桜蘭高校ホスト部  

「ハルヒ。僕ら今日部活休むから」  
放課後の1−Aの教室でぐずぐずと鼻を鳴らしながら常陸院兄弟が言った。  
只今学校では風邪が大流行中である。  
ハルヒもこの間まで軽い風邪を引いていたが、すっかりなおっていた。  
双子も風邪をもらってしまったようでつらそうだ。  
「分かった。部に伝えとく。」  
ハルヒはそう答え、抱き合い支えながら帰っていく双子を見送った。  
ハルヒは図書室で勉強してから部活へ行くのが常なのだが、  
双子が休む事を伝えるために今日は勉強をやめて部活へ行く事にする。  
南校舎へ行き、最上階突き当たりの第三音楽室のホスト部の部室を開ける。  
「いらっしゃいませ」  
いつもの通りの声が聞こえてくる。しかしいつもよりも声が大分小さい。  
不思議に思い顔を上げると、そこにはいつものメンバーはそろっていなく、  
ホスト部のキングである須王環一人しかいなかった。  
環はぱっと顔を輝かせて、まるで尻尾を振った犬のようにハルヒに駆け寄ってきた。  
「ハルヒ!今日は早いな、俺に会いたくて早く来たのかにゃー?」  
「須王先輩…お一人ですか?」  
さりげなく後ずさりつつ、ハルヒはたずねる。  
「ああ、みんな風邪で休みだ。まったく日頃の鍛錬が足りないな、みんな。」  
「ハァ。鏡夜先輩とかも風邪引いたりするんですか。」  
環が答える。  
「そりゃ奴も人間だしバカじゃないから。」  
「ああ、だから先輩は風邪引いていないんですね。」  
ハルヒの悪気はないが冷たい一言に、環はわっと泣き出した。  
「そ、そんな、ひどいよハルヒ…お父さんに対してっ」  
「父は二人も要りません。ああほらお客さんですよ?接客しないと。」  
その言葉に環はすばやく身を翻し、背後に薔薇をばら撒きつつ満面の笑顔で客を迎えた。  
「いらっしゃいませ。」  

やはり学校中ではやっている風邪のためか、今日はお客の数は少なかったが、  
環とハルヒの二人で接客するには多かった。  
「ハルヒ君はもう風邪はよろしいの?」  
客の一人が気遣って聞いてくる。  
その思いやりをうれしく思いつつ、ハルヒは言った。  
「ハァ。もうすっかり。丈夫な性質なもので。お気遣いありがとうございます。」  
言葉を切ってから、客に向けてにこりと笑いかける。  
「それよりみなさんのほうこそ風邪に気をつけてくださいね。」  
客がハルヒのその笑みにほうっ見とれて黙り込む。  
ハルヒは客にお茶を淹れるため、席を立った。  
そのとき、少しはなれたところで別の客を相手している環が  
ティーカップを取り落としたのを目の端に止めて軽く驚いた。  
環は今まで普段ドジなことをしても、女性客相手に対してあまりそのような面を見せたりはしない。  
しかし環はすぐさまカップを拾い、切なげに眉を寄せてお客を口説きだした。  
「君のあまりの可憐さに思わず手が滑ってしまった…。  
ああ、君は僕をその美しく透明な羽根で誘う妖精……。」  
一瞬、環も風邪を引いたのかと心配したハルヒだが、心配するのも馬鹿らしくなり、  
新しく淹れた紅茶のポットをもってハルヒを待つ客のところへ戻った。  

客をなんとか二人だけで相手し、接客を終えたときには二人ともぐったりと疲れていた。  
「須王先輩、お茶でも淹れましょうか?」  
ソファで休んでいた環があわてて起き上がった。  
「イヤ、俺がやるから…。」  
言いかけ、足を床に踏み出した途端、物がぶつかる音とともに環は床に崩れ落ちた。  
ハルヒはあわてて環に駆け寄り、支えてソファに横にならせる。  
荒く息をついている環を見て嘆息し、自分が着ていた上着を脱いで環に掛ける。  
「調子が悪かったのなら言ってください。驚いたじゃないですか。」  
怒られて環はしゅんとして謝る。  
「じゃあ今保健室の先生連れてきますから待っていてください。」  
返事を待たずに踵を返した途端、ベストの裾をつかまれてハルヒは驚いた。  

「どうしたんですか?」  
聞くと環はベストの裾をつかんだまま、心細そうにハルヒをじっと見つめた。  
そんな様はまるで子供にしか見えず、かわいらしいと言えなくもない。  
「…もしかして一人になるのは寂しいんですか?」  
まさかと思いつつ聞くと環がほっとしたようにうなずいた。  
少しあきれつつ、部屋を見回して考えを変える。  
(そういえばさっきまでお客さんがいてにぎやかだったし…。)  
いつもならば客が帰ったあともホスト部メンバーがいてうるさかったため、  
考えたこともなかったが、二人だけ残された部室はどことなく物寂しい気がしないでもない。  
そして確かに病人を少しの間だけでも一人にしておくのは不安だ。  
(…とはいえ先輩は今歩けそうにないし…自分だけじゃ支えられないし…。)  
「じゃあ先輩が少しよくなるまでここにいますから」  
ハルヒはそう言って環の前にかかんでたずねる。  
「咽は痛かったりします?」  
「ああ…少し」  
どことなくつらそうに環が答える。  
(じゃあ風邪かな…熱はありそうだけど…)  
ハルヒは環の額に自分の額を合わせて熱を測ろうとした。  
しかしその途端今までぼうっとしていた環がものすごい勢いで起き上がった。  
「でっ」  
そのためにハルヒは環と思い切り額をぶつけてしまった。  

「な、なんでいきなり起き上がるんですかっ」  
きっとハルヒは環を叱るがそれよりも環の動揺のほうが激しかった。  
環もまたハルヒとぶつかって額が痛かったはずだが、  
そんなことなど眼中になく、顔を真っ赤に赤らめながらハルヒに泣きついた。  
「な、なんて恐ろしい子なんだ!年頃の女の子がそんなこと男に対してしちゃいけません!」  
「は?なにいってんですか。このくらいたいしたことじゃないでしょう。」  
環のリアクションにあきれつつ冷ややかに返すと、  
「そんな無防備な事やって襲われでもしたらどうするんだ!?」  
少々むきになって環が言う。  
「んなこと自分にする人いるわけないでしょう。」  
ため息をつきつつ返すと環の目が真剣さをました。  
「そんなことはない。じゃあ、この俺とかが…。」  
ハルヒはからかうように冷笑して答えた。  
「熱が出てるのに?」  
その言葉に環が息をかすかに荒げてハルヒの手首をつかむ。  
その手の熱さにハルヒは驚き、環の目を覗き込んだ。  
いつも環が客を口説く時には瞳にあまいきらめきを浮かべていたが、  
このときの環の瞳はハルヒの手首をつかんだ手より熱く、  
真剣な色でハルヒを見つめていた。  
ハルヒは呆然として環の瞳を覗き込んだまま硬直していた。  
ふと、環が手首をつかんでいた手を離してハルヒの頬を包む。  
環の顔が近づきハルヒの額にそっと口付ける。  
ハルヒは拒もうとせずにどこか人事のように環を見つめた。  
さらりとしたやわらかそうな髪に環の瞳が隠される。  
ゆるやかにハルヒの首筋に環は唇で触れた。  

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