【あきらめましょう】  
 
 
「おい、沙樹」  
 
良い天気の日曜の真昼間。(午前中)  
俺はデートの真っ最中にキレて帰った隣人兼恋人の家のベランダから、  
部屋の中の床に座ってスネる女に声を掛けた。  
ガラス越しでも聞こえてる筈なのに、壁を見つめてベッドに肘をつき、微動だにしない。  
無視か。  
声を掛けてるのは幼少の頃からの幼馴染で俺のマンションの俺の部屋の壁を隔てた  
隣に住んでいる、性格キツい眼鏡女、沙樹だ。  
 
日中の薄暗い室内で、俺とのデートの為に着たチェックの紺系ワンピースと  
アクセサリーもそのままに、しばらくしてから、硝子越しに俺をぎ、と睨んできた。  
聞こえてはいたらしい。こわい。  
 
俺と沙樹はずーっと何事も無く十数年も幼馴染だったが、  
中学の友人同士の色恋沙汰に巻き込まれ、何か色々あって、つきあってしまった。  
が、つきあったがはいいが、軽い細かい事は気にしない女の子大好きで遊び人、な俺と  
性格クソ真面目で固い、牛乳瓶眼鏡でモテない地味女、沙樹とは、  
根本的に考え方も気も相性も合わないらしく、全然平穏につきあえない。  
分かり易く言うと喧嘩ばっかりだ。  
 
それでも元々幼馴染の強みか、俺は沙樹を昔からよく怒らせてるからか、  
全然めげず何だかつきあいは続いている。  
今回もベランダの沙樹の部屋のガラス戸をばんばん叩く。  
はいはい、生まれつき端正な顔で自分でもモテ過ぎて困ってる程格好いい俺が、折れてあげてますよー。  
 
俺はデート着のTシャツとジャケット、パンツと言う休日用の格好で、隣人にゆるーく声を掛ける。  
…と言うか同じマンションで家も隣、部屋も薄い壁一枚の隣なのに、  
怒って帰った後家へ帰る意味はあるんだろうか。帰る家隣なのに。  
今だって自分の部屋のベランダから沙樹の部屋のベランダに、  
腰程度の高さのコンクリ塀を乗り越えて来た。  
俺も沙樹も子供の頃から親に見つかっては「危ない」と  
ベランダでの行き来を怒られてきたが、とうとう18になってもお互い治らなかった。  
 
「ちょっ…司!止めてよね!ガラス叩くの…!」  
 
ばんばん叩き過ぎて、ガラス越しで沙樹の注意の声が聞こえる。  
沙樹はすくっと床から立ち上がって、まずクローゼットを開け、  
はんてんを出してワンピースの上に着てから、俺の目の前の戸をからから開けた。  
何故はんてん。  
 
「・・・せっかく久しぶりのデートなのに、何突然キレて逃げ帰ってるんだよ。  
もう映画始まっちまったし。お前が見たいって言ってたやつなのに。」  
 
ようやく開いた天の岩戸に何の感慨も無く、目の前の女に話掛ける。  
沙樹は先ほど公園で、突然キレて俺の頭を殴って逃げ帰ったそのままに、  
柔らかそうな色素の薄い、短めの髪、茶色い目と長い睫毛を眼鏡で隠して  
よそいきの紺系チェックのワンピースとアクセサリをシンプルに着て、  
上からはんてんを着ている。はんてんがミスマッチだ。  
ガラス戸は開けてくれたが、物凄く怒っている表情自体を全く隠そうともせず、  
怒り過ぎて冷ややかになっている鋭い目で俺の顔の少し下から物凄く睨んでいる。  
ちょっと頬が赤い。でも、俺に戸を開けた時点でこいつの負けだな。  
 
俺のそんな悪意を俺はおくびにも出さず、カラカラとガラス戸を後ろ手に閉めて、  
部屋の中に入りながらあえて沙樹に水を向けてみる。  
…原因はアレだろな、と大概予想は付いているが。  
勝手知ったる沙樹の部屋なので、異性の部屋と言う遠慮は全然無く、ずかずか上がり込む。  
 
「…何言ってんのよ司…!あたり前でしょ…!」  
 
俺に背を向けたはんてんが丸い。その両肩がプルプル震えている。  
所でそれは彼氏の前であえて着る物なのか。  
 
「きっ…キス…だけで恥ずかしいのに…その上っ…!恥ずかしくてデートなんて続けられるかっ!」  
「お前なぁ!こーこー3年にもなってキスに舌入れられた位で照れてキレて帰んなっ!!」  
 
沙樹は振り向きながらキレて、お互い喧嘩越しで睨み合う。経緯はこうだ。  
受験勉強で忙しい俺達は、お互い結構疲れていた。  
なので一日位受験勉強は休んで、久々に一緒に映画でも見るか、と言って  
昨日ベランダ越しに約束をした。ここ迄はいい。  
朝玄関前で落ち合って、散歩がてら映画館に向かう途中、公園を通った。  
俺は沙樹とまったりのんびりデートするのが久々で、11月の秋晴れで天気もいいし気候もいいし。  
で、何と言うか機嫌が良かった。  
別に会話の内容も、何の色気も無い、いつも通りの憎まれ口の応酬だったんだが。  
そんな中、沙樹が茂みの方へガサガサ行くので、ついてったら人気が無かった。  
沙樹は公園に生息するカルガモか何かを見たかったらしいんだが、俺は、おお。いただきます。  
と思って沙樹の隙をついてキスをした。  
正直、久しぶりに沙樹に触れて、飢えていたので舌を入れた。  
そしたら真っ赤になられて顔を外されたかと思うと、言葉にならない何かを言って  
半泣きで俺を殴り、全力で逃走された。  
多分時間にして待ち合わせから1時間位だ。尚、現在もまだ昼前だ。  
 
「アホかっ!俺らつきあって一年だぞ!いちねん!何でキスに舌入れて殴られる!  
一般常識的に間違ってるのはお前だ!」  
「ちょっ…まだ私達こーこーせいなのに…っ!早いわよっ…!」  
 
ああああああ。もーめんどくせーなああああ。  
因みに今は90年代初頭だ。まだこのレベルに純情な女も普通に居る。  
そう言う考えは、沙樹の様に地味で固い女の子の中では常識なのかもしれないが、  
普通の同年代の男子より多少女の子をよく知れる環境にあって(俺はモテる)、  
別に既に童貞でも無い俺には、理解不能だ。  
つきあってるのに触っちゃいけないって何だ。辛すぎる。主に下半身が。  
…もしかすると久住や日野あたりは、こいつの言っている意味が分かるのかもしれないが。  
あいつら物凄い草食動物だから。  
 
しかし俺は、もーいー加減限界なので、今日は目の前のお子様女に合わせて引く気は無い。  
一年つきあってて軽いキスしかさせて貰えてないのに、18の男の薄壁一枚向こうで  
相手が着替えたり風呂入ったり寝たりを毎日してるのだ。  
何だこの俺の生活は。拷問か。  
 
俺の悩みの元凶の、顔を真っ赤にして怒っている、俺より随分と華奢なメガネ女の顔を見る。  
華奢な手首を引いて、少し抱き寄せる。それから、頭を撫でる。  
…いい匂いがする。乳臭い様な、柔らかい匂い。  
指がすっと入る、さらさらな髪。  
 
「…びっくりさせて、悪かったよ。」  
 
俺が殊勝に謝ると、沙樹は少し俺を睨んでから、ふ、と息をつき、少し力が抜けた。  
それから、少し表情も柔らかくなる。  
こいつは理論派なので、筋道立てて説明したり何がどう悪いのか  
明確にして謝ったりすると、割と納得する。  
勘と勢いと運で生きている俺は、沙樹のその思考がよく読めず、理解する迄よく怒らせた。  
 
「…。…その、私も悪かったわ。ちょっと…びっくりしちゃって…、」  
 
沙樹が腕の中で朴訥に語りだす。  
俺とつきあう様になってから、天邪鬼で嘘ばかりついていると何も望みは叶わない事を学んだらしく、  
以前より多少素直になろうと努力している。  
照れながら、一生懸命俺に説明する沙樹を観察する。  
沙樹は俺に懸命に言葉を選んで自分を説明しようと努力していて、俺のその視線に気付いていない。  
 
「あの、外だと誰かに見られたかもしれないし…本当恥ずかしくって…その、…私もごめん…。」  
 
眼鏡の奥の伏せた目、睫毛、染まる頬、逸らす目線、華奢な肩、  
抱き寄せた体のラインと感触、全部を観察して、頭の中でなぞる。  
俺は自分でも秀麗だと思っている顔を伏せ、眉を寄せ反省の表情を作る。  
沙樹の髪を何度もすく。沙樹は俺の両腕の中でおとなしくしている。  
 
「俺もごめんな…。」  
 
目の前の女は頑固で真面目な反面、疑り深い割に心を開いた奴には騙され易いので、  
俺のこんな単純な演技でもう怒りは収まった様だ。馬鹿め。  
因みに俺の美形な容貌でこの表情を作ると大概の女は俺の狙った反応をする。  
女は美形に弱いよなぁ、とつくづく思う。  
いついかなる時も俺の顔は役に立つので、俺の生まれついての幸運だと思い、  
有り難く人生に役立てている。  
 
ついでにキスした事を悪いとは特に思ってない。当たり前だ。  
   
沙樹の部屋は8畳程度の一室で、持ち主の性格をよく現したシンプルかつ素っ気無い部屋だ。  
机、クローゼット、ベッド、参考書類の収まる本棚、小型ラジオ、よく探せば女の子らしい多少の小物類。  
で、もう部屋はほぼ埋まっている。シンプルで清潔で余計な装飾が無くて、実に沙樹らしい。  
俺達は受験生で、沙樹とは志望する大学も別々だ。(俺が沙樹の偏差値に足りない。)  
隣に住んでるのにデートすら久々だったのは、受験で忙しかったからだ。  
高校の違う俺らは、別々の時間軸で生活していて色々雑多に忙しい。  
…今日は家に帰ってくれて好都合だ。  
 
朝、俺は玄関の壁越しに今日は沙樹の両親は出掛けると沙樹に言っているのを壁越しで聞いている。  
俺は沙樹について正直必死で、そんな自分にちょっと引く。  
 
俺の胸に居る沙樹は、それでも下を向いて恥ずかしそうに収まっている。  
頬を右手で撫でる。  
左手は沙樹の腰を持ってそれとなく自分に引き寄せて、右手で赤い頬と唇を撫でて、  
おでこの髪をかき上げる。それから軽くキスをする。それから、頬にも。  
左手でワンピースの上から脇腹のあたりを撫でる。  
おでことおでこをくっつけて、少し沙樹の表情を覗き込む。  
照れているが、拒絶は無い。  
 
…沙樹は昔から俺に対してだけひどい態度だ。  
態度と言葉だけ見ていると本当に嫌われてるのかと思う様な  
ひどく冷たい態度と言葉を投げつけるが、よくよく観察すると、  
本当によく観察すると、俺を好きなのだ。  
分かり辛い。  
 
しかし、何で俺がそれを分かったかと言うと、目線と表情では全然隠せて無いからだ。  
いつ何処に居ても俺を目線で追って、俺を気にしてる。でも目が合うと逸らす。  
勘がいい俺は、それを1年前にすっかり気付いてしまったのに、本人が隠せてない事を分かって無い。  
その間抜けさが何ともたまらなく気になって、この下手くそ!恋愛下手過ぎる!とずかずか言いたくなって、  
色々ちょっかい掛けてたら、うっかりこっちがハマってしまった。ミイラ取りだ。  
 
「…誰も見てないから、いい…?」  
と囁く様に伺うと、沙樹は少しだけ躊躇して、ゆっくり下を向きながら目を閉じた。  
ああ、受け入れられるっていいな。と素直に感じる。  
沙樹の柔らかい唇にそっと唇を重ねて、何度かする。  
沙樹が当たり前の様に体を硬くするので、少し唇の表面を舐めて、緊張が解れるのを待つ。  
こいつはクールで気難しい性格の割に純情で、その難しさを陥落させるのが、何とも楽しい。  
それから無遠慮に沙樹の幼い口腔に舌を入れて、沙樹の舌をぺろ、と舐める。  
…ふ、と小さく緊張の声が漏れた。  
そんな沙樹の緊張を気遣わず、口腔を好きな様に我が物顔で蹂躙し、歯列をなぞる。  
余す所無く、誰も触れた事の無い口腔を深く味わう。  
キスをしながら薄目で沙樹の表情を見ると、目を硬くつぶって、表情を真っ赤にして  
慣れない俺のキスを懸命に受け止めている。  
俺の左手で腰をなぞる手に敏感になって来た様で、口腔の慣れない刺激と相まって、  
先程よりも余程力が抜けてきた様だ。  
いつの間にか沙樹は腕を俺のシャツの腰に回して、緩くしがみついていて、  
俺のまだ続くキスを受けている。  
「…、ん、 !」  
…舌を柔らかく噛んだ。又少し声が跳ねる。硬くつむると睫毛が細かに震える。  
沙樹の細い体が電気が流れた様にびく、と反応した。  
立っている程の力も入らなくなって来たのか、少し沙樹がすり落ちる。  
それでも、自分の体から離れるのを許したくなかった俺は、沙樹の後頭部と腰を掴み、  
支え直して、まだ口腔を貪る。  
 
それでも、腰に力の入らなくなった沙樹の足ががくがく震えだし、沙樹は立っていられなくなった様だ。  
なのにそれでも俺は沙樹の柔らかい唇と口腔を離す気になれず、自分もゆっくり膝を下ろす。床へ。  
床へ腰を落としてしまった俺は、沙樹をすっかり腕の中と膝の上で抱かえてしまって、  
それから更にキスを続ける。正直言って、したかった。ずっと。物凄く。  
沙樹の眼鏡が顔に当たって冷たいが、それを外すには唇を離さなくてはいけない。  
離すのが嫌だからまだ角度を変えて続ける。  
砕けた腰のままゆるゆると膝立ちになった状態の沙樹の腰をなぞる。  
手の動きに合わせて、沙樹の体がびく、と揺れる。  
口腔で唾液の絡まるやらしい音がして、ん、んん、と長すぎるキスに困惑した様な声が漏れてるが、  
それも無視して続ける。  
気持ちいい沙樹の感触の全てに俺の方が夢中になりかけて、腰の手で身体をなぞる様に動かして、  
沙樹のシャツワンピースの胸の上から柔らかい胸を揉む。沙樹の身体が又跳ねる。  
シャツの下のブラジャーの感触、その下の柔らかい胸の感触に堪らない物を覚えて、  
もう少し内側の肉の感触を感じたいと少し力を込める。  
服の下のブラの下の胸の中心の感触を感じて、親指で擦ると、少しそれが硬くなるのを感じる。  
 
沙樹の手元にあった雑誌で、後頭部を全力で殴られた。  
 
「ばっ…司っ…!ほんと、っ…バカっ…!」  
両目に涙を溜め、真っ赤になりながら、はんてんで胸元を隠して俺から一瞬で離れられた。  
「…った〜…」  
俺は殴られたらしい、凄い音がした割にそう痛くも無い後頭部をさすりながら、  
あぐらをかいたまま沙樹を見る。  
普段は語彙が豊富なこいつも、テンパり過ぎて語彙がバカしか出なかったらしい。  
沙樹の唇が俺の唾液に濡れて、それが妙にエロかった。  
 
「…沙樹、お前俺に慣れた方がいいって。一年つきあってたら、キス位普通普通。」  
「…!いま、今キスだけじゃ無かった…!あんた誤魔化そうとしてるけど、違った…!」  
 
軽く言い含め様としたが、何か沙樹は、男な俺にすっかりおびえてしまったらしく、  
しっかり泣き怒りしながら逃げ腰だ。  
部屋のドアに背を置いて俺との安全距離を縮めようとしない。  
部屋が狭いので1M位のささやかな安全距離だが、それを永遠に縮ませる気が無いのが見て取れる程、  
刺す様な警戒心が目で見える。  
そして「胸を揉まれた」の一言を恥ずかしくて言えない姿が、又そそるのに気付いていない。  
牛乳瓶眼鏡してはんてん着てる女に、何故こんなにそそられてるのか自分でもよく分からない。  
 
…普通ににじり寄ったら、ドアの向こうの廊下を抜けてダイニングへ逃げられるな。  
そしてその向こうの玄関迄逃げられるのは必至だ。  
我が家と住宅構造が同じな上、幼馴染故の知り尽くした他人の家で、  
この先の沙樹の使うだろう逃走ルートを脳裏に描く。  
俺のエロい下心が、普通に逃がすのを拒否している。  
…まず沙樹の警戒心を解くのが先だな。  
 
「…分かった。もう何もしないから、逃げるなって。」  
 
もっっっっっの凄く嘘だが、一応そ知らぬ表情で言ってみる。当たり前だっ!我慢できるか!  
「しっ…信じられる訳無いでしょ…!あんた結構嘘つきなのは知ってるわよっ…!?」  
物凄く俺を警戒している幼馴染は、結構動揺しているが、思考回路は的確だ。  
駄目だ。俺は沙樹に信用が無いので、警戒が解けない。何で信用の無い俺とつきあってるんだ沙樹。  
「…なぁ、何ではんてん着てんの?」  
話題逸らしに、気になってたので聞いてみた。今は秋口だが、今日はそんなに寒くない。  
 
「あんたがはんてん着てる私は色気無いって言ったんでしょ!  
あんたを部屋に入れる時、又襲われない様に着たのっ!  
こんな格好してる女は萎えるでしょ!?」  
 
あー、そう言えば言ったな。まだつきあう前位の時に。  
はんてんは俺にディープなキスされてびびった沙樹の防衛手段なのか。  
余りにも沙樹らしい子供な思考に、つい笑ってしまう。  
今の俺はもうはんてん着てても牛乳瓶眼鏡でもジャージ着てても、余裕で勃つのに。  
中身が沙樹なら。  
 
「…沙樹。」  
「何よ」  
 
「好きだよ。」  
 
初めて言った俺の甘い言葉に、予想通り沙樹は驚いたらしく一瞬の隙が出来る。  
その隙を狙って俺は獲物にを捕まえようと距離を詰めて服を掴むが、沙樹の反応が一瞬早く  
手元にははんてんだけが残る。  
ドタドタと沙樹が廊下を走る音が聞こえる。  
チッ!逃げられた!このマンシヨンの間取りは沙樹の部屋が最奥のここで、廊下の両隣に部屋が3つある。  
その廊下を抜けるとリビングがあって、そこを抜けると玄関だ。  
外に逃げられると連れ戻すのが困難になるので、俺も走って追いかける。  
廊下は靴下ですべる。ので走り辛い。  
俺は何で日曜の他人の家で全力疾走してるんだか疑問に思いながら、可笑しくなって笑いながら追いかける。  
俺も沙樹も足は速い方だが、俺には勝算があった。  
廊下を抜けたリビングの向こうので、沙樹は予想通り玄関の鍵を外すのにモタついている。  
 
バン!  
 
「…ふん、甘いな沙樹。お前の家の鍵が掛かってるのは、  
ベランダから入ろうとする前に確認済みなんだよ。  
後今日は夜迄お前の親が帰って来ない事もな…。」  
 
息を切らし、笑いながら玄関の扉に両手をついた。  
後はロックを外すだけの所で俺に追いつかれた沙樹の怯えた表情を覗き込む。  
沙樹も本気で走ったのか、息が荒い。  
俺は笑っているが、多分物凄いいやらしい笑い方をしている。  
俺と沙樹はつきあう前から幼馴染で、友達なので、俺がこう言う風に笑った後は  
どうなるか大概分かるのだろう。沙樹は引いている。  
 
「…へんしつしゃ並みに…怖いわよ…司…。」  
 
ストーカーと言う言葉はまだ無くて良かった。  
俺はにこにこしながら沙樹が外そうとした鍵を又掛け直す。  
ロックと、家の鍵。それから沙樹の手を取って、笑いながら手の甲に口付ける。  
 
--------俺は伊達にモテてる訳じゃない。才能があるのだ。  
女が好きなのも端正な顔も才能の内だが、それとは別に、俺は分かる。  
大概の女の子は俺が見て、観察していれば、何を求めているか、どうして欲しいか俺は概ね分かるのだ。  
多分、そういう勘がいい。  
女の好きなこの顔で釣って、後は女のタイプ別に、求める物を小出しに与えればいい。  
俺の女好きするらしい顔も、優しいだけの性格も役に立ってる様で、  
狙った子は大概落とせる人生だった。  
唯一駄目だったのは香澄ちゃんだが、仕方ない。  
俺がどうしても苦手なタイプが居る様に、俺も万人に特別に好かれる訳は無い。  
好きな人に好かれなかった経験は辛い物だったが、俺はそれを糧にして消化して、少し変わった。  
その上で今は沙樹とつきあってるんだから、それでいい。  
今度はきちんと、好きな女に好かれている。  
俺の才能は他でも無い沙樹にも久住にも「タチ悪い」と散々叩かれたが、役立つから、かまわない。  
俺の事を好きな沙樹に通用すればそれで。  
 
 
「…なぁ、沙樹」  
俺に鍵を掛けられた玄関の戸を背に、沙樹は真正面の俺から表情を覗き込まれる。  
玄関の戸に掌を置いて、広げた両腕の中に閉じ込める。腕を曲げて顔を近づける。  
ふわりと又沙樹のいい匂いがする。耳元で確信犯的に囁く。沙樹は分かってる。  
俺がこれから何を言うか。俺はずっと視線を隠さなかった。  
かする様なキスしかした事無いのに、ずっと。だから沙樹は逃げた。  
でも俺の事を好きな沙樹が、俺を部屋に入れた時点で沙樹の負けだ。  
「俺触りたいんだ、お前を」  
俺の事を好きな沙樹は、俺に「お願い」をされたら断れない。  
 
「触らせて ?」  
 
 
 
 
 
日曜日の誰も居ないマンションの部屋の一室で、沙樹の小さな、だがやらしい声が響く。  
沙樹の部屋の鍵を掛けて、カーテンも閉めた薄暗い部屋の中で、ベッドの上で壁を背にして、  
2人で座っている。外はまだ明るいので、カーテンを閉めてもまだ部屋は薄暗い。  
沙樹の邪魔なアクセサリーは取って、俺もジャケットは脱いで床に捨ててある。  
そんな中で俺は沙樹を横に座らせて、肩を抱き寄せている。  
沙樹の唇は、先程迄又散々俺に舌で蹂躙されて濡れている。  
もうだめ、くるしい、と絡める舌の合間に沙樹が言っても止めなかった。  
沙樹は俺に真っ向からお願いされて、俺のお願いを了承した。  
断る明確な理由を言え無かったからだ。沙樹は俺を好きだから。  
だから、抵抗も逃げも出来ず、されるがままになっている。  
シャツワンピの開襟のボタンを腰迄外して胸を包む下着を上にずらして、  
その意外にふうよかな胸を俺に直に好きな様に揉まれている。  
時折、胸の中心を引っかいて、その敏感な反応を楽しむ。  
「や…、だ、司っ…、は、恥ずかしい…」  
恥ずかしくて恥ずかしくて堪らない様な表情を隠しながら、困惑したか細い声で抵抗する。  
頬も可哀想な程紅い。俺の両肩を抑えて俺の腕の中から逃れようとゆるい抵抗をする。  
が抵抗がか弱すぎて、逃れるには至らない。  
「ちょ、司…、あんたやっぱ今日、へん、…---っ、駄、目…、見、ないで…よ…っ!…ッ」  
無理な事を言う。初めて見た沙樹の意外な程に大きい両胸は、シミ一つ無い綺麗な肌で、目が離せない。  
弾力も感触も大きさも、想像したより随分良くて気持ちがいい。  
キスしかしてないのに、いつもやらしい目で沙樹を見て、裸を想像してた。  
俺はそれを隠さなかったが、沙樹はそれを知ってか知らずか、ずっと無視し続けた。  
その仕返しに、嫌がる沙樹を無視して目で存分に犯す。  
沙樹はその俺の逃れようも無いエロい視線に困った様に眉を寄せて、それでも漏れる声を止め様と懸命だ。  
羞恥と快感とそれを与えている俺への怒りと困惑で、眼鏡の奥の両目に涙を溜めている。  
その沙樹の出したくない声を俺は出させたいので、その豊かな乳房に舌を出して舐めて吸い付いた。  
「・・・っ、ン・・・や…!」  
その刺激に、沙樹はびくん、と反応する。ベッドに横向きに倒れ込むが、俺はそれを全部離さない。  
わざと舌のざらついた方で乳房の先端を舐めて、又沙樹が反応する。  
声を出すのも恥ずかしいのか、右手で口を塞いだ。  
俺は沙樹の薄青のブラの背中に手を回して、窮屈そうにズレたまま覆う胸の下着を外す。  
たぷん、と音がしそうな程弾力のある白い胸が揺れた。  
「…だよな。お前実はD位あるだろうと踏んでたんだよな。  
何かいつも色気の無い格好するから、確信持てなかったんだけど。」  
シャツを拡げブラジャーを胸の上に上げて、柔らかい胸を余す所無く観察する。  
「あんたいつからどんな目であたしを見てんのよ!」  
半泣きで突っ込まれる。昔からだ。悪いか。幼少の頃からチェックして観察してるが、俺の期待通りによく育った。  
俺の下で俺に組み伏されながら、沙樹は動揺しつつも俺を睨んでいる。  
両手で胸を隠そうとするが、その隙間から俺が手を入れて揉んでしまう。  
〜〜〜〜〜!と俺の下でじたばたもがくが、逃がさない様に好きな様に揉む。  
「…普通だって。」  
ただ俺の普通と沙樹の普通が違うだけだ。  
そう言いながら、沙樹の背中の方から横になって、体の後ろからも揉み続ける。  
あー…気持ちイイ…。気持ち良過ぎて俺はしっとり感動している。  
 
優しく胸の控えめな飾りを擦り上げると、沙樹の身体がびくんと跳ねる。  
背中越しでよく表情が見えないのがつまらなくて、起き上がって、沙樹の肩をつかんで仰向けに寝かせる。  
沙樹は両手で自分の口を塞いで、眼鏡の向こうの顔は真っ赤だ。  
目は涙で潤んでいる。  
「・・・キスしたいなぁ。」  
とほころんだ笑顔で言うと、沙樹はしばらく間があって。おずおずと両手を自分から顔から外した。  
究極の所、俺にお願いをされたら沙樹は断れないのだから、  
俺に好きな風に触られまくるに決まっている。  
 
俺は、沙樹の恥ずかしがる表情をちゃんと見たくて、今まであえて取らなかった牛乳瓶眼鏡を外した。  
 
・・・・・・・。  
ああ、本当嫌んなるな。久しぶりに沙樹の素顔を見て、本当にうんざりする。  
うんざりする程みとれる。  
柔らかそうな、色素の薄い髪、きめの細かい透き通る様な白い肌、少し冷たい印象の二重。  
深い深い紅褐色の瞳、アーモンドの様なきつい目の形、すっきりとした鼻筋、長い睫毛、瑞々しい唇。  
綺麗だ。  
泣きたくなる程綺麗な女が、そこにいる。  
 
沙樹は本当は。誰が見ても見惚れる位、美しく整った顔立ちをしていて、それは多分、俺しか知らない。  
本人に自覚が無くて、それを磨き上げる手段も知らないし、今のところ興味も無い。  
俺も沙樹が綺麗な事を、本人にも、誰にも、教えなかった。  
だからその恵まれた稀有な素材を厚い牛乳瓶眼鏡で隠して、今まで誰もそれに気付かなかった。  
何だか、久しぶりに沙樹の素顔を見て、やっぱり息をのむ程綺麗だと感じてしまった俺は、  
何だか切ない様な変な気持ちになってしまって、目の前の女のおでこに自分のおでこを当てる。  
それから優しくキスをした。  
 
いつ好きになったとか、何処が好きかとか、全然覚えてないし分からない。  
気も合わないし、趣味も違うし、喧嘩ばっかりだ。  
沙樹の真面目さも固さも俺には無駄だと思う事が多くて、  
いつまで経っても理解が出来ず、怒らせて傷つける。  
-------ただ、つきあう様になる少し前、こいつを泣かしてしまった事があって。  
その時、久しぶりにこいつの素顔を見た。  
子供の頃はこいつの素顔が可愛くて好きになった、と言う随分単純な好きになり方をした物だが、別に今は違う。  
俺は他の可愛い女の子も随分と見たし、又、そう言う子とつきあったりもした。  
沙樹の素顔が可愛いのはもう知っていたし。  
だからその時俺はこいつの素顔を随分と客観的に見た。  
 
こいつ、すぐ男なんて出来るんだろうな、と。  
今は多分俺を好きでも、俺がこいつを振ったら、多分すぐ別の男が寄って来る。  
こんなにも綺麗で、それを他の男がずっと気付かない訳は無い。  
磨かれて無いだけで、もう身体も気持ちも女だ。  
しばらくは俺を吹っ切れないだろうが、それでも振った俺をずっと好きな訳は無い。  
俺がこいつとつきあわなかったら、いつか他の男の物になる。  
俺はただ、それが嫌だった。物凄く、許せなかった。  
俺以外の男に笑いかけるのも照れるのも恥ずかしがるのも心配するのも怒るのも喧嘩するのも。  
顔だけで寄ってくる様な、本当のこいつの事を何も知らないしょーもない男と  
キスをするのも抱かれるのも全部。  
考えるだけでイラついて、仮定の話でもう許せなかった。  
ベランダ越しに話す物理的距離が、そのままこいつとの縮まない距離になるのが嫌だった。  
だから俺が、つきあった。  
 
 
「・・・、司。あんたやっぱ今日、へん。」  
キスの後、沙樹が俺の頬を両手で包んで俺を見る。あたたかい。  
目の前の、綺麗だが、昔からとてもよく知ってる目が、俺の目を見る。  
「あんたフェミニストだから、いくら相手が私でも、こんな強引にしないでしょ。」  
うん、そう。  
いくら遠慮の無い沙樹相手でも、こんなキスもまだちゃんと出来ない様な女を抱こうなんて、  
いかれてる。…普段の俺なら、しない。絶対。  
「・・・どうしたの」  
沙樹の、心配する様な優しい声が降って来る。沙樹は、キツい。  
本当吃驚する位俺にキツい事も言うが、それは俺が元気な時だ。  
俺が参ってたり落ち込んでたりする時も沙樹は気付く。  
絶対に気付いて、そう言う時は優しくする。狡い。  
そういうのの積み重ねで俺の方が離せなくなった。  
沙樹は俺の両頬を撫でて、俺の目を見て言うのを待っている。  
言えるか。  
 
お前多分、大学行ったら見違える様に綺麗になるタイプだ。  
今は制服だから埋もれてるけど、大学行ったら眼鏡も止めるだろうし私服だしスタイルもいい。  
欲目の杞憂に終わればどんだけいいか。  
いくら地味でも、そう言うのが好きな男は絶対数居るし、  
沙樹は本当は地味な男と気も相性も合うんだろう。  
俺は沙樹と同じ大学には行けない。  
 
…そう言う半年後が、具体的になるにつれてじりじりと不安になって、  
何だか辛くなってきて、キスしかしてない関係を何とかしたくなった。  
多分俺は無意識に漠然と、焦ってた。  
-------そんな事、恥ずかしくて言えるか。先走り過ぎてるし、照れくさい。  
 
「・・・その、」  
全部は言えないが、何か説明しなくては、沙樹を心配させている。  
でも、照れたので目が泳いでしまった。  
「大学別れるし…、そのヤっとかないと浮気されないかな、と…」  
あれ。照れたので、いつもならつける嘘が上手くつけなかった。  
何だ、今のヘタレ感満載な本音は。  
「・・・。」  
沙樹は俺の下で固まっている。笑われるか、怒られるかと思い、身構える。  
もし逆の立場で俺が同じ事言われたら、笑うか怒る。…こんなヘタレな。  
「…今の無し。忘れろ。えーと…」  
別の言い訳を考え始めたが、うっかり動揺してしまって、上手い嘘が出てこない。  
沙樹は怪訝な顔をしている。  
 
「…?何今の。全然意味が分かんなかった。」  
 
…沙樹の反応は笑うでも怒るでも無かった。(それ以前の問題だ)  
やはり沙樹は俺には予測し辛い。  
 
 
「…んー、ま、でも分かるわよ。司、多分変化が不安なんでしょ。」  
しばらく沙樹は、今の俺の言葉を振り返って反芻して(しなくて良いのに)、再び口を開いた。  
沙樹なりに答えをくれる様だ。  
…そう言われて見れば、その一言で纏まる気もする。やっぱこいつ頭いいな。  
「私もそうだし。」  
そうなのか。  
雑念も葛藤も多い受験生は俺だけでは無い様らしい。  
こいつは割といつも淡々としているので、正直意外だ。  
沙樹は俺の纏まっていなかった漠然とした不安を、分かり易く単純な言葉で纏め上げる。  
それが別に不快で無いのは沙樹だからだと思う。  
 
「…まぁ、でも別に、大丈夫よ。多分だけど。  
10年一緒に居てお互い変わったのに、ずっと仲良かったし。」  
 
仲、良かったかなぁ。喧嘩ばっかしてた気もするが。  
でも、確かに小、中、高と特に変わらずベランダ越しに呼びかけたり呼びかけられたり  
要らない菓子やったりゲームの貸し借りしたり、無駄に行き来は多かった。  
 
「高校別なのにつきあって無い頃から、別にほぼ毎日喋ってたし」  
 
んー、言われてみるとやっぱ概ね仲いいのかな、俺ら。何か3日喋んないと気持ち悪いんだよな。  
沙樹もたまに俺の得意科目教えろって合図で壁殴ってくるし。  
 
「ま、だから多分、大丈夫よ。経験から来る憶測だけど。」  
 
沙樹は、沙樹らしく理屈っぽくそんな様な事を、何でも無い風に言った。  
俺の頬を撫でながら、照れるでも無く素で。  
でも、先の事なんて分からないし、今までが大丈夫だったからと言って、  
これからも変わっても大丈夫なんて保障は何処にも無い。  
…まぁ、だったら乗っかったモン勝ちなのか。  
と試しに沙樹の言う事を素直に受け入れてみたら、随分と気持ちが楽になった。  
目の前の乗せたおでこに、ぐりぐりと自分のおでこを擦り合わせる。  
あ、うん。…凄いな、沙樹。  
ついでに目の前の女に全身でぎゅーと抱きついた。沙樹の腕が背中に回されぽんぽんとされた。  
 
「…じゃ、今日はこれ迄って事で。」  
俺の俺らしくなさを解決して終わったと思ったのか、俺にベッドでぎゅうと抱きしめられながら、  
俺の腕からもぞもぞ抜けようとする。  
「いやいや沙樹ちゃん、根本的にお前が俺に慣れた方がいいってのは変わってない。」  
更にぎゅーと抱きしめる。気が抜けた安心感からか、さっきよりも体温も柔らかさも余計感じる。  
 
「だ か らっ!早いって言ってるでしょ!私には、まだ、早、いっ…!!」  
俺の体重を押しのけようと、両手で俺を押す。その手を引っ込めようとこっちも掴む。  
「お前っ…!コレで止めろって俺がかわいそうだろ…!?」  
俺を自身の上から押しのけたい沙樹と、押し倒していたい俺で両手で押し合う。  
「そんなん知るかっ!もう十分触ったでしょっ…!」  
「せめてもーちょっとおっぱい揉ませろと…!」  
「断る。」  
 
きっぱりざっくり斬って捨てられているが、それでも俺はめげない。  
お互いの両手で押し合ってるので、さっきから隠せない胸がワンピースと下着の間から  
ちらちら見えてるのが、たまらん。  
俺は押し合ってる両手をぐいと掴んで、そのまま引き上げる。  
その動作が予想外だったらしい沙樹は、そのまま俺の真正面を向く形で座らされ、  
その後回した両手を胸から回して、後ろから抱きかかえる。  
一瞬で、俺に後ろから書き抱えられて半裸でベッドに座らされる形となった沙樹は、  
驚いたらしくしばし固まる。その後  
「…ちょ…!あんたね!今日私の話聞かな過ぎよ!!」  
沙樹の抗議を無視して、両手でその豊かな胸を後ろから揉む。  
片手に余るその質感は瑞々しくて、吸い付く様に気持ちがいい。  
その感触が気持ちよすぎてやらしくて、物凄く離し難い。  
「いー加減にしなさ・・・!」  
沙樹は最後迄台詞を言えずに、飲み込んだ。  
俺が指でその先端を触ったからだ。優しく、かする様に、でも丹念に擦る。  
沙樹の無駄な肉の無い綺麗な首筋のラインを舐め上げる。少し、沙樹の身体が固くなる。  
「---------ちょ、駄目だって、ば…」  
腕の中の女の抵抗が少し弱まって、感じているのを隠したい様な表情をする。  
今は素顔だから、さっきの眼鏡越しよりも表情がよく見える。  
もっと触りたくて、好きな様に胸を揉んで、耳の中迄舐める。  
「・・・・!、」  
身体が、ぴく、と震える。  
身体は成熟しかけているのに、精神は幼い、アンバランスな存在に  
俺が女の悦びを教えていると思うと、どうしようも無く興奮する。  
もう隠す役目を果たしていないシャツワンピを背中から剥いで、ブラを取ってしまう。  
沙樹は抵抗したい様だが、緊張もあってか、抵抗の動作が遅い。  
表情は真っ赤で怒っているが、俺に好きな様に沙樹の耳も顔も唇も丹念に背中から舐められて、  
両胸の膨らみを揉まれるとどうにも上手く抵抗できないらしい。  
声を出さない様にもして意識もそちらにも遣っているからだ。  
・・出せばいいのに。  
 
右手で沙樹の首の後ろを持って、左手で腰を持ってこちらを向かせて、顎のラインを舌を尖らせて舐める。  
「〜〜〜・・・」  
震える睫毛、寄せられた両眉、恥ずかしいのか、唇を噛み締めて、声がくぐもっている。  
その表情が好きでもっとさせたくて、唇を両胸に落とす。  
唇の中で胸の突起を軽く挟んで、舌柔らかい場所で舐める。  
その後猫の様に唾液を絡ませながら何度も同じ場所を舐めて、緩く吸う。  
「・・・・!、---…っ」  
目の前の女の目に涙が滲んで、真っ赤になりながら、首を横に振る。  
多分止めろ、と言う意思表示だが、普段滅茶苦茶クールで冷ややかな沙樹の仕草だと思うと、  
何とも言えずかわいいので止めない。  
左手でもう片側の胸を触って、薬指と中指の間で突起を挟む様にして揉む。  
舌を尖らせて、少し強めに先端を刺激する。  
「  ・・・・っ、ン、もう、や…、つ かさ、」  
左手で、声の出そうになる唇を覆って、右手でやや向かい合った俺の方を押そうとする。  
だが、力が入らないのか、緩い抵抗過ぎて余計俺を煽っている。  
沙樹の身体を支える右手はそのままに、左手をそのまま下へ下ろして身体をなぞって  
残ったシャツワンピのボタンを外してしまう。  
くびれて締まった薄い腰、薄い青の下着、無駄な肉の無い白い腿が見える。  
こいつ、綺麗な身体してるよな。と素で思うと、俺にボタンを外された事に気付いた沙樹が、  
脚を寄せてはだけられたワンピースで視界を隠してしまう。  
隠されてしまったので、両手で柔らかい胸を揉む。時折指の間で少し固い中心を刺激しながら。  
そうしながら、真正面の気持ちよさと恥ずかしさでぐちゃぐちゃの半泣きの沙樹を見て、笑ってキスをする。  
俺は、昔から沙樹の泣き顔が好きなのだ。理由は無いし、理屈はない。…ごめんな。  
笑いながら心で謝る。泣かせてかわいそうとは、実は思った事が一度も無い。  
 
「・・・ん、…っ、は、ぁ…」  
キスで唾液と舌を貪って、その合間に漏れる声がエロい。  
キスに夢中になって来たのか沙樹の涙がぽろぽろ頬を濡らして、俺はそれを合間に確認して喜んでいる。  
髪と両頬を撫でてから脱がした上半身を滑る様に両手の全部で触る。  
そのしっとりとした肌の感触を掌で存分に楽しんで、ゆっくりと又ベッドへ押し倒す。  
胸をなぞって、脇腹、腰で止まったシャツワンピだった物を外して、沙樹の身体の下から抜く。  
理性が緩んで、キスと行為に夢中になって来た様で、先ほど迄の抵抗が無く、俺のシャツを緩く掴む。  
腰をなぞっていた手を下着にすべらせて、その両脚の中心を軽くなぞる。  
びく、と沙樹の身体が震えて、俺と密着した体と唇に動揺を伝える。  
「・・・自分にはまだ早いって言う割に、凄い濡れてんじゃん。」  
キスの合間にからかうと、脚を閉じて両手で俺の手をそこから外そうとする。  
だが、それよりも前に俺は脚の間に自分の脚を入れてしまっていて、閉じさせない。  
「…ん、もっ…もう駄目!・・・-ぁ、や、だ、め…っなの、っ・・・終わり…っ--!」  
沙樹が何か言おうとする度に俺が胸と脚の間を撫でて、耳に舌を入れて、邪魔をする。  
…所でこいつ敏感だよな。天然にエロ過ぎて、もっと触りたいのにこっちも困る。  
声聞いてると、いきそう。  
「お、お願いされたの…っ、触らせる迄で、しょっ…!だからここ迄っ…!終わりっ…!」  
しまった。犯らせてって言えば良かった。そしたら多分断られたが。  
言った時は確かに触るだけで終わるつもりだったんだが。  
…さっきのお願いの仕方をひっそり悔やみつつ言う。  
「駄目、まだ奥、触って無いし。」  
と耳元で囁いて、まだそのスジを縦になぞる。  
〜〜〜〜〜・・・!いつもなら俺に言い含められる沙樹では無いが、どうもこの状況に上手く頭が働かないらしい。  
俺に両手でしがみついて、震えながら腰から来る甘い快感に耐えている。  
下着の横の隙間から指を入れて直に、濡れた肉の感触を撫で上げる。  
指に絡みつくベトベトした堅く閉じられたスジの感触が、興奮する。  
俺は身体を離して、沙樹の身体の全身を見る。  
沙樹の快感に緩んで恥ずかしがる泣き顔、くっきりとしたラインの首すじ、  
豊かで形のいい白い胸、引き締まった腰、普段隠して滅多に見せない脚線の美しさ。  
それがの全てが俺に触られて、暴かれて、余す所無く見られて、初めての性感にはしたなく乱れている。  
--------エロい女だなぁ。  
 
俺は何の感慨も無く普通に思った。顔が綺麗な事は知っていた。  
だが、こんなイイ身体で、こんな敏感に反応して、こんなやらしい声を上げる女だと今日知った。  
それを、俺だけが知っていて俺だけが独占できると言う事象に、どうしようも無くエロい気分になる。  
 
両手で下着に手を掛けて脱がそうとすると、女の両手が止めてきた。  
「駄目だって、言ってるでしょっ…!も、やだっ…!」  
俺が無言で下着を引っ張ると、腰に留めようとする手が抵抗してきて、下着が引っ張られる。  
その下着隙間から、女のぷっくらした肉の、やらしい部分がチラチラ見える。…止めろ。余計エロい。  
目の前の処女故に何がどうエロいのか全然分かって無い天然を、  
マトモに相手しても無駄だと悟った俺は、沙樹に手で目隠しをしてとっとと下着を取り外してしまう。  
それから、落ち着かせる様に唇を舐める。  
キスをしながら下腹部につ、と手を伸ばして茂みの奥の肉付いたそこに指を這わせて、線をじかになぞる。  
誰も受け入れた事の無いそこは、ただの線の様に境目が閉じられていて、ベトベトに濡れている。  
何度か線の上を前後していると、そのぬめりに助けられつるんと中に指が入る。  
「・・・!」  
沙樹は、そんな所に俺の指が入っている事自体にひどく動揺している。  
俺は指ですらいやらしく絡みつく狭いそこに物凄く興奮している。  
が、流石に、嫌がる沙樹を無理にここ迄押しておいて、最後するなんて。  
したい。物凄くしたい。が、…できない。  
ここで沙樹の気持ちを無視して処女を奪ってしまったら、何がどうとかより、嫌われる。  
ほぼ間違い無く、流石に嫌われる。  
こんな断腸の思いで止めなければならない前にとっとと沙樹の希望通り止めれば良かったんだが、  
こー沙樹がいちいち可愛いので手が止まらなかった。  
意思の弱い自分を今更俺は後悔している。遅い。  
嫌われるのは物凄く困るので、止めなければならない。  
…ここで止めるのはもう、そーとー辛いが、俺のぎんぎんに興奮した下腹部が泣いてるが、  
この位で止めとこう。と理性が言う。  
…が、やっぱり指が止まらない。  
指が一本泡立つ様に狭い中を前後して、入り口迄引く  
「…や、も、抜いて…、」  
か細い声で、羞恥に耐える声がする。中が圧迫されて俺の指を押し出そうとする。  
その肉の蠢きもその台詞も、俺の興奮をかえって煽っている。その声にくらっとする。  
熱に浮かされた様に2本目を緩く添えて、優しく入り口で前後に動かすと、  
ぐちょぐちょに濡れた狭いそこは、本人の意思とは逆にやらしく迎え入れる。  
・・・た、と声がする。流石に、痛いらしい。ああ、止めなきゃ。  
…葛藤が葛藤にならず、…後、少しだけ、と熱に浮かされた様に頭の隅で思い、  
2本の指を上下に添えて少し拡げる。そこを、軽く押し開く。  
「・・・ふ、ああ…っ…ン …!」  
沙樹の堪らなく淫らな声が部屋に響く。ああ、コレ感じるのか、と思うと、  
もうずっと熱い自分の下腹部の熱で理性がやばくなってくる。  
しばらく2本の指で内部の壁を擦って、それから又中を拡げる。  
「…あ、ン…も,…ぉやだ  …ぁ」  
びくびく震えながら、涙を流して俺にやらしい表情を見せながら俺に哀願する。  
左手で身体中まさぐって、あんまりやらしいので胸をいじる手も止まらない。  
・・・指を3本に増やして、蜜口を撫でた。  
 
がちゃ、  
と遠く、玄関の方で開く音と人の複数人の気配がする。  
「沙樹―?居るのー?」  
と沙樹の母親の声が聞こえる。  
 
沙樹の両親が帰ってきた様だ。  
…そんなに長い時間こんな事してたのか、と思い部屋の時計を見ると、もう夕方と言っていい時間だった。  
帰ってくるのは夜の予定だった筈だが、少し早まった様だ。  
 
とんとんとん…と玄関の方から沙樹の部屋へ向かってくる足音がする。  
因みに沙樹は全裸で、俺はシャツとパンツと言う服装を脱いではいないが、  
ベッドの上で全裸の幼馴染の女を組み敷いている。  
どっからどう見ても不純な異性交遊だ。実際そうだし。  
 
「沙樹?居るの?」  
沙樹の母親が、この部屋のドアを開けようとする。  
 
ガチッ  
 
沙樹の母親はドアを開けようとした。  
が、鍵が掛かっていて開かない。  
 
さっき俺が閉めた。  
沙樹は頭が真っ白になっていた様で、すっかり固まっていたが、急に我に返った様だ。  
 
「…うん、居る…よ」  
辛うじて返事をする。緊張からか、声が固い。  
「今日、司君とデートじゃなかったの?」  
「うん、…今日具合悪くて、早めに帰らせて貰ったの。」  
物凄い堅い声と表情だが、付け焼刃にしてはちゃんとした言い訳を言っている。  
今必死でぐるぐる言い訳のつじつまを考えているのだろう。  
俺はともかく、沙樹の性格上こんな場面を親に見られたら、死ぬ。  
こんな、やらしい、男に抱かれる寸前の。  
「…風邪っぽくて…薬もう飲んじゃったから、夕飯もいいよ。…ちょっと…寝たい…」  
 
沙樹の母親は、ドアの向こう側からこちらの事を、パジャマ姿でベッドに伏せる娘の姿を思い描いているのだろう。  
が、本当は。沙樹は全裸で、隣に住む彼氏に組み敷かれている。  
ドアの外の日常と目の前の非日常がひどく魅惑的で、興奮した。  
ベッドの上で何も隠す物が無く、その肢体の全部を、俺に見られてる沙樹。  
 
「朝は何とも無かったのに?冷えたのかしら」  
 
沙樹の母親の声を聞きながら、沙樹のキレーな脚を抱かえた。ごめんねおばさん。俺仲いーのに。  
ぬらついたやらしい花びらを指で触って、ひくつくそこを目前で見る。  
音がしない様にそっと舌を出して、舐める。  
 
「!…う…ん、風邪みたい…。」  
 
沙樹の身体が反応して、びく、と揺れる。舌をもう少し奥迄入れると、又密が溢れた。  
むせかえる女の匂いと淫らな粘液の味に、頭が煮える様に熱くなった。  
止まらなくて、舌を尖らせて奥を。内壁を回す様に舐める。  
 
「・・・!」  
沙樹が、声にならない様に口を塞ぐ。  
「そう?具合良くなったら起きてらっしゃい?おかゆ作っとくから」  
「…、う、…ン、うん、ありがと…」  
 
それだけをようやく、ようやく口にして返事をすると、ドアの外の気配は  
3部屋向こうのリビングへ向けてパタパタと消えていった。  
これで少し位の音は気付かれないと悟った俺は、舌でそこを好きな様に愛撫する。  
ぐちょぐちょと恥ずかしい蜜で溢れたそこを音を立てて舌で掻き混ぜる。  
好きな様に舐めて狭いそこを拡げて、泡立つ程かき混ぜる。  
入り口の上にある、小さな突起も舌で可愛がる。周りを撫でる様に舐めて、ゆるく唇で噛む。  
犬の様にぺろぺろ舐める。  
 
俺に真正面から高く両脚を抱えられて、その間を男に存分に舐められる。  
そんな信じられない様なあられも無い格好をさせられて、俺の舌をそこに受け入れさせられている沙樹は、  
身体をびくびく揺らして顔を真っ赤にして、快感に泣きながら声が漏れない様に必死だ。  
声が出せなくて余計感じるのか、細い身体が弓なりにしなる。  
ドアを挟んだ3部屋向こうには何も知らない親が居る。  
「---------ん、んん、ん、------!-----ッ  !、」  
小声で、泣きながら(怒りながら)必死に俺を引き剥がそうとする。  
その間にも快感で身体がびくびくと揺れる。  
でも駄目、ごめん沙樹。さっきの俺にあんな事されながら、声だけで嘘をついた沙樹がやらし過ぎた。  
興奮し過ぎて我慢できない。俺は、再びそこをぐちょぐちょと音をさせながら、指で掻き混ぜる。  
もうすっかり怒張して苦しかった自身を、ズボンから解放した。  
 
 
 
*************  
 
 
 
 
途中迄(一応)理性があった筈の俺だが、沙樹のエロさは目の毒過ぎた。  
ギャップが俺のツボを突き過ぎて、たまらなさ過ぎた。  
色々ネジが飛んで、物凄い本能のみになった俺は、同じ家に家族が居るのについ。  
つい最後迄してしまった。(そんなにトんでたが、避妊はした。)  
どうやったのか、何で気付かれなかったのか最早分からないが、最後迄した後、  
沙樹は無言で俺の腹を蹴って、シーツを身体に巻きつけたまま何度も蹴ってベランダから無言で俺を叩き出した。  
その後窓の鍵を閉められ、カーテンを閉められた。  
…まぁ本気でキレられて当然だわな。  
 
そしてその翌日から全く口をきいてくれなかった。  
翌朝、登校途中で顔を合わせれば無言で物凄い圧力で睨まれた。  
その後全無視だった。  
変な歩き方だったので、そっと腰をさすったら全力で殴られた。  
分かってたが、やばい程怒っている。  
…自分が悪いのは分かっていたので、とにかく謝ろうと、  
ベランダ越しに声を掛けたり登校途中で声を掛けるが、丸無視だ。  
電話しても居留守を使われる。(隣だからそれも丸聞こえだ。)  
 
…今更誰にも信じて貰えないだろうが、俺もまさかそんな同意の無いまま  
生真面目女の処女を奪うつもりは、本当に無かった。  
説得力は皆無だろうが、そこ迄する気は本気で無かった。  
下心はあったが、同意が出ればラッキーと思った程度で、基本は触りたかっただけだ。  
ただ沙樹が俺の予想以上にエロ過ぎた。言い訳にならないが。  
ついうっかり性欲に負けた自分を、今更本気で反省してみても、物凄く遅い。  
 
…まぁ…いつか…怒りも…収まるかな…、と内心焦りながら取り付く島が無いので、  
相手に切っ掛けが出来るのを待っていたら、2週間、3週間…  
とまるで口をきいてくれないまま月日が長れていく。  
 
…やばい。本気で嫌われた?  
 
だんだん本気で焦って来た。喧嘩は今までにも何度もしたが、こんなに長いのは初めてかもしれない。  
今迄の喧嘩のパターンなら大概どちらとも無くベランダ越しに話し掛けて仲直りだ。  
と言うか今回は今までの喧嘩とは比べ物にならん位、結構ヒドい事をした。  
つきあってるとは言え処女の貞操奪った訳だし。  
レイプでは無いと信じたいが、そんなの俺の男の希望的観測だ。  
沙樹的にはレイプだったらどうしよう…。本当に嫌われてたら。  
どんどん思考が悪い方へ行く。  
何で俺はいつもやってから後悔するパターンなんだ…!  
どうしよう。本気で嫌われたら俺は多分泣く…!ってかあんまり生きていける気がしない…!  
 
 
とうとう4週間目の日曜日になった。  
俺は受験生らしく今日は丸一日自宅で勉強する予定だが、沙樹が気になって全然勉強に身が入らない。  
正直、今は受験よりも沙樹だ。胃が…痛くなってきた…。俺、何でこんな馬鹿なんだろう…。  
もう1ヶ月も口利いて貰えない。俺、沙樹と3日口聞かないと気持ち悪いんだって。  
…と言うか、沙樹の中でお付き合い自体が終了してたらどうしよう。  
何せあれからコミュニケーション不足なので、悪い思考が、ぐるぐる同じ所を回る。  
しかも螺旋階段を下りる様に、マイナス方向に行く。  
悶々とした思考が止まらない。  
 
よし。  
覚悟を決めて机から立ち上がった。  
…もう一回全力で謝ろう。  
 
物凄い弱気な決意を固めて、からからと窓を開けてベランダに出ると、沙樹が居た。  
顔をちゃんと見るのすら1ヶ月ぶりだ。  
今日は秋晴れの気持ちのいい晴天で、空の青さが、受験生には久々で、  
俺はそれを感じる精神状態では全然無いが、空気自体は気持ちが良かった。  
 
…あー、久しぶりの沙樹だ。俺は謝る事を忘れて、少し見とれた。  
顔を見れたのが素直に嬉しかった。  
柔らかく風になびく短い茶色の髪と、牛乳瓶眼鏡、水色のはんてんを着て、  
スエットの上下、スリッパ、どっから見ても家着だ。  
少し髪が伸びた気がする。表情は無表情な様に見えるが、険しくも見える。  
それでも俺は、沙樹の顔を久しぶりに見て、とても落ちつく様な。  
まだ全然許して貰ってないのに、顔を見ただけで自分の中のモヤモヤが  
柔らかな空気に変わるのを感じる。無条件に眠くなる様な。…何だろな、これ。  
 
「・・・反省した?」  
「・・・。」  
 
久しぶりに沙樹の声を聞いた。久しぶりに聞くと、綺麗な声なんだな、と気付く。  
そんな声を聞いて俺はまだ尚、こんな地味で色気の無い女を、裸に剥いて、  
全身舐めて、あんなやらしい事を一杯した事を思い出して、興奮しかけた。  
処女を奪った時の、あの困惑した泣き顔と、痛がる小さい声。  
ベドベトに絡みつくやらしい中の感触、舐めた汗の味をまざまざと思い出す。  
あんなに沙樹を全力で怒らせて、傷をつけておいて、まだこんな事を考える自分に、うんざりする。  
男の本音はどろどろで救いが無いので、沙樹は知らなくていいと思う。  
 
「あんまり、してない。」  
 
苦笑しながら嘘を答えた。  
ぴしゃん。  
ベランダの扉を閉められ鍵も閉められた。  
 
「わああああ!ごめん!ごめんなさい沙樹ちゃんっ!今の嘘っ!  
今後沙樹さんの同意を得なければ指一本一切触りません!  
本当は超反省したっての!ごめんなさい!!ってかもーいい加減口きいてくれ!!」  
 
物凄い情けない事を言いながら全力で謝る。反省は本当にしている。  
いくら俺がしたかったと言っても、それで沙樹を失ったら意味が無い。  
その恐怖をこの1月存分に味わった。  
怖くて本当に沙樹の同意が無ければ、多分俺はもう触れない。  
そしてもうそろそろ口きいて欲しい。話せないのが地味に一番辛い。  
どーも(沙樹もだが)俺もツンデレ気味な様で、沙樹の前でいまいち素直になれない。  
 
カラカラとベランダの窓が又開いた。  
 
「・・・はんせーした?」  
「した。しました。心から。」  
 
天の岩戸が又閉まっては堪らないので、今度は素直に謝る。  
俺が悪いのは分かってる。本当に。  
 
「…身体、大丈夫かよ。」  
お互いの家のベランダの一番近い所に迄寄って話し掛ける。  
前に見た歩き方が変だったので、気になっていた。  
「…痛かったに決まってるじゃない。体育最悪だったわよ。出席したけど。」  
「腰さすってやるよ。」  
「遅い。それにもう痛く無いわよ。痛かったのは最初の5日位よ。」  
腰をさするにはもう遅いらしいので、ベランダ越しに手を伸ばして頭を撫でた。  
子供扱いされていると思うのか、沙樹は俺に頭を撫でられるのは嫌がるが、  
今日は久々だからなのか、不満げな表情ながら黙って撫でられている。  
「…相手、俺じゃ嫌だった?」  
ちょっとびくびくしながら聞いてみる。沙樹は俺の手を頭に乗っけながら  
「…相手と言うより…場所が…。」  
と素で返して来た。  
「ですよね。」  
とりあえず、相手は俺で良かったらしい。良かった。  
 
「…許してくれる?」  
許してくれて無かったら、もう一回謝ろう。沙樹に対してどーも俺は情けない。惚れた弱みだ。  
「…あんた許すと調子乗りそうだし」  
「良かった…。結構どきどきしたぜ。」  
「聞けよ。」  
沙樹は不満気だが、声音で分かる。あー良かった、と思いまだ頭を撫でる。  
「…今までも色々喧嘩したり怒らせたりしたけど、つきあいが続いてるのは  
俺の顔が格好いいだからだよな。つくづく顔が良くて良かったぜ…。」  
「…はぁ?」  
人生顔で乗り切っている俺が何気なく素で言った一言に、怪訝な表情と言葉で返される。  
 
「何言ってんのよ。私、顔が男の評価に影響しないわよ。  
顔で男好きになった事なんて無いし。メンクイじゃ無いもの。  
美形は面倒臭いから嫌いよ。」  
 
沙樹の俺の人生と相対する予想外の意見に、ちょっと固まった。  
因みに俺は俺の顔の格好よさは、俺のアイデンティティにおいて結構な割合を占めている。  
他人に何と思われようがかまわない。俺の価値の大部分は顔の良さだ。  
 
「あんたみたいにチヤホヤされて育ってるのばっかだから、性格軟弱な奴多そうだし  
ライバルは多いし浮気の心配は普通以上にしなくちゃいけないし誘惑も多いし、  
その心配をつきあってる間延々にしなきゃいけないのよ。  
総合的に見て、顔がいい男なんて女の損の方が多いわよ。別に美形が好みじゃないし。  
無駄にストレスの多い恋愛しなきゃいけないじゃない。美形相手になんて。」  
 
多分に偏見は多い物の、沙樹は何処までも合理的だった。俺の予想以上に。  
正直、俺はちょっとびっくりしている。そうなんだ。  
 
「…沙樹的に俺って美形?」  
勿論俺的には俺は美形だと思っている。  
沙樹は己の失言に今気付いた様で、「しまった」、と言う顔をしている。  
「・・・ふん」  
少し、間があって、目の前の女は答えなかった。  
「俺は?」  
「…。」  
「ねぇ、俺って沙樹から見て美形?」  
「…だから『本来は』って、言ってるでしょ。」  
 
ち、と舌打ちをして、目の前のはんてん着たメガネ女はぼそぼそと答えた。  
顔を紅くして、そっぽを向く。  
分かってて聞いたが、言わせて嬉しいので、ちょっと笑う。  
顔じゃ無い所でも好かれてるとは、正直意外だ。  
俺、基本顔中心で女に好かれて来たから。  
 
 
 
 
今日はとてもからっとした秋晴れで、うちのベランダからはその気持ちのいい空が、少しだけ近い。  
 
気が合わなくて相性悪くて性格キツくて意地っ張りであまのじゃくでも  
怒らすとすげー怖くても、彼氏の前で平気ではんてん着る眼鏡女でも。  
 
苦笑する。あきらめた。  
俺も、お前がいちばんかわいいよ。  
 
 
 
 
 

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