「かずなの…ばか。ここは、だめだって、なんかいいえばわかるのよ。」  
「どうして?」  
「どうしても。だって、だすところなんだから。入れちゃ駄目なの。」  
「でも千砂、お尻でも気持ち良くなっちゃうんでしょ?」  
「そんな訳ないでしょ。」  
「だって、腰が抜けそうになるって。」  
「いい加減にして頂戴。」  
千砂は口ではいやがって見せ、あらがう素振りはする。しかし、決定的に拒否はしない。前夜に引き続き浴室で菊の門に指を挿入された時、自分から腰を振りさえしてしまった。  
中指一本だけでも腰が抜けそうになったのに、一砂は図に乗って人差指まで合わせて挿し込んできたのだ。二本の指を根元まで挿入されて肛門をなぶられてしまった。  
後門の狼に攻められているその間、前門に挿入された一砂の右手の指を強く締めつけていたのは千砂も自覚している。しかも、指が抜かれてからしばらくしても足腰が立たない。  
いくら怒って見せても、一砂に体の泡をすすがれる間へたり込んで身動きも出来ないようでは説得力がない。それでも認めてしまうのが悔しくて、口先だけでも拒否の姿勢は崩さない。  
一砂に押し切られたら拒み切れない事が分かっていても。  
 
一砂は一端行為を始めると、千砂を虐める事と可愛がる事が同義になってしまっているのだ。一砂がこんな性格だなどと千砂は思ってもいなかった。  
しかも、自分がそれを受け入れてしまうなど尚更。  
「じゃあ、次はどうしてあげようか。」  
腰に力が入らず自分では立てない千砂に肩を貸し、浴槽の縁に腰掛けさせて一砂は実に嬉しそうに問いかける。その笑顔が憎たらしい。  
「何もしなくていいわよ。」  
「そんなもったいない。千砂がこんなに可愛くなってるのに、何もしないなんて犯罪的だよ。」  
何か思いついたらしい一砂は、更に深い笑いを見せて立ち上がった。見てて恥ずかしくなるくらいすけべったらしい顔だ。  
それでも、一砂が一度浴室を出てしまうと千砂は謂れもなく不安になった。  
これまでは、いざ始めると千砂が眠りについて朝目覚めるまで、お互いの体温を感じる距離を離れる事はなかったのだ。  
すぐそこにいる事は分かっているのに、手が届かない距離にいる。嫌だ、一砂がいないのが怖い。  
「一砂…、何してるの?」  
流石に、早くこっちに来てとまでは言えなかった。  
「はい、お待たせ。」  
一砂が洗面所を兼ねた脱衣所から戻ってくると、千砂はあからさまに安堵した顔を見せてしまった。お陰で、一砂が隠し持っているものを咎めるタイミングを逸した。  
 
一砂は軽く千砂を抱きしめると、浴槽に浸かっている千砂の脚を片方出してしまう。浴室の壁に背中をもたれかけさせたまま、もう片方の脚を壁際に寄せて片膝立ちの姿勢を取らせる。  
露出した千砂の股間に、一砂が軽くくちづけする。そのまま口での愛撫を続けるのかと思ったが、一砂は洗面所から持ち込んだシェービングクリームを泡立ててそこに塗りだした。  
「ちょっと一砂、あなた何する気なの?」  
「いいこと。」  
「駄目だってば、やめてお願い。」  
「何をやめるって?」  
「…。」  
千砂は己の考えた事を口に出来なかった。剃毛されてしまうなんて、想像もしていなかった。一砂の発想に頭がくらくらする。  
水着になる時にはみ出さないよう処理する事があるのは知っている。しかし病弱な千砂は泳いだ事もなく、その必要を感じた事はなかった。まさか、一砂にそんなことをされてしまうなんて。  
「一砂、お願い、やめて。」  
「何を?」  
「だから、そんなところにカミソリ使うなんて、許して。そうして欲しいなら自分でするから。」  
「大丈夫、ちゃんとしてあげるから。」  
「大丈夫じゃないわよ。一砂の、馬鹿。」  
語尾が震えてしまった。一砂の手が刃物を持って千砂の大事なところにあてがう姿を思う。その冷たい想像に、背筋が震えながら体の芯が熱くなるのが分かる。  
怖いのに、期待している自分がいる。  
「千砂、動いちゃ駄目だよ。一応刃物だから。」  
カミソリが滑らかに千砂の肌を滑る。自分の髭をあたる事はあっても、人の肌を剃る事は初めてだ。ましてや千砂の大事なところ、ことさら慎重に丁寧に一砂は手を動かした。  
万が一にも傷を付けることがないように。どれほどいじめることがあっても、千砂の心も体も一砂にとっては大切な宝なのだ。  
 
千砂は目を閉じてその儀式が終わるのを待っていた。一砂の手の動きを感じていると、熱い液体が内から溢れだすのが分かる。思わず脚を閉じてしまいそうになるのを耐える。  
動いちゃ駄目、と言われたから。こんな事をされてこぼれる雫を一砂に知られたらと思うと、恥ずかしさに全身が熱くなる。けれど、一砂の言葉の呪縛に指一本動かせない。  
千砂は一砂に支配されている自分を自覚した。かつては父の与える血が自分を縛った。今は、一砂がそそぐ言葉と快楽が千砂の主(あるじ)。  
それに絡み取られて千砂は抜け出す事が出来ず、けれど隷属する自分が幸せであると微塵の疑いもなかった。  
 
「はい、終わったよ。」  
残ったクリームを洗い流し、一砂は言った。  
「千砂のここ、可愛くなっちゃった。つるつるで赤ちゃんみたい。」  
千砂は大げさにため息をついて見せる。  
「どうしましょう、一砂がどんどん変態になっていってしまう。何てことなの。」  
「変態ですか。じゃあ、変態な俺に変態なコトされて感じてる千砂も変態だね。」  
「ちょ…、誰が変態よ!」  
「だって、剃ってる間中いっぱい溢れてきてたよ。今もほら。」  
一砂が千砂のそこを指で広げる。千砂の雫が、中から更にこぼれだす。  
「やっ…、だめ。」  
やっぱりばれていた。一砂にされてしまうと、どんなに恥ずかしい事でもどんなにいやらしい事でも、千砂は感じてしまう。  
いくらでもいやらしくなっていく自分が全て一砂の前にさらけ出されてしまう。こんないやらしい女は一砂に嫌われてしまわないか、千砂は不安なのだ。  
それが怖くて、一砂の愛撫を拒否したくなる。けれど一砂の要求はとどまる事を知らず、千砂はひたすら押し流されて行く。恍惚と不安、二つながらにさいなまれながら。  
 
いつも以上にしおらしくなった千砂を部屋に運び、布団に横たえる。  
「千砂、お願いしていい?」  
「なあに?」  
「入れなくていいから、口でしてもらえないかな。」  
「…ん、じゃあ一砂が下になって。その方が楽だから。」  
「了解。」  
仰向けになった一砂は自分の体の上に千砂を乗っける。いつもの抱っことは頭と脚を逆にして。一砂の胸に千砂の腰が乗り、千砂の小振りなお尻が目の前にある。  
太ももを割ると、千砂の割れ目がぱっくりと開いて目の当たりになる。陰毛を剃ってしまったため、全てがあからさまにさらけ出されている。  
指を使って更に広げると、ピンク色の生々しい肉襞の奥からとろりと熱いぬるみが溢れてきた。舌を突き出して、一砂はその雫をおおきく舐めとる。  
「はぁ…ん。」  
あえぎ声を出して尻を振り、千砂は思わず逃げようとした。その腰を捕らえ、一砂は刺激し続ける。すぼめた唇で柔らかく吸い、尖らせた舌先で舐め、そっと歯先をあてがう。  
指で包皮を引いてクリトリスを剥き、舌先を突起の先端から根元に擦り付ける。  
 
この体勢なら自分が一砂を責められるはずなのに。千砂はがっちりと掴まえられた腰を逃れようともがいていた。目の前に屹立する大きな一砂。  
そこに唇を当て、舌を絡めて一砂を気持ち良くしてあげたい。なのに、身悶えるばかりで一砂の良いように玩ばれている。  
「かずな、おねがい、ちょっとまって。」  
「何?」  
「わたしが、してあげるんだから、おねがいだから、じっとしてて。」  
「そうだよね。じゃあ、お願い。」  
 
ようやく千砂のターンが回ってきた。どうすれば良いんだっけ。昨日お風呂場では、思わず一砂にしてしまったけれど。  
一砂が自分にしてくれたように、唇と舌で柔らかく愛撫してあげればいいのか。いびつな形状の固いそれを指先でつまみ、先端に唇を当てる。  
ちゅっと音を立てながら吸い、舌先を出して小さな口を押し開き、舐める。先端から唇をずらし、カリの縁へ。傘のような形状の裏側を舌でなぞる。  
こんな大きなものが自分の中に入るのか。こんな凶暴な形状の物が自分を責めるのか。  
(…欲しい。)  
唐突にそう思ってしまった自分に、千砂はどきりとした。自分の下半身がこれを呑み込んでいくところを想像してしまう。ぬるぬるの割れ目に、抵抗もなくするりと挿込まれる様を。  
駄目だ、そんなことを考えたらまた一砂に分かってしまう。  
「千砂、そんなに欲しいの?」  
「…。」  
聞こえない振りをして、千砂は口を使い続けた。一心不乱に舐め続ける素振り。けれど、ここにあらざる心を一砂には気取られてしまう。  
「じゃあ、入れちゃおうか。」  
「…うん。」  
素直に答えてしまう自分が恨めしい。一砂は枕元に置いていた避妊具を取ると自分で付け始めた。ここ数日で随分手慣れている。千砂は一砂の上から体を下ろそうとした。  
ところが一砂は、千砂の体の向きを変えてしまうだけで、下ろしてくれない。千砂は戸惑った表情で一砂を見つめた。  
「千砂、自分で入れてみて。」  
「え…、そんなのどうしていいか分からない。」  
「大丈夫、ほら握って。」  
一砂に手を添えられて、一砂の根元を握りしめる。  
「腰、浮かせて。そう。で、入り口にあてがうの。」  
一砂が下で微妙に腰を動かし、調整する。  
「そのままゆっくり下ろして。そうそう。」  
体重をかけると、動きに合わせて下から侵入してくる逸物を感じる。想像した通り、ぬるぬると割れ目を開きながら。一砂を呑み込み、一つになる。  
「あ…かずな、これいい。」  
思わず口からこぼれた言葉。体を下まで降ろすと、千砂が一砂の腰にまたがった格好になる。一砂が下からゆっくりと腰をゆする。根元まで呑み込んでいるのに、その都度更に刺激される。  
一砂の動きに合わせて千砂も自ら腰を振ってしまう。なんて、いやらしい動きだろう。自分の体を支え切れず、千砂は一砂に体を預ける。一砂が体を起こした。  
胡坐をかいて、その上に千砂が脚を開いたまま抱えられる。その姿勢になると、一砂のペニスは更に奥まで到達した。子宮の入り口を直接打ち叩く。喘ぐ千砂の言葉はもう意味を成さない。  
「かずなぁ、かずなぁ、これ、だめ、いや、いやぁ、ゆるして、ゆるして…。」  
けれど千砂の腕は一砂にしがみついて放さず、一砂も千砂の腰をしっかりと抱きかかえる。その右手がゆっくりと下がり、千砂のお尻の割れ目をまさぐった。  
千砂はそれを感じても意識する事が出来ない。溢れるぬるみをまといつかせた一砂の指が、千砂の菊の門に再度突き立てられた。ゆっくりと、けれど躊躇なく中指の根元まで。  
内蔵の薄い壁を隔てて、一砂の中指とペニスが互いの存在を感じられるところまで。  
 
千砂のか細い悲鳴が響いた。いっぱいにのけ反り、細い頤が天井を向く。けれど一砂の左腕に抱えられた千砂の腰は逃れられない。千砂の細い指が一砂の肩を握りしめる。  
一砂が腰をゆする度、ペニスは腟の奥まで容赦なく届き、指は直腸の中をまさぐる。更にもう一本の指が挿し込まれ、千砂の肛門を押し広げると、千砂は耐えられなかった。  
意識を保てない。ただ、一砂に陵辱されているそこだけが存在している。千砂が一砂を受け入れている二ヶ所だけが、千砂の全て。それは一砂が精を放つまで続いた。  
 
千砂の全身の肌は上気し、唇はわなないている。まなじりに涙を浮かべて睨む様に一砂を見つめていた。  
「ごめん、調子に乗り過ぎた。大丈夫?」  
「…いやらしい、かずなのばか、スケベ、えっち、変態、こんなにして、もう知らない。」  
「痛かった?」  
「そうじゃないけど。お尻に入れられると、お腹が苦しいのよ。中から圧迫される感じで。」  
「体は、大丈夫なの?」  
「腰が抜けたみたい。明日立てないかも知れない。」  
「ああ、ごめん、ホントに。辛いようなら明日は家の事は全部俺がやるから、千砂は休んでて。」  
「朝ご飯作ってくれる? 私の分も。」  
「千砂ほどちゃんとしたものは出来ないけど、何とかするから。」  
「明日は燃えないゴミの日だから、早起きして時間までに出してね。」  
「二件隣のステーションに持って行けばいいんだよね。」  
「あと、何してもらおうかしら。」  
「もう何でもするから、ご機嫌直して。千砂。」  
「…そうね、じゃあキスして。いっぱい。」  
千砂のたおやかな両腕が伸びて、一砂を招く。細い指が一砂の髪に絡み、導かれるままに唇を重ねる。一砂の指も、寝乱れた千砂の長い髪をまさぐる。  
互いの唇を、何度も何度もむさぼりながら。  
 
キスの御奉仕から解放されて、一砂はいつものように自分の胸の上で千砂を抱きしめる。その長い髪を、愛おしむように撫で付けながら。  
「千砂、もう怒ってない?」  
「怒ってなんかいないわよ、最初からずっと。」  
「ホントに?」  
「ええ。…ねえ一砂。訊いても良い?」  
「ん、何。」  
「私、変じゃない?」  
「どんな風に?」  
千砂は一砂と目を合わせず、その胸に顔を埋めて続ける。  
「だって、一砂とこんな事になってまだ少ししか経ってないのに。それなのにあなたに何をされてもそれが嫌じゃないなんて。ううん、嫌だなんて思わないけど。  
でも、いっぱいいやらしい事をされて、恥ずかしい事をされて、それが全部気持ち良いなんて、おかしくない? はしたないんじゃないかって…。そう言うのって、一砂は嫌いじゃない?」  
おずおずとためらいがちに、けれど訊いてしまわずにはいられない。怖いからこそ、逃げ出さずに向き合わなければならない。千砂が千砂らしいと言われる所以である。  
「そうだね、千砂はいやらしい子だ。エッチで、感じやすくて、すぐに乱れて、はしたない子だね。」  
容赦ない言葉に、千砂は体を固くする。一砂は続ける。  
「俺は千砂しか知らないから、それがおかしいかどうかは分からない。でもはしたなくてもそうでなくても、いっぱい乱れても、俺は千砂が好きだよ。そう言う千砂が、大好きだ。」  
優しく、千砂を抱きしめる手にそっと力を込めた。千砂は、一砂の大きな背中に手を回した。涙があふれそうになる。一砂の顔を見られない。安堵が千砂を包み込む。  
 
「…一砂、ありがと。」  
 
その夜、千砂は一砂に体の重みを預けたまま安らかな眠りについた。  
 
- しゅうりょ -  
 

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