桜蘭高校ホスト部  

ハルヒは今、環と二人きりで無人島の夜を過ごしていた。  
事の始まりは双子の『究極の選択(ホスト部編)』のせいなのだ。  
「部屋に飾るとしたら?A.ロダン像もビックリの肉体美、モリ先輩。  
 B.天使の微笑みで癒し効果抜群、ハニー先輩。さあ、どっち?」  
いつものように適当に答えていたハルヒだが、  
「もし無人島で一緒になるなら?A.殿 B.僕たち二人(双子)」  
には、力の限り  
「(うざいから)須王先輩以外なら誰でもかまわない。」  
と答え環に大ダメージを与えたのだ。  
更にやっと回復しかけた環が鏡夜にフォローを求めたのだが…  
「お母さんや!!!ハルヒが反抗期だよーーー。」  
「はいはい。年頃になるにつれて嫌われるのが父親というものだろう。」  
とトドメを指されてしまったのだ。  
「うわーん。おかーさんの馬鹿ー。  
 ハルヒ!今から無人島でワイルドでサバイバルなおとーさんを  
 見せてあげるから嫌いになんてならないでおくれ。さあ、行くぞ!」  
そのままハルヒを小脇にかかえ、呼び出したヘリで無人島へ来てしまったのだ。  

 

無人島に着くとヘリは二人を残し戻っていってしまった。  
呆然としていたハルヒは正気と取り戻し  
「須王先輩?これは一体…」  
「さぁおとーさんは魚を捕ってくるから期待してるんだぞ!」  
と袖まくりをして海へと向かってしまったのだ。  
一人残されたハルヒは(来てしまったものはしょーがない。  
どうせすぐ迎えのヘリが来るだろうし、薪でも集めておこう。)  
と考えていた。  

海から戻ったずぶ濡れの環は一匹も魚を持っていなっかった。  
それもそのはず、ここは無人島で道具もない=素手でとろうとしたのだ。  
大金持ちのお坊ちゃんである環は魚など捕まえた経験は皆無だった。  
「すまん、ハルヒ。魚、とれなかったよ…」  
「(期待してなかったし)いいですよ。そろそろ帰りませんか?」  
「残念だが仕方がないな。どれ、携帯で…うぎゃーーー!  
 ここは圏外だーーー。」  
そう。電波が届かないため迎えのヘリが呼べないのだ。  
こうして環とハルヒは無人島の一夜を共に過ごす事となった。  

 

いざ無人島で過ごそうと思うと環は無力だった。  
普段は全てばあやがしてくれているので、何をすれば良いのかわからないのだ。  
ハルヒはというと結構テキパキと動いていた。  
「須王先輩、この先に小さな洞窟を見つけました。移動しましょう。  
 あと毛布が一枚だけあったので太陽のあるうちに干しておきます。  
 木の実とか食べられそうですね。あとは火か…大変かな。」  

膝を抱えて落ち込んでいた環だったが、ハルヒの前に来ると  
いきなり土下座した。  
「すまん、ハルヒ。お前に苦労ばかりかけてしまって…」  
「………(ここは「いいのよ、おとっちゃん」とか言うべきなのだろうか?)」  
「ああ、無言で責める気持ちは十分わかる。  
 せめてもの詫びに火をおこしたいのだが、やり方を教えてくれないか?」  
そう頼む環の表情は真剣そのものであった。  

ハルヒはなんとか木の板や棒などを探してきて火をおこす準備をした。  
「いいですか?この棒を手で擦り併せながら摩擦を起こすんです。  
 煙が出てくるまでかなり時間がかかると思いますが…  
 薪はこちらにくべてあるので、火が起きたら移して下さい。」  
「ああ、任せてくれ!」  
環は珍しく言葉少なく作業に入った。  
黙って見ているのも意味がないので、ハルヒは食料調達に出掛けていった。  

太陽が沈みかけ、そろそろ夜が訪れそうな時間にハルヒは洞窟へ戻った。  
(これだけ食べ物があれば大丈夫。  
 飲めそうな水も見つかって良かった。  
 火ついたかな?まぁ自分でやる気だったんだけど。)  

「ハルヒ、ハルヒ!お帰り。見てくれ!火がおこせたぞ!」  
環は満面の笑みでハルヒを迎えた。  
見ると見事に焚き火が完成している。  
ハルヒは一生懸命火をおこした環を少し見直した。  
そしていつも帰宅時間に「お帰り」と言って貰えないので出迎えが嬉しかったのだ。  
「先輩、只今帰りました。火…お疲れ様です。」  
言葉はそっけなかったが、表情は少しだけ柔らかいものだった。  
もちろん環はそのことに気付いていた。  

「食べ物採って来ました。夕食にしましょう。」  
「ああ、海で手を洗って来ようか。」  
その時、ハルヒは初めて環の手の平を見た。  
「…先輩、その手を海に付けたら死にそうに痛いですよ?  
 川の水で洗いましょう。」  
環の手は一生懸命力の限り木を擦りすぎてボロボロに皮がめくれて酷い状態なのだ。  
「なんともないぞ、ハルヒ。大丈夫だ。」  
「何言ってるんですか。見てるこっちが痛いですよ。治療します。」  
ハルヒはハンカチを取り出すと治療を始めた。  

ハルヒは環の手を片手ずつ丁寧に川の水で洗い始めた。  
「うっ…あっつ、いっっっ…」  
手にはささくれ立った木のカスなどが入り込んでいたため  
指を一本一本洗わなければならなかった。  
「先輩、我慢して下さい。黴菌が入ったら面倒なんですから。」  
「悪いがもう少し優しくやって貰えまいか?痛いよ、ハルヒ。」  
環の台詞を無視してハルヒは手の洗浄に集中していた。  
「いっイタッ、ハル…ヒ。んっ。」  
実は涙をためて痛がっている環を見るのはちょっとだけ楽しかったりしたのだが、  
手早く終わらせることに専念した。  

「ここは本当に何もありませんね。消毒した方が良いのに…」  
この無人島には薬草として使えそうなものが見つからなかったのだ。  
「なーに、ノープロブレムさっ!傷は舐めておけば大丈夫だと  
 俺のグランパ(祖父)は、よく言っていた。」  
そーいうもんかなぁと思いながら、ハルヒは掴んでいた環の手を  
ジーと見つめ、徐に指先をペロリと舐めてみた。  
「うひゃーーー!なっ何するんだ、ハルヒ!」  
ハルヒの手を払いのけると洞窟の壁にへばりついた。  
「はっ?治療ですが、何か?」  

 

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