日の夕方、縁側に目を向けると、膝をかかえて座り込んでいる雨宮の背があっ  
た。  
「どうしたの。…寒くないの?」  
不意に声をかけられて驚いたのか、肩を震わせた雨宮は顔に手をもっていき、涙  
を拭うような仕草をしてから応えた。  
「べ、別に何でもないですよ。にゃんこたちと遊んでただけですっ。」  
隣に腰掛けたとたん  
「部長っ!喉渇きますよねっ!び、ビール飲みましょうよ。私とってきますね。  
」  
泣き顔を見られたくないからだろう、すぐさま立ち上がる。(まだ、引きずって  
るのか…)  
久しぶりの恋が、あっけなく終わってしまったのだ。  
自分を見舞いに来てくれた手嶋に、ジャージ姿を見られて。  
あれから、雨宮はたまにしかジャージを着ない。  
時々、じんましんが出るらしい。  
今日も下はスウェット、上はキレイ目のカットソーを着ている。  
まあ、昨日会社で着ていたまんまなのだが。  
(無理もないか…。)  
自分でさえ妻と別れることを皆に最近になって告げたと言うのに、雨宮は展示会  
パーティーで手嶋と別れたことを公表されたという。  
大勢に。  
それも、当の手嶋マコトから。  
考えながら、ガラス戸を閉め、居間のソファに座り込んだ。  
外は木枯らしが吹いていた。  
 
ビールを2缶手にした雨宮が、隣に座り込んだ。  
「はい、どうぞ。」うん、と片方のビールを受け取る瞬間、どきりとした。  
「…冷たい。」  
「そりゃそうですよ。今の今まで冷やしてたんですから。」  
「いや、そうじゃなくて…」  
自然と、自分の右手が雨宮の左手に、そっと触れる。  
「君の手が。」  
雨宮の頬にさっと赤味がさした。  
「!なっなっ☆*£□◇▲〜!」  
口をぱくぱく開いて、驚いている。  
これくらいで言葉になっていないところが可愛いらしい。  
…可愛らしい。  
そう、何気なく思ってしまった。  
実は、一緒に暮らし初めてから、そう何度も思っていた。  
一度も口に出したことはないけど。  
 
雨宮の右手に触れていた手をだんだんと上に滑らせていく。  
二の腕。肩。  
 
そして、思い切り抱き寄せた。  
 
「何時間あそこにいたんだ。こんなに身体冷やして。」  
 
腕の中の雨宮は、驚きを通りこして、黙りこんでいる。  
冷たかった身体が、急激に熱を帯びてきた。  
特に、胸元にある雨宮の顔は、恐らく茹で蛸のように真っ赤になっているに違い  
ない。  
「ぶ、部長。」  
「ん?」  
「あたし、罰が当たったんだと思います。」  
 
「…罰って?」  
背中の手のひらが、ぎゅっとシャツを掴む。  
「…マコトくんがいたのに。私、選べなかったんです。マコトくんのこと。」  
「…うん。」  
「この、安らぎを手放せなかったんです。」  
「…うん。」  
「…この家で…っ…部長とっ…す、過ごす時間がっ…」  
こちらを見上げるその眼に、涙が溢れていた。  
「手放せなかったっ…。…だから、罰があたっ…」  
涙を拭おうとした左手が、雨宮の右頬を撫で、そのままキスで彼女の口をふさい  
だ。  
 
 
久しぶりのキスは、涙と煙草の味がした――  
 
抵抗する気は不思議としなかった。  
唇をついばまれるようなキスから、段々と濃厚なキスへ。  
熱い舌に歯列をなぞられ、舌を甘噛みされる。  
(…気持ちいい。)  
思わず、思ってしまった。  
 
「…部長、キス上手いですね。」  
部長はふっと笑みを浮かべていた。  
「…それはどうも。」  
普通なら、こんなシチュエーションありえないのに。  
さっきまで心臓とまりそうにバクバクいってたのに。  
背中と腰にまわされた部長の手が心地よくて。  
何も考えたくない。  
――この手に、委ねてしまいたい。  
 
「部長、私のこと、好きなんですか?」  
「…言ったでしょ。惚れた女じゃないと、しないよって。」  
 
そう言って、再び唇が合わさる。  
 
「…んっ…はあっ…ひゃあっ?!」  
素肌に感じた熱に、思わず変な声が出てしまう。  
部長の手のひらが、カットソーの裾から直に背中に這っていた。  
「ちょっ…まっ…!」  
慌てて広い胸を押し返すと、じっと眼を覗きこむようにして部長は笑みを浮かべ  
て口を開いた。  
 
「…やめた方がいい?」  
「…そんな質問、反則ですよ。」  
拗ねるように答えると、部長はあたしの手をとって立ち上がった。  
 
 
手首を掴まれ、部長の部屋へ連れて行かれて、初めて結構長い間部長とキスして  
たんだと気付いた。  
――日が落ちて、部屋は既に真っ暗だった。  
 
ガチャリと部長の部屋のドアが開き、もつれるようにベッドへ倒れ込む。  
 
ピチャッ…クチュッ…  
 
キスから生まれる水音を聞きながら、自分の身体が熱くなっているのを蛍は感じ  
ていた。  
 
(暑い…私、興奮してるんだ…)  
 
キスしながら、部長の手が身体の線をなぞる。  
不意に部長は顔をあげて、こうのたまった。  
 
「君、また太った?」  
にやりとしながら言うその顔が憎たらしい。  
「…燃えるデショ?」  
私が答えると、まあね、と部長はまた私の口を塞いできた。  
服の上から身体をまさぐられるがもどかしくて少し身をよじると、すぐに素肌に  
部長の手を感じた。  
その手は、燃えるように熱かった。  
 
(…あ…部長も興奮してるんだ…)  
 
いつの間にかカットソーもスウェットも脱がされて、下着だけになっていた。  
 
部長の舌が耳たぶや首筋、鎖骨をなぞっていき、手は背中やわき腹を這う。  
肝心なところにはなかなか触れられないもどかしさで、爆発しそうだ。  
…それに、もう下着が濡れて気持ち悪い。  
 
触られてもいないのに、濡れているのを知られるのが恥ずかしい。  
 
「…部長…」  
「ん?」  
「…もう…」  
「我慢できない?」「なっ…」  
ズバリ言い当てられて、頭に血が上るくらい恥ずかしい。  
 
「もうっ!わかってるなら早く触ってくださいよ〜!」  
ぽかぽかと部長の背中を叩くと、あたたた、と部長は軽く悲鳴を上げた。  
「まったく、こっちは体力ないオジサンなんだから…前戯に時間かけないといけ  
ないの。」  
それくらいわかってよ、と部長はぶつぶつ言いながらやっと背中に手をまわし、  
下着の金具をすぐ外す。  
ハラリと肩紐が落ち、下着の間に手が差し込まれた。  
 
「あっ…やあっ…ふっ…んっ…」  
胸を舐められ、秘処を舌でなぶられ、あれから何度意識がとんだだろう。  
(もう無理…)  
と思ったとき、やっと部長が私の中に入ってきた。  
「はっ…あっ…はっ…」  
私を見下げる部長の顔は、酷くせつな気で、なぜか泣きたくなってしまった。  
「あっ…ふっ…んっ…やぁ…」  
いつの間にか涙が溢れてきて、眼を閉じると涙の筋が顔の横に滴り落ちていった  
。  
「あっ…やっ…ぶ…ちょっ…もっ…だめ…」  
「イキそう…?」  
 
…もう気持ちよすぎて、首を縦に振ることしかできない。  
 
それを見て、部長の動きが一層激しくなった。  
脚をぐっと抱えられ、激しく中を突かれる。  
思わず締め付けてしまって、そのせいで私の中の部長のものも、もう限界に近い  
こともわかる。  
(…あ…まぶたの裏がチカチカする…)  
 
最後に大きく二、三度突かれて、私の中の部長がビクビクと脈打った後、ぎゅっ  
と抱きしめられた。  
「…蛍…」  
 
耳元で名前を呼ばれるのを聞きながら、そこで私の意識は途切れてしまった。  
 
 
 

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