意外にもハルヒの弱点は雷だった。
いつもの飄々とした表情を崩し、すがりつくような瞳で自分を見上げたハルヒを心底可
愛いと環は思った。
「そうだ、耳栓をしてみては? 雷が聞こえなくなるぞ。ホラ!! 目隠しをすればおうち
で1人の時も……」
自分の腕の中のハルヒの恐怖を少しでも取り除きたくて、頭に浮かんだアイディアを矢
継ぎ早に提案する。
ハルヒもいつものクールな態度はどこへやら、「なるほどっ」と大きく頷いて言うとお
りにする。もしかしたら、怖さで思考回路が麻痺しているのかも知れない。
あまりにも素直なその態度に、環の心にふとイタズラ心が湧いた。……魔が差した、と
言ってもいいだろう。
目隠しをして、わたわたと耳栓をつけようとしているハルヒの手を押さえて、耳元で囁
く。
「いっそのこと、雷なんか気にならないようにしてやろうか……?」
「それはぜひお願いします!」
パッと顔を輝かせてハルヒが答える。目隠しはしていたが、その笑顔は環の衝動を後押
しするのに十分な威力を持っていた。
「…………っ」
――環の腕の中でハルヒが身を縮めた。
だが、環は止まらなかった。いや、止められなかった。
自分の唇に感じる感触。その柔らかさに理性が溶けて崩れていく。
「…ぅ〜〜〜〜〜、っ!」
抵抗しようとハルヒが動きかけた瞬間、雷が激しく鳴った。思わずハルヒは目の前の体
にしがみつく。環もしっかりと彼女を抱きしめる。
(……あったかい)
ハルヒの胸に戸惑いが広がった。
いつも1人だった。父親は夜の仕事で、家には誰もいなくて、だから自分以外に頼る人
はいなくて……。
誰かの温もりが、こんなに安心するなんて知らなかった。
環の唇がふたたびハルヒの唇に触れた。ぴくりとハルヒの肩が震える。けれども――自
分でもどうしてかはわからなかったが――ハルヒはもう抵抗しようとしなかった。