそうにない。  
電話をかけたら高野の怒号が聞こえてきそうな気がして  
短いメールを送ってバッグの奥底に携帯をしまいこんだ。  
着信音が聞こえる。背筋を冷たいものが走る。  
「お客さん、携帯鳴ってますよ」  
「い、いえ、いいんです。誰からかわかってますから」  
「こちらは気になさらなくていいですよ。ほら、まだ鳴ってますよ」  
「は、はい、それでは失礼して」  
恐る恐る携帯を取り出すとサブウィンドウに『着信 ぶちょお』と表示  
されている。覚悟を決めて出ようとした瞬間に切れた。  
ほっとするのと同時に焦りと不安が募る。  
 
窓から夜景を見上げると見慣れた筈の景色がいつも以上に美しく  
輝いている。  
『ぶちょお、怒ってるだろうな…せっかくレストランを予約して  
くれたのに…』  
 
ようやくホテル前に到着したものの、もう19時半近い。  
慌てて飛び出ようとするとぴしっと制服を着たドアマンが扉を  
開けてくれる。  
『やっぱりここはステキ女子みたいに優雅に降りないとだめよね。  
でもああ…怒られるぅ…』  
にっこりとドアマンに微笑んでタクシーを降り、ホテルへ入る。  
 
ロビーを見渡すと不機嫌オーラを発しまくった高野の視線が  
突き刺さる。読んでいた本をしまい、ゆっくり蛍に近づいて来る  
「貴様、昨夜私が何と言ったか覚えているか?」  
「すみません…身支度に時間がかかってしまいまして…」  
「まったく、いつもいつも言ってるだろう!前日までに用意できる  
ものは用意して、交通機関の状況も調べて15分前には目的地に  
着いてるようにとあれほど!」  
「許しておくんなまし〜〜〜!」  
「しかもあのメールはなんだ」  
胸ポケットから携帯を取り出して画面を突きつける。  
『ごめんなさいです。遅れるでありんす』  
「どう書いても怒られるなーって思ってどうせならーって」  
「何を考えてる!」  
高野の声が少し大きくなる。しょんぼりとした蛍の目にはうっすら  
涙が浮かんでいた。それに気付くと高野は少し驚いた。  
 
「…ちょっと言い過ぎた」  
「ごめんなさいぶちょお。あの、私ホントに嬉しくて前の晩はあまり  
眠れなくて、ちゃんと前の日には着て行く服も靴も決めて  
それで仕事が終わって着替えてメイクもし直して、髪も巻いたんです。  
その時はまだちょっと時間が余って5分だけ横になろうって思って  
気がついたら時間ギリギリでしかも髪がぐしゃぐしゃになってて、  
ちゃんと直さなきゃってそしたら…」  
「わかった。もういいから」  
「私、ぶちょおに今日は一番キレイな私を見てほしくて…」  
その後の言葉が詰まり、ぽろぽろと涙がこぼれた。  
 
蛍の涙に慌てた高野はハンカチを取り出し、蛍に手渡した。  
「悪かった。言い過ぎた。君がどれだけ楽しみにしてたかわかってた  
筈なんだが」  
「すみません。ハンカチ、ありがとうございました」  
涙を拭いた蛍からハンカチを受け取ると、蛍から視線を外しながら  
高野はこう言った。  
「今日は特別キレイだから許してやろう。さ、行くぞ」  
「今何て言いました?!」  
「許してやろう」  
「それじゃなくて〜〜」  
「さ、行くぞ?」  
「それでもなくて〜〜」  
「他に何か言ったか?」  
「今日は〜」  
「今日は?」  
「特別〜」  
「特別?」  
「その次!」  
「やだもん、言わないもん」  
「けち!減るもんじゃないでしょ!」  
「減るもん」  
「もーっ!いじわる!」  
「ほら、行くぞ。ただでさえ遅れたんだ。腹減ってるんじゃないのか?」  
「もー、お腹ペッコペコです!」  
くるりと踵を返すと高野はさっさと歩き出した。  
「待って下さいよぉ〜」  
蛍は高野の横に並ぶ。だが高野は蛍を肘で小突いた。  
「何するんですかぁ。もっとくっついて歩きたいです!」  
「何を言ってる。こういう時はな、男性が女性をエスコートするんだ。  
これは腕を組んでいいという合図だ」  
「ラッシャー板前!!」  
「こら!そんなにしがみつくな!歩けないだろう」  
「だって腕を組んでいいって」  
「もっとこう、そっと手を添える程度でいいんだ。スーツがシワだらけに  
なるだろうが」  
高野の腕から蛍をひっぱがす。少々不満そうだ。  
 
「言い忘れてたな。誕生日おめでとう。蛍」  
「ぶちょお…名前で呼んでくれた…」  
優しく微笑む高野に見つめられて蛍は真っ赤になった。  
「ありがとうございます…誠一…さん…」  
 
二人はエレベーターの中へ消えていった。  
 
end  
 
 
 
 
エピローグ 
 
 
エレベーターの中はガラス張りになっていて、上昇と共に眼下に  
広がる夜景に蛍は感嘆の声を上げた。  
「わあ〜、きれいですね!ね、ぶちょお!」  
「そうだな」  
早速呼び名がぶちょおに戻ってしまっているのはさておいて、  
蛍は先ほどから高野が夜景ではなく自分を見つめているのに  
気がついた。  
「どうしたんですか…?さっきからずっと見てる…」  
「ハナクソがついてないかどうか見てやっただけだ」  
「はあ?!」  
「君は一つのことに夢中になると他がすっ飛ぶからな。メイクやら  
服やらに気を取られてハナクソにまで気が回ってないだろうかと  
思ってな」  
「はああ?!そういうぶちょおこそ鼻毛が出てますよっ!」  
「な、何?!ちょっ、鏡貸せっ」  
「うっそぴょーん」  
「何だと?キサマぁ〜〜」  
高野は蛍の両頬をつねり上げた。  
「あにをふる〜〜〜〜!」  
その時、エレベーターの扉が開いた。  
「いらっしゃいま…?」  
出迎えた支配人と思しき年配の男性が目を丸くしている。  
「あ、いや何でもないです。予約した高野ですが」  
「お待ちしておりました。こちらへ」  
(何さ、気取っちゃって!あっかんべーっだ!おしりプーっだ!)  
「何やってる。早く来い!」  
「へーい」  
蛍はプリプリしながらレストランへ入って行った。  
 
end  
 

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